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    <title>海外ミステリ出張室｜Webミステリーズ！</title>
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    <updated>2012-01-06T07:22:09Z</updated>
    <subtitle>ミステリ・ＳＦ・ファンタジー・ホラーの専門出版社・東京創元社が配信する月刊Webマガジン</subtitle>


<entry>
    <title>【ノンフィクション特別版】酒寄進一／ハイケ・Ｂ・ゲルテマーカー『ヒトラーに愛された女』訳者あとがき［2012年1月］</title>
    <link rel="alternate" type="text/html" href="http://www.webmysteries.jp/translated/sakayori1201.html" />
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    <published>2012-01-06T07:25:09Z</published>
    <updated>2012-01-06T07:22:09Z</updated>

    <summary> ヒトラーの愛人の知られざる姿に光を当てる、 傑作ノンフィクション （12年1月刊『ヒトラーに愛された女』訳者あとがき［全文］）酒寄進一　shinichi SAKAYORI 　   　2015年が近づ...</summary>
    <author>
        <name>東京創元社</name>
        
    </author>
    
        <category term="840 海外ミステリ出張室" scheme="http://www.sixapart.com/ns/types#category" />
    
    
    <content type="html" xml:lang="ja" xml:base="http://www.webmysteries.jp/">


   
      
        <![CDATA[<font style="FONT-SIZE: 1.25em">
ヒトラーの愛人の知られざる姿に光を当てる、<br />
傑作ノンフィクション<br />
<br />
<font style="FONT-SIZE: 1.00em">（12年1月刊<a href="http://www.tsogen.co.jp/np/isbn/9784488013370" target="_blank">『ヒトラーに愛された女』</a>訳者あとがき［全文］）</font><br /><br /><b><font color="brown" style="FONT-SIZE: 1.25em">酒寄進一</font></b>　shinichi SAKAYORI<br />
<hr color="black" size="1">

<p>　</p>
<div style="FLOAT: right; WIDTH: 155px"><a href="http://www.tsogen.co.jp/np/isbn/9784488003821"><img height="203" alt="ヒトラーに愛された女" hspace="12" src="http://www.tsogen.co.jp/img/cover_image_m/382.jpg" width="138" vspace="10" border="1" /> 
<div style="TEXT-ALIGN: center"><img height="18" alt="書籍の詳細を見る" src="http://www.webmysteries.jp/images/shosekishosai.jpg" width="100" border="0" /></div></a></font></div>


<p>
　2015年が近づいている。戦後七十年になるこの年は、いろいろな意味で歴史の節目になるだろう。「戦争」の記憶が、あるいはその体験がますますただの知識へと加速度的に変わろうとしている。1945年に二十歳で戦後を迎えた人々は九十歳になる。第二次世界大戦の風化がいっそう進むはずだ。それは日本もドイツも変わらない。<br />
　しかしドイツは、この2015年に日本とはすこし違う事情も抱えることになる。ドイツでは、著作権の保護期間は著作者の死後七十年までとされており、1945年に亡くなった人々の著作権がこの時をもって消滅する。そのなかにはアドルフ・ヒトラーの名もある。子孫がいなかったことから著作権が当時住民登録していたバイエルン州の管理下に置かれ、ドイツでは事実上出版が禁じられているヒトラーの著作も、この年を境に「保護」されなくなるのだ。<br />
　この2015年をにらんでドイツの出版界を注視しているなかで、ぼくは本書ハイケ・Ｂ・ゲルテマーカーのエヴァ・ブラウン伝<strong>Eva Braun: Leben mit Hitler</strong>に出合った。ナチス・ドイツに君臨したヒトラーの隠された愛人であり、自殺の直前、妻に迎えられた女性である。彼女の存在は、当時絶対のタブーであり、それゆえに謎のベールに包まれていた。エヴァ・ブラウンについてはすでにいくつか著作があるが、本書はこれまでなかなか触れられることのなかった当時のさまざまな関係者の言説をくまなく掘り起こし、彼女の半生を再構築した力作だ。<br />
　ドイツの代表的な雑誌<strong>〈シュテルン〉</strong>は、「エヴァはこれまで長らく従順なお馬鹿さんと思われていたが、決してそのようなことはないことが明らかになった。彼女は自分の運命を自力で勝ち取ったのだ。非政治的で凡庸な存在ではなかったのだ」と、本書があぶりだしたエヴァ・ブラウン像を評価している。その後、本書は二度にわたってドイツのテレビドキュメンタリーの原作に使われ、いまやエヴァ・ブラウン論のスタンダードとして定着した観がある。実際、本書の前半ではエヴァとヒトラーが出会ったミュンヘンの時代の空気感やエヴァの生い立ちから始まって、ゲーリング、ゲッベルス、シュペーアなどナチ要人の妻たちとの比較などが目配りよく生き生きと描かれ、後半では権力の頂点に上りつめたヒトラーとともにその栄華を恣（ほしいまま）にし、やがて没落していくエヴァの姿が浮き彫りにされている。それは、これまで彼女につきまとっていた権力者の「お飾り」というイメージとはだいぶかけ離れた姿である。<br />
　本書は、映画<strong><a href="http://www.amazon.co.jp/gp/product/B000HEWIEU/ref=as_li_qf_sp_asin_tl?ie=UTF8&tag=wwwtsogecojp-22&linkCode=as2&camp=247&creative=1211&creativeASIN=B000HEWIEU" target="blank">『ヒトラー――最期の12日間』</a><img src="http://www.assoc-amazon.jp/e/ir?t=wwwtsogecojp-22&l=as2&o=9&a=B000HEWIEU" width="1" height="1" border="0" alt="" style="border:none !important; margin:0px !important;" /></strong>（2004年）あたりから顕著になってきた、ヒトラーへのアプローチの変化の延長上にある。「悪魔」呼ばわりされたヒトラーを「人間」として捉え直そうとする試みだ。本書でも、エヴァとの恋愛を中心に描くことで、公の場では見せることのなかったヒトラーの「人間」としての一面が見えてくる。<br />
　だが、映画<strong>『ヒトラー――最期の12日間』</strong>は公開当時かなりの物議を醸した。まだヒトラーを「人間」として見ることはタブーだと感じる人が多かったからであろう。<br />
　ドイツの戦後は振り返ってみれば、ナチの犯罪を究極の罪と捉える立場と、さまざまな時代、さまざまな地域に同じような事件がいくらでも起こっているとする相対化や歴史修正の試みとの拮抗の歴史のようにも見える。<br />
　ぼく個人の体験を顧みると、ドイツに留学した1979年の七月に、ナチ犯罪者に対する時効が撤廃されたことを鮮明に記憶している。当時の西ドイツ政府はこの時点でナチ犯罪に関して殺人罪の時効を廃止し、永久追及を決断した。ただし、そのときの国会の投票では、各党が議員に対して党議拘束をせず、採否の判断は各議員の良心にまかされることになり、その結果は255対222という僅差となった。<br />
　またこの年、ナチ時代のユダヤ人迫害の残虐さをユダヤ人医師一家とナチに荷担するドイツ人弁護士の両面から描いたアメリカのテレビドラマ<strong><a href="http://www.amazon.co.jp/gp/product/B003N0B562/ref=as_li_tf_tl?ie=UTF8&tag=wwwtsogecojp-22&linkCode=as2&camp=247&creative=1211&creativeASIN=B003N0B562" target="blank">『ホロコースト――戦争と家族』</a><img src="http://www.assoc-amazon.jp/e/ir?t=wwwtsogecojp-22&l=as2&o=9&a=B003N0B562" width="1" height="1" border="0" alt="" style="border:none !important; margin:0px !important;" /></strong>がドイツで放映された。これを見てナチスドイツが行った非道をドイツ人が認識しなおしたという一面がある一方、放送直後、あれは事実無根だ、という論評が新聞にも載り、この放映を阻止するためにネオナチがテレビ送信塔を爆破するというテロ事件まで起こっている。<br />
　1980年代に入ると、歴史の風化を避けるため歴史の真実を直視しようという呼びかけが改めてなされる。終戦四十周年の1985年に行われたリヒャルト・フォン・ヴァイツゼッカー大統領（当時）の演説――<strong><a href="http://www.amazon.co.jp/gp/product/400004995X/ref=as_li_tf_tl?ie=UTF8&tag=wwwtsogecojp-22&linkCode=as2&camp=247&creative=1211&creativeASIN=400004995X" target="blank">『荒れ野の四十年――ヴァイツゼッカー大統領演説全文』</a><img src="http://www.assoc-amazon.jp/e/ir?t=wwwtsogecojp-22&l=as2&o=9&a=400004995X" width="1" height="1" border="0" alt="" style="border:none !important; margin:0px !important;" /></strong>（永井清彦訳、岩波ブックレット）として刊行されている――や戦後世代のドイツ人もナチ犯罪の過去を背負わざるを得ないとしたラルフ・ジョルダーノの<strong><a href="http://www.amazon.co.jp/gp/product/4560049718/ref=as_li_tf_tl?ie=UTF8&tag=wwwtsogecojp-22&linkCode=as2&camp=247&creative=1211&creativeASIN=4560049718" target="blank">『第二の罪――ドイツ人であることの重荷』</a><img src="http://www.assoc-amazon.jp/e/ir?t=wwwtsogecojp-22&l=as2&o=9&a=4560049718" width="1" height="1" border="0" alt="" style="border:none !important; margin:0px !important;" /></strong>（永井清彦ほか訳、白水社）がそうした論調の代表格だ。<br />
　だがそれだけでなく、ナチの問題をどう歴史的に認識すべきかで、新たな論争が起こっている。いわゆる「歴史家論争」がそれだ。歴史家エルンスト・ノルテが1986年にフランクフルター・アルゲマイネ・ツァイトゥング紙に「過ぎ去ろうとしない過去」と題する論文を発表したことで、歴史修正主義者が勢いづいた。<br />
　このように、ナチ問題については、ナチを直接体験し、美化とまでいかなくとも否定したくない戦中派とその価値観（親の価値観）に疑義を抱く息子の世代が対決する構図があった。本書の著者ゲルテマーカーは1964年生まれで、この1980年代中盤に二十代だった。その意味で著者の立ち位置はきわめて興味深い。当然ではあるが戦中派ではない。また1960年代から70年代にかけて、ナチに荷担した戦中派を批判した戦後世代とも温度差がある。いわば戦中派から見て孫の世代に位置する彼女は、このとき何を思ったのだろう。その後、歴史家の道を選んだ著者は、二十数年をかけて本書で自分の答えを出したような気がする。<br />
　ゲルテマーカーと前後する年齢のドイツ人のなかには、これまでとはすこし違ったスタンスでナチと向かい合う人々が出てきている。ナチと向き合い、そこから新たな物語を紡（つむ）ごうとする人々だ。<br />
　たとえば、ナチ体制下で権力の中枢にいた一人、バルドゥール・フォン・シーラッハの孫で、刑事弁護士となったフェルディナント・フォン・シーラッハがいる。彼の祖母ヘンリエッテは、エヴァとヒトラーのキューピッド役だった写真家ハインリヒ・ホフマンの娘であり、エヴァとは深い縁があった。そのフェルディナント・フォン・シーラッハも本書の著者と同じ1964年生まれだ。2009年に短編集<strong><a href="http://www.tsogen.co.jp/np/isbn/9784488013363" target="blank">『犯罪』</a></strong>（拙訳、東京創元社）でドイツの出版界に旋風を巻き起こした彼は、今年2011年九月に、一部のナチ犯罪を時効にしてしまったドイツの刑法修正をめぐるスキャンダルをベースに、「過ぎ去らない過去」と対峙する若い刑事事件弁護士を描いた法廷小説<strong>Der Fall Collini</strong>（仮題<strong>『コリーニ事件』</strong>、東京創元社より刊行予定）を発表し、大きな反響を呼んでいる。<br />
　ナチの記憶や体験が薄れていくなか、新しいナチの物語を創出しようというこうした動きは、これから2015年に向けて引き続き活発になっていくだろう。アドルフ・ヒトラーとエヴァ・ブラウンの人間関係の新たな読み直しを試みた本書も、そうした流れのなかのひとつの成果としてひもとかれることを願ってやまない。<br />
<br />
<br />
</p>
<div align="right">（2012年1月）</div>
<hr color="gray" size="1">
<font color="navy">■ <b>酒寄進一</b>（さかより・しんいち）</font><br />
1958年生まれ。ドイツ文学翻訳家。上智大学、ケルン大学、ミュンスター大学に学び、新潟大学講師を経て和光大学教授。主な訳書に、イーザウ《ネシャン・サーガ》シリーズ、コルドン<a href="http://www.amazon.co.jp/gp/product/4652077718/ref=as_li_qf_sp_asin_tl?ie=UTF8&tag=wwwtsogecojp-22&linkCode=as2&camp=247&creative=1211&creativeASIN=4652077718" target="_blank">『ベルリン 1919』</a><a href="http://www.amazon.co.jp/gp/product/4652071957/ref=as_li_qf_sp_asin_tl?ie=UTF8&tag=wwwtsogecojp-22&linkCode=as2&camp=247&creative=1211&creativeASIN=4652071957" target="_blank">『ベルリン 1933』</a><a href="http://www.amazon.co.jp/gp/product/4652077998/ref=as_li_qf_sp_asin_tl?ie=UTF8&tag=wwwtsogecojp-22&linkCode=as2&camp=247&creative=1211&creativeASIN=4652077998" target="_blank">『ベルリン 1945』</a>、ブレヒト<a href="http://www.amazon.co.jp/gp/product/4860952243/ref=as_li_qf_sp_asin_tl?ie=UTF8&tag=wwwtsogecojp-22&linkCode=as2&camp=247&creative=1211&creativeASIN=4860952243" target="_blank">『三文オペラ』</a>、ヴェデキント<a href="http://www.amazon.co.jp/gp/product/4860953126/ref=as_li_qf_sp_asin_tl?ie=UTF8&tag=wwwtsogecojp-22&linkCode=as2&camp=247&creative=1211&creativeASIN=4860953126">『春のめざめ――子どもたちの悲劇』</a>、キアンプール<a href="http://www.tsogen.co.jp/np/isbn/9784488013356">『この世の涯てまで、よろしく』</a>、シーラッハ<a href="http://www.tsogen.co.jp/np/isbn/9784488013363">『犯罪』</a>、イーザウ<a href="http://www.tsogen.co.jp/np/isbn/9784488013370">『緋色の楽譜』</a>ほか多数。<br /><br />
<br />
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<br />
<a href="http://www.tsogen.co.jp/">海外ノンフィクション｜東京創元社</a>]]>
        
