「著名な時代小説で描かれた、知られざる本格ミステリ作品を紹介したい」というコンセプトから始まった、「時代小説のヒーロー×本格ミステリ」のシリーズ。書評家の末國善己さんを編者としてお送りする本シリーズは、お陰様で好評をいただいております。担当編集者も、「こんな有名な時代小説に、本格ミステリとして存分に楽しめる作品があったのか…!」と、毎度目からウロコの経験をしております。
柴田錬三郎『花嫁首 眠狂四郎ミステリ傑作選』、笹沢左保『流れ舟は帰らず 木枯し紋次郎ミステリ傑作選』、泡坂妻夫『夜光亭の一夜 宝引の辰捕者帳ミステリ傑作選』、野村胡堂『櫛の文字 銭形平次ミステリ傑作選』に続く、シリーズ第5弾をお届けします!
今回の名探偵は、月影兵庫。『駿河城御前試合』(山口貴由の漫画『シグルイ』の原作)などで知られる、剣豪小説の名手・南條範夫が生み出した剣士です。徳川11代将軍家斉の老中・松平信明を伯父にもつ青年であり、武芸の達人で、必殺技・上段霞切りを得意とします。
映像化も多く行われ、勝新太郎さん、近衛十四郎さん、村上弘明さん、松方弘樹さんの主演で映画化・ドラマ化されました。特に1965年に放映された近衛十四郎さん版のドラマは、品川隆二さん演じる渡世人・焼津の半次との軽快な掛け合いから人気を博し、高視聴率を記録しました。50代以上の読者の中には、ドラマを御覧になっていた方は多いのではないでしょうか? 原作の兵庫も、年齢はドラマ版より若いですがひょうひょうとした性格で、かつ作品全体に明るい雰囲気があるので、ドラマ版と親和性があると思います。
本作では、そんな兵庫が名探偵として、数々の不思議な事件を解決する傑作17編を収録しています。兵庫は伯父の秘命を帯びた道中や、相棒の安との旅路で事件に遭遇する度に、鋭い洞察と武芸を駆使して謎を解いていきます。
大雨で足止めを食らった人々が滞在する旅籠で、殺人が起こる「血染めの旅籠」。盗賊が豪商から盗み出した千両箱の在処を探す「偉いお奉行さま」。行方不明になっていた町一番の美人が、4年ぶりに帰還。それを機に奇怪な殺人が起きる「帰ってきた小町娘」。“鬼”に襲われたとしか思えない、不気味な事件の真相を暴く「鬼の眼に涙があった」。
序盤で提示される不思議な謎、関係者への聞き込みや証拠集め、鋭いロジックで展開する推理、そして意表をつく結末……と、本格ミステリ要素がたっぷり。加えて、兵庫と安のコミカルな掛け合い、鬼気迫る剣戟シーンなども読み応えがあります。
明朗快活で気ままな自由人・兵庫の魅力が伝わってくるような、そんなカバーイラストが目印の本書を、どうぞお見逃し無く!