怪獣対策のスペシャリスト集団「気象庁特異生物対策部」、略して「気特対」の活躍を描く本格SF+怪獣小説! その3作目となる長編『MM9―destruction―』、隔月連載スタート!
【プロローグ 追われる男】
長野県の山中――
深夜、人も獣も眠りについている時刻。蛍を思わせる四つの光が、暗い山間(やまあい)を縫って蛇行し、滑るように移動していた。けたたましいエンジン音が静寂を破り、山にこだましている。
犀川沿いに走る県道で、二台の乗用車がハリウッド映画顔負けのカーチェイスを繰り広げているのだ。カーブの多い道を二台ともほとんどスピードを落とすことなく走り抜け、危険なスラロームを演じている。急なカーブでは激しくドリフトもしていた。知らない人間が見たら暴走族かと思うだろう。どちらも頻繁に反対車線にはみ出しているので、昼間ならとっくに正面衝突事故を起こしていたはずだ。
左側は深い森。右側のガードレールの向こうは川まで続く急斜面。飛び出して転落したら、かなりの確率で命を失う。
追っ手の白い車は、前の赤い車の後部に、がつんがつんとぶつけていた。すでに前面はでこぼこだ。何度目かの衝突で右のヘッドライトが壊れた。ぶつけられるたびに前の車はよろめくが、それでも懸命に走り続けている。
時おり、銃声も響いた。白い車の助手席から若者が身を乗り出し、前の車に発砲しているのだ。タイヤを狙っているらしいが、映画のようにうまくは当たらない。
短い直線コースに入ったところで、追っ手の車が反対車線に飛び出し、一気に加速した。赤い車の右側に並ぶ。首を飛ばされそうになって、助手席の男は慌てて体をひっこめた。
次の右カーブに入ると、白い車は左に寄せ、赤い車の右側面に体当たりした。そのままカーブの遠心力を利用し、ぐいぐい押してゆく。赤い車の方はなすすべがない。二台の車はもつれ合った状態で横滑りしてゆく。
タイヤが溝にはまった。赤い車は左にがくんと傾く。シャーシーが溝の縁に接触し、不快な騒音と火花を撒き散らす。高速回転するタイヤが溝に押しつけられ、黒い煙を上げる。
赤い車に急な減速がかかったせいで、白い車は前に飛び出した。通りすぎる時、テールが大きく振れて、赤い車の運転席側のドアにぶつかる。
ついに赤い車はストップした。追っ手の車も急ブレーキをかけて停止。すぐにドアが開き、二人の若い男が飛び出してくる。
若者たちは赤い車に駆け寄った。ドライバーは五〇代ぐらいの男だ。発進する際にシートベルトを締める暇もなかったらしく、ハンドルに胸をぶつけてうめいていた。それでもどうにかドアを開けようとするが、ぶつけられて変形したのか、開かない。
「おとなしくしな、伊豆野(いずの)さん」
若者の一人が、手にしたベレッタを窓越しに突きつけた。伊豆野幹生(みきお)は観念した。この距離でなら、銃弾は窓ガラスを易々と貫通し、彼の頭を撃ち抜くだろう。
「ドアを開けろ」
「……開かないんだ」
「じゃあ窓だ」
伊豆野がボタンを押すと、パワーウィンドウが開いた。もう一人の若者が腕を突っこんで手探りするが、すでにドアロックは開いていた。取っ手をつかんでひっぱるが、やはり開かない。
「分からないのか。お前たちたちみんな、騙されてるんだぞ」
伊豆野は苦しげな声で説得を試みたが、銃を持った男は「その話は聞き飽きた」と、素っ気ない。
「おい、反対側のドアを試せ」
相棒が車の左側に回りこみ、反対側のドアを開けようとしたが、こっちも溝の縁にひっかかっている。
「だめだ。開きそうにない」
「しかたないな。じゃあ――」
銃を持った男が何か言いかけた時、ライトが彼の横顔を照らし出した。一台の車が後方から近づいてくる。
車は速度をゆるめ、赤い車の少し後方に停車した。
「事故ですかあ?」
窓から顔を出し、のんきそうにそう呼びかけたのは、頭の薄くなりかけた、冴えない顔の中年男だった。万年サラリーマンといった風情だ。
「ええまあ」
若者は銃をズボンの背後にねじこんで隠した。
中年男は車を降り、ぶらぶらと近づいてきた。地味な灰色のトレンチコートを着ていた。赤い車のひしゃげた後部を見て、「わあ、派手にやったなあ」と、緊張感に欠ける声で言う。
「警察と救急は?」
「あ、あの……もう呼びました」
若者はとっさに嘘をついた。
近づいてきた男は車内の伊豆野の顔を覗きこみ、「だいじょうぶですか?」と声をかけた。伊豆野はこわばった笑みを返す。
「でも、そんなには壊れてないですねえ」男は赤い車を見渡して値踏みした。「いい車なのにもったいない。リアとドアを修理したらどうにかなるかなあ……」
二人の若者は困惑し、横目で視線を交わし合った。こんな時刻に通りかかる車があるとは思わなかった。すぐに伊豆野を連れて帰りたいのに、とんだ邪魔者だ。こいつはどうすればいいのか。やはり口封じに始末すべきだろうか……?
