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第1回 クイズに答えてSF博士になろう

小山 正 
tadashi OYAMA


 最初に取り上げるのは、二〇一七年八月、九十二歳で逝去した英国SF界の重鎮ブライアン・W・オールディスの本。彼が一九八三年に上梓した単行本 Science Fiction Quiz(Weidenfeld & Nicolson刊)である。
SF Quiz_c.jpg  タイトルにあるとおり、SFに関するクイズを扱っていて、五百の問題と回答が載っている。
 はあ? クイズ? 泣く子も黙る巨匠が、なぜにクイズの本を?
 オールディスといえば、重く渋い小説を書くイメージが強かったので、この本に出会った時、意外な気がした。しかし、彼は昔からこう言われてきたではないか。
 「次に何を書くか、予想のできない作家」。
 オールディスは、SF史に残る不朽の傑作『地球の長い午後』(1961)の著者として名高い。英国を代表する小説家であり、SFや普通小説、評論書、詩集、絵本など百冊近い本を執筆した。編纂したSFアンソロジーや年刊傑作選もかなりの数にのぼる。
 わが国では二十冊近い著書が訳されていて、今世紀に入ってからも、故スタンリー・キューブリック監督が映像化を進め、スティーヴン・スピルバーグが引き継いだ映画『A.I.』(2001)の原作短篇を収録した作品集『スーパートイズ』が翻訳された。その後も、シャム双生児のロックシンガーを描いた長篇『ブラザー・オブ・ザ・ヘッド』(1977)が映画公開にあわせて訳されている。昨年は、世代間宇宙船テーマの傑作『寄港地のない船』(1958)が、初版刊行から五十九年目にして初めて翻訳されるなど、断続的ではあるものの、紹介が続いてきた。
 しかし、最高傑作とされる長編 Barefoot in the Head(1969)や、英国でベストセラーとなったファンタジー色の強い代表作《ヘリコニア三部作》(1982―85)など、一九八〇年代以降の長編が一切訳されていないこともあって、いまひとつ全貌が計り知れない作家である。
 そんなとらえどころがない作家のクイズ本を紹介するなんて、少々無謀だと思うけれど、そこはオールディス。なかなか骨太なクイズ本なのである。
 では、内容をご紹介しよう。

 青色のカバーをめくると、巻頭、オールディスの序文が飛びこんでくる。
 彼曰く、「本書の目的は楽しむことであり、SFの王道をいく内容となっている。また、問題文や引用箇所は、マニアではない読者にとっても、読む価値があるものにしようと考慮した。中には手ごたえのある難問も用意されている」。
 手ごたえのある難問、とやらが気になるところだ。
 採点法は、一問正解すると十点、全部正解すると五千点。総得点ごとの所見を、オールディスは次のように記している。
  二千点以下……「どこかで親御さんが間違ったようです」
  四千点以下……「普通。オールディスの他の本も読むべし」
  四千点以上……「他のことに興味は無いの?」

 そんな人を喰った序文の後、いよいよメインのクイズ・ページ。テーマごとに章立てがなされ、全三十章で構成されている。
 最初は「スタート・クイズ」。ウォーミングアップを兼ねた短い問題が、三十七問。そのいくつかを、ダイジェストでご紹介したい。
 また、オールディスの回答は、正解だけのそっけないものなので、それをただ列記するのではつまらないだろうから、併せて私が問題と答えに関するコメントを述べることにする。
 では、最初の問題。SFが得意という方は一緒に解いてみて下さいね。

◎「スタート・クイズ」より
1 十九世紀末に書かれたH・G・ウェルズの長篇『宇宙戦争』は、ドコとドコの戦いを描いているか?
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 答えは、地球と火星。手慣らしのような問題なので、容易に答えられるだろう。

2 「Last(ラスト)」と「First(ファースト)」という単語は、いつの時代もSF作家を魅了してきた。この単語をタイトルに用いた、次の作品の作者は?
 a  The First Men in the Moon
 b  First Lensman
 c  Last and First Men
 d  The First Men

