沖縄の過去を爆発的な熱量で描き切るのは真藤順丈(しんどうじゅんじょう)『宝島』(講談社 1850円+税)。戦後、アメリカ統治下のこの島では、アメリカ軍基地に忍び込み食料などの物資を盗み、人々に配っていた“戦果アギヤー”たちがいた。

義賊的な存在だった彼らのなかでも、ヒーローと見なされていた20歳のオンちゃんだったが、その夜、嘉手納(かでな)空軍基地に忍び込んで米兵に見つかり、みなばらばらに逃げ出した後、姿を消す。オンちゃんの親友のグスク、オンちゃんの弟のレイ、そして恋人だったヤマコという幼馴染(おさななじみ)三人は、英雄不在となった島で、過酷な環境にもまれながらも生きていく。

オンちゃんは死んでしまったのかという謎、実際に当時の沖縄であった米兵による少女暴行事件やコザ暴動などを盛り込みつつ、出自の分からない少年ウタや、彼になついた少女キヨたちも含め、若者とこの島の運命を、エネルギーを爆発させながら描き切る。なんとも豊饒で骨太な物語だ。また、読者に語り掛けるようなナラティブと沖縄の方言が、この物語に神話的な空気感を与えている。それにしても、最後に明かされる、ある事実に胸が詰まった。

物語世界にどっぷりハマったのは恒川光太郎『滅びの園』(KADOKAWA 1600円+税)。サラリーマンの鈴上(すずがみ)は帰宅途中、突然異世界へ迷い込み、戻れなくなってしまう。しかしそこは居心地のよい小さな町で、いつしか彼もすっかり住民に。

ただ、不穏なことがふたつある。ひとつは時折魔物が現れること、もうひとつは彼のもとに地球から手紙が届くこと。地球は現在危機的状況にあり、その命運を鈴上が握っているというのだ。しかし、地球を救うためには、鈴上は今の暮らしを破壊せねばならない――。

第2章の舞台は地球。上空に謎の物体が現れ、地上には不定形の白い生き物が出現。プーニーと名付けられたそれが傍にいるだけで命の危機にさらされる人間もいれば、まったく影響を受けない人間もいる。プーニーに対する抵抗値にはバラつきがあり、人類は突然、頭脳や体力の差ではなく抵抗値という新しい基準によって優劣が決定されることとなったのだ。

恐ろしいのは、プーニーを食した生物もまたプーニー化するという事実。雑食の虫や動物は次々姿を変え、地表は白く蠢(うごめ)くもので覆いつくされていく。やがてプーニーを操る能力を持つ人間が出現するが……。

鈴上vs.地球をはじめ、さまざまな価値観がぶつかりあい、すれ違う様が克明に描かれている。ぶっとんだ設定だが、そこで描かれるのは現代社会のありようそのもの。希望と苦みが同時に押し寄せてくる長篇。

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■瀧井朝世(たきい・あさよ)
フリーライター。1970年東京都出身。本の話WEB「作家と90分」、WEB本の雑誌「作家の読書道」ほか、作家インタビューや書評などを担当。著者に『偏愛読書トライアングル』(新潮社)、『あの人とあの本の話』(小学館)がある。

(2018年9月12日)



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