何かの救いを与えてくれやしないだろうか。
第15回鮎川哲也賞佳作、待望の刊行
(06年6月刊『世紀末大(グラン)バザール 六月の雪』)
日向 旦 akira HYUGA
どうにもこうにも鬱屈する日々が続いていたある日のこと、私は狭小で限定された世界とそこに流れるやはり極めて限定された時間で構成された話を、無性に書きたくなりました。
ようするに小さな世界とその小さな終焉を描くことが、何かの救いを与えてくれやしないだろうか、とそんなふうな希望的な観測を持ったわけです。
そんな具合に生まれたこの物語は、大阪は泉州地方南部、関西空港の近くにある架空の小さな町、そこにある半非合法なショッピングモールとその周辺が舞台となります。
モールには、いろんな過去を抱えた「くせ者」たちが集まり、一つの共同体を形成しています。
時は、ノストラダムスが世界の終末を予言した1999年の春の終わりから初夏にかけて。
一人の旅人がやってきて「探偵」になった時、物語は流れ出します。「恐怖の大王」が舞い降りるその日に向かって。
といってもこれはもちろんパニック物でもSFでもありません。
この小世界を揺り動かし、終末に推し進めるために、大小のミステリアスな事件が矢継ぎ早に発生します。まるで世界の終わりを前に、大あわてで在庫の総ざらえをするように。
そう、封印されていたさまざまな事件の『世紀末グランバザール』が開かれるのです。
つまりこれはミステリーなのです。それも作者自身は本格であると信じていたくらいの。
あ。そこのあなた。鮎川哲也賞に応募したのだから、本格ミステリーであるのは当たり前じゃないか、などとお思いにならないように。
話はちょっと変わります。
これが佳作に決まった去年の春、編集部に手直しについて電話でお聞きした時のことです。
「あ。別に直さなくていいですよ。それにムリにミステリーにする必要はないですから」
「えっ?」
これは第一の驚きでした。私は自分の書いたものが、ミステリー(それも本格)以外の何ものでもないと思っていたのですから。
追っかけるように、あのヨン様が「四月の雪」という映画に出るという第二の驚きに接しましたが、ま、これは別の話ですね。
話を戻します。
ともかく書いている最中は、本格ミステリーのつもりで、大昔に読んだ傑作推理小説群を思い出しながら、幸福な気分で書き上げることができました。
もっとも、あれもこれもと入れたくなり、必然的に構想(妄想)は闇雲に拡がり、これはとても一冊じゃ終わらないなと思いました(妄想は構想よりはるかに得意なのです)。しかしそれでは応募できない。
そこできりのいいところでなんとか切り上げ、“六月の限定バザール”として、どうにかこうにか一編にまとめ上げました。
さてはて、これが本格ミステリーか、そうでないかは、読んで頂いた方に判断していただくほかないわけです。でもそのためには、まずお買い上げ頂かねば(と妙にアクラツな奸計を披露します)。
いかがなものでしょうか。
■ 日向 旦(ひゅうが・あきら)
1955年、大阪府生まれ。同志社大学法学部卒。第15回鮎川哲也賞に投じた本作が佳作となり、2006年6月デビュー。