 答えは、aがH・G・ウェルズで、邦訳は『月世界最初の人間』(1901)。bはE・E・スミスで、邦訳は原題と同じ『ファースト・レンズマン』(1950)。cはオラフ・ステープルドンで、邦訳は『最後にして最初の人類』(1931)。dは少し難しい。答えはアメリカの作家ハワード・ファーストで、彼は映画化された『スパルタクス』の原作者として名高い。プロパーのSF作家ではなく、E・V・カ二ンガム他の別名義でミステリも書いている。"The First Men" は、一九六〇年に米国のSF専門誌 The Magazine of Fantasy and Science Fiction に載った短篇SFのタイトルで、子供たちに化学物質を摂取させることで超人類を作ろうとする国家的な人体実験を描いた作品だ。わが国では未訳。
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3 次にあげる四つのSF賞の最初の受賞作品は?
 a  国際幻想文学賞(1951)
 b  ヒューゴー賞(1953)
 c  ネビュラ賞(1966)
 d  ジョン・W・キャンベル記念賞(1973)

 これは知識を問う問題。答えは、aがジョージ・R・スチュワートの長篇『大地は永遠に』。bがアルフレッド・ベスターの長篇『分解された男』『破壊された男』)。cがフランク・ハーバードの長篇『デューン/砂の惑星』。dが、バリー・N・マルツバーグの長篇『アポロの彼方』

4 SF映画には、『スター・ウォーズ』『E.T.』などの傑作もあるし、駄作だって存在する。次にあげる映画タイトルの空欄を、a~j から埋めよ。
 1 The ___ Man
 2 A ___ Orange
 3 Attack of the ___ Leeches
 4 The ___ Man Returns
 5 The Incredible _______ Man
 6 ______ Days to Noon
 7 The ____ Victim
 8 The Bed ____ Room
 9 Close Encounters of the ___ Kind
 10  ____ Beast from Outer Space

 a Blood  b Third  c Seven  d Seventh  e Giant
 f Shrinking  g Invisible  h Omega  i Clockwork  j Sitting

 答えは、1がh、2がi、3がe、4がg、5がf、6がc、7がd、8がj、9がb、10がa。
 せっかくなので、空欄を埋めて、邦題があるものは記しておく。

 1 The Omega Man 『地球最後の男 オメガマン』(1971)※
 2 A Clockwork Orange 『時計じかけのオレンジ』(1971)※
 3 Attack of the Giant Leeches 『吸血怪獣ヒルゴンの猛襲』(1959・劇場未公開・本邦はTV放映)※
 4 The Invisible Man Returns(1959・本邦未公開)※
 5 The Incredible Shrinking Man 『縮みゆく人間』(1957)※
 6 Seven Days to Noon 『戦慄の七日間』(1950)※
 7 The Seventh Victim(1943・本邦未公開)
 8The Bed Sitting Room 『不思議な世界・未来戦争の恐怖』(1969・劇場未公開・本邦はTV放映)※
 9 Close Encounters of the Third Kind1 『未知との遭遇』(1977)※
 10 Blood Beast from Outer Space(別題 The Night Caller)(1965・本邦未公開)
※国内版ソフトあり(VHS・DVD等)

 SF映画史に詳しければ答えられるだろうが、『吸血怪獣ヒルゴンの猛襲』のような、よく言えばカルト映画、悪く言えば超駄作が混じっているのが、なんともイジワルである。
吸血怪獣ヒルゴン_c.jpg さて、「スタート・クイズ」はこんな感じでまだまだ続いて行くが、長くなるので次の章へ進もう。
 「H・G・ウェルズ」に特化したクイズが十六問。その中から一問をご紹介したい。

◎「H・G・ウェルズ・クイズ」より
 ある人物が、「ウェルズが頭の中で生み出した亊のほとんどが、研究の末にナチス・ドイツで実在している」と述べた。これは誰の言葉か?
 a ウィンストン・チャーチル
 b バーナード・ショー
 c ジョージ・オーウェル
 d C・P・スノウ

 答えは、ジョージ・オーウェル。出典は、彼が一九四一年に書いたエッセイ「ウェルズ、ヒトラー、世界国家」である。
 なお「ウェルズ・クイズ」では、彼の女性関係に関するものや、彼が死んだ時の追悼コメントを複数あげて、それぞれが誰のものか? といったクイズも載っている。ウェルズと彼の周辺人物に詳しくないと解けない問題だ。とはいえH・G・ウェルズの人物像と作品は、SF史の基本なのだろう。
 さて、次は「数字クイズ」。

◎「数字クイズ」より
虫食い部分を埋めよ(これは簡単)。
 1 『 _____ 』トマス・M・ディッシュ
 2 『THX ____ 』ベン・ボーヴァ
 3 『動乱 ____ 』ロバート・A・ハインライン
 4 『故郷から ____ 光年』ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア
 5 『 ____ 人のお祖母さん』R・A・ラファティ
 6 『 ____ の神の御名』アーサー・C・クラーク
 7 『ゴーレム ____ 』アルフレッド・ベスター

