1960年の初版以来、半世紀以上読み続けられてきた傑作アンソロジー『世界短編傑作集』(全5巻)。この全面リニューアルである『世界推理短編傑作集』もついに4巻が発売となります!
この4巻も名作ばかり! 「オッターモール氏の手」(トマス・バーク著、中村能三訳)にはじまり、忘れがたい密室トリックものの「密室の行者」(ロナルド・A・ノックス著、中村能三訳)、ハードボイルドの傑作「スペードという男」(ダシール・ハメット著、田中小実昌訳)や、「二壜のソース」(ロード・ダンセイニ著、宇野利泰訳)、「銀の仮面」(ヒュー・ウォルポール著、中村能三訳)などの“奇妙な味”まで幅広いテイストの推理短編が収録されています。
今回のリニューアルで、ミステリ研究家の戸川安宣氏の調査によってより正確な初出年が突き止められた短編もあります。このアンソロジーは「名作を年代順に収録する」という方針のため、旧版(『世界短編傑作集』)とは各巻の収録作が大きく変わることになりました。あの短編がこんな後ろの巻に移動した!? という驚きがあったり。読む際の印象もずいぶん変わると思いますので、ぜひ旧版をお持ちの方もリニューアルした『世界推理短編傑作集』を手に取っていただけますと幸いです。
さて、今回はリニューアルで大きく変更となった装画と装幀についてのお話をできればと思います。
リニューアルするにあたり、装幀はFragmentの柳川貴代さんにお願いしました。その際、本アンソロジーのイメージとして、以下の点をお伝えしつつ、ご相談しました。
*ポオから1950年までの海外短編ミステリを俯瞰する定番ともいうべきアンソロジーなので、クラシック感があるとうれしいです。
*物のイラストを描いていただきたいです。何個かを散らすのではなく、ひとつかふたつを大き目に描いていただくイメージです。
*イラストのモチーフとしては、名探偵や推理小説らしい小物でお願いしたいです。
そして、今までも東京創元社でさまざまなカバーイラストを手がけてくださっている伊藤彰剛さんに装画を依頼することになりました。
第一巻のイラストの「鍵」は東京創元社を象徴する物として、わたしからご提案させていただきました。創元推理文庫の扉には鍵のマークがありますよね。あれです。とはいえ同じ物ではなく、もっと装飾的な鍵の絵を描いていただくことになりました。そうそう、あと創元推理文庫のマークのひとつ、「おじさんマーク」(横顔マーク、はてなマーク)も入れてくださいと柳川さんにお願いしました。気づいてくださった方、ありがとうございます。このマークについてご存じない方は、以前書いたこの記事を読んでいただけますとうれしいです……。
翻訳ミステリについて思うところを語ってみた・その13 創元推理文庫の背表紙はカラフルなのだ

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その後は、柳川さんのご提案で「名探偵や推理小説らしいイメージで、色や形などが前の巻と重ならない物」を選ぶことにしました。つまりどういうことかと言いますと……。
・1巻 「鍵」→金色、長いもの
・2巻 「懐中時計」→銀色、丸いもの
・3巻 「手袋」→黒、柔らかいもの、広がりがあるもの
・4巻 「眼鏡」→べっこう色、細いもの、丸いもの
と、いう感じです。また、おおまかにですが、収録作の年代(1920年代など)にもあわせています。「鍵」「懐中時計」が金属だったので、布の「手袋」やセルロイドの「眼鏡」、など素材も変えています。さらに、2巻の懐中時計はイギリスの紳士が持っていそうなものを描いていただいたので、3巻は女性用の手袋にするなど、さまざまな要素が前の巻と重ならないように考えています。その結果、並べてみると綺麗な印象になっているのではないかなと思います。

背景の色も伊藤さんが描いてくださっています。カラフルで綺麗ですよね~。毎回、イラストの原画が届くのをとても楽しみにしています。そして柳川さんがクラシックかつスタイリッシュで素敵なデザインに仕上げてくださって、『世界推理短編傑作集』はできあがります。たいへん嬉しいことに第一巻と第二巻は重版へと至りましたが、収録作のすばらしさに加えて、この装画と装幀の力のお陰だと思っております!
さて、5巻のカバーには何が描かれるのか……? それはすでに決まっておりますが、まだ秘密です。もう少ししたらお知らせできると思いますので、お楽しみにお待ちいただけますと幸いです。
『世界推理短編傑作集4』は2月12日刊行です! どうぞよろしくお願いいたします。
(東京創元社S)