みなさんこんにちは。ついに、ネレ・ノイハウス『深い疵』の刊行が近づいてまいりました。初めて本書の原稿を読んでからはや……何か月? ずっとずっと、このミステリの面白さを伝えたくてしかたがなかったのです!
ネレ・ノイハウスは2009年にドイツで衝撃的なデビューを果たしました。彼女の代表シリーズである〈刑事オリヴァー&ピア・シリーズ〉は現在5作刊行され、累計で200万部を突破する大ベストセラーになりました。現在では「ドイツミステリの女王」とまで呼ばれる大人気作家です。
彼女は1967年ミュンスター生まれ。大学で法学とドイツ文学を学び、その後ソーセージ工場を営む夫を手伝い、店員をしていました。そして余技として小説を執筆しはじめます。最初は2005年に初めてのミステリ作品を自費出版し、さまざまな出版社に持ち込みましたが、どこも出版を引き受けてくれませんでした。しかし、2006年に〈刑事オリヴァー&ピア・シリーズ〉第1作目を刊行し、転機が訪れます。
本シリーズはドイツ中西部に位置するタウヌスという土地を舞台にしています。古城や温泉も多い風光明媚な土地でありながら、フランクフルトとヴィースバーデンという大都会にも近く、さまざまな人と物が行き来する魅力的なところです。はじめに、地元を舞台にしたミステリに熱中したタウヌス地方の読者が、続編はないかと本屋に問い合わせるようになりました。そこで、それまで自分のソーセージ店で自費出版した作品を販売していたノイハウスは、毎日、地域の肉屋に製品を配達するドライバーに頼んで近隣の本屋に作品を置いてくれるように交渉してもらうことにしました。その試みは成功し、なんと2007年のクリスマスには、地元の本屋で販売部数があのハリー・ポッター・シリーズを抜いてしまったとか! そして、この書店をたまたま訪ねたドイツ・ミステリの老舗出版社ウルシュタイン社の営業マンがこのシリーズに注目し、デビューが決まったのです。まさにシンデレラ・ストーリー!
『深い疵』は、シリーズ3作目に当たります。本来なら第1作から紹介すべきところだと思いますが、まずはノイハウスの真価がわかる本書から紹介したいと思いまして。この作品、とにかく著者によるミスリードがすごいのです!
物語はアメリカで大統領顧問までつとめた著名なユダヤ人の老人、ゴルトベルクについての描写から幕を開けます。「ゴルトベルクは自分の意志でドイツを去ったわけではなかった。一九四五年、あのときは命あっての物種だった。故郷を失った身には、それが最善の策だった」ナチ時代のユダヤ人迫害を知っていれば、なんら不思議な文章ではないとお思いでしょう。しかし、それはすでに著者が仕掛けた罠にはまってしまっています。なぜなら1945年は強制収容所が解放されて、ユダヤ人は連合軍によって救われた年だからです。ではなぜ「ユダヤ人」のゴルトベルクは、ドイツを去らなくてはならなかったのでしょうか。
このプロローグののち、ゴルトベルクは拳銃で後頭部を撃ち抜かれ、死亡します。そして司法解剖の結果、遺体の特殊な刺青から、ナチスの武装親衛隊員だったという驚愕の事実が明らかになります。そう、彼は60年もの間、過去を隠しユダヤ人として生きてきたのです。それが、さりげない一文に示されています。
そして同様の手口で次々と殺されていくひとびと。彼らの過去を知り、犯行へと至ったのは何者なのか。事件はどんどん錯綜し、さまざまな箇所に伏線が張られ、著者の巧妙な記述が読者をあざむきます。編集作業中は何度も何度も原稿を読み返しますが、そのたびに「ここも伏線だったんだ!」と新たな発見がありました。著者の見事な筆さばきに唸るしかありません。最後まで読んだとき、今まで読んできたものにまったく違う意味があったのだと驚かされると思います。
ミステリとしての出来の良さに加え、警察小説としての面白さもたっぷりあります。貴族出身で鷹揚なオリヴァーと、恋愛も仕事も頑張るキャリアウーマン的女性刑事のピア。警察という組織でさまざまな困難に直面しながら、真相を突き止めようとするふたりの活躍をどうぞお見逃しなく!
ミステリを読む醍醐味をしっかりと味わわせてくれる傑作、『深い疵』は6月21日ごろ発売です!
ホロコーストを生き残り、アメリカ大統領顧問をつとめた著名なユダヤ人が射殺された。凶器は第二次大戦期の拳銃で、現場には「16145」の数字が残されていた。司法解剖の結果、被害者がナチスの武装親衛隊員だったという驚愕の事実が判明する。そして第二、第三の殺人が発生。被害者の過去を探り、犯行に及んだのは何者なのか。複雑な構成&誰もが嘘をついている&著者が仕掛けたミスリードの罠。ドイツでシリーズ累計200万部突破、破格の警察小説!