 答えは、1は「334」。2は「1138」。3は、「2100」。4は、「10000」。5は、「九百」。6は、「90億」。7は、「100(100乗)」。オールディスがいうとおり、難問ではない。有名な作品ばかりなので、実際に作品を読んでいなくても、知識さえあれば答えられるはずだ。あえていうと、2は、ジョージ・ルーカス監督の商業映画デビュー作のノベライズ小説。執筆したのが、長篇『天候改造オペレーション』やノンフィクション『SF作法覚え書』等で知られる、あのベン・ボーヴァなのだ。
 次は「映像作品にまつわるクイズ」。問題の数が多く、二章に渡っている。その中には英国の大人気SFTVドラマ「ドクター・フー」にまつわるクイズがいくつもあるのだが(オールディスは「ドクター・フー」の短篇まで書いている)、日本では馴染みが薄いシリーズなので、クイズは次の一問だけにしておこう。

◎「映像クイズ」より
 映画『禁断の惑星』(1956)は、物語の面白さのおかげで、依然として評判のよい作品である。プロットは、とあるエリザベス朝の芝居に由来しているが、それは何か?
 a 『白い悪魔』ジョン・ウェブスター
 b 『フォースタス博士』クリストファー・マーロウ
 c 『テンペスト』ウィリアム・シェイクスピア
 d 『アルケミスト(錬金術師)』ベン・ジョンソン

 答えは、シェイクスピアの『テンペスト』(1611)。『禁断の惑星』を観ていても、答えられないかもしれない。これ以外にも原作者当てのクイズがあったり、マニアックなイギリスSFドラマに関する問題が続くのだが、各問とも総じてヒネリがないので省略しよう。
 この後クイズは、ロンドンが舞台となったSFにまつわる「ロンドン・クイズ」や、地方都市や辺境地といったローカルな題材に特化した「地域クイズ」、生き物の名前が記されたタイトルを虫食いで埋めるクイズに、さまざまな動物・クリーチャーに関する「動物SFクイズ」、オープニングの場面から作品名を当てさせる「オープニング・シーン・クイズ」など、基本的なSF知識を問う出題が続く。
 ここでは、長く続いているシリーズものや続篇、そして、その作者についてのクイズから、二問を取り上げよう。

◎「シリーズものと作者クイズ」より
 1 《銀河帝国の興亡》シリーズで名高いアイザック・アシモフは、二百冊以上の著書を書いており、その多くがノンフィクションである。以下のタイトルの中から、アシモフの本のタイトルでないものはどれか?
 a Asimov's History of Major Wars
 b The Left Hand of the Electron
 c Asimov's Guide to Shakespeare
 d A Choice of Catastrophes

 2 アシモフには、SF雑誌に自分の名前が付くという栄誉に輝いたが(アイザック・アシモフズSFマガジン)、以前もSF作家の名前が付いた雑誌が実在していた。作家名とその雑誌名は?

 「二百冊以上」とあるが、これは本書が刊行された当時のデータ。この後アシモフは、一九九二年に亡くなるまで、精力的に執筆を続けたので、実際の冊数はもっと多い。
 1の答えは、a。いかにもありそうなタイトルだが、アシモフは書いていない。bとcとdが実在し、bとcは未訳。dのみが『大破滅/アジモフのカタストロフィー全研究』(1980)のタイトルで邦訳されている。
 2は、SF史に詳しくないとわからない問題。答えは、ファンタジー作家エイブラム・メリットで、雑誌名は A Merritt's Fantasy Magazine。一九四九年から翌年にかけて五冊刊行されている。
 この章の前後は、エイリアンについての「宇宙人クイズ」に、地球上の町や宇宙都市についての「都市クイズ」、「惑星と月クイズ」「星の描写クイズ」といった、正統派SFファン向けのクイズが目立つ。
 しかしそれ以降は、クイズといいながらも、一筋縄ではいかないディープな域へと突入していく。マニアックというよりは、オールディスのSF史観が反映した、それでいて広範かつ深い読書をしていないと解けないような、高水準な問題が散見される。
 次にあげる、風変わりな異世界を題材にしたクイズもそのひとつだ。

◎「異世界クイズ」より
 石の船に乗った修道士が、とある異国の島に到着。住民たちに洗礼を施す。そして、彼らにキリスト教における「痛みと恵み」を伝導する。だが、その住民たちとは「ペンギン」だった。この作品のタイトルは?

