ヒーローたちの競演に胸躍る向きは多いと思うが、芦辺拓『帝都探偵大戦』(東京創元社 1800円+税)は、総勢50人もの名探偵が登場する前代未聞の作品だ。


 同じ箇所を二度刺されて死んだ女の事件を発端に、半七、銭形平次、顎十郎(あごじゅうろう)といった面々が江戸の悪党どもを成敗する「黎明(れいめい)篇」。ナチス政府が欲しがる秘宝をめぐる謀略に、法水麟太郎(のりみずりんたろう)、帆村荘六、獅子内俊次etc.が立ち向かう「戦前篇」。若き神津恭介をはじめとする名探偵たちや小林少年らが巨大な陰謀を阻止せんと集結する「戦後篇」。

 これだけの数の名探偵を入れ替わり立ち替わり登場させ、しかも見せ場を設けるのは正直無茶としかいいようがないが、さすがは探偵小説と本格ミステリを知り尽くした著者である。見事な指揮者ぶりでキャラクターを自在に動かし、「おや、あの名探偵は登場しないのかな?」と思っていると、すかさず頬が緩んでしまうような文章が用意されるから心憎い。「戦前篇」のある仕掛け、「戦後篇」での某大系に連なる趣向、「戦後篇」に登場する敵役のチョイスも秀逸で、賑やかなばかりで大味になってしまいそうな物語を、じつに目の行き届いたパスティーシュに仕上げている。本格ミステリを愛するすべてのひとに向けた、まるで贈り物のような物語である。


 少女を誘拐した犯人からの要求が「すぐ、警察に電話するんだ」という奇妙な内容で強く目を惹く、小島正樹『誘拐の免罪符 浜中刑事の奔走』(南雲堂 1800円+税)は、“ミスター刑事”浜中康平の活躍を描いたシリーズの第3弾。田舎(いなか)の駐在として平穏な勤務を夢見ているが、なぜか望んでもいない手柄をつぎつぎと立ててしまい、群馬県警のエースになってしまった浜中が相棒の夏木たちと今回手掛ける事件は、不可解な少女誘拐事件と身元不明女児の死体遺棄(いき)事件だ。

 これまでも倒叙ものの新機軸に挑んできた〈浜中刑事〉シリーズらしく、本作も奇数章で誘拐犯の内面や行動が描写されるが、読み手の予想を覆(くつがえ)すフーダニット的な驚きが周到に用意されていて油断がならない。小島正樹といえば、仕掛けやアイデアをこれでもかとばかりに盛り込む作風で知られてきたが、デコレーションよりも仕掛けの精度向上や厚みのあるドラマ作りに意識を傾けた近年の作品は、もっと広く知られ、高く評価されてもいい(海老原シリーズの新作を期待する気持ちも)。第八章で明らかになる真相は、重く辛いものである。しかし、浜中のやさしさが最後に示すひとつの仮定は、温かな光となって読者の胸に灯るはずだ。おそらくトリックメーカーが目指す本格ミステリの効用は、この“曙光(しょこう)”にあるのだろう。もう“やりすぎミステリ”の書き手というレッテルだけで、語る時期は過ぎたといえよう。