名物はフォアグラ、トリュフ、胡桃(くるみ)。本書の舞台であるサンドニは、フランス南西部ドルドーニュ県の小さな村です。町といえる住宅地もあるものの、ほとんど緑ばかり、ぽつぽつと家が建っているようなのどかな土地で、村を揺るがすとんでもない大事件が発生します!
日本ではあまりなじみがありませんが、5月8日は「ヨーロッパ戦勝記念日」といって、第二次世界大戦で連合国がドイツを降伏させた、ヨーロッパの勝利を祝う日です。この記念日に壮麗なパレードが行われた翌日、村の外れに住むアラブ人の老人が死体となって発見されます。彼は腹部を裂かれ、胸にナチスの鉤十字を刻まれていました。この老人はふたつの戦争でフランスのために戦い、戦功十字章という勲章を授与された国家の英雄でした。そんな彼が、なぜ残虐に殺されてしまったのか。事件の背後にかくれている、複雑な事情とは……。
著者のマーティン・ウォーカーは、イギリスの有名な新聞「ガーディアン紙」に25年間勤めたベテランジャーナリストです。東西冷戦に関する歴史書や、「ペリゴールの洞窟」といったノンフィクションを刊行し、さらに初めてのフィクション作品である本書を上梓しました。何年も前から本書の舞台であるドルドーニュ県に家を持ち、テニス仲間には地元の警察署長もいるそうです。そのような経験を生かし、歴史に材を取った重厚なテーマを持つ警察ミステリを書き上げました。
シリアスな殺人事件の謎のほかに、美食の国フランスにおける、主人公の明るく楽しげな日常もたっぷり描かれています。
主人公のブルーノは、村でただひとりの警官にして警察署長。愛犬ジジと暮らす39歳で、仲間たちとテニスや料理を楽しみ、ときに庭づくりに精を出す優雅な独身生活を送っています。つねに村人たちのことを考え、村長ほか村の重鎮にも信頼の篤い、頼れる署長さんです。ふだんつちかっている地元の情報網を駆使して、就任以来初めての殺人事件の捜査に挑みます!
村人たちと挨拶のキスをかわし、子どもたちにテニスやラグビーを教える。そんな心優しく魅力的な署長さんの生き生きとした日常が描かれており、さらにおいしそうなお料理シーンもたっぷり。例えば友人たちとのランチのときに、ブルーノが腕前を披露した「トリュフ入りオムレツ」は……
ただ「オムレツをつくった」というだけでなく、細かく丁寧な描写なので、とにかく食欲をそそります。山羊のチーズ、手作りジャム、ステーキ&キドニー・パイなどなど、この作品に登場するたくさんの料理は、間違いなく読みどころのひとつです。「なぜイギリス料理はまずいのか」といった議論もたたかわされるなど、いわゆるコージー・ミステリに匹敵するくらい、お料理やワインをめぐる場面が満載です。食いしん坊の方は必読ですぞ!
『緋色の十字章 警察署長ブルーノ』は11月11日ごろ発売です。どうぞお楽しみください!
本格ミステリの専門出版|東京創元社
日本ではあまりなじみがありませんが、5月8日は「ヨーロッパ戦勝記念日」といって、第二次世界大戦で連合国がドイツを降伏させた、ヨーロッパの勝利を祝う日です。この記念日に壮麗なパレードが行われた翌日、村の外れに住むアラブ人の老人が死体となって発見されます。彼は腹部を裂かれ、胸にナチスの鉤十字を刻まれていました。この老人はふたつの戦争でフランスのために戦い、戦功十字章という勲章を授与された国家の英雄でした。そんな彼が、なぜ残虐に殺されてしまったのか。事件の背後にかくれている、複雑な事情とは……。
著者のマーティン・ウォーカーは、イギリスの有名な新聞「ガーディアン紙」に25年間勤めたベテランジャーナリストです。東西冷戦に関する歴史書や、「ペリゴールの洞窟」といったノンフィクションを刊行し、さらに初めてのフィクション作品である本書を上梓しました。何年も前から本書の舞台であるドルドーニュ県に家を持ち、テニス仲間には地元の警察署長もいるそうです。そのような経験を生かし、歴史に材を取った重厚なテーマを持つ警察ミステリを書き上げました。
シリアスな殺人事件の謎のほかに、美食の国フランスにおける、主人公の明るく楽しげな日常もたっぷり描かれています。
主人公のブルーノは、村でただひとりの警官にして警察署長。愛犬ジジと暮らす39歳で、仲間たちとテニスや料理を楽しみ、ときに庭づくりに精を出す優雅な独身生活を送っています。つねに村人たちのことを考え、村長ほか村の重鎮にも信頼の篤い、頼れる署長さんです。ふだんつちかっている地元の情報網を駆使して、就任以来初めての殺人事件の捜査に挑みます!
村人たちと挨拶のキスをかわし、子どもたちにテニスやラグビーを教える。そんな心優しく魅力的な署長さんの生き生きとした日常が描かれており、さらにおいしそうなお料理シーンもたっぷり。例えば友人たちとのランチのときに、ブルーノが腕前を披露した「トリュフ入りオムレツ」は……
彼は重い鉄のフライパンを持ちあげて傾け、木のスプーンで迷いなくさっさっと二回中身を寄せ、どろりとした混合物にハーブを投げこむと、その巨大なオムレツを折りたたんだ。……六枚の皿に切り分けると、熱が伝わりはじめたトリュフから大地の香りが立ちのぼった。
ただ「オムレツをつくった」というだけでなく、細かく丁寧な描写なので、とにかく食欲をそそります。山羊のチーズ、手作りジャム、ステーキ&キドニー・パイなどなど、この作品に登場するたくさんの料理は、間違いなく読みどころのひとつです。「なぜイギリス料理はまずいのか」といった議論もたたかわされるなど、いわゆるコージー・ミステリに匹敵するくらい、お料理やワインをめぐる場面が満載です。食いしん坊の方は必読ですぞ!
『緋色の十字章 警察署長ブルーノ』は11月11日ごろ発売です。どうぞお楽しみください!
(2011年11月7日)
【2009年3月以前の「本の話題」はこちらからご覧ください】
本格ミステリの専門出版|東京創元社