大森 望
 創元SF短編賞の最終候補作から選りすぐった短編群に、同賞受賞者の書き下ろし新作短篇を加えたオール新作アンソロジーの第2弾、『原色の想像力2』をお届けする。
 いや、お届けするといっても、編者(たち)はほとんどなにもしてなくて、創元SF短編賞に応募されてきた約600編の短編を読み、これがいいとかあれはダメだとか言ってただけですが(巻末の選考座談会参照)、出版不況のこのご時世に、ほとんど勤労奉仕のようなこの企画に情熱を注ぐ編集者がいてくれたおかげで、第2回もこうしてなんとか本のかたちにまとまることとなりました。
 前巻にあたる『原色の想像力』は、新人9人のデビュー短編(+第1回創元SF短編賞受賞者の書き下ろし新作)を集めるという、日本SF史上初の試みだったわけですが、思った以上に評判がよく、早川書房『SFが読みたい! 2012年版』の「ベストSF2011」投票でも、4人の投票者が日本SFの年間ベスト5に選出しているほど。企画としてのもの珍しさがプラスに作用した面はあるにしろ、新人たちの作品が一定の水準をクリアしていたのはまちがいない。
 第1回創元SF短編賞からデビューした10人の新人のうち、正賞受賞者の松崎有理はすでに連作短篇集『あがり』を刊行。山田正紀賞に輝く宮内悠介も本書とほぼ同時に初単行本となる連作集『盤上の夜』を上梓するし、佳作の高山羽根子も〈ミステリーズ!〉『NOVA』に新作を寄稿している。永山驢馬「時計じかけの天使」が、フジテレビ「土曜プレミアム『世にも奇妙な物語』2011年 秋の特別編」で映像化されるという思いがけない出来事もありました(テレビ版タイトル「いじめられっこ」。主演は志田未来と大後寿々花)。『原色の想像力』を名刺代わりに、あちこちで活躍してくれたら――という無茶な期待は、この1年で、ある程度までかなえられつつある。短編小説の新人賞としては上々の滑り出しじゃないでしょうか。
 それにつづいて、第2回創元SF短編賞の最終候補作から本書に選ばれたのは、佳作の空木春宵「繭の見る夢」と、選考委員特別賞にあたる3賞の受賞作、片瀬二郎「花と少年」(大森望賞)、志保龍彦「Kudanの瞳」(日下三蔵賞)、忍澤勉「ものみな憩える」(堀晃賞)と、オキシタケヒコ「What We Want」、わかつきひかる「ニートな彼とキュートな彼女」、亘星恵風「プラナリアン」の7編。これに第2回創元SF短編賞を「皆勤の徒」で受賞した酉島伝法の受賞後第1作「洞(うつお)の街」を加えた全8編が収録されている。
 片瀬二郎とわかつきひかるはすでに著書があり、亘星恵風は『原色の想像力』にも「ママはユビキタス」が収録されているので、本書で商業媒体デビューを飾る新人作家は、空木春宵、志保龍彦、忍澤勉、オキシタケヒコの4人。作品の中身は、平安朝怪異譚(風に始まる本格SF)から、大阪弁のおばちゃんが活躍するスペースオペラまで、今回も8人8様。懐かしいアイデアSFもあれば、ぶっとんだ幻想SFもあり、幅広く楽しんでいただけるのではないかと思う。この賞およびアンソロジー・シリーズを末永くつづけてゆくためにも、何卒よろしくお引き立てのほどを。

 日下三蔵
 前巻『原色の想像力』は新人賞の最終候補作をまとめるという国産SFとしては初めての形のアンソロジーでした。まずはこんな「ほぼ全作が未知の新人による短篇集」などというものを、面白がって買ってくださったすべての皆さまにお礼を申しあげます。おかげさまで第2集を出すことができました。
 今年も600篇近い応募作の中から絞り込んだものなので、とにかくバラエティに富んでいることは保証します。今回は既にプロとして活躍されている方の作品も混じってはいますが、大半はアマチュアの作とあって、細かい部分のテクニックは拙いものが多い。しかし前巻を読んでいただいた方ならお分かりのように、それを補ってあまりあるアイデアと情熱が、ここにはあります。
 ミステリの方では創元推理短編賞の候補作を集めた『推理短編六佳撰』(95年/北村薫・宮部みゆき編/創元推理文庫)という前例がありました。というか、このアンソロジーの成功があったからこそ、「ではSFでも」ということで『原色の想像力』の企画が生まれたわけです。遡れば往年の探偵小説専門誌〈宝石〉は新人賞の最終候補作を分厚い別冊として発行していましたし、鮎川哲也氏の選による公募アンソロジー『本格推理』(93~09年/光文社文庫)なども本書と相通じるところのある企画でした。
 いま見ると〈宝石〉の新人賞特集号には、土屋隆夫、日影丈吉、笹沢左保らの第一作が載っているし、『本格推理』シリーズからは、北森鴻、田中啓文、東川篤哉、三津田信三といった錚々たる面々が登場しています。
 創元SF短編賞は、まだ始まったばかりの小さな賞ですが、5年後、10年後にふとこのアンソロジーを開いたときに、おっ、この人もこの賞の出身だったのか、と思ってもらえるような賞に育っていることを願っています。貴方もぜひ本書で新たな才能の息吹を感じてください。

 堀晃
 小説のコンテストの選評を読むと、受賞作以外の候補作も読んでみたくなる。評価の分かれた作品や貶されている作品ほど面白そうである。こんな時、プロバビリティという言葉を思い出す。蓋然世界とか可能性未来ともいう。たとえばブライアン・オールディス『世界Aの報告書』Report on Probability A のタイトルがそれだ。受賞作に並行して、 豊かなプロバビリティが広がっている気がしてならない。
 十数年前、ネット上で募集された短編がすべて公開されたコンテストがある。アサヒネットが主催した「パスカル短編文学新人賞」(筒井康隆氏が選考委員長)である。これは大変面白く、ぼくは最初は読者の立場で、あと2回は選考委員の立場で、全作品にコメントした。応募作の中には、長嶋有氏や上田早夕里氏の作品があった。第1回については秀作集が刊行された が、第2回以降は残念ながら立ち消えになった。これもプロバビリティのひとつである。(この時、ぼくは応募者に呼びかけてSF同人誌を立ち上げている)
 それだけに、一昨年末に出た『原色の想像力』は画期的だった。SFでは初めてのオール新人作家というのが新鮮で、すべてが洗練され完成された作品ではないにせよ、豊かな可能性を感じさせる才能が集まっていて、これは年間ベストのSFアンソロジーと思った。
 今回、ありがたくもゲスト選考委員としてお招きを受けた。さすがに全応募作にコメントはできなかったが、上位に残った候補作はいずれも刺激的だった。
 それらが『原色の想像力2』としてまとめられたのは喜ばしい。
 ここにはSFの未来を変える原石の輝きが満ちている。
(2012年3月)

 


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