 答えは、フランスの作家アナトール・フランスの長篇『ペンギンの島』(1908)。人類の代わりにペンギンが支配した地球の歴史を、皮肉タップリに描くパロディー文学だ。このような超変化球作品をSFとして取り上げるところが、いかにもオールディスらしい。
 次の、「原題の出典当てクイズ」では、再び世界文学の知識が問われる。

◎「原題の出典当てクイズ」より
 以下に挙げる作品タイトル(原題)はすべて、過去の文学作品からの引用である。元ネタとなった作者は誰か?
 1 『神々自身』(1972)The Gods Themselves アイザック・アシモフ
 4 『虎よ、虎よ!』(1957)Tiger! Tiger! アルフレッド・ベスター
 5 『すばらしい新世界』(1932)Brave New World オルダス・ハックスリー
 6 「ボロゴーヴはミムジイ」(1943)All Mimsey Were the Borogroves ヘンリイ・カットナー

 答えは、1はアメリカの詩人ウォルト・ホイットマン。2は『失楽園』(1667)で著名な英国の詩人ジョン・ミルトン。3はドイツの詩人フリードリッヒ・フォン・シラー。4は英国の詩人ウィリアム・ブレイク。5は劇作家ウィリアム・シェイクスピア。6はルイス・キャロル。こうした問題と答えを眺めていると、なんだかブラッドベリやアシモフたちの脳髄を、のぞき見したような気分になってくる。
 次は 対して、オマージュ(敬意)を捧げたSFに関するクイズ。

◎「オマージュ作品クイズ」より
 H・G・ウェルズの『モロー博士の島』(1896)に対してオマージュを捧げた作品が、英国とチェコで執筆されている。どちらも『モローのもう一つの島』というタイトルだが、書いた作家は誰と誰?

 答えは、英国がブライアン・オールディス、チェコがジョゼフ・ネスワドバ。
 クイズの答えが、オールディスの自作なのはご愛敬だろう。オールディスのオマージュ趣味は、H・G・ウェルズとラヴクラフトへの愛を込めた傑作中篇「唾の樹」(1965)や、長篇『解放されたフランケンシュタイン』(1973)、長篇 Moreau's Other Island(1980)、長篇 Dracula Unbound(1991)などに顕著に表れている。邦訳のある長篇『世界Aの報告書』(1968)も、フランスの作家ロブ・グリエに対して敬意を示した作品といえるだろう。
 ジョゼフ・ネスワドバはSFだけではなく、普通小説や映画のシナリオも書くチェコの作家。彼は、ウェルズのみならず、ブラム・ストーカーや、エドガー・ライス・バローズ、ジュール・ヴェルヌなどが書いた諸作の続編のようなオマージュ作品をいくつも発表している。
 このような非英語圏のSF作家についてのクイズが、その後も続く。

◎「世界のSFクイズ」より
 1 誰からも尊敬されているポーランド人作家で、「世界を管理する政府を設置するよう丁寧にお願いしたい」と小説の中で主張した、その作家とは誰?

 2 自らを完全自動で作り上げる先進的なロボット社会に一人の英国人が行き、自分もロボットのような機械人間に変えて欲しいと乞う――という物語。第一次世界大戦中に刊行されたこの本は、どこの国で刊行され、作者の名前は?

 1の答えは、スワヴォーミル・ムロージェク。現代ポーランドを代表する劇作家にしてブラックユーモア作家である。わが国では戯曲『タンゴ』や、ショートショート集『象』『所長』等が訳されており、痛切な風刺がきいている。
 2の答えは、ハンガリーの作家カリンティ・フリジェシュ。この不思議なロボット小説は、一九一六年に発表された『ファレミドーへの航海』という作品で、別題が『ガリヴァー第五の航海』。SFだけではなく、ユーモア小説や普通小説も書いていて、わが国では『さかさま人生』『そうはいっても飛ぶのはやさしい』の二冊の短篇集が訳されている。
 さて、最後にご紹介するのは、最終章「SF本の中の本クイズ」である。オールディスのビブリオ趣味が炸裂していて、難問ぞろいだ。

◎「本の中の本クイズ」より
1 エドガー・アラン・ポオの短篇「アッシャー家の崩壊」(1839)には、主人公ロデリック・アッシャーの書斎に並ぶ本の記述がある。以下の三冊の中に、この本棚に置いていない本があるが、それはどれか?
 a ロバート・パルトック著『ピーター・ウィルキンズの生涯と冒険』(1751)
 b トマソ・カンパネッラ著『太陽の都』(1602)
 c ルズヴィ・ホルベリ著『ニコラス・クリミウスの地下世界の旅』(1741)

2 ホルベリの『ニコラス・クリミウスの地下世界の旅』では、地球内部に存在する惑星のことが語られる。その星の名前は?