【2009年3月以前の「本の話題」はこちらからご覧ください】
本格ミステリの専門出版社|東京創元社
ネレ・ノイハウスは2009年にドイツで衝撃的なデビューを果たしました。彼女の代表シリーズである〈刑事オリヴァー&ピア・シリーズ〉は現在5作刊行され、累計で200万部を突破する大ベストセラーになりました。現在では「ドイツミステリの女王」とまで呼ばれる大人気作家です。
彼女は1967年ミュンスター生まれ。大学で法学とドイツ文学を学び、その後ソーセージ工場を営む夫を手伝い、店員をしていました。そして余技として小説を執筆しはじめます。最初は2005年に初めてのミステリ作品を自費出版し、さまざまな出版社に持ち込みましたが、どこも出版を引き受けてくれませんでした。しかし、2006年に〈刑事オリヴァー&ピア・シリーズ〉第1作目を刊行し、転機が訪れます。
本シリーズはドイツ中西部に位置するタウヌスという土地を舞台にしています。古城や温泉も多い風光明媚な土地でありながら、フランクフルトとヴィースバーデンという大都会にも近く、さまざまな人と物が行き来する魅力的なところです。はじめに、地元を舞台にしたミステリに熱中したタウヌス地方の読者が、続編はないかと本屋に問い合わせるようになりました。そこで、それまで自分のソーセージ店で自費出版した作品を販売していたノイハウスは、毎日、地域の肉屋に製品を配達するドライバーに頼んで近隣の本屋に作品を置いてくれるように交渉してもらうことにしました。その試みは成功し、なんと2007年のクリスマスには、地元の本屋で販売部数があのハリー・ポッター・シリーズを抜いてしまったとか! そして、この書店をたまたま訪ねたドイツ・ミステリの老舗出版社ウルシュタイン社の営業マンがこのシリーズに注目し、デビューが決まったのです。まさにシンデレラ・ストーリー!
『深い疵』は、シリーズ3作目に当たります。本来なら第1作から紹介すべきところだと思いますが、まずはノイハウスの真価がわかる本書から紹介したいと思いまして。この作品、とにかく著者によるミスリードがすごいのです!
物語はアメリカで大統領顧問までつとめた著名なユダヤ人の老人、ゴルトベルクについての描写から幕を開けます。「ゴルトベルクは自分の意志でドイツを去ったわけではなかった。一九四五年、あのときは命あっての物種だった。故郷を失った身には、それが最善の策だった」ナチ時代のユダヤ人迫害を知っていれば、なんら不思議な文章ではないとお思いでしょう。しかし、それはすでに著者が仕掛けた罠にはまってしまっています。なぜなら1945年は強制収容所が解放されて、ユダヤ人は連合軍によって救われた年だからです。ではなぜ「ユダヤ人」のゴルトベルクは、ドイツを去らなくてはならなかったのでしょうか。
このプロローグののち、ゴルトベルクは拳銃で後頭部を撃ち抜かれ、死亡します。そして司法解剖の結果、遺体の特殊な刺青から、ナチスの武装親衛隊員だったという驚愕の事実が明らかになります。そう、彼は60年もの間、過去を隠しユダヤ人として生きてきたのです。それが、さりげない一文に示されています。
そして同様の手口で次々と殺されていくひとびと。彼らの過去を知り、犯行へと至ったのは何者なのか。事件はどんどん錯綜し、さまざまな箇所に伏線が張られ、著者の巧妙な記述が読者をあざむきます。編集作業中は何度も何度も原稿を読み返しますが、そのたびに「ここも伏線だったんだ!」と新たな発見がありました。著者の見事な筆さばきに唸るしかありません。最後まで読んだとき、今まで読んできたものにまったく違う意味があったのだと驚かされると思います。
ミステリとしての出来の良さに加え、警察小説としての面白さもたっぷりあります。貴族出身で鷹揚なオリヴァーと、恋愛も仕事も頑張るキャリアウーマン的女性刑事のピア。警察という組織でさまざまな困難に直面しながら、真相を突き止めようとするふたりの活躍をどうぞお見逃しなく!
ミステリを読む醍醐味をしっかりと味わわせてくれる傑作、『深い疵』は6月21日ごろ発売です!
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ホロコーストを生き残り、アメリカ大統領顧問をつとめた著名なユダヤ人が射殺された。凶器は第二次大戦期の拳銃で、現場には「16145」の数字が残されていた。司法解剖の結果、被害者がナチスの武装親衛隊員だったという驚愕の事実が判明する。そして第二、第三の殺人が発生。被害者の過去を探り、犯行に及んだのは何者なのか。複雑な構成&誰もが嘘をついている&著者が仕掛けたミスリードの罠。ドイツでシリーズ累計200万部突破、破格の警察小説!
(2012年6月5日)
【2009年3月以前の「本の話題」はこちらからご覧ください】
本格ミステリの専門出版社|東京創元社