テニスコートの殺人
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 雨上がりで地面が濡れたテニスコート。その中央に絞殺死体。

 本格ミステリの定石ですと、現場には被害者の足跡しかなく、“犯人はどうやって犯行に及んだのだ。ああ何とこれは不可能犯罪ではないか! どうしようどうしよう”となりますが、『テニスコートの謎』は一味違います。
 被害者の足跡(もちろん片道)に加え、往復の足跡がついていたのです。ふつうに考えればその足跡の主が犯人に違いない。しかしそれだと主人公の事務弁護士ヒューにとっては非常に都合が悪い。なぜならその足跡は、ついさきほど求婚した女性ブレンダ(被害者と婚約していたのに求婚した!)がつけたものだから。
 かくして、「足跡が余分な殺人」を解きたいけれど、そのまま誰かに解かれたらとっても困るヒューとブレンダの偽装工作が始まりますが、これがことごとくうまくいかない。おまけにあろうことか名探偵フェル博士がやってきて……。
 このあたり、カーお得意のファースとして非常に読ませます(編集中、こんなに登場人物にやきもきさせられた本も珍しいです)。しかし主人公にイライラ(あ、言っちゃった)しながら読んでいると、実は意外なところに伏線が張られているので、ぜひ読み返していただきたい作品であります。
 そして最後に明かされる、驚天動地の大トリック。帯の「フェル博士にしか解きえない」は本心であります。フェル博士シリーズの新訳は『帽子収集狂事件』『曲がった蝶番』に続き三作目ですが、「よくこんなことこの人思いつくな」度は今作が一番かもしれません。
 解説は大矢博子さんにご執筆頂きました。初めて拝読したときに、この本読みたい(もう何度も読んでいるのに……)と思った名解説です。どうぞこちらもご堪能ください。


(2014年7月7日)




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