3 フィリップ・K・ディックの長篇『高い城の男』(1962)の中には、歴史の流れに逆らうSF小説が登場する。そのタイトルは?

4 ディックの『高い城の男』そのものが作中に登場し、聖歌隊の少年たちによって、ひそかに回し読みされる。その小説のタイトルは?

 1の答えは、パルトック著『ピーター・ウィルキンズの生涯と冒険』「アッシャー家の崩壊」では、この本については言及されていない。ちなみにこの三冊はすべて、岩波書店の〈ユートピア旅行記叢書〉に邦訳が収録されている。この叢書は、実在しない空想世界を旅する古典文献を集めたもので、そういう意味で、どれも立派なSFなのである。
 2の答えは、「惑星ナザル」。オールディスはこの問題が最も難易度が高いと述べている。なお、前述した〈ユートピア旅行記叢書〉の第十二巻に、『ニコラス・クリミウスの地下世界の旅』が収録されているので、好事家の方は現物に当たってみてはいかがだろう。
 3は、前の二問に比べると簡単。答えは、『イナゴ身重く横たわる』。『高い城の男』を読んだ方には、忘れられないタイトルである。
 4は難問。答えは、サンリオSF文庫から出ていたキングスリイ・エイミスの長篇SF『去勢』(1976)。エイミスは、主流文学のみならず、SF評論の古典『地獄の新地図』(1960)や、イアン・フレミングの贋作『007/孫大佐』(1968)、ジェームズ・ボンドの伝記など、遊び心に満ちた著書をいくつも書いたイギリス文壇の鬼才である。『去勢』は、カトリックの支配下にあるオルターナティブな英国を描いた作品で、英国の宗教史を背景としていることもあって、多少の難解さはあるものの、文学としてのSFの可能性に挑んだ傑作といえよう。

 以上で内容紹介はおしまい。クイズ問題を少ししか紹介できなかったけれど、本書が醸し出す不思議な空気感は、チョットは伝わったかな。
 こうしたディープな内容からもわかるとおり、クイズ本の体裁をとってはいるものの、二十世紀におけるSFの広がりと豊かさ教えてくれる骨太な読み物でもある。オールディスがクイズを通じて示唆するのは、SFというジャンル文学の果てしない可能性であり、その底なしの面白さであろう。もっといえば本書は、彼が書いたSF史研究書『十億年の宴』(1973)、『一兆年の宴』(1986)の「ポケット・エッセンシャル版」といってもいい啓蒙の書でもあるのだ。
crime & detection quiz書影_c.jpg 実は本書には体裁も版元も同じ姉妹篇が存在する。タイトルは Crime & Detection Quiz(1983)といい、著者はなんと、英国ミステリ界の重鎮ジュリアン・シモンズ! 彼はミステリの歴史を鳥瞰する研究書『ブラッディ・マーダー/探偵小説から犯罪小説への歴史』(1972、1985、1992)を上梓しているが、オールディスにしろシモンズにしろ、ジャンル史を徹底的に突き詰めた人間が、クイズ本に関わっているという点がおもしろいと思う。
 なお、オールディスに関しては、他にも面白い本や風変わりな書籍がいくつもある。先述したSF史を題材にした Moreau’s Other Island や、長篇 Dracula Unbound などは、内容において特異な作品だし、形状そのものが非常にユニークな本(?)や、絵本とか、歌の本といった、まさに「先の読めない作家」であることを示す奇書がいくつもあるのだ。準備ができ次第、改めてご紹介しよう。



■ 小山 正(おやま ただし)
1963年、東京都新宿区生まれ。ミステリ研究家。慶應義塾大学推理小説同好会OB。著書に『ミステリ映画の大海の中で』(アルファベータ刊)。共著に『英国ミステリ道中ひざくりげ』(光文社)。編著に『越境する本格ミステリ』(扶桑社)、『バカミスの世界』(美術出版社)、他。