「あの……」
「おやあ?」
車の前部に回りこんだ男は、しゃがみこみ、頭を傾けて車の下を覗きこむと、不安げな声を上げた。
「どうしたんですか?」
「まずいですよ、あれ。ガソリン洩れてるんじゃないですか?」
二人の若者は顔色を変えた。慌てて道路にへばりつくようにして、車の下を見る。中年男は入れ替わりに立ち上がった。
伊豆野は見た。男が立ち上がると同時に、コートの内側から手品のように二二口径リボルバーを取り出し、銃口を下に向けるのを。
深夜の山間に、二発の銃声が連続して轟いた。
二人の若者は道路にカエルのように這いつくばったまま、動かなかった――どちらも正確に後頭部を撃ち抜かれていた。
「ああー、やばかったー」
中年男は自分の方が撃たれかけたかのように、眼を丸くしていた。
「問題無用で目撃者を消しにかかるような連中なら、どうしようかと思った。あー、まだ心臓がばくばく言ってる。こんな危ない橋はあんまり渡りたくないなあ」
そう言いながら、左手で携帯電話を取り出し、親指でボタンを操作する。視線と右手の銃は、油断なく車内の伊豆野に向けていた。
「ああ、私だ。ライオンを確保。それと枕木が二つ。処理班を回して。大至急。場所は19号線の……」
伊豆野は自分に向けられた銃口を忌々しげに見つめていた。さっきの若者の銃は揺れていたのに、この男の銃口はまるで空間に固定されているかのように、ぴくりとも動かない。
伊豆野は直感した。こいつは場数を踏んできたプロだ……。
「伊豆野幹生さんですね」電話を終えると、男はセールスマンのようなにこやかな笑みを浮かべた。「お初にお目にかかります。あなたを七年も追ってきたんですが、ようやくこうしてじかにお会いできて、ちょっと感激してます」
「あんたは……」
「申し遅れました」男は左手でコートの内ポケットから手帳を取り出し、五七の桐のエンブレムをちらっと見せた。「公安調査庁、調査第三部の校倉太一(あぜくらたいち)です」
「公安に第三部なんかない」伊豆野はぶすっと言った。
「表向きはね」
「それに公安は銃なんか持たない」
「これは私物でして」校倉はしれっと言ってのける。「分かるでしょ? うちの部の仕事は、あなたたちみたいな『この世に存在しないことになっている連中』を追いかけることなんです。だからうちの課も、この世に存在しないことになってるわけでして」
「なら、私にバラすのもまずいだろう」
「あなただからバラすんですよ。同じ存在しないもの同士ですから」
ちらっと下を見て、
「やっぱり、死んでも正体を現わすわけじゃないんですなあ」
「だったらこれまで証拠が山ほど残ってるだろう」
「そりゃそうですな。死んでしまったら肉体はこっちの世界のものになるわけですし。あーあ、こりゃ立派な人殺しだ」
自分が殺したというのに、校倉の口調は世間話でもするかのようだった。
「当然、我々は警察と違って逮捕権もない。だからあなたも、逮捕ではなく、任意にご同行いただくことになります」
「銃を突きつけておいて、任意もないもんだ」
「厳密に法を適用してる場合じゃないんですよ。なんせ、こういう状況ですんで」
「目的は何だ? 我々の存在を抹消することか?」
