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 新月の姉七海は、平成十一年八月十二日、十七歳の若さで何者かに殺害された。その事件自体、いくつかの異様な要素を孕むものだったが、それに先立つこと二、三年前から、能登家には或るどす黒い悪意の刃が突きつけられており、七海殺害事件を機に、両者の関連は執拗に取り沙汰されるに至ったのだった。悪意の刃というのは、こういうわけだ。
 新月の家は、能登外科医院といって、練馬で曽祖父の代から続く開業医であった。或るとき、木暮由香利という若い女がこの病院にかかったことが、のちに起こる物騒な出来事の発端となった。
 初診訪問時、木暮由香利は腕を負傷していたという。診断の結果は左肘関節の亜脱臼で、院長である新月の父数馬が治療を施して帰した。その後も木暮由香利は不定期に通院を繰り返すようになったが、おかしなことには、やってくるたび負傷箇所が違っている。これは穏やかでないと見てとった新月の父は、なかなか真実を打ち明けようとしない女を宥めすかして、原因が内縁の夫の暴力にあることを聞きだした。無理強いはできないまでも父は警察に相談することを勧めたが、女はためらった。その内縁の夫というのが、沼田欣児といって、アングラ劇団で舞台役者をしている男であることがのちにわかった。
 黒耀座は旗揚げして数年の新進劇団、沼田欣児はそこの看板役者であった。当時三十代前半、ガリガリに痩せて、たいそう背の高い、まるでナナフシのような男で、その体型を活かし、無表情で独特の動きをしてみせるのが、怪奇派として、また毒気の強いシニカルな笑いを演じられる役者としても、小劇場クラスの演劇シーンでは評価が高まりつつあったらしい。そんな彼のトレードマークというのが、陶製のサイケデリックな仮面なのだった。めったやたらに絵の具を塗りたくったような極彩色の仮面で、それを装着したときの沼田は、狂気の別人格「影百合」と化した。公演のたび、作中のどこかで必ず「影百合」が登場するのが黒耀座の売りでもあったという。
 この沼田欣児と最初に接点を持った能登家の人間が、ほかでもない姉の七海であった。
 平成九年春、七海が高校に入学してまもなくのことだ。夕刻、学校帰りの彼女の前に、ふらりと長身痩躯の男が現れた。彼は七海が能登外科医院の娘であることを確かめた上で、木暮由香利という女が通院していないかと訊いた。七海は勝気で物怖じしない性格であった。ただし、いくら院長の娘といっても患者のことまで把握しているはずはなく、素直にそう答えると、相手もさして期待していなかったのだろう、丁寧に礼をいって立ち去った。後日、沼田欣児と判明するこのときの男は、不精ひげを生やし、顔色も悪かったが、物腰の柔らかい、穏やかな人となりをしていたという。
 夜の食卓で、七海はその小さな出来事を皆に話して聞かせた。木暮由香利の負傷の原因を知っていた父は、おそらく不穏なものを感じたに違いないが、その場では特に何もいわなかったと新月は記憶している。
 それから初夏にかけて、沼田欣児はたびたび病院周辺に姿を見せるようになった。偶然か、あるいは意図的だったのか、彼と会話を交わしたのはいずれのときも七海であった。
 二度目に会ったとき、沼田欣児は、木暮由香利の居所をお父さんから訊きだしてほしいといった。じつは、七海と沼田が最初に会った日の一週間前、木暮由香利は最後の治療に訪れていたのだ。最後の、というのは、以来彼女の来院がふっつり途絶えたからだ。むろん病院なのだから、通わずに済むなら越したことはなかったが。