      
    


    </content>
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    <title>酒寄進一／ラルフ・イーザウ『緋色の楽譜』訳者あとがき［2011年10月］</title>
    <link rel="alternate" type="text/html" href="http://www.webmysteries.jp/translated/sakayori1110.html" />
    <id>tag:www.webmysteries.jp,2011://6.1197</id>

    <published>2011-10-05T06:37:12Z</published>
    <updated>2011-10-06T02:41:40Z</updated>

    <summary>本書をこうしてリスト生誕二百年の記念の年に 読者のみなさんに届けられることを本当にうれしく思う。 この機会にぜひフランツ・リストの音楽に触れ、 彼の音楽思想を体で感じてほしい。 （11年10月刊『緋色...</summary>
    <author>
        <name>東京創元社</name>
        
    </author>
    
        <category term="840 海外ミステリ出張室" scheme="http://www.sixapart.com/ns/types#category" />
    
    
    <content type="html" xml:lang="ja" xml:base="http://www.webmysteries.jp/">


   
      
        <![CDATA[<font style="FONT-SIZE: 1.25em">本書をこうしてリスト生誕二百年の記念の年に<br />
読者のみなさんに届けられることを本当にうれしく思う。<br />
この機会にぜひフランツ・リストの音楽に触れ、<br />
彼の音楽思想を体で感じてほしい。<br />
<br />
<font style="FONT-SIZE: 1.00em">（11年10月刊<a href="http://www.tsogen.co.jp/np/isbn/9784488013370" target="_blank">『緋色の楽譜』</a>訳者あとがき［全文］）</font><br /><br /><b><font color="brown" style="FONT-SIZE: 1.25em">酒寄進一</font></b>　shinichi SAKAYORI<br />
<hr color="black" size="1">

<p>　</p>
<div style="FLOAT: right; WIDTH: 155px"><a href="http://www.tsogen.co.jp/np/isbn/9784488013370"><img height="201" alt="緋色の楽譜　上" hspace="12" src="http://www.tsogen.co.jp/img/cover_image_m/1337.jpg" width="138" vspace="10" border="1" /> 
<div style="TEXT-ALIGN: center"><img height="18" alt="書籍の詳細を見る" src="http://www.webmysteries.jp/images/shosekishosai.jpg" width="100" border="0" /></div></a></font></div>