「まさか」校倉は笑う。「私たちはナチスじゃないんですよ。あなたたちが法律を守ってひっそり生きてる分には、べつにかまやしない。税金を使ってジェノサイドをやったって、国民にも政府にも何の益にもならないんですから――ただね」
彼は急に真剣な顔になった。
「テロはいけません。それは断固として阻止しないと」
「私をどうする?」
「ご協力いただきたい――なぜ組織から抜けようとしたんです?」
伊豆野は返答をためらった。だが、意地を張っても無意味だと気がついた。ここは国家権力の力を借りるのもやむを得ない。さもなければ日本は――いや、この地球は、侵略者の手に落ちるのだ。
それは彼の一族の破滅をも意味する。
「我々は騙されていた」
「ほう?」
「奴らの目的は、我々と同じく、ビッグバン宇宙の拡大の阻止だと思っていた。そのために地球に来て、怪獣災害を起こそうとしているんだと――だが、そうじゃなかったんだ」
書籍版『MM9─destruction─』、2013年5月30日発売! つづきは書籍でお楽しみください。(現在の本ページは連載第1回のみ公開の立ち読み版です。)
■ 山本弘(やまもと・ひろし)
1956年京都府生まれ。78年「スタンピード!」で第1回奇想天外SF新人賞佳作に入選。87年、ゲーム創作集団「グループSNE」に参加。作家、ゲームデザイナーとしてデビュー。2003年発表の『神は沈黙せず』が第25回日本SF大賞候補に。06年の『アイの物語』は第28回吉川英治文学新人賞ほか複数の賞の候補に挙がるなど、日本SFの気鋭として注目を集める。『時の果てのフェブラリー』『シュレディンガーのチョコパフェ』『闇が落ちる前に、もう一度』『MM9』『地球移動作戦』『去年はいい年になるだろう』『アリスへの決別』など著作多数。創作活動のほか、「と学会」会長を務めるなど、多岐にわたる分野で活躍する。
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SF|東京創元社
【プロローグ 追われる男】
長野県の山中――
深夜、人も獣も眠りについている時刻。蛍を思わせる四つの光が、暗い山間(やまあい)を縫って蛇行し、滑るように移動していた。けたたましいエンジン音が静寂を破り、山にこだましている。
犀川沿いに走る県道で、二台の乗用車がハリウッド映画顔負けのカーチェイスを繰り広げているのだ。カーブの多い道を二台ともほとんどスピードを落とすことなく走り抜け、危険なスラロームを演じている。急なカーブでは激しくドリフトもしていた。知らない人間が見たら暴走族かと思うだろう。どちらも頻繁に反対車線にはみ出しているので、昼間ならとっくに正面衝突事故を起こしていたはずだ。
左側は深い森。右側のガードレールの向こうは川まで続く急斜面。飛び出して転落したら、かなりの確率で命を失う。
追っ手の白い車は、前の赤い車の後部に、がつんがつんとぶつけていた。すでに前面はでこぼこだ。何度目かの衝突で右のヘッドライトが壊れた。ぶつけられるたびに前の車はよろめくが、それでも懸命に走り続けている。
時おり、銃声も響いた。白い車の助手席から若者が身を乗り出し、前の車に発砲しているのだ。タイヤを狙っているらしいが、映画のようにうまくは当たらない。