 三度目、沼田欣児は初めて二人連れで七海の前に立った。一緒にいたのは、七海よりやや年上とおぼしき長髪の少年であった。沼田も背が高かったが、その少年も負けず劣らずの背丈で、二人並んださまは二本の電柱のようだったと七海は家族に語った。この日、七海は父から聞いていたとおり、木暮由香利がしばらく顔を見せていないことを伝えた。沼田欣児はやんわりそうですかといい、去りぎわ、自分が劇団で芝居をやっていることを告げると、ポケットからチラシとチケットを取りだし、七海に手渡した。
 ――こいつも出ますから、観にきてください。
 一緒にいた少年を示して沼田欣児はいった。目鼻立ちのはっきりした少年は、はにかみながら無言で会釈したらしい。それが十七歳の藤江恭一郎であった。
 新月の知るかぎり、それまでの姉は芝居などには縁遠かった。ところがその夏、彼女は誘われるままに沼田欣児の劇団、黒耀座の舞台を観に出かけたのだ。どういう風の吹きまわしか知らないが、少なくともこの時点では、姉は沼田欣児にさほど不快な印象を抱いていなかったのだろう。
 以降、新月は、姉の口から「藤江くん」という名前が出るのをたびたび耳にするようになった。七海は新月と逆だったらと思うほどすらりと背が高く、また、きりりとした涼やかな顔立ちが、弟の目から見ても美しい少女だったが、彼女の美貌はこのころからますます際立ち、大人びていった。
 さて、これで話が済んでいれば良かったが、黒耀座の公演が終わったあたりから、沼田欣児がおかしな挙動を見せはじめた。木暮由香利を出してくれと頻繁に病院に電話がかかってくる。能登外科医院には入院設備もあったが、当然ながら木暮由香利の姿はない。幾度否定しても「隠すな!」と声を荒らげる沼田欣児の態度は、七海が語っていた印象とはかけ離れたものだった。
 それからほどなく、沼田による異常な嫌がらせが始まった。彼は手当たり次第、近隣に告発のビラを撒きはじめた。新月はその現場を一度だけ目撃した。いわく、内縁の妻が治療に訪れた先の病院で姿を消した……それだけではない、麻酔で眠らされて院長から暴行を受けたあげく、能登家の一室に監禁されているうち、とうとう暗々裡に殺されてしまったというのだった。
 あとあとになってわかってみれば、木暮由香利は、最後に能登外科医院を訪ねた日、同居していた沼田欣児のアパートには帰らず、そのまま雲隠れしてしまったものらしい。要は男に愛想を尽かして逃げだしたわけだ。結果、方々捜しまわっても女を見つけだせなかった沼田欣児が、日を経るにつれてとんでもない妄想を膨らませるようになり、でたらめを吹聴しはじめたというところだが、その妄想が病的なまでに歪んでいたのには、沼田という男が重度の薬物中毒者だったことに原因があった。もともと破滅型の性格で、過去にも薬で喰らいこんでいた時期があったことを、一家は警察から聞かされた。かねてそうした悪癖を抱えていたところへ、内縁の妻に逃げられたことで、沼田欣児の妄想は加速度的にエスカレートしていったと思われる。
 沼田の暴走はそれだけに止まらなかった。能登外科医院についてあらぬ噂を触れまわったあと、彼はさらに大変なことをしでかしたのだ。どこで調べたものか、新月の両親数馬と玲子、兄大地、姉の七海、そして新月、各々の名前を墨痕黒々としたためた卒塔婆五本を病院宛に送りつけ、一家鏖殺を予告したのである。
 表面上、冷静な態度で嵐の過ぎ去るのを待っているふうだった父も、家族の身に危険が迫ったここに至ってようやく警察に通報し、後ればせながら沼田欣児の薬物使用の過去が明らかになった。殺人予告に関し、沼田にどこまで実行の意志があったのかは定かでないが、警察沙汰にしたことが奏功し、兇行は未然に防ぐことができた。ただし、待ち受けていた結末は、何ともいえず後味の悪いものであった。