<p>
　<a href="http://www.webmysteries.jp/topic/1110-01.html">●『緋色の楽譜』本の話題記事はこちら●</a><br />
<br />
　2004年9月2日の夜、ぼくはベルリンのテーゲル空港に降り立ち、宿で一服したあと近くの酒場でビールを飲んでいた。ふと目にした店内のテレビでなにかが赤々と燃えている。火事のニュースだと思ったとき、「ワイマール」というテロップが画面下に浮かび、火を噴く建物の黒々とした輪郭が大写しになった。見覚えのあるシルエットだ。えっ、と思ったとき、テロップが変わって「アンナ・アマーリア大公妃図書館」という文字が目に飛び込んできた。<br />
　本書の冒頭でフランツ・リストの楽譜が見つかった場所と設定されているアンナ・アマーリア大公妃図書館は、ワイマールの歴史的建築群のひとつとして世界遺産に登録されたのを期に修復されることになり、その工事中に古い配線から発火して建物もろとも貴重な収蔵品が灰燼に帰した。文化をこよなく愛した大公妃アンナ・アマーリア（1739年－1807年）は、ドイツ文学の黄金期、ゲーテやシラーが活躍した古典主義時代の立役者だった。その個人蔵書がもとになったこの図書館には、この世に一点しかない手稿や絵画なども収蔵されていた。ドイツ文学をはじめとしたドイツ文化に関心を持つ人にとっては、まさに聖地といえるような場所だ。<br />
　じつはこのニュースを見た直後、この焼け跡から何か知られざる貴重な資料が見つかって……という妄想をたくましくしたのを覚えている。そのときぼくの脳裏にあったのは、ゲーテの代表作<strong>『ファウスト』</strong>の知られざる草稿だったが……。<br />
<br />
　一週間のベルリン滞在を経て、ぼくはシュトゥットガルト近郊に住むラルフ・イーザウのもとを訪ねた。再会した直後、ぼくらはこの炎上した図書館のことを話題にした。まさかその三年後、彼がこの火災事件を織り込んだ物語を書くとはそのとき思いもしなかった。<br />
　イーザウ宅に滞在中、もっとも忘れがたい思い出は、彼の友人である音楽家一家を訪ねた夜のことだろう。はじめから警告されていたようにひとりで五人分くらいの料理を食べさせられ、そのあとホームコンサートがはじまった。友人夫婦の両親は地元の交響楽団で名を馳せたチェロ奏者とフルート奏者。すてきな室内楽を堪能した後、家の地下にある音楽室で今度はウルズラさん＝ピアノ、マンフレートさん＝ベース、イーザウさん＝ギター（ぼくは太鼓とタンバリン）で「カントリーロード」をはじめとするフォークソングを一晩中歌うことになった。まさかあの二人に捧げられた本をこうやって翻訳することになるとは知らずに。<br />
<br />
　このときのイーザウ訪問は、ちょうど翻訳中だった彼の大作<strong><a href="http://www.amazon.co.jp/gp/product/4860950348/ref=as_li_tf_tl?ie=UTF8&tag=wwwtsogecojp-22&linkCode=as2&camp=247&creative=1211&creativeASIN=4860950348" target="blank">『暁の円卓』</a><img src="http://www.assoc-amazon.jp/e/ir?t=wwwtsogecojp-22&l=as2&o=9&a=4860950348" width="1" height="1" border="0" alt="" style="border:none !important; margin:0px !important;" /></strong>（長崎出版刊）の打ち合わせを兼ねていた。1900年に生まれ、百年の命を与えられた主人公とこの作品のタイトルにもなっている悪の結社〈暁の円卓〉との戦いを通して20世紀のテロと戦争を描いた物語だが、十二人いる結社員のひとりを主人公は最後に倒し損ねる。作中ではその最後のひとりがどこの出身でなんという名前かも明かされない。まさか本書で、その最後の生き残りネクラソフに出会うことになるとは。<br />
　このネクラソフが典型ともいえるが、イーザウは頻繁に自分の作品の登場人物を別の作品にリンクさせていく。一作ずつに膨大な創作ノートが書かれ、作品中では語られない裏設定がそれぞれのキャラクターについて詳細に作られている。たとえば、ネクラソフは1820年生まれ。フランツ・リスト（1811年－1886年）より若干年下の設定で、本書のプロローグでもわかるように後年リストと〈力の音〉による力比べをする。本書は2005年に起こる物語なので、秘密結社〈暁の円卓〉はすでに解体しているが、ひとり生き残ったネクラソフは、フリーメイソンのマスターになり、本書で創作された秘密結社〈ファルベンラウシャー〉の長老として暗躍し、〈暁の円卓〉の意志を継いで世界の破滅を画策する。創作ノートでは目の色から性格までことこまかく設定されている。<br />
　ラルフ・イーザウの創作ノートは本書のほぼ半分の情報量、テキストデータにして352ページに及んでいる。実在の人物やアイテムとして使われる楽器や教会などに関する詳細なデータ、創作された架空の人物の設定集、今生きている実在の人物からの名前の使用許可、それから本書でテーマとなる共感覚やサブリミナルに関する情報など多岐にわたる。<br />
　創作ノートでは作品制作の過程もタイムラインに沿って詳しく記録されている。それによると、本書を最初に着想したのは、2003年2月5日、ドイツのテレビドキュメンタリー「共感覚――複数の感覚が混ざり合うとき」を見たときだという。音楽が持つすばらしさと危うさを「共感覚」を通して描こうというこのアイデアは、すでに冒頭で書いたように2004年9月のアンナ・アマーリア大公妃図書館火災事件によって拍車がかかり、フランツ・リストの存在が浮上する。2005年初頭、本格的な構想がはじまり、出版社へのプレゼンテーションは同年6月23日に行われ、2006年10月1日、イーザウの結婚30周年の日に脱稿した。<br />
<br />
<div style="FLOAT: left; WIDTH: 160px"><a href="http://www.tsogen.co.jp/np/isbn/9784488013387"><img height="201" alt="緋色の楽譜　下" hspace="12" src="http://www.tsogen.co.jp/img/cover_image_m/1338.jpg" width="138" vspace="10" border="1" /> 
<div style="TEXT-ALIGN: center"><img height="18" alt="書籍の詳細を見る" src="http://www.webmysteries.jp/images/shosekishosai.jpg" width="100" border="0" /></div></a></font></div>
　ラルフ・イーザウは1956年ベルリン生まれ。作家としてデビューするのは1995年なので、遅咲きの作家といえる。彼の子ども時代から作家としてデビューするまでは<strong><a href="http://www.amazon.co.jp/gp/product/4860952235/ref=as_li_tf_tl?ie=UTF8&tag=wwwtsogecojp-22&linkCode=as2&camp=247&creative=1211&creativeASIN=4860952235" target="blank">『ラルフ・イーザウの宇宙』</a><img src="http://www.assoc-amazon.jp/e/ir?t=wwwtsogecojp-22&l=as2&o=9&a=4860952235" width="1" height="1" border="0" alt="" style="border:none !important; margin:0px !important;" /></strong>（長崎出版刊）で紹介しているので、興味のある方はぜひ参照して頂きたい。もともと娘のために書いた中編ファンタジー<strong>「竜のゲルトルート」</strong>（未邦訳）の私家版がミヒャエル・エンデに評価され、デビューのきっかけとなった。1995年には同書と同時に代表作であるファンタジー<strong><a href="http://www.amazon.co.jp/gp/product/4751521217/ref=as_li_tf_tl?ie=UTF8&tag=wwwtsogecojp-22&linkCode=as2&camp=247&creative=1211&creativeASIN=4751521217" target="blank">『ネシャン・サーガ』</a><img src="http://www.assoc-amazon.jp/e/ir?t=wwwtsogecojp-22&l=as2&o=9&a=4751521217" width="1" height="1" border="0" alt="" style="border:none !important; margin:0px !important;" /></strong>三部作（あすなろ書房刊）の第一部が出版された。<br />
　ぼくはこの年ドイツ滞在にあわせて、エンデの<strong><a href="http://www.amazon.co.jp/gp/product/4001145014/ref=as_li_tf_tl?ie=UTF8&tag=wwwtsogecojp-22&linkCode=as2&camp=247&creative=1211&creativeASIN=4001145014" target="blank">『はてしない物語』</a><img src="http://www.assoc-amazon.jp/e/ir?t=wwwtsogecojp-22&l=as2&o=9&a=4001145014" width="1" height="1" border="0" alt="" style="border:none !important; margin:0px !important;" /></strong>でモデルのひとつとなったと目されるトルコの内陸カッパドキアをまわる旅を計画していた。8月末、トルコへ旅立つ前に、ぼくはベルリンの書店で、長旅のあいだに読むためのとびきり分厚いファンタジーを買い求めた。それが<strong>『ネシャン・サーガ』</strong>第一部だった。まさかこの作品がミヒャエル・エンデの力添えで出版された本とも知らず、このときエンデがこの世の人ではなくなったことにも気づかずに旅をつづけた。エンデが亡くなったのは1995年8月28日だった。<br />
　このあとイーザウはエンデ以降のドイツ・ファンタジーの旗手と目されるようになった。<strong>『ネシャン・サーガ』</strong>を翻訳することになったぼくは、三部作完結後の1998年にはじめてイーザウを自宅にたずねた。以来、彼の代表的な作品を邦訳してきた。<strong><a href="http://www.amazon.co.jp/gp/product/4751521268/ref=as_li_tf_tl?ie=UTF8&tag=wwwtsogecojp-22&linkCode=as2&camp=247&creative=1211&creativeASIN=4751521268" target="blank">『盗まれた記憶の博物館』</a><img src="http://www.assoc-amazon.jp/e/ir?t=wwwtsogecojp-22&l=as2&o=9&a=4751521268" width="1" height="1" border="0" alt="" style="border:none !important; margin:0px !important;" /></strong>全二巻、<strong><a href="http://www.amazon.co.jp/gp/product/4751521365/ref=as_li_tf_tl?ie=UTF8&tag=wwwtsogecojp-22&linkCode=as2&camp=247&creative=1211&creativeASIN=4751521365" target="blank">『パーラ』</a><img src="http://www.assoc-amazon.jp/e/ir?t=wwwtsogecojp-22&l=as2&o=9&a=4751521365" width="1" height="1" border="0" alt="" style="border:none !important; margin:0px !important;" /></strong>全二巻、<strong><a href="http://www.amazon.co.jp/gp/product/4751523767/ref=as_li_tf_tl?ie=UTF8&tag=wwwtsogecojp-22&linkCode=as2&camp=247&creative=1211&creativeASIN=4751523767" target="blank">『見えざるピラミッド』</a><img src="http://www.assoc-amazon.jp/e/ir?t=wwwtsogecojp-22&l=as2&o=9&a=4751523767" width="1" height="1" border="0" alt="" style="border:none !important; margin:0px !important;" /></strong>全二巻、<strong><a href="http://www.amazon.co.jp/gp/product/4751524119/ref=as_li_tf_tl?ie=UTF8&tag=wwwtsogecojp-22&linkCode=as2&camp=247&creative=1211&creativeASIN=4751524119" target="blank">『ミラート年代記』</a><img src="http://www.assoc-amazon.jp/e/ir?t=wwwtsogecojp-22&l=as2&o=9&a=4751524119" width="1" height="1" border="0" alt="" style="border:none !important; margin:0px !important;" /></strong>全三巻（以上あすなろ書房刊）、<strong>『暁の円卓』</strong>全九巻、<strong><a