リディア・チン&ビル・スミス、ニューヨークを舞台にふたりの私立探偵の活躍を描くローザンの人気シリーズ最新作の登場です。
一作ごとに交替する語り手、今回はリディアの出番。彼女のもとに持ちこまれたのは、まったく畑違いのアートに関する依頼でした。なんでも天安門事件で死んだゴーストヒーロー・チョウという画家の「新作」が、ここニューヨークに存在するらしい、というのです。もし本当ならぜひとも入手したい依頼人の美術品コレクターは、噂の真偽をリディアに確認してほしいというのですが……。
依頼人の態度や、そもそもアートと縁のない自分に依頼してきた事実に不審をいだき、リディアはビルに相談をし、ビルは知人であり美術品を専門とする私立探偵であるジャック・リーに会いにいくことをすすめます。そこでジャックを訪問したふたりが知ったのは、ジャックもまた、別の人物からゴーストヒーロー・チョウの「新作」を探すよう頼まれていたことでした――
さて、熱心なローザン読者ならジャック・リーの名前に見覚えがあるのではないでしょうか。そう、彼は本作より前に、短編集『永久に刻まれて』に収録された短編「春の月見」で初登場した人物です。「春の月見」でも美術品にまつわる事件を扱ったジャックが、本書で見せるリディア&ビルの名コンビにもひけをとらない活躍を、ぜひお楽しみに。
(ちなみに作中時系列では「春の月見」の事件は本書『ゴースト・ヒーロー』より前に起きたできごとになりますが、未読でも本書を読むのに差し支えはありません。いっぽう「春の月見」既読のかたには、にやりとできる「あるモノ」が本書には登場しています)
また、本書の解説はシリーズの熱烈なファンである小説家・小路幸也先生にお願いしています。こちらもお楽しみに。
アート業界という特異な舞台で、死んだはずの画家の「新作」探しという奇妙な謎を発端に、やがて明らかになる背後の事情。抜群のコンビネーションを見せる私立探偵たちはそれにどう挑むのか。本書もまた、現代私立探偵小説の最高峰であるシリーズの一作に恥じないできばえです。
S・J・ローザン『ゴースト・ヒーロー』は、7月22日発売です。
(2014年7月7日)
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