 警察は迅速に行動し、逮捕状を取って沼田欣児のアパートに向かったという。白昼であった。しかし、いざ踏みこもうとしたその矢先、突如、頭から灯油をかぶり、火だるまになった男が、絶叫しながら窓を蹴破って路上へ飛びだしてきたのだ。
 身柄確保の際に被疑者が暴れだす危険性は警察も想定していた。現場には多数の人員が配備されていたため、火が放たれたときも適切な措置が取られた。おかげでアパートも燃えずに済んだが、命こそ助かったものの、沼田は重い火傷を負って人事不省となり、病院に担ぎこまれた。この凄絶きわまりない惨事の勃発が、年末の出来事であった。
 幸か不幸か、沼田欣児は一命を取り留めた。彼は退院を待って逮捕されるはずだったが、翌年の二月、無残な火傷痕に引き攣れた顔を包帯にくるんだまま病院から脱走し、行方をくらましたのだった。
 平成十年、沼田欣児三十三歳、藤江恭一郎十八歳、能登七海十六歳、新月が十三歳を迎える年のことである。


    5

 短期間ながら探偵社で学んだノウハウを、いまや能登新月はフル活用に及んでいる。
 白石光の働く玄兎書房は日本橋にあった。是璃寓までは歩いて行ける距離、これなら足繁く通うのもうなずけた。スーツの後ろ姿に背後からぶらぶらと付き随い、うらぶれた背中が地下へ消えた五分後、新月はみずからも是璃寓の扉を開けた。マスターに会釈しつつ、彼はしれっとした顔で白石光の隣に腰かけた。
 ――やあ、こんばんは。先日は失礼しました。
 ――……待ち伏せしていたな。
 咎め声で白石光は睨んだ。が、会社から跟【つ】けてきたとまではさすがに思っていないようだ。
 ――たまたまですよ。ぼくだってここの常連なんですからね。
 ――俺は一人になりたくてこの店に来るんだ。邪魔しないでくれ。
 ――ご迷惑ですか。
 ――ああ。
 むっつりとした生返事は、しらけた沈黙を連れてきた。それでも新月は怯むことなく、
 ――白石さんはバーボン党なんですね。じゃ、今夜はぼくもお付き合いしよう。
 そういって、ニコニコしながらオールドフィッツジェラルドと鎌倉ハムのサラミを頼んだ。
 ――まったく君は変わった男だよ。
 聞こえよがしの嘆息のあと、白石光は独り言めかしてぼそりといった。
 ――無遠慮で自分の都合にばかり忠実で……だが、おそらくそれで嫌われることは少ないんだろう。いわゆる人好きがするという奴だ。嫌味がないからか、それとも可愛らしいお坊ちゃんフェイスのおかげなのか。
 ――好意的な分析、痛みいります。
 カウンターに両手を置き、新月は平べったくなってお辞儀をした。
 ――君は、最初から俺の素性を知っていて接触してきたのか? 俺が藤江恭一郎の友人であり、君の姉さんの事件についても認識があるってことを。
 ――いいえ。そう思われるのも無理はありませんが、違うんです。あの日、あなたから藤江さんの名前を聞くことになろうとは予想もしていませんでした。
 ――たしかに先日の君の驚き方は芝居とは思えなかったな。つまり、瓢箪から駒が出たというわけか。
 ――そのとおり、まったくとんだ偶然です。いえ、何なら運命と呼んでもいい。見えざる何ものかが、ぼくをあなたのもとへ連れてきたのですよ。
 と、そこで新月はにわかに表情を引き緊めると、声こそ低かったが訴えかけるようにこういった。
 ――いまとなっては、ぼく、姉の死のことを第一に知りたいのです。そうして、あくまでその観点から、藤江恭一郎さんのことを知りたいのです。先日、あなたはぼくのことをゴシップ記者か警察関係者かと疑っていらした。そんなふうに思われたのも、十年前の未解決事件が脳裏にあったからではないですか。
 白石光はしばし黙したのち、ぽつりと答えた。
 ――そうかもしれないな。