短い直線コースに入ったところで、追っ手の車が反対車線に飛び出し、一気に加速した。赤い車の右側に並ぶ。首を飛ばされそうになって、助手席の男は慌てて体をひっこめた。
次の右カーブに入ると、白い車は左に寄せ、赤い車の右側面に体当たりした。そのままカーブの遠心力を利用し、ぐいぐい押してゆく。赤い車の方はなすすべがない。二台の車はもつれ合った状態で横滑りしてゆく。
タイヤが溝にはまった。赤い車は左にがくんと傾く。シャーシーが溝の縁に接触し、不快な騒音と火花を撒き散らす。高速回転するタイヤが溝に押しつけられ、黒い煙を上げる。
赤い車に急な減速がかかったせいで、白い車は前に飛び出した。通りすぎる時、テールが大きく振れて、赤い車の運転席側のドアにぶつかる。
ついに赤い車はストップした。追っ手の車も急ブレーキをかけて停止。すぐにドアが開き、二人の若い男が飛び出してくる。
若者たちは赤い車に駆け寄った。ドライバーは五〇代ぐらいの男だ。発進する際にシートベルトを締める暇もなかったらしく、ハンドルに胸をぶつけてうめいていた。それでもどうにかドアを開けようとするが、ぶつけられて変形したのか、開かない。
「おとなしくしな、伊豆野(いずの)さん」
若者の一人が、手にしたベレッタを窓越しに突きつけた。伊豆野幹生(みきお)は観念した。この距離でなら、銃弾は窓ガラスを易々と貫通し、彼の頭を撃ち抜くだろう。
「ドアを開けろ」
「……開かないんだ」
「じゃあ窓だ」
伊豆野がボタンを押すと、パワーウィンドウが開いた。もう一人の若者が腕を突っこんで手探りするが、すでにドアロックは開いていた。取っ手をつかんでひっぱるが、やはり開かない。
「分からないのか。お前たちたちみんな、騙されてるんだぞ」
伊豆野は苦しげな声で説得を試みたが、銃を持った男は「その話は聞き飽きた」と、素っ気ない。
「おい、反対側のドアを試せ」
相棒が車の左側に回りこみ、反対側のドアを開けようとしたが、こっちも溝の縁にひっかかっている。
「だめだ。開きそうにない」
「しかたないな。じゃあ――」
銃を持った男が何か言いかけた時、ライトが彼の横顔を照らし出した。一台の車が後方から近づいてくる。
車は速度をゆるめ、赤い車の少し後方に停車した。
「事故ですかあ?」
窓から顔を出し、のんきそうにそう呼びかけたのは、頭の薄くなりかけた、冴えない顔の中年男だった。万年サラリーマンといった風情だ。
「ええまあ」
若者は銃をズボンの背後にねじこんで隠した。
中年男は車を降り、ぶらぶらと近づいてきた。地味な灰色のトレンチコートを着ていた。赤い車のひしゃげた後部を見て、「わあ、派手にやったなあ」と、緊張感に欠ける声で言う。
「警察と救急は?」
「あ、あの……もう呼びました」
若者はとっさに嘘をついた。
近づいてきた男は車内の伊豆野の顔を覗きこみ、「だいじょうぶですか?」と声をかけた。伊豆野はこわばった笑みを返す。
「でも、そんなには壊れてないですねえ」男は赤い車を見渡して値踏みした。「いい車なのにもったいない。リアとドアを修理したらどうにかなるかなあ……」
二人の若者は困惑し、横目で視線を交わし合った。こんな時刻に通りかかる車があるとは思わなかった。すぐに伊豆野を連れて帰りたいのに、とんだ邪魔者だ。こいつはどうすればいいのか。やはり口封じに始末すべきだろうか……?
