不透明なグラスを3個置いて、そのうちの1個にコインを入れる。どこに入っているのかを当てるゲーム? がある。必ず当てる人がいて、もしそれが10歳くらいの少女であったりすると、超能力の持ち主だとか言われて話題になったりする。ある学者がその真贋を確かめたことがある。様々な実験をした結果、グラスのコインを入れた人かそれに立ち会った人が、その場にいないときには、あまり当たらないことが分かった。グラスの中を透視できるわけではなく、人の心理状態を読むのに長けていたということであった。
人の心を読むとか先を読むとか使われるが、そういったことに長けた人は、読めない者にはあこがれの対象でもある。囲碁の「読む」という行為はそれとはちがうのだが、上手と打っていると、自分の心理状態をすべて読まれているような錯覚に陥ることがある。そんな気持ちになれば、当然その勝負には負けてしまう。棋力の差は如何ともしがたい。
「読み」とは、ある局面で例えばAに打てば、相手はBと打ってくる。そこで自分はCと打つ。これで3手。もしDと打ってくれば、Eと打とう。これも3手。もし自分がFと打てば相手はGと打ってくる。そうすればHと打とう。これも3手。これで9手読んだことになる。プロ棋士は、一瞥するだけで百手以上は読んでいると言われる。本書はそんな「読み」の秘訣に迫ったものである。深い「読み」には感心させられることは多いと思う。そこまで読んでいたのかとか、そんな手まで読んでいたのかとか。
しかし漠然と「読み」とは何かを考えていても始まらない。石を取りたいのか、収まりたいのか、或いは外勢を築きたいのか、攻めたいのか、守りたいのかといった局面を考えることが重要なので、また石を取っても形勢が良くならなかったり、先手がなかなか取れなかったりすることで、盤面を支配しがたいようなときには、「読み」の力が必要になる。「読む」ことの秘訣を会得すれば、囲碁は何倍にも面白くなるのだ。
本書を読むことで「読み」を習慣にすれば、今までと違った対局が待っているはずである。