20年前、「ジャン=クリストフ・グランジェは、これまでアングロ・サクソンが君臨していたミステリ界に一歩踏み込んだだけでなく、彼らと対等のライヴァルとしてその姿を現わした」と、当時のフランスの文芸誌「マガジン・リテレール」に大きく扱われた本作は、ジャン・レノ主演の同名の映画が日本でもヒットし、大変話題になりました。
ジャン・レノ扮する荒っぽく暴力的な警視正と、ヴァンサン・カッセル扮する若い警部(小説ではアラブ系の若者なのですが)は、とてもいいコンビで、二人の俳優の知名度はいっぺんに上がりました。
その後、ジャン・レノは地方の醤油を中心とする醸造会社の、V・カッセルは最近、なんとお笑い芸人の小峠某氏と一緒にフランスの清涼飲料水のCMに出るようになり(そうなんです、あれはあのヴァンサン・カッセルなのです!)、二人とも日本人にも大いにその名を知られています。
『クリムゾン・リバー』のあと、小社では『コウノトリの道』、『狼の帝国』の2作を刊行し、どちらも映画化されましたが、映画はどちらも前作ほどにはヒットしませんでした(最近お話を伺ったところ、グランジェ氏は映画化作品についてはどれもかなりご不満のご様子でした)。
ジャーナリスト出身の作家であるグランジェは、丁寧な取材に基づいて、しっかり書き込むということもあり、どの作品もかなりのヴォリュームです。
そのスタイルで20年にわたり13の作品を刊行してきましたが、いずれも本国フランスでは、出ればベストセラーという作家で知られています。フランス・ミステリ界に不動の地位を築いたといってよいでしょう。
今年刊行された "La terre des morts" という最新作も、大ヒットで、これは、日本では来年以降、どちらかの版元から刊行されるようですし、今年、10月には、TAC出版から、2011年の作品『通過者』が刊行され、ミステリ・ファンを喜ばせてくれました。
そして。今回、『クリムゾン・リバー』を新版・新カバーで刊行することになりました。
改めて読み返してみましたが、実に読ませます! ぐいぐい引き込まれます。まったく古びていません。今の小説です!
山間の大学町で見つかった大学関係者の惨殺死体、少し離れた町で起きた謎の墓荒らし、この一見無関係の事件はいったいどうつながるというのか?
これを、それまでのフランス・ミステリのつもりで、初めて読んだときの衝撃を思い出しました。
これを、それまでのフランス・ミステリのつもりで、初めて読んだときの衝撃を思い出しました。
古い原書をひっぱり出してみると、当時のフランスの雑誌「ヌーヴェル・オプセルヴァトゥール」の記事のコピーが出てきました。
「彗星のごとく現われたグランジェ」という見出しではじまるその記事には、ほっそりとした36歳のグランジェの写真が載っています。そして「スティーブン・キングやメアリ・ヒギンズ・クラークと同じシリーズに収録された『クリムゾン・リバー』は、6週間で75000部も売れている」とあります。これは、フランス・ミステリ界では脅威的な数字です。
実はグランジェ氏はその後、日本人女性と結婚され、男の子が生まれて、その坊やと日本語でお話ししたいという理由で、時々日本にやって来ては、日本語を集中的に勉強して帰るという日々を送られています。