2012年3月21日から5月末日にかけて本ウェブマガジン上で実施しました、宮内悠介『盤上の夜』(創元日本SF叢書)収録作品の人気投票の結果を発表します。
投票をいただいた方のなかから抽選の結果、1名様に著者・宮内さんより「粗品」を進呈いたします(当選通知メールはすでにお送りいたしました)。
ちなみに抽選は、宮内さんみずからディックにならって易で(!)行なわれました。(コインを用いた擬似中筮法。具体的な方法については『高い城の男』をご参照ください。)
以下に、個別に頂戴しましたコメントを抜粋して御紹介いたします(収録順)。
■「盤上の夜」
■「人間の王」
■「清められた卓」
■「象を飛ばした王子」
■「千年の虚空」
■「原爆の局」
SF小説の専門出版社|東京創元社
*第1位「清められた卓」
投票をいただいた方のなかから抽選の結果、1名様に著者・宮内さんより「粗品」を進呈いたします(当選通知メールはすでにお送りいたしました)。
ちなみに抽選は、宮内さんみずからディックにならって易で(!)行なわれました。(コインを用いた擬似中筮法。具体的な方法については『高い城の男』をご参照ください。)
以下に、個別に頂戴しましたコメントを抜粋して御紹介いたします(収録順)。
■「盤上の夜」
- 常人には見ることのできない神の領域を、まさに体感しているような生き生きとした文章で書かれてあって、囲碁のルールなど全く知らないのに読んでいてとても緊張した。それと、囲碁という共通言語を通して強い絆でむすばれている由宇と相田の関係がすき。(26歳・女性)
- 発売されてからすぐに投票しようと考えていたのですが、どれも甲乙つけ難く直前の投票となりました。 中でも読み返してやはり余韻が素晴らしい表題作に一票。映像化・漫画化しても描けないのはもちろんの事、時間が経てばたつほどタイトルが秀逸に思えてきます。英文タイトルがまたどれもセンスの良さを感じます。(39歳・男性)
- 語られる「灰原由宇」の凄味と、人間「灰原由宇」の儚さ脆さ、そして、彼女との関係の中で後者を見失っていった相田の姿がこれ程までに美しく描き出されているのは、文体の精緻さに加え、ジャーナリストという語り手の視座によるものだと思う。脇を固める人物達も、最小限のエピソードの中で鮮やかに個性が描き出されている。
『春琴抄』を下敷きにした三者の関係が、碁盤と身体感覚の接合、言語による知覚の増殖といった要素と絡まることにより、谷崎よりもなお高い抽象の頂へと物語を押し上げている。(27歳・男性)
■「人間の王」
- モデルとなった人物の存在を知っているので非常に興味深く楽しく読めた。他のゲームに比べコンピューターが圧倒するのが早いチェッカー。他のゲームも同じ運命に向かうだろう。同じ方向に行くのかそれとも別の方向に行くのか、過渡期にあるので楽しみ。(36歳・男性)
- 計算的な思考による抽象的な思考能力が、どうしても機械に負ける、というその敗北感の問題を扱っていて、好きでした。根底にある、抽象と無限へ憧れながら絶望的に疎外されてしまう「人間」を描くというセンスが類稀だと思います。(28歳・男性)
- ボードゲームという小世界と、今、現実に世界を変容しつつあるコンピューターとを同列に並べることで、知性とは、歴史とは、アルゴリズムとは、それらの本質を読者に開いて見せてくれる。その凄さに圧倒された。(43歳・男性)
■「清められた卓」
- 「清められた卓」の「この世には、人の心や感情といった物があるらしい。ぼく以外の人間はそれを貨幣のように交わしあい、そうやって生きているのだ」や「その方が人間らしいと思ったからです」といった描写が本当に好きでして。(34歳・男性)
- 最初の話が最後に回帰して、連作が一気にまとまるスタイルが素敵でした。盤上遊戯を、世界を抽象の高みで捉えるプラトン的な全体性の欲望の表象として描いているのが、いかにも「山田正紀賞」に相応しいと思いました。でもベストは遊戯の「勝負性」にきちんと答えを出し、さらにはSFミステリ的趣向で見事にラストを決めてくれた「清められた卓」を選ばさせていただきました。(42歳・男性)
- 収録作の中では「清められた卓」が、対局中の人間模様の面白さで抜きん出ているように思います。SF的な落ちはムリヤリ感がないわけではなく、むしろそれだったら「盤上の夜」に軍配を上げたいのですが、本作の魅力はそこではなく、対局中の駆け引きや異様な打牌による対局者の動揺の巧みな描写、それに打牌を裏付ける古今の麻雀理論の使い方なのでしょう。きちんと過去の理論を参照しながら高いテンションで対局を描ききったこの作品が、一番好きです。(28歳・男性)
■「象を飛ばした王子」
- 世の中に父と子の対立を描く作品は多いですが、まさかブッダが登場するとは……。ラーフラとシッダールタの対峙には息を呑むような迫力がありました。直接ぶつかっているのに、目の前で対峙しているのに、すれ違ってしまう、そんな印象を受けました。もっと成長したラーフラとシッダールタの会話も、これからお書きになる長編で、形を変えて表現されることを期待しています。勝手な思い込みですが、「父と子」というテーマは、宮内さんの重要なテーマのひとつだと思っているので。(40歳・男性)
- 飛ばないはずの象が、実際には飛んでいない象が、伝わるはずのない人に象が飛ぶことが伝わっていくこのお話がとても好きです。(年齢記載なし・女性)
■「千年の虚空」
- これよんだとき、すなおに著者を尊敬しました。主要登場人物たちの設定と内面描写と、からみあいつつ収束するプロットと、そして量子歴史学という大ネタをさらりとつかっているところ。いやそのもちろんオマージュ先というかインスパイア元はなんとなくわかるのですが、そちらにくらべてけっして見劣りしない、いやりっぱなオリジナリティを確立しているとかんじました。それにしてもよいアイデアですねえ量子歴史学。ぜひまたこれで一本かいてください。(29歳・男性)
- 他の作品は完成品だが、これだけはまだ未完成に思えた。長編化して全貌を明らかにしてほしい。(36歳・男性)
■「原爆の局」
- 単純に凄いか凄くないかで言えば「盤上の夜」と「原爆の局」。(34歳・男性)
- すべての作品に関していえることだが、ゲームの論理の果てに「べつの世界」を立ちあがらせようという心意気がすばらしい。語りと構成に工夫を凝らし、長くなる話をコンパクトにまとめる技術も一級だと思う。(中略)収録作は粒ぞろいだが、あえて「千年の虚空」を1位に推したのは、文芸に必要な毒がいちばん強かったから。僅差でつづくのが「盤上の夜」と「原爆の局」か。(51歳・男性)
(2012年6月5日)
【2009年3月以前の「本の話題」はこちらからご覧ください】
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