巨星


『ブラインドサイト』
『エコープラクシア 反響動作』の2作で、想像だにしない視点から途方もない物語を紡ぎ、意識と知性の意味を極限まで突き詰めて、「SFにこの人あり」とその名を轟かせたピーター・ワッツ。初邦訳長編『ブラインドサイト』が2014年の星雲賞長編部門を受賞したことも記憶に新しいですね。

3月刊行の『巨星 ピーター・ワッツ傑作選』は、そんな著者の待望の日本初オリジナル短編集です。1990年のデビュー以来書かれた中短編のなかから傑作11編を厳選。初期短編から新作にいたるまで、現代最高のハードSF作家の全貌がここに――以下、収録作を少しご紹介します。

「天使」

付随的被害(誤射や巻き添えなど、軍事作戦における民間への被害)を減らすため、実験的意識を与えられた無人軍用機(ドローン)。戦果と犠牲者の関係を「費用対効果」として学習するようになったAIが遂げる、急速な進化の果てに待つものは……軍用ドローンのAIの視点から描かれる、
意識/知性の意義を問う鮮烈な一編。

「遊星からの物体Xの回想」

宇宙を旅し、出会ったさまざまな異種族と“交霊”(相手との一体化による情報の交換・獲得)をしてきた不定形の知的生命体である“わたし”は、地球の南極大陸に墜落して遭難する。やがて長い眠りから目覚めた“わたし”は、個体ごとに独立した意思があるかのように振る舞う現地生命体と初めて遭遇する……
タイトルが示すように、ジョン・カーペンター監督の名作映画『遊星からの物体X』The Thingを下敷きにしつつ、単なる構図の反転に留まらない驚愕の一編。シャーリイ・ジャクスン賞短編部門受賞作。

「島」

銀河系に超光速移動用のワームホール・ネットワークを建設する使命を帯びて地球を出発した小惑星宇宙船〈エリオフォラ〉。だが、すでに出発から10億年以上が経過し、もはや故郷の存続も定かでない状況にもかかわらず、船は管理AIのもとで粛々と任務を遂行していた。そんなあるとき、赤色矮星の星系に進入した〈エリ〉は奇妙な信号を検知。対処のため冷凍睡眠から起こされた乗組員サンデイは、想像を絶する生命体と遭遇する……ヒューゴー賞中編部門受賞作。


解説は第5回創元SF短編賞「ランドスケープと夏の定理」で受賞した俊英・高島雄哉氏。現代最高のハードSF作家であるピーター・ワッツの魅力を余すところなく詰め込んだ『巨星 ピーター・ワッツ傑作選』、3月の刊行をお楽しみに!

目次:
  • 「天使」"Malak" (2010)
  • 「遊星からの物体Xの回想」"The Things" (2010) ※シャーリイ・ジャクスン賞受賞
  • 「神の目」"The Eyes of God" (2008)
  • 「乱雲」"Nimbus" (1994)
  • 「肉の言葉」"Flesh Made Word" (1994)
  • 「帰郷」"Home" (1999)
  • 「炎のブランド」"Firebrand" (2014)
  • 「付随的被害」"Collateral" (2014)
  • 「ホットショット」"Hotshot" (2014)
  • 「巨星」"Giants" (2013)
  • 「島」"The Island" (2009) ※ヒューゴー賞中編部門受賞
  • 解説=高島雄哉