href="http://www.amazon.co.jp/gp/product/4860952642/ref=as_li_tf_tl?ie=UTF8&tag=wwwtsogecojp-22&linkCode=as2&camp=247&creative=1211&creativeASIN=4860952642" target="blank">『銀の感覚』</a><img src="http://www.assoc-amazon.jp/e/ir?t=wwwtsogecojp-22&l=as2&o=9&a=4860952642" width="1" height="1" border="0" alt="" style="border:none !important; margin:0px !important;" /></strong>全二巻、それから日本オリジナル企画の絵本<strong><a href="http://www.amazon.co.jp/gp/product/4860952413/ref=as_li_tf_tl?ie=UTF8&tag=wwwtsogecojp-22&linkCode=as2&camp=247&creative=1211&creativeASIN=4860952413" target="blank">『わらいかたをおしえてよ』</a><img src="http://www.assoc-amazon.jp/e/ir?t=wwwtsogecojp-22&l=as2&o=9&a=4860952413" width="1" height="1" border="0" alt="" style="border:none !important; margin:0px !important;" /></strong>（以上長崎出版刊）、<strong><a href="http://www.amazon.co.jp/gp/product/4797329831/ref=as_li_tf_tl?ie=UTF8&tag=wwwtsogecojp-22&linkCode=as2&camp=247&creative=1211&creativeASIN=4797329831" target="blank">『ファンタージエン 秘密の図書館』</a><img src="http://www.assoc-amazon.jp/e/ir?t=wwwtsogecojp-22&l=as2&o=9&a=4797329831" width="1" height="1" border="0" alt="" style="border:none !important; margin:0px !important;" /></strong>（ソフトバンククリエイティブ刊）がある。<br />
　彼の作風は基本的にファンタジーだが、1999年から2001年にかけて出版された<strong>『暁の円卓』</strong>以降、サスペンス作品をコンスタントに書いている。邦訳されたサスペンス作品は<strong>『銀の感覚』</strong>に次いで本書が二作目になる。未邦訳を含むサスペンス作品を簡単に紹介しておこう。<br />
<br />
　　2003年 Der silberne Sinn<strong>『銀の感覚』</strong>（長崎出版刊）<br />
　　2004年 Der Herr der Unruhe<strong>『振り子の王』</strong>（未邦訳）<br />
　　2005年 Galerie der Luegen<strong>『偽りのギャラリー』</strong>（未邦訳）<br />
　　2007年　本書<br />
　　2008年 Der Mann, der nicht vergessen kann<strong>『忘れることのできない男』</strong>（未邦訳）<br />
　　2009年 Messias<strong>『メシアス』</strong>（未邦訳）<br />
<br />
　イーザウのサスペンス作品には必ず異能者が主人公として登場する。かっちりした歴史的事実を背景に、そうした人物を配する物語作りは、実際には<strong>『暁の円卓』</strong>から始まっている。この作品の主人公は一瞬先が予知でき、色を変える能力をもっている。それだけだといかにもファンタジーに聞こえるが、じつは相対性理論を根拠にした設定になっている。<br />
<strong>『銀の感覚』</strong>では、すぐれた共感（エンパシー）の能力を備えた人物が登場する。この能力を兵器として活用しようとするＣＩＡが絡み、1978年にガイアナで起こった人民寺院の集団自決事件から話がはじまり、共感の能力を備えた少女が生き残る。一方、マヤ文明やインカ文明以降、ガイアナのジャングルで人知れず生き延びてきた謎の民「銀の民」の末裔が共感の能力を備えた人物として登場し、現代文明の有り様に一石を投じる。<br />
<strong>『振り子の王』</strong>は、1930、40年代のムッソリーニに支配されていたイタリアを舞台に、町のドンに時計職人の父を殺された若者の復讐劇が中心に描かれ、やがて若者とドンの娘の恋が絡み、まるで「戦時下のロミオとジュリエット」という様相を呈していく。若者はユダヤ人で、機械と心を通わせる能力があり、「機械博士」の異名を持つ。あまり語られることのないムッソリーニ治下のユダヤ人の運命に光が当てられる。<br />
<strong>『偽りのギャラリー』</strong>はクローンがテーマになる。しかもこの作品のクローンは究極の人類を目指した両性具有だ。姿形から遺伝子にいたるまで、まったく同一の人物が十六人。ある者は謎の死を遂げ、ある者は自分を生みだしたその組織のボスに復讐するため、そのボスが経営する美術品保険会社を狙ってヨーロッパ各地の美術館を襲撃する。そして主人公は犯人と間違えられたことがきっかけで、美術館襲撃を追跡することになるジャーナリスト。物語にはやがて遺伝子の問題を超えて進化論とインテリジェント・デザインの対立へと展開していく。<br />
<strong>『忘れることのできない男』</strong>は、見聞きしたものを瞬時に記憶し忘れることのできないサヴァン症候群の主人公が、19世紀に作られ、未だに解読できないビール暗号に挑む物語だ。この暗号解読の結果、現在知られているアメリカ合衆国独立宣言が贋作であることがわかってしまう、というところから思いがけない事件が起こる。<br />
<strong>『メシアス』</strong>はアイルランドの小村の教会で、ある日、手と足に傷を持ち、イバラの冠をつけた全裸の男が発見されるところから物語がはじまる。イエスの再来、ついにハルマゲドンが始まったと人々は騒然となる。この真偽を確かめるために、バチカンから派遣されるのが本書の後半に登場する「異端審問官」へスター・マカティアだ。彼にかつて恋人がいたこと、そして娘がいること、そしてヘスター本人も神父であった父の道ならぬ恋の結果であることが読者に明かされていく。<br />
　先にネクラソフを例にして、登場人物が複数の作品にまたがるケースを紹介したが、本書では端役のマカティアがすでにどのような人物として設定されていたかを見ると、イーザウの創作の楽屋裏がよく見てとれるだろう。<br />
<br />
<blockquote>  　ヘスター・マカティア略歴<br />
  　1954年5月6日、グレイグナマナハ（アイルランド、キルケニー県）生まれ。彼の兄パトリックは1931年1月31日生まれ、1954年5月6日（つまりヘスターの誕生日）にベトナムのディエンビエンフーの戦いで戦死（享年23歳）。ヘスターはすでに子どものとき、父親シーマス・ウィーランに裏切られたと感じていた。そこで父親を怒らせるため、父親が嫌がることばかりする。たとえば、しばらくのあいだボクサーになる。その後、父親と同じ道をたどる。今は父親よりも立派な神父であることを見せたいがため、日々精進している。<br />
  　中学校はロックウェルに通う。修学志願期に哲学を学び、宣教師活動はタンザニアで行い、修練期をキルシェイン神学校で過ごす。その後三年間(1978年－1980年)、修道誓願。この時期、神学と歴史学を学ぶ。そして1980年司祭に叙階される。だが、このときフィオーナ・キャロルと出合い、道を踏みあやまり、父と同じように成就することのない恋に落ちる。そして1981年6月24日、一人娘（あるいは二人？）アニー・サリバンが生まれる。こうした破戒僧は教会では日常茶飯事のことで、毎度闇に葬られる。彼はローマの修道院本部へ移り、やがてバチカンで地歩を築く。その後、列聖省で奇跡の真偽を質す〈信仰の促進者〉となり、天職となる。彼は教皇から〈聖下の名誉称号を保持する司祭〉の称号を受ける。<br />
</blockquote><br />
<strong>『メシアス』</strong>が発表された直後の2009年11月、ぼくはイーザウの朗読会に参加している。朗読された<strong>『メシアス』</strong>の主人公がこのマカティアであることに気づいたとき、ぼくの頭はスパークした。これは訳したい、だがその前に本書を訳さねば、そんなことを思ったものだ。<br />
<br />
　余談になるが、この朗読会の会場は不思議な本屋だった。買おうと思った本を店主が読み直したいから売れないといい、代わりに別の本をただでくれた。このときもらった本が一足先に翻訳したフレドゥン・キアンプールの<strong><a href="http://www.tsogen.co.jp/np/isbn/9784488013356">『この世の涯てまで、よろしく』</a></strong>だ。本書の「著者あとがき」で「フリーメイソンの世界の思いがけない一面を見せてくれた」というプラッツァー氏がその店主。また彼の夫人はアイリッシュハープの製作者で、確認はしていないが、ハープ、竪琴、風鳴琴のアイデアに大きく貢献していると思われる。<br />
　朗読会のあと、書店の二階にあるプラッツァー邸のリビングで夫人が奏でた美しいアイリッシュハープの音色が今でも耳から離れない。イーザウはぼくの隣で懐かしいものでも聴くようにうっとりしていた。<br />
　音楽は美しい。人の心を打つ。だがただ美しいだけでなく、「人類の普遍言語」でもあるという考えを、イーザウはフランツ・リストと共有している。「風配図の足跡」の名のもとにイーザウは、リストのたどった道へと読者を誘い、音楽のもつ普遍的な力を深く考える機会にしてほしいと望んでいる。<br />
　本書をこうしてリスト生誕二百年の記念の年に読者のみなさんに届けられることを本当にうれしく思う。この機会にぜひフランツ・リストの音楽に触れ、彼の音楽思想を体で感じてほしい。最後に<strong>『この世の涯てまで、よろしく』</strong>の訳者あとがきの冒頭に掲げたベルトルト・アウエルバッハ（1812年－1882年）の言葉をあげて、ぼくがたどった音楽ミステリーの円環をひとまず閉じることにしよう。アウエルバッハはリストより一歳年下の1812年生まれだ。<br />
<br />
　　<strong>音楽だけは世界語であって<br />
　　翻訳される必要がない<br />
　　そこでは魂が魂に語りかける<br />
　　　　　　　ベルトルト・アウエルバッハ</strong><br />
<br />
<br />
</p>
<div align="right">（2011年10月）</div>
<hr color="gray" size="1">
<font color="navy">■ <b>酒寄進一</b>（さかより・しんいち）</font><br />
1958年生まれ。ドイツ文学翻訳家。上智大学、ケルン大学、ミュンスター大学に学び、新潟大学講師を経て和光大学教授。主な訳書に、イーザウ《ネシャン・サーガ》シリーズ、コルドン<a href="http://www.amazon.co.jp/gp/product/4652077718/ref=as_li_qf_sp_asin_tl?ie=UTF8&tag=wwwtsogecojp-22&linkCode=as2&camp=247&creative=1211&creativeASIN=4652077718" target="_blank">『ベルリン 1919』</a><a href="http://www.amazon.co.jp/gp/product/4652071957/ref=as_li_qf_sp_asin_tl?ie=UTF8&tag=wwwtsogecojp-22&linkCode=as2&camp=247&creative=1211&creativeASIN=4652071957" target="_blank">『ベルリン 1933』</a><a href="http://www.amazon.co.jp/gp/product/4652077998/ref=as_li_qf_sp_asin_tl?ie=UTF8&tag=wwwtsogecojp-22&linkCode=as2&camp=247&creative=1211&creativeASIN=4652077998" target="_blank">『ベルリン 1945』</a>、ブレヒト<a href="http://www.amazon.co.jp/gp/product/4860952243/ref=as_li_qf_sp_asin_tl?ie=UTF8&tag=wwwtsogecojp-22&linkCode=as2&camp=247&creative=1211&creativeASIN=4860952243" target="_blank">『三文オペラ』</a>、ヴェデキント<a href="http://www.amazon.co.jp/gp/product/4860953126/ref=as_li_qf_sp_asin_tl?ie=UTF8&tag=wwwtsogecojp-22&linkCode=as2&camp=247&creative=1211&creativeASIN=4860953126">『春のめざめ――子どもたちの悲劇』</a>、キアンプール<a href="http://www.tsogen.co.jp/np/isbn/9784488013356">『この世の涯てまで、よろしく』</a>、シーラッハ<a href="http://www.tsogen.co.jp/np/isbn/9784488013363">『犯罪』</a>ほか多数。<br /><br />
<br />
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<a href="http://www.tsogen.co.jp/">海外ＳＦの専門出版社｜東京創元社</a>]]>
        
