ケン・グリムウッド、杉山高之訳『リプレイ』(新潮文庫)を読む。
ニューヨークの小さなラジオ局でニュース・ディレクターをしているジェフは、43歳の秋に死亡した。気がつくと学生寮にいて、18歳に逆戻りしていた。記憶と知識は元のままで、身体だけは若者である。これから起こることを知っているので、彼は思いのままに大金持ちになる。葛藤もある――何回か死んで、その度に蘇る。SFなのかファンタジーなのか、人生をもう一度やり直せたら、という究極?の夢を体験した男(と女)の物語。確かにこれから起こることを知っているのは人生に於いて、かなりのアドヴァンテージになるだろう。
ひとつの分野である程度の経験を積めば、先の見通しを考えるようになる。野球でも投手が次に何を投げてくるのか予想しながら打席に立っていたり、打球の傾向によって守備位置を変えたりする。先を読むことで、ゲームを優位に導くことができる。すでに体験していることだと完璧である。
さて、囲碁で5子以上置いて打っていると、上手は何でも知っているように思ったりする。つまり先をすべて知られているような気分になる。読みの力が圧倒的に違うからである。ただ読みは、先を知っていることではない。Aと打てば、Bと打ってくるだろう。それならばCと打つ。もしDと打ってこられればEと打つ。うまくいかないようであれば、Fと打ってみる。そうすれば相手は、Gと打つかHと打ってくるだろう。
読みとはそういったことの繰り返しで、打つ手を選択していく地道なものである。1000年以上打たれ続けている囲碁だが、同じ形で終わったものはないといわれている所以である。
優位に進めていても、石が死んでしまえば終わりである。しかし10目の石が死んでも、21目の地を確保できれば、1目の得である。場合によっては石を捨てて地を取る考え方もある。そこが碁の面白さである。
本書は、死活と言われる分野を扱っている。囲まれた石が死んでいるのか、生きているのか、どうやって生きるのかをテーマにしている。囲まれた石には、先手活き、後手活きとか、或いはコウ含みとかの形があり、それを素早く判断するのが棋力である。一目見て、「活き死に」の判断が出来れば、勝率は上がる。棋力の元を作るのが本書である。
そして、それを戦略的に利用できるようになれば、碁が変わってくる。
碁は面白い。
(2018年9月18日)