海外ミステリ出張室

2017.03.06

越智睦/アリ・ブランドン『書店猫ハムレットの休日』訳者あとがき(全文)


黒猫の名探偵、リゾートを満喫。事件も解決?!

 空手大会でダーラの動きを真似する動画がインターネット上で“空手キャット”として人気を博し、全米キャット・ショーに特別ゲストとして招かれることになった書店猫のハムレット。ダーラはハムレットと友人のジェイクを伴い、極寒のニューヨークを飛び出してキャット・ショーの開催地であるフロリダに向かう。しかし、観光気分で訪れた当地で到着早々目にしたのは、レストランの食事客に脅しをかける物乞いに、キャット・ショーを妨害する動物愛護運動家たち。一方のハムレットは、ショーの来場者たちに注目されてまんざらでもない様子だったが、そんな中、空手キャットの身に思いも寄らない事態が起きる。さらにはショーの開催中に殺人事件が! 果たしてハムレットの運命は? 探偵猫としての役を果たせるのか?

 本作の舞台はフロリダのフォート・ローダーデールです。『書店猫ハムレットの跳躍』『書店猫ハムレットのお散歩』に続くシリーズ邦訳三作目にして、ハムレットはブルックリンの書店を飛び出し、約二千キロ南のリゾート都市に赴くことになります。いつものブラウンストーンの建物でのふてぶてしい主ぶりを拝めないのは少し寂しい気もしますが、フロリダでもハムレットらしさは健在。気むずかし屋なのはどこへ行っても変わりません。本作ではさらに、新しいキャラクターとして、ジェイクのお母さんのナッティやタクシー運転手のティノなどが登場。個性的で面白味のあるメンバーがダーラたちの旅を盛りあげます。

 本作には風光明媚なフォート・ローダーデールの街並みが鮮やかに描かれており、訳者も作業をしながら存分に妄想を膨らませ、すっかりフロリダに行った気になってしまいました。作中に登場する料理も魅力的なものばかりです。キューバン・ペイストリーにキューバン・サンドウィッチにキューバン・コーヒー。初めて知る料理ばかりでしたが、どうやらフロリダにはキューバの移民が多いらしく、彼らの影響を受けた料理が数多く存在するようですね。先に挙げた料理がどんなものかは、実際に本書を読んで確かめていただければと思います。

 また本作では、ショーに参加する猫が一匹ずつ“リング”と呼ばれる審査台に載せられ、審査員に評価される、キャット・ショーの様子も事細かに紹介されています。さまざまな品種の猫が登場しますが、どの猫も生き生きと描かれているので、猫好きの方はもちろん、そうでなくても楽しめること請け合いです。

 著者のアリ・ブランドンはテキサス出身ですが、十年ほどまえに南フロリダに引っ越したそうです。現在は、猫と犬を四匹ずつ飼っているとのことで、一匹をのぞいてすべて保護された犬と猫たちだとか。本作にも動物の救済団体が登場し、ジェイクが興味を持ちますが(詳しくはこちらも読んでのお楽しみ)、著者自身もまちがいなく動物愛にあふれた人物のようです。
 ブランドンは過去に、ダイアン・A・S・スタカート名義で歴史ミステリの〈探偵ダ・ヴィンチ〉シリーズを発表しており、同シリーズは日本でも翻訳出版されました。また、アレクサ・スマート、アンナ・ジェラードの名前でヒストリカル・ロマンスも刊行しています。

 さて、シリーズ次作のPlot Boilerですが、ダーラの書店にとうとうカフェ・スペースが完成し、従業員のロバートがバリスタとして大活躍するところから幕を開けます。そのおかげで書店はよりいっそう賑わいを見せることに。しかし、ダーラの近所でまたもや殺人事件が発生、さらにはダーラとリース刑事との関係にも新たな展開が……。この読みどころ満載の作品も、刊行が決定していますので、どうぞお楽しみに。


【Webミステリーズ!編集部付記】本稿は創元推理文庫『書店猫ハムレットの休日』解説の転載です。

(2017年3月6日)




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