一見、ぎょっとするほど強い印象を与える書名ですが、内容も、タイトル以上のインパクトを保証します。
あまりにも先見性に満ちた内容ゆえ、著者の出身地アメリカでは出版を拒絶されながらも、のちに英国の名門出版社ゴランツ書店で刊行され、ジュリアン・シモンズら慧眼の評論家たちより熱狂的な支持を受けて復権にいたった無二のミステリ作家、ジョン・フランクリン・バーディンによる『悪魔に食われろ青尾蠅』が、著者の初文庫化にてお届けとなります。名翻訳者・浅羽莢子氏の手による鮮烈で美しい文章にもぜひご注目ください。
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二年間を精神病院で過ごしたハープシコード演奏者エレン。ようやく退院が許され、愛する夫と音楽の待つ我が家へと帰るが、楽器の鍵の紛失に始まる不可思議な事件や、記憶の混乱が浮き立つ彼女の心を徐々に不安へと陥れる。演奏家活動に復帰するべく練習に集中してもかつてあった音楽に輝きは戻らず、焦燥が募り始めるが、ある“再会”を機に、日々に感じていた違和感は決定的なものになり、悪夢のような過去が彼女を再び苛み始める……
著者バーディンは1916年アメリカのオハイオ州シンシナティ生まれ。10代の内に両親と姉を次々と失う不運に見舞われ、職を転々としながら小説を執筆する。異色のミステリ『死を呼ぶペルシュロン』The Deadly Percheron、『殺意のシナリオ』The Last of Philip Banterを発表、続いて本書『悪魔に食われろ青尾蠅』Devil Take the Blue-Tail Flyを上梓する。人間心理に潜む闇と不可解さを幻想的な筆致で描き出し、熱狂的な支持を受けた。
(2010年12月6日)
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