高校生時代、気軽にクラスメイトの女子とお昼ご飯を食べたり、放課後に教室で話しをしたりするのが夢でした。ただ、通っていたのが男子校のため、そんな儚い夢は当然叶うはずもなく、大人になったいつのころか青春学園ものが自分の好きなジャンルになっていました。
 というわけで、今作『屋上の名探偵』は学園ミステリです。
 著者の市川さんも学園ものが大好物とのこと。その想いをあとがきに綴っていただきました。全国の男子校出身の皆様、ぜひご一読を。


あとがき

 映画、小説、テレビ、あらゆる媒体において学園ものが好きです。
 なぜ私はこんなにも学園ものが好きなのか。
 思うに、高校時代に忘れ物をした感が猛烈に強いからでしょう。
 当時はバリバリ全国大会レベルの帰宅部でしたが、いまは文学部でも合唱部でもセパタクロー部でもなんでもいいから、なにかしらの部活に所属しておけばよかったと後悔していますし、勉強ももっと真剣にやっていればよかったと悔やみ、学校生活も引っこみ思案を振り払ってアグレッシブに過ごせばよかったと思い続けています。
 特に私の場合、いまになって高校時代は人生の華のひとつだったと思っているので、よけいにその気持ちが強いです。小中学校はほとんど記憶にないぐらい思い入れがないのですが、高校時代は違いました。いろいろな地域から人が集まっているという新鮮さ、それによってこれまでの学校生活がリセットでき、中学とは勉強やイベントの広がりも格段に違ってとても楽しい時間でした。しかも大人と子供の中間の時期故の感情や状況等々は、思い返せば愛おしくてたまりません。それがたったの三年間しかないのです。なんて貴重な時間でしょうか。タイムマシンがあれば、あのときなんとなく過ごしていた自分にストマッククローをかけてやりたいです。
 高校生活を全力でやり切った感のある人は、あまり学園ものに惹かれることはないのではないかと思っているのですが、そのとおりだとしたら実にうらやましいことです。
 そんな鬱屈している私が後悔を放出できる方法こそが、創作活動です。書くことで後悔を昇華してどうにか過去に折り合いをつけたい、という思いでペンを走らせるわけです。
 とはいえ、デビュー作は学園ものではありませんでした。当時はあの話が書きたくてしょうがなかったからですが、ついに学園ものを書く機会を与えられて大変感謝しています。
 内容としては、ひとつのことに夢中な男の子が別の目標を見つけるまでと、暗い学校生活を送っていた女の子が明るい光を受けるようになるまでを書いてみました。それに少々のミステリ要素をミックスしています。
 酸いも甘いもある学校生活ということで描いてみましたが、このふたりが将来高校時代を振り返って後悔しないことを願います。
 もしこれを読んでいる高校生以下の人がいたならば、三十代に突入しても昔を懐かしむ大人にならないように、全力で学校生活を過ごしてくれればと思います。
 それではまたいつかお会いできれば。

市川哲也


(2017年1月12日)



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