「とにかく読みだしたらやめられないのです」
有栖川有栖(解説より)
著者の実体験から生まれた不思議な状況や
シリーズ初の「密室」ミステリまで
名給仕ヘンリーに解けぬ謎はなし


2018年4月から隔月で刊行してきたアイザック・アシモフ『黒後家蜘蛛の会』新装版も、いよいよ最後の第5巻。アシモフ自身が実際に体験した不可思議な状況をそっくりそのまま小説化した「待てど暮らせど」、意外にもシリーズ初となるいっぷう変わった密室もの「秘伝」(言われてみれば、人間消失などはあったものの密室は初なのでした)2巻の解説で越前敏弥先生がシリーズのベストにあげていた愛書家もの「三重の悪魔」など、本書も既刊4冊と同様、12の短編を収録しています。もちろん各編あとがきも収録。アシモフ先生、相変わらず快調に飛ばしています。

5巻の解説は〈平成のクイーン〉有栖川有栖先生。ひとたび読みはじめたらやめられなくなるシリーズの魅力を、敬愛をこめて語っていただいています(新装版刊行に際して、若干の加筆訂正をおこないました)。書き出しはこんな感じ。

「長い船旅に出るんだけど、何か退屈凌(しの)ぎになるような本を紹介してよ」
 もしも誰かからこんな相談を受けたなら、私はこう聞き返すかもしれません。
「アイザック・アシモフの『黒後家蜘蛛の会』っていう本を読んだことある?」
 いいや、という答えが返ってきたら、それで五冊は決まりです。『黒後家蜘蛛の会』は本書で五冊目ですからね。


ところで、新装版が出そろったところで5冊の表紙をご覧いただくと、何かお気づきではないでしょうか。カバーを一新するにあたり、全巻に給仕ヘンリーを登場させることにしましたが、イラストレーターの久保田眞由美さんには巻が進むにつれ〈黒後家蜘蛛の会〉の晩餐会も進行するように描いていただきました。あえて説明しますと、このような塩梅になっております。

 1巻:椅子を引いて客を迎えるヘンリー
 2巻:食前酒と手紙を運ぶヘンリー
 3巻:料理(メインディッシュ)を持つヘンリー
 4巻:食後のコーヒーを配るヘンリー
 5巻:備えつけの辞書事典をあらためるヘンリー

表紙イラストからも、〈黒後家蜘蛛の会〉の雰囲気が伝わっていればさいわいです。
アイザック・アシモフ『黒後家蜘蛛の会5』は12月12日刊行です。


月に一度開かれる〈黒後家蜘蛛の会〉の謎解きの宵は、名給仕にして名探偵であるヘンリーのもてなしさながら、読む者すべてに心地よいひと時をもたらす。本書には、愛書家が一万冊以上の蔵書の中から遺贈した一冊の本を当てる「三重の悪魔」、著者の実体験をそのまま作品化した「待てど暮らせど」、いっぷう変わった密室の謎に挑戦する「秘伝」など、さまざまな趣向の12編を収録。