彼の者、幽世の門を破り、凍てつきし永久の忘却城より死霊を極めし者……

 大鬼とは、ただの幽鬼ではなく、強力な死霊術師である名付け師をもってしても、かろうじて封じることはできても、退魔不可能と言われるほどの凶悪な大幽鬼。
 剥州の地に封じられていた大鬼、鬼帝女が目覚めた疑いがあるとの報告が、名付け師の住む霊昇山にもたらされた。知らせをもたらしたのは、死者の代弁機関である、夢無鵡予言院からの使者。
 民に甚大な被害を及ぼす前に、退魔するようにという要請だ。名付け師としても引き受けないわけにはいかないが、大鬼退治は、名付け師の力をもってしても命がけだ。現に過去には大鬼退治で命を落とした名付け師たちも少なくない。
 そんななか、大鬼退治に名乗りをあげたのは、名付け師・縫の百人の御子(名付け師の養子で、力ある死霊術師たち)のなかで、まだ若く才はあるが、病弱な千魘神だった。目付役として彼に同行するのは、牢から放たれ霊昇山に身を寄せる王族殺しの大罪人、第七系人の女・曇龍。
 一方、鬼帝女が封じられている剥州では、奇怪な現象が起き始めていた。

 死者を蘇らせる術で発展した亀珈王国を舞台に、生者と死者の運命が交錯するシリーズ第二弾。

《解説より》

先が読めない物語展開、想像力を刺激する設定。一読して思った。これは素晴らしい書き手が現れた、と。(妹尾ゆふ子)


《用語集より抜粋》

円鏡王
 かつて七帝大陸に存在したとされる巨大な蜂の人外王。雌雄同体。七帝帝国建国ごろ、帝国の始祖たちに自身の卵母を喰わせた。

仮封印
 大鬼の覚醒を遅らせる作用のある呪具。代々の名付け師が考案・作成する。

黒髪大戦
 五十年前、陰陽大陸の第一系人( 亀珈王国)と、東仙大陸にある隣国の第二系人との間でおこった大戦。三体の人外王に国土を追われた第二系人が、領土拡大のためはかった戦とされる。

五血族
 北砂でも最古の純血種とされる五つの血族。ヴィラ、ラヴィア、ノイトラ、シャリア、ティリアがある。

夢無鵡予言院
 死者の代弁を司る国家機関。諱宮や。死霊術士しによって反魂された死者は、術を施した死霊術士が死した後、予言院に帰属することを義務付けられる。

夢無鵡
 厳密には予言院の創設者たる三名を指すが、幽冥祭、もしくは名付け師によって蘇生術を施された死者全般をいう場合もある。

七帝
 七帝帝国の最盛期、帝国を統治していた七人の女帝。賢帝として敬われている。

七帝大陸
 陰陽大陸の南西にある巨大な大陸。第七系人の揺籃の地。

 夢無鵡となる条件を満たさない死者たちの総称。平時は国営墓地の警備にあたり、有事の際は、臨時軍を組織する。

夢無
 夢無鵡を補佐する生者の集団。教育後、夢墨と呼ばれる毒墨で背に太白鸚鵡の刺青を入れられた者。皆鴉片常習者であるため、長生きしない。

夢面形
 予言院の夢無鵡と呼ばれる死者だけが被る面。白珊瑚で作られている。中央に雄の太白鸚鵡の虹彩を模した黒ジェット玉があしらわれている。

霊錨
 蘇生術の際、死者の心臓近くに埋め込まれる石の棒。生前の記憶・信念を刻み込んだ呪具。

第三弾も2020年刊行予定です。