海外ミステリ出張室

2017.03.29

イーリア・マクニール『ファーストレディの秘密のゲスト』、ガードナー『棺の女』…「ミステリーズ!81号」(2017年2月号)書評 酒井貞道[翻訳ミステリ]その2

 そして現在、最も成長や変化を注目すべきシリーズ主人公こそ、第二次世界大戦におけるイギリス工作員、マギー・ホープに他ならない。その第五長篇となる、スーザン・イーリア・マクニール『ファーストレディの秘密のゲスト』(圷香織訳 創元推理文庫 1,300円+税)が刊行された。本書においてマギーは、作品内で遂に母国アメリカの土を踏む。

 真珠湾攻撃から半月後、特別作戦執行部のスパイ、マギー・ホープは、表向きはタイピストとして、チャーチル首相の訪米に同行し、ワシントンにやって来た。ルーズベルト大統領とチャーチルの会談が成功する陰で、大統領夫人(ファーストレディ)エレノアの秘書ブランチが変死する。マギーは、大統領夫人を巻き込む醜聞(しゅうぶん)を回避する使命を帯び、エレノアの秘書代行に就くのだった。

 思うに、本シリーズの魅力は、青臭く理想主義めいた《正しさ》を一本気に信じるヒロイン――端的に言って青臭い人物を、権謀術数(けんぼうしゅっすう)と理不尽(げんじつ)渦巻く、第二次世界大戦の諜報活動に放り込んだらどうなるか、という一種の実験精神にある。
 本書では、アメリカの人種問題が、マギーに理不尽を突きつける。不公正な裁判で死刑を宣告された死刑囚を救うため、リベラルな民間人は戦う。エレノアも力を尽くす。しかし、そこには自(おの)ずと限界があり、加えて、戦時下の国情の安定を優先するために、為政者側も汚い手を使うのだ。マギー自身、戦争に勝つため、英米の国益を最優先に行動しなければならない。理想と現実のギャップは苛烈なのである。

 だが彼女は強くなった。理想に置かれた軸足はそのままに、現実への対処は上手くなった。何より、その気高さといったらない。終盤、真相を目(ま)の当たりにしてなお怖(お)じない彼女の姿は、シリーズを通して成長した証拠であり、ファン冥利(みょうり)に尽きる。

 さらに本書では、彼女の両親に大きな変化が訪れる。大戦が激しさを増す中、マギーの境遇も様変わりするのは必定だ。次なるマギーの冒険が本当に待ち遠しい。

 最後はノン・シリーズのリサ・ガードナー『棺の女 』(満園真木訳 小学館文庫 970円+税)を紹介しよう。ガレージで黒焦げになっていた男デヴォンを殺したのは、彼に拉致・監禁されていた被害者フローラだった。七年前の別の監禁事件の被害者でもあるフローラは、デヴォンが他にも事件を起こしていると主張する。それを裏付ける証拠も出てきて、捜査が本格化した矢先、フローラは失踪してしまった。

 加害者と被害者の逆転で読者の心をつかんだ後に控えるのは、心身への虐待(ぎゃくたい)を通じて人間が支配されていく、拉致・監禁の凄惨かつ克明な描写である。女性捜査官D・Dの、刑事魂あふれる言動も一見の価値あり。犯罪小説の佳品として勧めたい。

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■酒井貞道(さかい・さだみち)
書評家。1979年兵庫県生まれ。早稲田大学卒。「ミステリマガジン」「本の雑誌」などで書評を担当。

(2017年3月29日)



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