「あの……」
「おやあ?」
車の前部に回りこんだ男は、しゃがみこみ、頭を傾けて車の下を覗きこむと、不安げな声を上げた。
「どうしたんですか?」
「まずいですよ、あれ。ガソリン洩れてるんじゃないですか?」
二人の若者は顔色を変えた。慌てて道路にへばりつくようにして、車の下を見る。中年男は入れ替わりに立ち上がった。
伊豆野は見た。男が立ち上がると同時に、コートの内側から手品のように二二口径リボルバーを取り出し、銃口を下に向けるのを。
深夜の山間に、二発の銃声が連続して轟いた。
二人の若者は道路にカエルのように這いつくばったまま、動かなかった――どちらも正確に後頭部を撃ち抜かれていた。
「ああー、やばかったー」
中年男は自分の方が撃たれかけたかのように、眼を丸くしていた。
「問題無用で目撃者を消しにかかるような連中なら、どうしようかと思った。あー、まだ心臓がばくばく言ってる。こんな危ない橋はあんまり渡りたくないなあ」
そう言いながら、左手で携帯電話を取り出し、親指でボタンを操作する。視線と右手の銃は、油断なく車内の伊豆野に向けていた。
「ああ、私だ。ライオンを確保。それと枕木が二つ。処理班を回して。大至急。場所は19号線の……」
伊豆野は自分に向けられた銃口を忌々しげに見つめていた。さっきの若者の銃は揺れていたのに、この男の銃口はまるで空間に固定されているかのように、ぴくりとも動かない。
伊豆野は直感した。こいつは場数を踏んできたプロだ……。
「伊豆野幹生さんですね」電話を終えると、男はセールスマンのようなにこやかな笑みを浮かべた。「お初にお目にかかります。あなたを七年も追ってきたんですが、ようやくこうしてじかにお会いできて、ちょっと感激してます」
「あんたは……」
「申し遅れました」男は左手でコートの内ポケットから手帳を取り出し、五七の桐のエンブレムをちらっと見せた。「公安調査庁、調査第三部の校倉太一(あぜくらたいち)です」
「公安に第三部なんかない」伊豆野はぶすっと言った。
「表向きはね」
「それに公安は銃なんか持たない」
「これは私物でして」校倉はしれっと言ってのける。「分かるでしょ? うちの部の仕事は、あなたたちみたいな『この世に存在しないことになっている連中』を追いかけることなんです。だからうちの課も、この世に存在しないことになってるわけでして」
「なら、私にバラすのもまずいだろう」
「あなただからバラすんですよ。同じ存在しないもの同士ですから」
ちらっと下を見て、
「やっぱり、死んでも正体を現わすわけじゃないんですなあ」
「だったらこれまで証拠が山ほど残ってるだろう」
「そりゃそうですな。死んでしまったら肉体はこっちの世界のものになるわけですし。あーあ、こりゃ立派な人殺しだ」
自分が殺したというのに、校倉の口調は世間話でもするかのようだった。
「当然、我々は警察と違って逮捕権もない。だからあなたも、逮捕ではなく、任意にご同行いただくことになります」
「銃を突きつけておいて、任意もないもんだ」
「厳密に法を適用してる場合じゃないんですよ。なんせ、こういう状況ですんで」
「目的は何だ? 我々の存在を抹消することか?」
「まさか」校倉は笑う。「私たちはナチスじゃないんですよ。あなたたちが法律を守ってひっそり生きてる分には、べつにかまやしない。税金を使ってジェノサイドをやったって、国民にも政府にも何の益にもならないんですから――ただね」
彼は急に真剣な顔になった。
「テロはいけません。それは断固として阻止しないと」
「私をどうする?」
「ご協力いただきたい――なぜ組織から抜けようとしたんです?」
伊豆野は返答をためらった。だが、意地を張っても無意味だと気がついた。ここは国家権力の力を借りるのもやむを得ない。さもなければ日本は――いや、この地球は、侵略者の手に落ちるのだ。
それは彼の一族の破滅をも意味する。
「我々は騙されていた」
「ほう?」
「奴らの目的は、我々と同じく、ビッグバン宇宙の拡大の阻止だと思っていた。そのために地球に来て、怪獣災害を起こそうとしているんだと――だが、そうじゃなかったんだ」
書籍版『MM9─destruction─』、2013年5月30日発売! つづきは書籍でお楽しみください。(現在の本ページは連載第1回のみ公開の立ち読み版です。)
■ 山本弘(やまもと・ひろし)
1956年京都府生まれ。78年「スタンピード!」で第1回奇想天外SF新人賞佳作に入選。87年、ゲーム創作集団「グループSNE」に参加。作家、ゲームデザイナーとしてデビュー。2003年発表の『神は沈黙せず』が第25回日本SF大賞候補に。06年の『アイの物語』は第28回吉川英治文学新人賞ほか複数の賞の候補に挙がるなど、日本SFの気鋭として注目を集める。『時の果てのフェブラリー』『シュレディンガーのチョコパフェ』『闇が落ちる前に、もう一度』『MM9』『地球移動作戦』『去年はいい年になるだろう』『アリスへの決別』など著作多数。創作活動のほか、「と学会」会長を務めるなど、多岐にわたる分野で活躍する。
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(2011年4月15日)
SF|東京創元社