      
    


    </content>
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    <title>霜月蒼／ジェイムズ・ボーセニュー『キリストのクローン／真実』解説［2011年6月］</title>
    <link rel="alternate" type="text/html" href="http://www.webmysteries.jp/translated/shimotsuki1106.html" />
    <id>tag:www.webmysteries.jp,2011://6.1080</id>

    <published>2011-06-06T02:16:56Z</published>
    <updated>2011-05-29T06:37:08Z</updated>

    <summary>聖書の知識がない者でも常識として知っているさまざまなエピソード。それが、この「謎解き」によって、まったく違った相貌を見せる。この衝撃とスリルは相当のものだ。 「ジーザス・クライスト・トリックスター」 ...</summary>
    <author>
        <name>東京創元社</name>
        
    </author>
    
        <category term="840 海外ミステリ出張室" scheme="http://www.sixapart.com/ns/types#category" />
    
    
    <content type="html" xml:lang="ja" xml:base="http://www.webmysteries.jp/">


   
      
        <![CDATA[<font style="FONT-SIZE: 1.25em">聖書の知識がない者でも常識として知っているさまざまなエピソード。<br />それが、この「謎解き」によって、まったく違った相貌を見せる。<br />この衝撃とスリルは相当のものだ。<br />
<b><font style="FONT-SIZE: 1.25em" color="brown">「ジーザス・クライスト・トリックスター」</font></b><br /><font style="FONT-SIZE: 0.75em">
（11年6月刊<a href="http://www.tsogen.co.jp/np/isbn/9784488552053" target="_blank">『キリストのクローン／真実』</a>解説［全文］）</font><br /><br /><b><font color="brown" style="FONT-SIZE: 1.25em">霜月　蒼</font></b>　aoi SHIMOTSUKI<br />
<hr color="black" size="1">

<p>　</p>
<div style="FLOAT: right; WIDTH: 155px"><a href="http://www.tsogen.co.jp/np/isbn/9784488552053"><img height="201" alt="キリストのクローン／真実" hspace="12" src="http://www.tsogen.co.jp/img/cover_image_m/55205.jpg" width="138" vspace="10" border="1" /> 
<div style="TEXT-ALIGN: center"><img height="18" alt="書籍の詳細を見る" src="http://www.webmysteries.jp/images/shosekishosai.jpg" width="100" border="0" /></div></a></font></div>


