我、幽世の門を開き、
凍てつきし永久の忘却城より死霊を導く者
死者を蘇らせる術で発展した王国。
死霊術の祭典を前に、過去の癒えぬ傷を抱えた青年、
盲目の少女死霊術師、麗しき死者の剣士、
王族殺しの異民族の女らが、奇怪な陰謀に引きずり込まれる……
忘却城に眠る死者を呼び覚まし、蘇らせる術で発展した亀珈王国。過去の深い傷を抱えた青年儒艮(じゅごん)は、ある晩何者かに攫われ、光が一切入らない盲獄と呼ばれる牢で目を覚ます。そこに集められたのは、儒艮の他五人。彼らを集めたのは死霊術師の長、名付け師だった。名付け師は謎めいた自分の望みを叶えるように六人に命じ、叶えられた暁には褒美を与えると約束する。儒艮は三年に一度開かれる死霊術の祭典、幽冥祭(ゆうめいさい)で事件が起きると予測、それ阻止すべく動き出すことに……。第三回創元ファンタジイ新人賞佳作選出作。
《選評より抜粋》
綺譚とグロテスク・ホラーの感性を合わせもち、(中略)異形のものたちが集う世界は、まがまがしくも強いヴィジュアル効果がある。――――井辻朱美
大きな世界がきちんと考えられて構築されていた。万色が遊ぶ広い空間を感じさせた。――――乾石智子
豊かなイマジネーションと、雰囲気、その場の外連味で押し切る力があって、それぞれのシーンは読ませる。――――三村美衣
《用語集より抜粋》
炎龍(えんりゅう)
神仙の霊魂をも喰らうという神獣。王国に数十頭しかいない。天と同一視され、王国人からは王家以上に崇拝されている。かつては千形族に加護を与えていたが、千形族が死霊術に傾倒しすぎたために彼らを見限り、黄金族を助勢したとされる。「彼の者、幽世の門を閉ざし、凍てつきし永久の忘却城にて死霊を見守る者」。
黄王家(おうおうけ)
五百年前、当時の支配者だった千形族を滅ぼし、現在の亀珈王国を建国した黄金族の一族。もとは地方軍閥の長にすぎなかったが、戦略と私軍を駆使して大陸を平定した。王は代々、黄王と名乗る。
黄龍大渓谷(おうりゅうだいけいこく)
王都を東西に走る大亀裂の総称。千五百年前、この地を巡って争う二体の人外王、賜鬼王と淀万王の激闘によって生まれたとされる。大渓谷へ投げ入れられた種からセンケイオオモクセイ亜種の大樹が生え、そこに王宮を築いたため、都の中心地に位置する。
亀珈王国(かめのかみかざりおうこく)
五百年前、黄金族の黄家が建国した王国。他国では幽冥の名で知られる。北の人外区をのぞく三方を海に囲まれており、天候のほとんどは雨か濃霧、雪。王国に住まう黄色人種を第一系人と総称する。
死霊術
死霊術士が使う術の総称。四つの系統があり、葬送術、反魂術、退魔術、人外隷属術がある。このうち反魂術は、王家によって厳しく制限されている。反魂術には、死者の魄を呼び戻して肉体を使役する『送尸術』と、死者の魂を呼び戻して会話させる『降霊術』。さらに魂と魄どちらも呼び戻すことで生前と変わらない姿で蘇らせる『蘇生術』の三つがある。
死霊術士
死霊術を生業とする術士の総称。市井に根付く死霊術士と、国家資格を取得した国家死霊術士がおり、王国の死霊術士の頂点に立つ者を名付け師と呼ぶ。「彼の者、幽世の門を開き、凍てつきし永久の忘却城より、死霊を導く者」。
続編も、今年夏刊行予定です。