若き日の文豪ポオが元警官と挑む戦慄の怪死事件
歴史ミステリ大作にして謎解きミステリの傑作


 文豪として不滅の足跡を残し、ミステリの始祖としても名高いエドガー・アラン・ポオは、これまで数多の文学作品に“主演/出演”してきました。本書『陸軍士官学校の死』もまた、そうした“ポオ主演作品”のひとつではありますが、これまでの作品とは大きく異なる特長が三つあります。

 ひとつは、本書に登場するポオは作家としての活躍を始めて間もない、まだ年若い二十代の青年だということ。本書の舞台となるウエストポイント陸軍士官学校に、ポオが一時期籍を置いていたのはまぎれもない史実ですが、この時期のことは、これまでまったくといっていいほど文学作品で取りあげられてきませんでした。本書での士官候補生ポオは、青年時代はかくあったろうと万人をうなずかせる人物として描かれています。

 ふたつ目は、ポオの視点から事件が物語られる際に、著者ベイヤードがポオの文体模写を試みていること。これまた、海外の読者をうならせた見事なできばえなのですが、翻訳でもその雰囲気は、巧みに日本語へと移し替えられています。どうぞ、ご堪能ください。

 そして三つ目は、本書がきわめて優れた謎解きミステリであること。クライマックスの真相解明シーンでは、真相そのものもさることながら、随所に配されていた伏線の妙に、必ずや感嘆していただけることと思います。もちろん、歴史ミステリとしても傑作なのは言うまでもありません。

 謎解きファンも、歴史ものファンも、決して読みのがしてはならない傑作、ルイス・ベイヤード『陸軍士官学校の死』は、7月10日発売予定です。

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 引退した名警官ガス・ランダーは、ウエストポイント陸軍士官学校のセアー校長に呼び出され、内密に処理したい事件の捜査を依頼される。同校の士官候補生の首吊り死体から、何者かが心臓をくり抜き持ち去ったというのだ。
 捜査の過程でランダーは、ひとりの年若い協力者を得る。士官候補生一年の彼は青白い顔の夢想家で、名をエドガー・アラン・ポオといった――
 青年時代の文豪ポオを探偵役に迎えた、詩情豊かな傑作謎解きミステリ。

(2010年7月5日)

 

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