海外ミステリ出張室

2016.12.20

上條ひろみ/E・J・コッパーマン『150歳の依頼人』解説[全文]

とっておきの秘密つきゲストハウス、本日開業!
ほのぼの楽しいユーモアミステリ!

上條ひろみ hiromi Kamijo



 ミステリには幽霊がよく似合う、かどうかは別にして、ミステリ→殺人→死体→幽霊というぐあいに、ミステリには幽霊がつきもの。だって、幽霊=憑きもの、でしょ? あっ、のっけから下手なダジャレですみません。
 幽霊屋敷、幽霊ホテル、幽霊書店があるなら、幽霊ゲストハウスがあってもいいじゃないか。というわけで、このシリーズは幽霊ゲストハウスが舞台。でもね、幽霊が出てくるのに、ホラーじゃないんです。楽しいユーモアミステリなんです。
 この魅力的なシリーズを読むなら、二作目が出たばかりの今がチャンス。本書からでも充分楽しめますが、この機会に、ぜひ一作目から読むことをおすすめします。二作目がさらにおもしろくなること請け合いです。

 一作目の『海辺の幽霊ゲストハウス』は、三十代なかばのシングルマザー、アリソン・カービーが、離婚の慰謝料とセクハラの示談金で購入したおんぼろのヴィクトリア様式の家を、自力でリフォームするシーンからはじまります。きれいにリフォームして、ゲストハウスにしようというのがアリソンの計画。業者にたのまないのは節約のためもありますが、大工仕事ならなんでも手がけていた父親から授かったノウハウと、ホームセンターで働いた経験があるから。要は好きなんでしょうね。九歳の娘メリッサとふたり、なんとか生活していかなければならないし、故郷でもあるニュージャージー州沿岸部の町ハーバー・ヘイヴンは、〝ジャージー・ショア〟と呼ばれる魅力的なリゾート地で、もの静かで裕福な観光客しかやってこないので、ゲストハウスを開業するのにぴったり。あ、よくまちがえられるけど、朝食付きホテル民宿のベッド&ブレックファスト(B&B)じゃなくて、食事を出さない宿泊のみのゲストハウスね。アリソンは料理が苦手で、潔いほどに料理をまったくしないので、宿泊客は各自地元グルメを外食でお楽しみください、というコンセプトです。
 ところが、あることがきっかけで、アリソンにはこの家に住んでいる(?)ふたりの幽霊の姿が見えるようになってしまうのです。それは、この家のまえの持ち主マキシー・マローンと、彼女が雇った私立探偵ポール・ハリソンの幽霊。ふたりはこの家で亡くなったのでした。
 洋の東西を問わず、殺人事件の被害者は、幽霊となって現場に取り憑きがち(ほんとか?)。無念のあまり成仏できず、というとやけに日本的だけど、自分はなんで死んだの? だれに殺されたの? わかったところで生き返れるわけじゃないけど、わからないと死んでも死にきれない! ということなのでしょう。まあね、その気持ちはわかります、生きている人間にも。
 あれ? でも、殺された本人ならだれに殺されたのかわかりそうなものなのに……と思うかもしれませんが、ポールとマキシーは、だれに仕組まれたのか、その裏にどんな事情があるのか、わからないまま殺されてしまったのです。しかもふたりは家の敷地から出られません(地縛霊?)。そこで、だれが自分たちを殺したのか、突き止めるのに手を貸してほしい、とアリソンにたのみこみます。ポルターガイスト現象でリフォーム作業を妨害されてはたまらないと、しぶしぶ協力することにしたアリソンは、ポールの指導でおっかなびっくり探偵活動を開始します。

 ここでシリーズのおもな登場人物たちを簡単に紹介しておきましょう。
 小柄で「決して見た目は悪くない」アリソンは、海辺の町育ちなのに魚介類が苦手。
 アリソンのひとり娘メリッサ(愛称リス)は、おしゃまで賢い小学生。
 アリソンの母でメリッサの祖母ロレッタは、恥ずかしいほどの親ばか。娘や孫のやることをなんでもかんでもすばらしいと思っていて、ほめるチャンスは決して逃しません。
 そして、ロレッタ、アリソン、メリッサの三世代の母娘には共通の特技(?)があります。それは、読んでのお楽しみということにしましょう。わたしは、ピザを食べながらの三世代ミーティングのシーンが、楽しくて大好きです。
 ポールは三十代なかば(死亡時)で、謎めいた微笑みを浮かべると俳優のクライヴ・オーウェンをたくましくしたような顔のイケメン。アリソンいわく「憎らしいほどかわいらしい」幽霊。私立探偵としてはちょっとたよりないところも。
 マキシーは二十代後半(同じく死亡時)の美人で、そうとうなひねくれ者。インテリアの勉強をしていたので、アリソンのリフォームにいちいち口を出します。
 地元警察の刑事アニータ・マッケローニーは長身でスタイル抜群。衣装を地味にした〝ワンダーウーマン〟に少し似ていなくもない風貌だけど、実は幽霊が怖いみたい。
 ジーニーは六年生のときからのアリソンの親友。陽気で友だち思いだけど、幽霊の存在を絶対に認めようとしない頑固者。
 ジーニーの夫トニー・マンドリーシは、自営の建設業者で、リフォーム作業の強い味方。マキシーはマッチョなトニーにご執心の様子です。
 どうです、みんなユニークで魅力的でしょ?