<p>
　神をも畏れぬ――この言葉がこれほどふさわしい本はそうそうあるまい。<br />
　むろん本書のことである。ジェイムズ・ボーセニューの《キリストのクローン》三部作の第二作、<i>Birth of an Age</i>（Warner Book, 2004）の全訳だ。本書に先立つ第一作は、<a href="http://www.tsogen.co.jp/np/isbn/9784488552039" target="_blank">『キリストのクローン／新生』</a>としてすでに邦訳されている。<br />
　前作では、クリストファー・グッドマン――トリノの聖骸布に付着していたキリストの遺伝子から生まれた“神の子のクローン”――が、救世主という己の宿命を知り、それを果たすべく社会の階梯をのぼってゆくプロセスが描かれていた。その一方で世界ではテロや戦争が頻発、さらには謎の突然死現象が発生、全世界で億単位の死者が出る。こうした混沌とした世界で、イエス・キリスト＝クリストファーは、一個人が「救世主」の役割を演じることができる地位――国連をベースとする外交官――をめざす。<br />
　前作のラストで、クリストファーは神の子の持ちうる力で、国連に巣食う邪悪な人物をしりぞけた。となると、つづく第二作では、外交官イエス・キリストが満を持して世界の救済に乗り出すことになるにちがいない――そう予想したのは私だけでないはずだ。トム・クランシーばりのリアリスティックなパワーゲーム・スリラーとして、黙示録的災厄と神の子との闘争を描いてゆくのだろうと。<br />
　とんでもない。ボーセニューはそんなかわいらしい作家ではなかった。<br />
<br />
　本書はまさに前作の閉幕直後に幕を開ける。だがクリストファーに活躍の場はなかなか与えられない。かといってストーリーが停滞しているのかというとそうではない。<br />
　では何が起こるのか。<br />
　黙示録。それである。それが地球上に顕現する。現在の世界の上に降りかかる。要するに本書はまず、フルスケールのパニック・スペクタクルとして走り出すのである。<br />
　開巻早々に登場するのはヨハネとコーヘンという謎の二人組だ。ＫＤＰというカルト集団を率いる彼らは、いくつもの不吉な預言をする。それは新訳聖書中の「ヨハネの黙示録」に記された数々の災厄と一致していた。<br />
　ちょうどその頃、天体を研究観測する大学院生が、三つの小惑星を発見した。うち二つは地球をかすめ、最後の一つは地球に衝突する軌道をとっていることが判明、世界各国は、これらの小惑星を破壊すべくミサイル攻撃を計画する……<br />
　現在の世界で「救世主」が「救世主」を演じるにはどうすればいいのか、という問題を、著者ボーセニューは前作でリアリスティックに描いた。本作では、「どうすれば黙示録に描かれる災厄が現実に起こりうるのか」に挑んでいる。<br />
　「黙示録的」と呼ばれる小説や映画はこれまでいくつもあった。Ｊ・Ｇ・バラードの一連の名作――<a href="http://www.tsogen.co.jp/np/isbn/9784488629014" target="_blank">『沈んだ世界』</a><a href="http://www.tsogen.co.jp/np/isbn/9784488629045" target="_blank">『狂風世界』</a><a href="http://www.tsogen.co.jp/np/isbn/9784488629021" target="_blank">『結晶世界』</a>など――がそうだ。あるいはスティーヴン・キングの大作<a href="http://www.amazon.co.jp/gp/redirect.html?ie=UTF8&location=http%3A%2F%2Fwww.amazon.co.jp%2F%25E3%2582%25B6%25E3%2583%25BB%25E3%2582%25B9%25E3%2582%25BF%25E3%2583%25B3%25E3%2583%2589-1-%25E6%2596%2587%25E6%2598%25A5%25E6%2596%2587%25E5%25BA%25AB-%25E3%2582%25B9%25E3%2583%2586%25E3%2582%25A3%25E3%2583%25BC%25E3%2583%25B4%25E3%2583%25B3%25E3%2583%25BB%25E3%2582%25AD%25E3%2583%25B3%25E3%2582%25B0%2Fdp%2F4167661624&tag=wwwtsogecojp-22&linkCode=ur2&camp=247&creative=1211" target="_blank">『ザ・スタンド』</a>
、ロバート・Ｒ・マキャモンの<a href="http://www.amazon.co.jp/gp/redirect.html?ie=UTF8&location=http%3A%2F%2Fwww.amazon.co.jp%2Fs%3F__mk_ja_JP%3D%2583J%2583%255E%2583J%2583i%26url%3Dsearch-alias%253Dstripbooks%26field-keywords%3D%2583X%2583%258F%2583%2593%2581E%2583%255C%2583%2593%2583O%26x%3D0%26y%3D0&tag=wwwtsogecojp-22&linkCode=ur2&camp=247&creative=1211" target="_blank">『スワン・ソング』</a>
、小松左京の<a href="http://www.amazon.co.jp/gp/redirect.html?ie=UTF8&location=http%3A%2F%2Fwww.amazon.co.jp%2F%25E5%25BE%25A9%25E6%25B4%25BB%25E3%2581%25AE%25E6%2597%25A5-%25E3%2583%258F%25E3%2583%25AB%25E3%2582%25AD%25E6%2596%2587%25E5%25BA%25AB-%25E5%25B0%258F%25E6%259D%25BE-%25E5%25B7%25A6%25E4%25BA%25AC%2Fdp%2F4894563738%3Fs%3Dbooks%26ie%3DUTF8%26qid%3D1306649934%26sr%3D1-1&tag=wwwtsogecojp-22&linkCode=ur2&camp=247&creative=1211" target="_blank">『復活の日』</a>
……破滅ＳＦとか終末ホラーと呼ばれる作品は、挙げていけば枚挙にいとまがない。小さな天体の地球への衝突という点だけとっても、映画<a href="http://www.amazon.co.jp/gp/redirect.html?ie=UTF8&location=http%3A%2F%2Fwww.amazon.co.jp%2Fs%3F__mk_ja_JP%3D%2583J%2583%255E%2583J%2583i%26url%3Dsearch-alias%253Ddvd%26field-keywords%3D%2583A%2583%258B%2583%257D%2583Q%2583h%2583%2593%26x%3D10%26y%3D18&tag=wwwtsogecojp-22&linkCode=ur2&camp=247&creative=1211" target="_blank">《アルマゲドン》</a>
や<a href="http://www.amazon.co.jp/gp/redirect.html?ie=UTF8&location=http%3A%2F%2Fwww.amazon.co.jp%2F%25E3%2583%25A1%25E3%2583%2586%25E3%2582%25AA-%25E5%25AE%258C%25E5%2585%25A8%25E7%2589%2588-2%25E6%259E%259A%25E7%25B5%2584-DVD-%25E3%2582%25A2%25E3%2583%25BC%25E3%2583%258B%25E3%2583%25BC%25E3%2583%25BB%25E3%2583%2590%25E3%2583%25BC%25E3%2583%2590%25E3%2583%25A9%25E3%2583%2583%25E3%2582%25B7%25E3%2583%25A5%2Fdp%2FB002EWR1B8%3Fs%3Ddvd%26ie%3DUTF8%26qid%3D1306650106%26sr%3D1-1&tag=wwwtsogecojp-22&linkCode=ur2&camp=247&creative=1211" target="_blank">《メテオ》</a>などなど、これまた先行作品は多数だ。しかし、これらはあくまで「黙示録的」でしかない。黙示録に描かれるできごとが実際に起こる小説など、本書以外に思いつかない。<br />
　そして、この部分が圧巻なのだ。先に挙げた《アルマゲドン》や、あるいは<a href="http://www.amazon.co.jp/gp/redirect.html?ie=UTF8&location=http%3A%2F%2Fwww.amazon.co.jp%2Fs%3F__mk_ja_JP%3D%2583J%2583%255E%2583J%2583i%26url%3Dsearch-alias%253Ddvd%26field-keywords%3D%2583f%2583C%2581E%2583A%2583t%2583%255E%2581%255B%2581E%2583g%2583D%2583%2582%2583%258D%2581%255B%26x%3D0%26y%3D0&tag=wwwtsogecojp-22&linkCode=ur2&camp=247&creative=1211" target="_blank">《デイ・アフター・トゥモロー》</a>といった映画を思わせる破壊のスペクタクルが、世界を経めぐりながら、短い章で次々に描かれる。同時に、どう見ても科学的にありえないように見える黙示録中の災厄――例えば「ニガヨモギ」という星の落下によって川の三分の一が苦くなり人が死ぬ、といったような――が、合理的に説明されてゆくのだ。<br />
　前作でも数十年にわたるタイムスパンを大胆なカットバックで一気に描き切ったボーセニューのスピード感は健在。無慈悲でさえある語り口に乗って、世界は破壊されてゆく。ことに「第六のラッパ」とともに現出する人間たちの殺し合いのシークエンスでは、狂気の噴出がおそろしく乾いた筆致で描写されており、私はジェームズ・ハーバートの名作凶悪ホラー『霧』や、映画<a href="http://www.amazon.co.jp/gp/redirect.html?ie=UTF8&location=http%3A%2F%2Fwww.amazon.co.jp%2Fs%3F__mk_ja_JP%3D%2583J%2583%255E%2583J%2583i%26url%3Dsearch-alias%253Ddvd%26field-keywords%3D%258E%25F4%2589%2585%2581%2540%2583p%2583%2593%2583f%2583%257E%2583b%2583N%26x%3D0%26y%3D0&tag=wwwtsogecojp-22&linkCode=ur2&camp=247&creative=1211" target="_blank">《呪怨　パンデミック》</a>での不吉きわまりないシカゴ・パートを想起して背筋が冷たくなった。地球を覆う容赦なき大量死。<br />
　こうして世界が破滅の縁に立ったとき、ようやくクリストファーの出番がやってくる。彼は空席となっていた国連事務総長の地位にのぼりつめ、未曾有の危機に立ち向かおうとするが……<br />
<br />
　さて私は冒頭で「神をも畏れぬ」と記した。だが黙示録のできごとが実際に起こる、というだけでは「神をも畏れぬ」という言葉には当たらない。黙示録の災厄は神への畏怖を呼び起こすものであるからだ。<br />
　本書は主にふたつのパートから成っている。黙示録の災厄と、クリストファーが側近たるデッカー・ホーソーンとロバート・ミルナーを相手に行なう演説である。人間が無造作に殺戮されてゆく前者も当然衝撃的なのだが、「神をも畏れぬ」というのは後者。<br />
　これの詳細については触れない。圧倒的な破滅のスペクタクルののちに四十ページにわたって展開されるクリストファーの言葉に打たれていただきたい。<br />
　小説作法としてみると、本作は非常にバランスの悪い小説と言っていい。全世界での災厄のありさまを巨視的に叙述するパートが半分以上を占め、終盤以降はクリストファーの長い演説で埋め尽くされてしまうからだ。いびつといえばひどくいびつである。<br />
　だが、このクリストファーの言葉こそが本書のメイン・テーマに他ならない。<br />
　前作<a href="http://www.tsogen.co.jp/np/isbn/9784488552039" target="_blank">『キリストのクローン／新生』</a>でも、裏切り者とされるイスカリオテのユダをめぐる物語を筆頭に、聖書とイエス･キリストに関するさまざまな伝説が転倒された。それがもっと大規模にドラスティックに本書では行なわれる。ここで得られるスリルは、謎解きミステリのそれに非常に近い。クリストファーの長い語りは、名探偵が展開してみせる「謎解き」のようなものなのだ。<br />
　聖書の知識がない者でも常識として知っているさまざまなエピソード。それが、この「謎解き」によって、まったく違った相貌を見せる。この衝撃とスリルは相当のものだ。ことに日本の読者の多くは、これを素直に知的関心とともに読むことができるだろうと思う。<br />
　しかしアメリカの読者にとってはどうか。これはむちゃくちゃリスキーだったに違いない。本書にも前作<a href="http://www.tsogen.co.jp/np/isbn/9784488552039" target="_blank">『キリストのクローン／新生』</a>にも、著者による但し書きが本編開始前におかれている。それをもう一度、見返していただきたい。「こんなことをやろうとしていたから、こんな注意書きが要ったのか！」と納得されるだろう。それくらい、とんでもない話なのです。<br />
　だが、これまで描かれていたことのすべては、この演説のためにあったと言っていい。前作での理不尽なテロと愚かしい戦乱。本作での大量死の無残。これらは、このクリストファーの演説のためにあった。この演説があるからこそ、戦争とテロは歴史上ずっとそうだったように理不尽で愚かしくなければならなかった。だからこそ、黙示録ではほんのわずかな文字数でさらりと描かれるのみの非情な災厄が現実にはどれほど凄惨であるのかを、詳細に描かなければならなかった。すべてはこの演説の瞬間のためにあったのだ。<br />
　確かに、この長広舌は構成上、バランスを狂わせているように見える。しかしここには異常な熱気がこもっている。読む者に構成など些事なことと思わせてしまう魔力がある。それは、ここにボーセニューのテーマの核心があるからに他ならない。そして、ボーセニューが描いてきた戦乱と災厄と絶望を経験しているからこそ、私たちは息をつめてクリストファーの言葉に耳を傾けるのである。その恐るべき言葉に。<br />
　神をも畏れぬ作品。本作はそういう小説なのだ。<br />
<br />
　《キリストのクローン》三部作のなかでもっとも短い本作は、内容こそ強烈だが、第一作<a href="http://www.tsogen.co.jp/np/isbn/9784488552039" target="_blank">『キリストのクローン／新生』</a>と第三作をブリッジする間奏曲のようなものとみるべきかもしれない。<br />
　第一作同様の尺を持つ第三作にして完結編<i>Acts of God</i>（創元推理文庫近刊）では、ついに「救世主」としての本格的な一歩を踏み出したクリストファーの姿が描かれる。これまで封印していた「神の子」としての力とカリスマ性を武器に、彼は「敵」に立ち向かう。物語はさらにスケールを拡げ、苛烈な戦乱の果てに、これまでの物語のあちこちに残されていた謎が解かれることになる。<br />
　二千年の時を経て再生を果たしたイエス・キリストが、破壊と絶望に覆われた黙示録の世界に希望をもたらすべく動き出す……<br />
<br />
　<strong>が、しかし。</strong><br />
<br />
　本稿を閉じるにあたって、その六文字を最後に記しておこう。<br />
　なぜって？　あなたの予想は必ずや裏切られることになるからである。<br />
<br />
</p>
<div align="right">（2011年6月）</div>
<hr color="gray" size="1">
<font color="navy">■ <b>霜月蒼</b>（しもつき・あおい）</font><br />
慶應義塾大学推理小説同好会ＯＢ。ミステリ研究家。<br />
<br />
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    <title>小森収／シャーロット・アームストロング『魔女の館』解説［全文］（1／2）［2010年12月］</title>
    <link rel="alternate" type="text/html" href="http://www.webmysteries.jp/translated/komori1012-1.html" />
    <id>tag:www.webmysteries.jp,2010://6.922</id>