 ――もうすこしぼくに家族の情があったら、鉄仮面の男の噂を耳にした時点で或る程度の想像が働いてもおかしくなかった。ところが困ったもので、今日までぼくは、姉の事件から変に目を背けつづけてきたところがあるんです。白石さん、改めてあのころのことを教えていただけませんか。できることならこの機会にすべてを清算してしまいたいのです。
 それは本心だった。猟奇の徒を標榜して憚らない自分が、最も身近で最も追及すべき一件に関して長年距離を置いてきたのが、われながら新月は不思議であった。ましてやその事件の様相たるや、彼の猟奇心を刺激する異様な色彩を帯びていたというのに。彼にとって、過去の事件の真相を暴くという行為はたしかに魅惑的であった。だが一方で、死んだ人間はどう足掻いても帰ってこない、姉は不幸な死に方をしたが、いかに理不尽であろうと、それがその人間の寿命であり運なのだという冷めた諦観が、新月の頭には常に根ざしていた。
 今回にしても、そもそもの始まり、新月の猟奇の対象は、鉄仮面の男そのものであった。そうしてそれはいまでも変わっていなかった。行きがかり上、過去の事件に焦点が絞られつつあるが、新月の興味は、あくまで鉄仮面の男に惹きつけられていた。好んでそんな仮面をかぶっている男の歪んだ心理とはいかなるものか、その真実に舌をつけ、思う存分味わってみたい。嫌悪を抱くか、同情が芽生えるか、はたまた共感を覚えるか。傷痕を隠すための仮面というが、それが本当なら、仮面の下にはいったいどんな素顔が秘められているのか。悪魔じみた黒衣は何を意味しているのだろう。
 自分は姉の死を恰好の口実に利用しようとしているのかもしれない。そう思うと、さすがの新月もいくぶんかの良心の咎めを感じざるをえないのだった。
 ――七海ちゃんに弟がいたとは知らなかったな。当時、君はいくつだった。
 ――十四です。中学生でした。
 ――十年ひと昔というが、時の経つのは早いものだな。
 白石光はしみじみといった風情でこちらを見つめた。
 ――それで君は事件のことを俺に話せというんだな。知ってのとおり、あの不幸な出来事は夏の鎌倉で起きた。そうしてその現場に、たしかに藤江も俺も立ち会っていた……。
 新月はハッとして思わず声を高めた。
 ――あなたもいらっしゃったのですか?
 ――なんだ、君は本当に無関心だったんだな。そう、隠してもしょうがない、俺もあの小旅行の一員だったんだ。七海ちゃんの葬儀にも参列させてもらったから、そこで君とも顔を合わせていたかもしれない。
 ――ぼくは葬儀には出なかったのです。間の悪いことに風疹で。
 ――そうだったのか。いや、しかし、君がどこまで知っているかはさておいて、いまさら俺の口から被害者の身内に提供できる情報があるとは思えない。そもそもあの事件には、もっと前からの複雑な事情も絡んでいたはずだ。そこらへんは君のほうが詳しいだろう。
 ――そのとおりです。
 新月は素直に肯んじた。
 ――藤江さんより先に、もう一人、忘れがたい登場人物がいましたからね。
 ――黒耀座という劇団の男だね。
 ――そうです。白石さんは黒耀座の舞台をご覧になったことはありますか。そもそも藤江恭一郎さんはどういう経緯で劇団に加わったのでしょうか。
 問われた白石光は、眼前に過去を描出するように答えた。
 ――高校時代の話……同じクラスに大の演劇好きがいてね、或るときそいつが藤江を観劇に誘ったんだな。たまたまそれが黒耀座の舞台だった。結果、ありがちな話だが、付き合いでくっついていった藤江のほうが虜になってしまったのさ。例の役者……。
 ――沼田欣児ですね。