 地の文のおもしろさもこのシリーズの特徴。アリソンの一人称なので、語りと言ったほうがいいかもしれませんが、ボヤキだったり、ノリツッコミだったりと、アリソンのキャラがよく表れています。思わずクスッと笑ってしまったり、ときどきツボにはまって笑いが止まらなくなることも。 「九歳の子供と暮らすのは、事件記者と地方検事を足して二で割ったような人間と暮らすのに似ている」「いつもいつも自分のだめなところを九歳の子供に暴かれたのでは、がっくりきてしまう」などと、娘のメリッサに対するボヤキが多いけど、わが子ながらあっぱれという誇らしさも垣間見えて……アリソンもやっぱり親ばかなのね。
 著者のE・J・コッパーマンについては『海辺の幽霊ゲストハウス』の「訳者あとがき」でくわしく紹介されているので、ここでは生粋のニュージャージーっ子と言うにとどめておきます。ユーモアミステリやノンフィクションの著作があるジェフリー・コーエンの別名義です。

 さて、その二作目となる本書『150歳の依頼人』では、ゲストハウスに初めての宿泊客がやってきます。一時はどうなることかと思ったけど、なんとかオープンにこぎつけたのね。ひとまず、よかった、よかった。お迎えするのは、幽霊を見たいという奇特なお年寄りのツアーご一行様。ポールとマキシーの協力を得て、一日二回幽霊体験ができる特典付きツアーをご用意させていただきました。ツアーの目玉は降霊会。今更隠してもしかたがないので、幽霊が出るゲストハウスということを前面に押し出してアピールする覚悟のようです。
 さらに、人気リアリティ番組『ダウン・ザ・ショア』をゲストハウスで撮影することになり、キャストとスタッフが到着して、ゲストハウスは大入り満員に。このリアリティ番組の作り物感がなんとも……どこがリアリティなんだか……
 そんななかおこなわれた降霊会で、殺人事件が起こります。
 探偵の仕事のほうも、なぜか依頼がぞくぞくと舞いこみ、アリソンは大忙し。というのも、ポールのたっての願いで探偵免許をとったから。
 まずはポールとマキシー以外の幽霊からの、ある老婦人の生存をたしかめてほしいという依頼。幽霊のチャット〝ゴースターネット〟でアリソンの評判を聞いたというご新規さんです。そして、被害者の弁護士からの、被害者を殺した犯人を突き止めてほしいというストレートな依頼。最後はリアリティ番組出演中に失踪したキャストをさがしてほしいという、番組の〝エグゼクティブ〟・プロデューサーからの依頼。宿泊客を抱え、リアリティ番組のスタッフがいたるところでテレビカメラをまわしているなか、これだけの案件を抱えてしまったアリソンは、家族や友人たちの協力のもと、謎の解明に取り組みます。
 無理やり自分を対決モードにするために、妻と幼い娘を捨ててカリフォルニアのマリブの女に走った元夫の豚野郎(ザ・スワイン)を思い出す〝怒りのメソッド〟とか、下品な言葉を吐きまくるリアリティ番組のキャストたちに辟易して、下品な言葉をすべて〝偏頭痛〟に置き換えるとか、あいかわらずおもしろすぎるよ、アリソン! 十歳になったばかりのメリッサの大人顔負けの分析力や、マッケローニーの得意技〝あんたばかじゃない?〟という目つきもますます快調です。
 幽霊ツアーに、降霊会に、リアリティ番組と、イベントが盛りだくさんでとにかく楽しい! いろいろとびっくりの展開だけど、何が起こっても驚かないでくださいね。だって、幽霊と友だちになれる世界なんですから。

 幽霊を信じる人も信じない人も、霊感がある人もない人も、こんな愉快な海辺の幽霊ゲストハウスをちょっとのぞいてみませんか? まあ、アリソンも決して霊感がありそうには見えないんですけどね。



■ 上條ひろみ(かみじょう・ひろみ)
慶應義塾大学文学部卒。英米文学翻訳家。フルーク〈お菓子探偵ハンナ〉シリーズ、サンズ〈新ハイランド〉シリーズなど訳書多数。趣味は読書と宝塚観劇。近刊訳書はバックレイ『そのお鍋、押収します!』、フルーク『ブラックベリー・パイは潜んでいる』






ミステリ、SF、ファンタジー、ホラーの月刊Webマガジン|Webミステリーズ!
バックナンバー