    <published>2010-12-15T12:25:49Z</published>
    <updated>2010-12-15T06:56:43Z</updated>

    <summary>ヒロインが冒険に乗り出し、 ヒロインによって打ち負かされることで、ポジティヴな勝利をもたらす。 『魔女の館』の美点はそこにあります。 名手が贈る円熟の長編サスペンス。 （10年12月刊『魔女の館』解説...</summary>
    <author>
        <name>東京創元社</name>
        
    </author>
    
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        <![CDATA[<font style="FONT-SIZE: 1.25em">ヒロインが冒険に乗り出し、<br>
ヒロインによって打ち負かされることで、<br>ポジティヴな勝利をもたらす。<br>
『魔女の館』の美点はそこにあります。<br />
<b><font style="FONT-SIZE: 1.25em" color="brown">名手が贈る円熟の長編サスペンス。</font></b><br /><font style="FONT-SIZE: 0.75em">
（10年12月刊<a href="http://www.tsogen.co.jp/np/isbn/9784488263058" target="_blank">『魔女の館』</a>解説［全文］）</font><br /><br /><b><font color="brown" style="FONT-SIZE: 1.25em">小森収</font></b>　osamu KOMORI<br />
<hr color="black" size="1">

<p>　</p>
<div style="FLOAT: right; WIDTH: 155px"><a href="http://www.tsogen.co.jp/np/isbn/9784488263058" target="_blank"><img height="201" alt="魔女の館" hspace="12" src="http://www.tsogen.co.jp/img/cover_image_m/26305.jpg" width="138" vspace="10" border="1" /> 
<div style="TEXT-ALIGN: center"><img height="18" alt="書籍の詳細を見る" src="http://www.webmysteries.jp/images/shosekishosai.jpg" width="100" border="0" /></div></a></font></div>


<p><font size="3">
<a href="http://www.tsogen.co.jp/np/isbn/9784488263058" target="_blank">『魔女の館』</a>は1963年の作品で、シャーロット・アームストロングの中では中期の作品となります。最初に邦訳が出たのは1996年。瀬戸川猛資のトパーズプレスから刊行されていた、〈シリーズ百年の物語〉の一巻でした。この叢書には、のちに創元推理文庫に入ることになる、マーク・マクシェーンの<a href="http://www.tsogen.co.jp/np/isbn/9784488175047" target="_blank">『雨の午後の降霊術』</a>や、デイヴィス・グラッブの<a href="http://www.tsogen.co.jp/np/isbn/9784488237028" target="_blank">『狩人の夜』</a>などが並んでいました。本書もその文庫化ですが、今回、訳者によってさらに手が加えられているようです。<br>
　シャーロット・アームストロングはアメリカの作家で、サスペンス小説家と見られることが多いようです。1956年の『毒薬の小壜』がＭＷＡ賞を獲りました。訳者にめぐまれなかった、このころのアームストロングでは、これだけが小笠原豊樹訳だったこともあって、日本でもこれが代表作とされています。<br>
『魔女の館』は、大学講師のオシーが、同じ大学の教授アダムズの不正を嗅ぎつけるところから始まります。ある苦学生が盗んだとされている、大学の高価な備品を、アダムズが隠し持っているのを見つけたのです。自動車で大学を出るアダムズを、オシーも車で追跡します。時は月曜の夕刻。郊外のごみ捨て場でふたりは対決することになります。一方、オシーの妻のアナベル、アダムズと亡妻とのあいだの娘ヴィーが、家人の帰宅の遅れに胸を痛めます。アナベルは警察に連絡しますが、警察の動きは鈍く、大学の学長ドリンクウォーターは、不名誉な騒動に発展しないかという点を危惧するばかりです。ふたりが共産圏のスパイだったという妄想を振りまく口の軽い学生まで登場します。周囲の心配をよそに、アダムズはオシーを殺したと思い込んで姿を消し、大怪我を負ったオシーは、気がつくと近所の一軒家にいます。しかし、その家の主はあたりでは魔女と呼ばれているエキセントリックな老婆でした。彼女は息子を奪われ、どこかに連れ去られたと考えているようですが、あろうことか、オシーをようやく帰って来た息子と思い込み、二度と連れ去られないように、彼を助けたことを誰にも内緒にして、自分だけのものにしようとするのです。怪我で動けないオシーは、満足な治療も与えられないまま、軟禁状態となってしまいます。<br>
　これまでも折にふれて主張してきましたが、サスペンス小説というレッテルは、アームストロングには不似合いだと私は考えています。追跡型のミステリ、もっと言えば、軟派の冒険小説という方が、よほど中身を伝えていると思います。軟派の冒険小説というのは、アンドリュウ・ガーヴを評して、瀬戸川猛資が使った言葉です。具体的に見ていきましょう。<br>
『疑われざる者』（46年）は、社会的な地位も名声もあり、しかし、陰では殺人者である男の正体を暴露するために、共通の友人がその犠牲者となった主人公の男女ふたりが、男の屋敷に潜り込む話でした。『見えない蜘蛛の巣』（48年）は、先妻を謀略によって殺すことで、著名な画家の妻となった女が、忘れ形見の青年をも毒牙にかけようとしていることに、ただひとりだけ気づいたヒロインが、画家の家に招待された機会をとらえて、青年に警告を発し、さらにはふたりでその計略を防ごうとする物語でした。『夢を喰う女』（55年）は、自分の身内である老人に仕掛けられた大がかりな罠と、そのからくりを暴き粉砕する経緯を、主人公の女性が語ります。『毒薬の小壜』（56年）は、毒薬の入ったオリーヴ油の小壜が紛失し、自分に係わりのある誰かが、それを飲むかもしれないと怖れた人々が、連れ立ってその小壜を追跡しました。『サムシング・ブルー』（62年）は、事故死したはずの母親が実際は殺人の被害者で、母親を殺した犯人を、それと知らないままに恋してしまい、彼と結婚しようとする女性を、その男の手から守るために、過去の事件まで遡って真相をつきとめ、結婚を阻止しようとする男女の冒険でした。<a href="http://www.tsogen.co.jp/np/isbn/9784488263010" target="_blank">『始まりはギフトショップ』</a>（67年）は、目前に迫ったあるギャングの死刑を中止させるため、脅迫の材料にと、州知事の父親のご落胤を誘拐しようとする一味を相手に、一家の落ちこぼれの末弟が、事件の鍵となる豚の貯金箱を売った空港のギフトショップの店員の娘とともに、ワールドワイドな貯金箱探索レースを始めました。<a href="http://www.tsogen.co.jp/np/isbn/9784488263041" target="_blank">『風船を売る男』</a>(68年)は、ドラッグ中毒の夫の暴力から、子どもとふたり逃れようとするヒロインが、息子を溺愛する夫の両親が孫の養育権を得るために放った、舌先三寸の山師まがいの男の策略の網を潜り抜けていく話でした。<br>
　こうして見ていくと、アームストロングの小説が、虎穴に入らずんば虎子を得ずとばかりに、あるいは、降りかかる火の粉は払わねばならぬとばかりに、日常生活のただ中から、冒険に乗りだしていく話だとお分かりでしょう。たいていは愛する人を救うために。さらには、主人公が複数であることにも気づきましたか？　例外は『風船を売る男』の孤軍奮闘するヒロインですが、そのことは、またあとで触れます。<br>
　これらの作品を、サスペンス小説のお手本ともいうべき、ウィリアム・アイリッシュの『幻の女』と比較すると、より分かりやすいかもしれません。『幻の女』は死刑になりそうな親友のために、彼の無実の証人となる幻の女を捜していく話ですが、力点が置かれているのは、女を見ているはずの人間が見ていないと言ったり、探索の過程で次から次へと目撃者たちが死んでいく、そのサスペンスです。意外性の有無とか隠された事実があるという以前に、何がストーリイを駆動させていくかが異なっているのです。翻訳のあるアームストロング作品で、唯一毛色が異なるのは、マリリン・モンローで映画になった『ノックは無用』（50年）です。これは一種のサイコパスを扱っていて、サスペンス小説になっても不思議はありません。しかし、そうはならないのは、狂気をはらんだベビーシッターの被害者となる娘やその家族、あるいはベビーシッターの義兄よりも、その場に居合わせることになった男の右往左往に、小説の力点が置かれているからです。出来上がったものは、他のアームストロングとは一風変わったものであると同時に、サスペンス小説としても異色の、舞台劇でいうドア・コメディを思わせる、オフビートな内容になっていました。<br>
<ul class="pageNavi"> 
<li class="caption">続きを読む……</li> 
<li><a class="current" href="http://www.webmysteries.jp/translated/komori1012-1.html">1</a></li> 
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</ul> 
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    </content>
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<entry>
    <title>近藤麻里子／シャーロット・アームストロング『魔女の館』訳者あとがき［2010年12月］</title>
    <link rel="alternate" type="text/html" href="http://www.webmysteries.jp/translated/kondo1012.html" />
    <id>tag:www.webmysteries.jp,2010://6.910</id>

