拡張幻想
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 去る2012年7月14日(土)19時より、ベルサール飯田橋駅前において第3回創元SF短編賞贈呈式、および年刊日本SF傑作選『拡張幻想』刊行記念トークイベントが行なわれました。そのレポートをお送りします。(以下、一部敬称略)


 最初に、創元SF短編賞の贈呈式。「〈すべての夢|果てる地で〉」で正賞を受賞された理山貞二さん、「プロメテウスの晩餐」で優秀賞を受賞されたオキシタケヒコさんの両氏に、小社社長・長谷川晋一より賞状が手渡されました。正賞受賞者である理山さんには、記念品の懐中時計も贈呈されました。

 受賞者あいさつののち、トークショーへ。まずは大森望さん、日下三蔵さん、飛浩隆さんの三氏と、編集部の小浜徹也が壇上にのぼり、大森さんと日下さんが編者を務める《年刊SF傑作選》編集の裏話について語ります。

年刊SF傑作選
飛さん、日下さん、大森さん

大森「ことしも編者ふたりのチョイスはみごとにバラバラでした。これまでの経験で、おたがいに議論は成り立たないとわかっているので、もう好きなように選んでいます(笑)」
日下「意見が一致した作品も数点ありますが、扉裏の解説をどちらが書いたかで、誰が選んだのかはだいたいわかります」
小浜「日下さんは、電子書籍の収録作品を検討しようとして、ちょっとこまったことが」
日下「そう。自宅のパソコンのOSがWindows2000なので、うちでは読めなかったんです。けっきょく、東京創元社まで出かけていって、パソコンを借りて読みました」

宮内さん
宮内さん
 このあと、会場に来ていた宮内悠介さんも登壇。宮内さんは『盤上の夜』が候補となった直木賞の発表(17日)を直前にひかえていましたが、リラックスした様子で冗談まじりに心境などを語ってくれました。

 そしていよいよ、第3回創元短編賞の話に。まずは受賞者である理山さんとオキシさんが登壇されました。

小浜「理山さんはお勤めされているとのことで、はっきりした顔写真の公開はご遠慮くださいね」
理山「(応募のきっかけは?)むかしハヤカワ・SFコンテストに応募していたんですが、コンテストが休止になってからは忙しかったのもあって、2007年までずっと書くのをやめていました。あるとき、年刊日本SF傑作選を読んで創元SF短編賞の存在を知って、書いてみようかなと。これまでの受賞作を読んで、とても自由な賞だと思っていました」
飛「ネットを見ていると、理山さんの作品に関してはSF愛の部分にフォーカスした感想が多いようですね。それはそれでいいんですが、エリックという登場人物と、彼を出す意味に注目して読むと、それだけじゃないことがわかると思う。たとえば、伊藤計劃氏のデビュー作『虐殺器官』について、最初のころは「言語SF」とか「先端ミリタリーSF」といった形容をするひともいましたけど、今はそんなことを言うひとはいないですよね。そういう感じで考えていただければ」
理山「受賞したあと、山岸真さん(翻訳家)に教えていただいて樺山三英さんの『ゴースト・オブ・ユートピア』を読みましたが、かなわないと思いました。もっとうまくならないと。
 SFネタについては、三人組がアリス・ボブ・クララじゃあつまらないだろうと思って、せっかくだから入れました。20年来SFを読んできたひとに、仲間だと思ってほしかったという気持ちもありましたし」
小浜「作品を書こうと思ったきっかけのひとつに、小松左京さんの存在があるんですよね」
理山「小松さんの『果しなき流れの果に』は、自分にとってのオールタイムベストです。受賞作については、笑ってもらって、ちょっとでも小松さんのことを思い出してもらえれば」
大森「選考会ではネタバレになるから言えなかったけど、今年の年刊日本SF傑作選のラストを飾るにふさわしい作品だと思って推しました」

受賞者トーク中
受賞者トーク中

飛「オキシさんは受賞後の改稿で、「プロメテウスの晩餐」の構成をがらっと変えようとしていると聞きまして、「なんと無謀な!」と思いました。でも、やっぱり無理で元に戻した、と聞いて「案の定だ」と(笑)。
 この作品の前半、ものすごく効率のいい話運びなんですよ。読者には一見わからないでしょうが、切り取り線が入っているような見事な構成で。するする読めます」
オキシ「本業のゲームづくりでも、ステージ構成を考えるのは重要ですから。文章には自信がないんですが、そこが自分の強みかもしれません。
 今回は結末からぜんぶ逆算して組み立てましたが、とても難しかった。3年前に当時勤めていた会社を辞めたころ思いついたのですが、もともとは長編の一部にするつもりでした。そこから登場人物を削って、「このシチュエーションにどう着地させるか」だけを考えました。料理ってすばらしい、ということを書きたかった。
(その長編の内容は?)目玉焼きから宇宙進出までの人類の進歩を、すべて料理でつなぐという話に……」
小浜「じゃあ書いてみる?(笑)」

