毎年恒例の鮎川哲也賞、ミステリーズ!新人賞受賞者のミニインタビューをお送りします。
「屍実盛(かばねさねもり)」で、第15回ミステリーズ!新人賞を受賞された、齊藤飛鳥さんのメールインタビューをお届けいたします。
①最初に、簡単に自己紹介をお願いいたします。
上智大学を卒業し、2010年に『おコン草子』で児童文学作家としてデビュー。2017年に『へなちょこ探偵24じ』で、うつのみやこども賞を受賞。2018年11月には『子ども食堂かみふうせん』を上梓しました。
しかしながら、受賞作を含めて大人向けの小説はまだ二作しか書いたことがなく、こちらの世界では完全に新人です。ミステリの研究を含め、これからも精進してまいります。
②これまで、どれくらい投稿されたのでしょうか?
児童向け作品の投稿は大学在学中から始め、最低10回は投降しました。主に、小学校中学年から高学年向けの作品を書いておりました。が、どれも一次選考落ちでした。
大人向け作品の投稿は、第14回ミステリーズ!新人賞と第15回ミステリーズ!新人賞の二回です。
③受賞作「屍実盛」は、『平家物語』の「実盛」をベースにした、平頼盛が探偵役を務める歴史ミステリです。この構想にした理由は?
在学中、日本中世史を専攻していた時、研究対象にしていた平頼盛をいつか物語に書きたいと思っていたからです。
最初に書いたミステリが納得のいく出来映えではなかったので、いっそ自分の好きな歴史を題材にしたミステリにした方が書きやすいと考え直した時、前述の思いがあったことと、資料が手元に残っていたことから、平頼盛を探偵役にした『平家物語』ミステリを書くことを思いつきました。
それから、『平家物語』の中から、いくつかミステリになる話を見つけ、そのうちの一つを基に密室物のプロットを書いてみたのですが、容疑者の名前が「平○盛」ばかりで覚えにくいこと、短編の規定枚数に収まりそうにないことから、断念。もう一つ考えていた実盛の遺体探しのプロットで投稿することにしました。
このプロットで、ミステリと認識してもらえるか心配でしたが、選考委員の新保先生の応募規定でのお言葉に「ミステリの謎は密室やアリバイではなくてもよい」といった主旨の内容があり、ならば大丈夫だろうと考え、思いきってそのプロットで書くことに決め、『屍実盛』となりました。
④受賞の連絡を受けた時に、いかが思いましたか?
喜びと驚きのあまり、とても現実のこととは思えませんでした。両膝から力が抜け、手は震え、電話の最中ですのに耳が遠くなりかけました。
すべては、あまりにも受賞を切望したがために見ている妄想ではないかとも思いました。
⑤既に児童文学作家としてもご活躍されていますが、執筆する上での意識の違いはありますか?
子ども向けは猟奇表現や難しい言葉の表現を控え、大人向けは控えないという意識の違いはあります。
しかし、読者と一緒に自分の書いた作品世界を楽しもうという意識は、子ども向けでも大人向けでも共通して持っております。
⑥歴史ミステリを執筆するにあたり、こだわっている点はありますか?
読者に事件の謎解き以外の事柄に頭を使わせないよう、舞台となっている時代背景をわかりやすく書くことにこだわっております。
⑦これまでの読書歴、マイベストミステリを教えてください。
ミステリに関しましては、幼稚園児の頃は、子ども向けにリライトされたシャーロック・ホームズとリュパンを始め、児童書『名たんていカメラちゃん』シリーズや、漫画『名探偵荒馬宗介(あらまそうかい)』シリーズ。
小学生の頃は、『少年探偵団』シリーズや『お江戸の百太郎』シリーズ、『三毛猫ホームズ』シリーズ。
中・高校生の頃は、『金田一少年の事件簿』や『名探偵コナン』や『人形草紙(からくりぞうし)あやつり左近』などの漫画に夢中になりました。
大学生の頃は、『夢水清志郎(ゆめみずきよしろう)』シリーズと『パスワード』シリーズと『ネオ少年探偵』シリーズなどの児童書のミステリを中心に読みました。
社会人になってからは、アガサ・クリスティやエラリー・クイーンなどの海外ミステリにはまり、『老人たちの生活と推理』シリーズ、『ディー判事』シリーズ、『ブロンクスのママ』シリーズなどを読みました。
アガサ・クリスティ作品は、特に好きで何度も読んでいます。
現在は、特にヘンリー・メルヴェール卿とウィリング博士のシリーズを追いかけています。
マイベストミステリは、次の通りです。
【国内部門】岡田鯱彦(おかだ・しゃちひこ)『薫大将と匂宮(におうのみや)』…「日本の古典×本格ミステリ」という組み合わせのミステリがあるのかと、驚嘆しました。拙作を書く上で、たいへん影響を受けました。
【海外部門/西洋編】ルース・ホワイト『ベルおばさんが消えた朝』…ミステリに分類されていない作品、それも児童書ですが、「名作劇場×本格ミステリ」とも言える内容です。心に染みる良作です。
【海外部門/東洋編】金庸(きんよう)『雪山飛狐(せつざんひこ)』…武侠小説ですが、回想の殺人、財宝探し、雪の山荘、関係者らの告白と、本格ミステリ要素てんこ盛りの快作です。
⑧趣味などはございますか?
俳句です。かれこれ十年以上習っています。それから、ミニチュアを組み合わせてドールルームを作り、撮影をするのが趣味です。
⑨執筆スタイルはどのようなものでしょうか?
まず、ノートにプロットを書いた後、物語に必要な事柄を調べていきます。近所の図書館の資料が充実していて、ありがたい限りです。
それから、パソコンで書きます。まずは思いついた言葉で書き上げ、少しずつ物語の世界観に合った表現に文章を直していきます。
⑩歴史ミステリ作家といえば、高橋克彦さんや井沢元彦さんがご活躍されています。ミステリ業界でお会いしたい、憧れの先輩はいらっしゃいますか?
両先生方はもちろん、様々な歴史ミステリ作家の先生方にお会いして、歴史とミステリの兼ね合いや、史実と創作部分の匙(さじ)加減等を伺ってみたいです。
⑪理想のミステリはありますか?
トリック、犯人、動機、真相……そのすべてがわかった後でもなお何度も読みたくなる、アガサ・クリスティ作品のようなミステリが理想です。
⑫読者に向けて、一言お願いします。
拙作「屍実盛」で、混迷の平安時代末期を懸命に生きる男達の生き様を楽しんでいただくと共に、『平家物語』の魅力を再発見していただければ幸いです。
⑬今後の抱負や、展望を教えてください。
まずは、平頼盛を探偵役にした『平家物語』ミステリの作品集を完成させたいです。
それと並行しますが、ミステリに関して、まだまだ研究不足ですので、本格ミステリやミステリの研究書等を読み、成長していきたいです。