“パ・マル(悪くない)”だと思う。
『タルト・タタンの夢』に続く、ビストロ・パ・マルの物語第2弾。
(08年06月刊『ヴァン・ショーをあなたに』)
近藤史恵 fumie KONDOH
フランス料理店を舞台にしたミステリを書きませんか?
東京創元社の�Tさんにそう言われたのは、もうずいぶん前になる。
普段はあまり、編集者にそう言う提案をされるのは好きではないのだけど、そのときはごく自然に頭の中にイメージが浮かんだ。
高級フランス料理ではなく、カジュアルなビストロ。
木製のテーブルに、荒織りのリネンのテーブルクロス。小さな一輪挿し。狭くて、薄暗くて、音楽はかかっていない。
一見ぶっきらぼうなのに、実は紳士であるシェフの顔まで、はっきりと想像できた。
料理は、ル・クルーゼの鍋そのままで出されて、そして、最後にはシェフの特製ヴァン・ショーを。
料理をめぐるミステリを考えるのは、毎回大変だったけど、それでも楽しかった。なんとなく、〈パ・マル〉の中に自分がいる気分になれたからかもしれない。
二冊目の〈パ・マル〉は、ちょうど夏に出ることになってしまったけど、夏にヴァン・ショーというのも、“パ・マル(悪くない)”だと思う。
夏にだって、心にびゅうびゅう風が吹き込む日はあるし、そういうときは温かい飲み物が心をゆるめてくれるものだと思うから。
ということで、ビストロ・パ・マル、そろそろ開店です。
■ 近藤史恵(こんどう・ふみえ)
1969年大阪市生まれ。大阪芸術大学文芸学科卒。93年、『凍える島』で第4回鮎川哲也賞を受賞し、デビュー。人間心理の機微を描く筆力には定評がある。著書に『ねむりねずみ』『ガーデン』『モップの魔女は呪文を知っている』など多数。2008年、『サクリファイス』で第10回大藪春彦賞を受賞。『ヴァン・ショーをあなたに』は、『タルト・タタンの夢』に続くフレンチ・レストラン〈ビストロ・パ・マル〉を舞台にしたシリーズ待望の第2弾。