お気に入りのコーヒーみたいに、
ミステリがもっと好きになる。
『日曜の午後はミステリ作家とお茶を』の著者の日本オリジナル短編集!
「事件を解決するのは警察だ。ぼくは話をつくるだけ」そう宣言しているものの、実はさまざまな事件に遭遇して謎解きをしているミステリ作家シャンクスの活躍を描いた『日曜の午後はミステリ作家とお茶を』の著者の、新しい短編集がいよいよ刊行となります! 『日曜~』がご好評をいただきまして、短編集第二弾を刊行できることになりました。翻訳者の高山真由美先生が、《アルフレッド・ヒッチコックス・ミステリ・マガジン(AHMM)》や《エラリー・クイーンズ・ミステリ・マガジン(EQMM)》などに掲載された短編を読んで、9作を選んでくださいました(詳しくは「編訳者あとがき」を読んでいただければ幸いです)。
この作品集にはシャンクスは登場しませんが、軽やかで粋でおしゃれなロプレスティ氏の魅力は共通しています。休日に、コーヒーとお菓子を味わいつつゆったり読めること間違いなしです! ツイストの効いた作品から読みごたえたっぷりのヒストリカル・ミステリ、詩人探偵(!?)がコーヒーハウスで謎解きを繰り広げる正統派推理短編まで、バラエティ豊かなミステリの世界を楽しんでいただけますと幸いです。
日本オリジナル短編集ということで、著者のロプレスティ氏には『日曜~』で好評だった「まえがき」と、各短編の自作解説「著者よりひとこと」をご執筆いただきました。そして、今回は「まえがき」を特別に先行公開いたします!
読めばますますミステリを好きになる、そんな素敵な短編集です。
どうぞよろしくお願いいたします!
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ロバート・ロプレスティ Robert Lopresti
まえがき
人は二つの場所に同時にいることはできない、とはよくいわれることだ。そんなことはないのに。
それが初めて自分の身に起こったときのことははっきりと覚えている。ある晴れた夏の日の午後だった。わたしは九歳で、家族と暮らすニュージャージー州プレインフィールドの家のポーチに座っていた。そしてまさにそのおなじ瞬間に、十九世紀の寒い朝のロンドンにもいた。
両方の場所で、わたしは次の言葉に遭遇していた――「ホームズさん、それは巨大な犬の足跡だったのです」(『バスカヴィル家の犬』アーサー・コナン・ドイル著、深町眞理子訳)
卓越したフィクションには、わたしたちをここではないどこかへ運び、現実とまったく異なる存在へと変化させ、ふだんとはちがう行動をさせる、そんな力がある。
アーサー・コナン・ドイルの『バスカヴィル家の犬』は、わたしが最初に出会った大人向けのミステリだった。生涯を通じてミステリを読み、書くことになったのは、この作品のおかげである。
犬と出会ってから《アルフレッド・ヒッチコックス・ミステリ・マガジン(AHMM)》を見つけるまでに長くはかからなかった。この短編集に収録されたうちの五編を含め、わたしの小説の多くがAHMMに掲載されてきたのも驚くにはあたらない。この雑誌の助けがあったおかげでわたしの作風はかたちづくられてきた。そして今度はわたしの短編がAHMMに、その読者や寄稿者に影響を与えており、わたしはそれを誇りに思う。
本書に収められた短編は、あなたをどこへ連れていくことになるのか? 二編では、読者はわたしの故郷、ニュージャージーを訪れることになるだろう。べつの二編ではワシントン州を見ることになる(現在わたしが住んでいる場所だ)。さらに、三つの短編でアメリカの歴史に飛びこむことになる。
どの短編でも犯罪をまのあたりにすることになるだろう。それがアメリカの暮らしを表しているからなのか、人間の本質だからなのか、あるいは単にわたしの思考が偏っているせい(ミスター・コナン・ドイルとミスター・ヒッチコックの影響は小さくない)なのかは、よくわからないが。
最後にもう一つだけ――『日曜の午後はミステリ作家とお茶を』とおなじように、それぞれの短編に「著者よりひとこと」を付記した。あとがきにしたほうがいいと思ったのは、短編そのものとは先入観なく出会ってもらいたいから。そしてネタを割ってしまう心配をせずに論じられるからだ。
まえがきにおつきあいいただき、感謝します。それでは、安全な旅を!
二〇一八年十月二十五日、ロバート・ロプレスティ
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『休日はコーヒーショップで謎解きを』は8月9日ごろ発売です。どうぞお楽しみに!
拳銃を持って押し入ってきた男は、なぜ人質に“憎みあう三人の男”の物語を聞かせるのか? 意外な真相が光る「二人の男、一挺の銃」、殺人事件が起きたコーヒーハウスで、ツケをチャラにするため犯人探しを引き受けた詩人が、探偵として謎解きを繰り広げる黒い蘭中編賞受賞作「赤い封筒」。正統派推理短編や私立探偵小説等、短編の名手によるバラエティ豊かな9編をお贈りします。
*目次
「ローズヴィルのピザショップ」
「残酷」
「列車の通り道」
「共犯」
「クロウの教訓」
「消防士を撃つ」
「二人の男、一挺の銃」
「宇宙の中心(センター・オブ・ザ・ユニバース)」