ジョー・ネスボ『悪魔の星』(戸田裕之訳 集英社文庫 上下各800円+税)は、酒浸りの凄腕刑事ハリー・ホーレ・シリーズの第5作で、『コマドリの賭け』から続くオスロ3部作の最終作だ。残虐な女性連続殺人事件が起こる中、ホーレは、以前の同僚の死の真相を追って、刑事人生最大の危機に立たされる。ホーレを含め、複雑な性格を有する登場人物(だからこそたまらなくリアル!)の織り成す、複雑なドラマをたっぷり味わうことができる。ダークな警察小説が好きな人には強く推したい。




 最後に紹介するのは、ゴードン・マカルパイン『青鉛筆の女』(古賀弥生訳 創元推理文庫 1000円+税)である。時は真珠湾攻撃の直後。日系人の若者が書いたミステリの原稿に対して、編集者は大幅改稿を求める。日系人が白人の悪事を暴く当初のストーリーよりも、中韓系の主人公が日系人の陰謀を暴く方が、受けが良いというのだ。物語は、作者に出した編集者の手紙、改稿後の作品、そして改稿のため存在を消された登場人物が戸惑うストーリーが交互して進む。緻密に計算されたメタ・フィクションの隙間からは、当時の日系人が置かれた状況がまざまざと感じられ、それを読むのが日本人や日系人ではなかろうと、登場人物の運命と移民問題やトランプ大統領就任以降の現実との共鳴には、ぞっとするばかりである。

*****************
■酒井貞道(さかい・さだみち)
書評家。1979年兵庫県生まれ。早稲田大学卒。「ミステリマガジン」「本の雑誌」などで書評を担当。

(2017年5月26日)



ミステリ小説の月刊ウェブマガジン|Webミステリーズ! 東京創元社