 最後に、次作の話。

理山「受賞作を連作にします。あの世界はじつはぜんぜん救われていなくて、ほったらかしですから。狂言回しとして登場した人物を使って書きます。
 量子力学はまだまだ数式が文章におりてきていない部分が多いので、そこをやってみたいですね」
オキシ「いろいろ考えていて、2~3本こねくり回してるんですが、ぜんぶ不気味な話になってしまって……」
小浜「不気味担当は大阪に多いなあ(笑)」

 ここで会場に来ていた、渡邊利道さん(「エヌ氏」で飛浩隆賞)と舟里映さん(「頭山」で日下三蔵賞)にゲストを交代。

舟里さん、渡邊さん
舟里さん、渡邊さん

飛「渡邊さんの「エヌ氏」は、クラシックな建物の中でテッド・チャンの「理解」みたいな超能力者の戦いが行なわれる。でも理屈はあまり出てこなくて、纏綿と書かれている、その文章がすばらしい」
大森「完成度が高い。計算されている。正賞・優秀賞を逃したのは、新人賞としてのインパクトという面で」
日下「インパクトならありますよ。中盤の湖のシーンではびっくりしました」
渡邊「スタニスワフ・レムの「エフ氏」という短編を読んで、これを「エヌ氏」にしたらどう書けるか、ラスト1行にどう持っていくかを考えて書きました。
 投稿歴はこれまで15年くらい、ずっと純文学系の賞へ。最初に一度いいところまでいったんですが、その後はずっと落ちつづけていました。そのうち、読んだ本の感想を自分のサイトに書いていたら、友人から評論を書いてみろと薦められて」
小浜「そう、渡邊さんはことしの(第7回)日本SF評論賞の優秀賞受賞者なんですよ。『原色の想像力2』に載った忍澤勉さん(同賞で選考委員特別賞を受賞)とおなじ」
渡邊「そのあと、じゃあ小説のほうも書いてみようと思いまして。応募作は年末に思いついて、3日で書きました。
 評論で書いていたことが、こうして書いた小説の中にもあるというのが、自分にとっての発見でした」

 つづいて舟里さん。
舟里「応募作の「頭山」は2年ほど前、2ヶ月くらいで書いたもの。以前はひとりで書いたり、掲示板サイトのようなところで公開したりしていました。でも、ひとりで書いていても自分がどのくらいのレベルなのかわからなくて。
(応募のきっかけは?)当時、仕事に区切りがついて暇になったんですね。そうしたら、自分のサイトにアップしていた「頭山」を読んでおもしろがってくれた友人から、応募してみたら、と薦められて」
小浜「じゃあ、「頭山」が初めての応募作品?」
日下「いま聞いてびっくりしました。1本目であれだけ書けるなら、練習すればもっとうまくなるんじゃないかな」
大森「舟里さんはいちばん一般誌から声のかかりそうな作風ですね。幅が広そうで。でも、仕事はやめないでね(笑)」

 このあと、来場されていた第3回最終候補者のみなさんや、《原色の想像力》シリーズ執筆陣のかたがたにコメントをいただいたり、今後の活動予定を伺うなど。
会場の様子
会場の様子

 最後に、各選考委員からコメントをいただいて閉会となりました。
飛「ゲスト選考委員として最終候補作を読ませていただきましたが、バラエティにも富んでいてよかった。選考させていただいてありがとう、という気持ちです」
日下「今回も最終候補作はおもしろい作品が集まっています。『原色の想像力3』が出たら読んでくださいね」
大森「予算をあまりかけていない賞ですが、費用対効果は最高なんじゃないでしょうか(笑)」

 その後、会場ちかくで2次会を行なってから解散。受賞者や最終候補者のかたがた、作家さんたちも交じって熱い議論を遅くまで戦わせるなど、みなさん楽しんでおられました。



 第3回創元SF短編賞受賞作、理山貞二「〈すべての夢|果てる地で〉」および選評は『拡張幻想 年刊日本SF傑作選』に収録されています。最終候補作からの秀作選アンソロジー『原色の想像力3(仮)』は年内刊行予定です。

 なお、第1回創元SF短編賞受賞者である松崎有理さんによる、第3回受賞者インタビューもあわせてどうぞ(理山貞二さん編オキシタケヒコさん編)。

 次回、ゲスト選考委員に円城塔さんを迎えた第4回創元SF短編賞は、2013年1月15日が応募締切。みなさまのご応募をお待ちしております。
(2012年8月6日)




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