 ――あの男の憑かれたような演技に藤江はすっかり心酔して、ほどなく個人的に交流を持つようになった。沼田って男も藤江のことがお気に召したんだろう、で、次の公演に出てみないかと誘われたわけだ。藤江に「黒百合番太郎」なる珍妙な芸名を授けたのも沼田だったようだ。もっとも、藤江はまだ高校生だし、演技のエの字も知らないズブの素人だ。そこで苦肉の策なのか必然性があったのか知らないが、鉄仮面をかぶせ、僧衣めいた黒衣を着せて、舞台を歩かせた。台詞はほとんどなかったな。金土日の全五回、藤江が役者をやったのはその一公演こっきりだ。俺はもちろん、クラスの連中数人が冷やかし半分で見物に行ったよ。藤江と沼田欣児はよく似た体格だった。ガリでノッポの二人がともに仮面姿で登場する場面はなかなかの見ものだった。
 仮面と黒衣……新月は、吉祥寺の工房で見つけた集合写真のことを密かに思った。ぞろりと長い黒衣をまとい、小脇に仮面を抱えた藤江恭一郎の立ち姿。たった一公演だけの彼の舞台を、姉もまた目撃したのだ。
 ――藤江さんは演劇の道に進みたかったのでしょうか。
 ――そうなっていても不思議じゃなかったな。ところが初舞台を踏んだ矢先に、私淑する沼田欣児がとんでもない騒動を起こしてしまう。黒耀座は活動休止を余儀なくされ、藤江はそこで芝居と縁を切って、工芸を学ぶために美大へ進んだんだ。そうそう、藤江が舞台で着けた鉄仮面はあいつ自身が作ったものなんだ。出来映えはともかく、たぶんあれがあいつの最初の作品だろう。その意味では、黒耀座こそが藤江の進むべき道を決定づけたといえるかもしれないな。
 ――白石さんも同じ大学へ進学されたのですね。
 ――ああ。俺と、それから早見……最初に藤江を観劇に誘った男も一緒だった。藤江は彫刻、俺はデザイン、早見は映像と、それぞれ学科は違ったがね。三人とも、表現形態にこだわらずもの作りが好きだったし、わりあい趣味も似ていたからね。
 ――藤江さんと姉は、黒耀座……沼田欣児を介して出会っています。白石さんは藤江さんを通じて姉のことを知ったのですか。
 ――そうだ。
 ――藤江さんと姉は恋愛関係にあったと見て良いのですね?
 亡き姉のプライバシーに踏みこむことにいくぶん抵抗を覚えながら、新月は訊いた。対する白石光は、こともなげにうなずいていった。
 ――つまり、それはこういうことだ。俺とは日にちが違ったようだが、七海ちゃんも藤江の舞台を観にいき、それをきっかけに二人は友達になったんだ。ところがそこへ沼田欣児の不祥事が勃発する。藤江は沼田の芸術家気質に惹かれていたが、沼田が薬をやっていたことは知らなかったし、まさかそこまで箍【たが】が外れるとは思いもしなかった。君の家が被った迷惑について、藤江は沼田に代わって七海ちゃんに謝ったらしい。むろんあいつに罪はなかったが、そうして交流を持つうちに二人の仲は急速に深まっていったのさ。俺が七海ちゃんを紹介されたのはそのころだ。平成九年……美大に入る前の年だ。受験勉強のさなかだったが、息抜きによくみんなで遊んだよ。藤江は必ず七海ちゃんを連れてきていた。彼女も女性としては長身だったろう。藤江とはお似合いだったね。
 ――それなのに、翌年、あんなことが起きてしまったんですね。
 自然と冷やかな調子になるのを自覚しながら新月はいった。それを敏感に感じとったふうに、白石光は探るようにこちらを見た。そうして短い沈黙を挟んでふっと視線をそらすと、
 ――藤江がやったんじゃないぜ。
 といった。
 ――それならそれでけっこうな話じゃありませんか。事件のこと、聞かせていただけますか。
 再度願いでたところへ、白石光が頼んでいたらしい自家製ピッツァが焼き上がってきた。おそらくそれが夕飯になるのだろう、前かがみになって齧りつきながら、口調だけは鬱々として、彼はぽつりぽつりと語りはじめた。



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