人々は世界を変えたいと思っている。
必要なら暴力も使うという。
でもその生活でセントラルヒーティングのスイッチが
切られたことはいちどもないんだ。(本文より)
ヒースロー空港で突如発生した爆破テロ。精神分析医デーヴィッド・マーカムはテレビ越しにその光景を眺めていたところ、事件に巻き込まれて負傷した先妻ローラを目撃する。彼は急ぎ病院に駆けつけたが、すでにローラの命は失われていた。その「無意味な死」に衝撃を受けて以降、彼女を殺したテロリストを捜し出すために、デーヴィッドは様々な革命行動に潜入を試みる。
そしてある日、猫保護団体の抗議活動の最中に警官と衝突した結果、裁判所に出向いたことをきっかけに、今度は高級郊外住宅地チェルシー・マリーナを“革命”の実験地とする謎の小児科医リチャード・グールドと女革命家ケイ・チャーチルとの奇妙な三角関係に没入することになった。
中産階級が熱狂する無差別テロという異常な状況は、デーヴィッドに何をもたらすのか? そしてローラの死の真相とは?
終末の詩情と強靱な思弁に彩られた、現代の予言者J・G・バラードの到達点ともいえる傑作です。
(2011年1月6日)
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本格SF|東京創元社