以下に、頂戴いたしましたコメントを御紹介いたします(収録順)。
■「皆勤の徒」
・どの作品もとても好きなのですが、初読時の衝撃がもっとも強かったタイトル作に一票を投じさせていただきます。一社会人として働いている自分の中に、澱のように溜まっている言葉にならない不満や憤怒が、見たこともない物体の形をとってあらわれていて、それが「懐かしい」という感覚でフィードバックされました。私はこの世界をなんだか知っているぞ?というような。衝撃、としかいいようがありませんでした。(37歳・女性)
・ファースト・インプレッションの強さでこの作品に一票を投じる。「製臓物/製造物」のように、日常的な言葉と、その地口である異形語(?)とのイメージの落差に頭がクラクラすると同時に、妙なユーモアを感じて笑ってしまう。しまいには、実在の熟語すら、造語かと疑ってかかる始末。異化効果絶大の酉島ウイルスに感染したとでもいおうか。(53歳・男性)
・グロテスクな世界が淡々と描写されているが、時々ふっと面白味を感じる文章が表れるので、収録作中で一番すっきりと読めた。(23歳・男性)
・最初に出会ったこの作品が一番好きです。不条理な幻想小説、グロテスクのためのグロテスクと思えたものが(それだけでも十分に素晴らしいのですが)、読むうちにその背後に緻密で深淵な世界があることがわかる驚きと快感が忘れられません。言葉遊びの愉しみがあり、社長のユーモラスな魅力があり、ものづくり小説としての面白さもあり、と、豊穣であることはもちろんほかの三作も一緒なのですが、個人的な愛着はこの作品が一番です。「書き出しはどの一日からでもかまわない。」という導入も大好きです。(42歳・男性)
・ぬめぬめした世界描写が圧倒的でした。ここまでの異世界の体感は他に塁を見ないというか、『ドグラマグラ』や『家畜人ヤプー』を超える奇書かもしれませんね。(52歳・男性)
■「洞(うつお)の街」
・イメージ喚起力では一番だと思う「皆勤の徒」とギリギリまで迷いましたが、あの異様な世界の青春学園物から始まって世界と自分の秘密の一端が示される終盤まで、目が離せない展開に引っ張られて一気に読んでしまい「くっ、これはあざとい…」と思ってしまったこの作品を一番に。(43歳・男性)
・悩みに悩んで、やはり「天降り」の壮大なイメージをとりました。(43歳・男性)
・「教室」という、知らぬ者の無いありふれたシチュエーションによって読者の想像の枠をまず確立し、そこから舞台を動かしつつ、めくるめく語彙によって脳内のイメージを次々と歪めていく過程に震える。教室を出る頃には、いつの間にか読み手はすんなりと異界の街に立たされる。「想像力の浸食」という伝法氏の手腕が最も強く発揮された作品ではないか。切なく苦しく、愛おしい。(40歳・男性)
・ただただ青春のまっしぐらを感じさせる作品。人物の外観につい囚われてしまうけれども、その奥にあるものを見据えて読むべきなんですよね?(55歳・女性)
・気持ち悪さがいちばんさえてた!(18歳・女性)
■「泥海(なずみ)の浮き城」
・酉島伝法風、遠未来異形世界における、まさかの私立探偵物は、ふたつの意味で好きな作品です。ひとつは舞台設定。海上に浮遊している謎めいた城に生活している人々という舞台そのものが非常に面白く、伴侶を得たはずにも関わらず焔硝成分が増えていくという不可解な謎は魅力的です。世界の秘密を解き明かそうとする様子は、SF的でもありますし、ミステリでもあるなと感じました。そして、もうひとつは、もちろんキャラクタ。生物固有の能力でステルスを張ることができる主人公の、ちょっと卑屈で、かなり弱気な性格が、まさに私立探偵のそれで、読んでいて何度も応援したくなりました。(29歳)
・ポストヒューマンSFの根底にあるのは世代間の抗争だと、この作品集を読んで思う。正直、どれも重い話である。ここで描かれるのは望まれない誕生、生き延びるために子供を犠牲にする親、代償の大きすぎる再生。こうした死のイメージが、表面的などろどろぐちゃぐちゃより、よっぽど作品を暗いものにしている。本作も例外ではないが、死者に対する深い哀悼の念が作品を暖かくしている。これは昆虫探偵ラドウの逃避と悲嘆、探求と救済の物語だ。ディテクティブ・ストーリーとしても、エキゾチックな城下町(どちらかというと江戸の町並みを連想した)の描写も、驚愕の結末も、どれもSFならではの喜びと感動を満喫させてくれる。(49歳・男性)
・「皆勤の徒」、「洞の街」がイメージつけづらく難渋しましたが、典型的なハードボイルド探偵小説スタイルの今作で、やっと作品世界の楽しみ方が伝わってきた感じがしました。お城好き、昆虫好きにとっても応えられない描写がたくさん。蒸し風呂ならぬ虫風呂には入ってみたいし、仔虫たちがかわいい。主人公の南無絡操愛好が違う形で落ち着くラストにも感嘆。(41歳・男性)
・「泥海の浮き城」のキャラクター名には、どれもカタカナが紙面から飛び出してくるような響きの心地よさがあって、それを楽しむために何度も読み返したくなります。(42歳・男性)
■「百々似(ももんじ)隊商」
・どの作品も大好きなのですが、「百々似隊商」は作品世界の構造がダイナミックに明かされ、他の作品より一段メタなスケールで描かれているので選びました。もふもふの百々似が好きで好きでたまりません。あまりに好きすぎて百々似絵文字を作ってしまいました。( ∴)( ∴)( ∴)( ∴)( ∴)( ∴)( ∴)( ∴)( ∴)( ∴)( ∴)( ∴)( ∴)( ∴)(∴ )(∴ )(∴ )(∴ )(∴ )(∴ )(∴ )(∴ )(∴ )(∴ )(∴ )(∴ )(∴ )(∴ )( ∴)( ∴)( ∴)( ∴)( ∴)( ∴)( ∴)( ∴)( ∴)( ∴)( ∴)( ∴)( ∴)( ∴)(女性)
・作品自体が明るく面白くハッピーエンドに見えるが、この作品の未来が、「皆勤の徒」の世界だと考えると、その間にあった?界[せかい]の変化に想像が働き面白い。(21歳・男性)
・世界観はもちろん百々似のという存在も素晴らしいです。あと未来の世界で食べているものが気がつかないうちに変わっていく描写がすごく好きです。読み耽っていたせいで電車乗り過ごしました。(女性)
・過酷な環境のなかを往くももんじたちがけなげで可愛い。登場人物はしばしば身体の一部を失っている・失うが、くよくよしている場合じゃないといわんばかり諦めの良さが、差し迫った状況を生々しく伝えてきます。(女性)
・やはりモフモフの百々似と、健気なうまりちゃんの魅力がたまらなかったです。あと、キャラバンの描写が好きです。(26歳・女性)
・練り上げられた文章が、これだけの長さ、テンションを切らすことなくつづいていく。ただもう圧倒されたのでした。(34歳・男性)
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SF小説の専門出版社|東京創元社