    <published>2010-12-05T15:42:49Z</published>
    <updated>2010-12-06T19:15:51Z</updated>

    <summary>本書『魔女の館』が日本の読者に紹介されるのはこれで2度目になります。 名手が贈る円熟の長編サスペンス。 （10年12月刊『魔女の館』訳者あとがき［全文］）近藤麻里子　mariko KONDO 　   ...</summary>
    <author>
        <name>東京創元社</name>
        
    </author>
    
        <category term="840 海外ミステリ出張室" scheme="http://www.sixapart.com/ns/types#category" />
    
    
    <content type="html" xml:lang="ja" xml:base="http://www.webmysteries.jp/">


   
      
        <![CDATA[<font style="FONT-SIZE: 1.25em">本書『魔女の館』が日本の読者に紹介されるのは<br>これで2度目になります。<br />
<b><font style="FONT-SIZE: 1.25em" color="brown">名手が贈る円熟の長編サスペンス。</font></b><br /><font style="FONT-SIZE: 0.75em">
（10年12月刊<a href="http://www.tsogen.co.jp/np/isbn/9784488263058" target="_blank">『魔女の館』</a>訳者あとがき［全文］）</font><br /><br /><b><font color="brown" style="FONT-SIZE: 1.25em">近藤麻里子</font></b>　mariko KONDO<br />
<hr color="black" size="1">

<p>　</p>
<div style="FLOAT: right; WIDTH: 155px"><a href="http://www.tsogen.co.jp/np/isbn/9784488263058" target="_blank"><img height="201" alt="魔女の館" hspace="12" src="http://www.tsogen.co.jp/img/cover_image_m/26305.jpg" width="138" vspace="10" border="1" /> 
<div style="TEXT-ALIGN: center"><img height="18" alt="書籍の詳細を見る" src="http://www.webmysteries.jp/images/shosekishosai.jpg" width="100" border="0" /></div></a></font></div>


<p><font size="3">
　本書<a href="http://www.tsogen.co.jp/np/isbn/9784488263058" target="_blank">『魔女の館』</a>が日本の読者に紹介されるのはこれで2度目になります。最初は1996年。ミステリ・映画評論家の瀬戸川猛資さんが設立した出版社トパーズプレスから、「シリーズ百年の物語」の第6作として拙訳で出版されました。そして今回、装いも新たに東京創元社から文庫として世に出ることになったわけです。<br>
　この本が最初にアメリカで出版されたのは1963年。前年にキューバ危機が起きていますから、冷戦もたけなわの頃です。それから約90年後に日本で翻訳出版され、十数年の時を経て再び改訳出版されるという軌跡そのものが、この本の持つ力、読み継がれるべき魅力を証明しているのではないでしょうか。<br>
　トパーズプレスから翻訳のお話をいただき、初めて瀬戸川猛資さんにお会いしたとき、「忘れられた過去の作品の中から面白いものを掘り起こして日本の読者に紹介したい。『百年の物語』というシリーズ名は、百年経っても面白く読める本、という意味なんです」と、駈け出しの翻訳者を相手に目を輝かせて話してくださった瀬戸川さんの生き生きとした表情が、今も強く印象に残っています。<br>
　十数年ぶりに読み返してみて、前は気づかなかった作者の人間描写の深みや温かさに改めて感じ入りました。出番の少ない脇役の一人一人に至るまで疎かにされることがなく、それぞれの人生を生きている一人の人間としての存在感を持っています。特に今回は（自分も年を取ったせいか）大学の学長と商店主の、二人の中年男のぼやきには苦笑を誘われました。孤独の果てに「魔女」となってしまった老婆によせる作者の温かい視線にも共感を覚えます。幅広い年齢層と職業の人物を登場させ、味わいのある人間描写を繰り広げながら、サスペンスとしても間然するところがない。徐々に緊迫感を高め、終盤一気に物語を動かす展開の妙は見事のひとことです。この作品は「サスペンスの女王」と呼ばれた作者の円熟の境地を示す一冊であるのは間違いないでしょう。<br>
　余談になりますが、先頃東京創元社から出版された<a href="http://www.tsogen.co.jp/np/isbn/9784488263041">『風船を売る男』</a>は、「面白そうだから読んでおいて」と瀬戸川さんに渡された原書が底本です。「いつか出したいと思ってるから」と言われて手もとで温めていたあの本が十数年後に本当に世に出たことなど、今は故人となられた瀬戸川さんにご報告したい気持ちでいっぱいです。願わくは、本書が50年後も生き永らえ、「百年の物語」となっていますように。

<br />
</p>
<div align="right">（2010年12月）</div>
<hr color="gray" size="1">
<font color="navy">■ <b>近藤麻里子</b>（こんどう・まりこ）</font><br />
1961年宮城県生まれ。東京外国語大学卒業。英米文学翻訳家。主な訳書に、ストラウブ<a href="http://www.tsogen.co.jp/np/isbn/9784488593018">『ミスターＸ』</a><a href="http://www.tsogen.co.jp/np/isbn/9784488593056">『ヘルファイア・クラブ』</a>、アームストロング『風船を売る男』などがある。

<br />
<br />
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    </content>
</entry>

<entry>
    <title>霜月蒼／ジェイムズ・ボーセニュー『キリストのクローン／新生』解説［2010年10月］</title>
    <link rel="alternate" type="text/html" href="http://www.webmysteries.jp/translated/shimotsuki1010.html" />
    <id>tag:www.webmysteries.jp,2010://6.844</id>

    <published>2010-10-05T14:26:16Z</published>
    <updated>2011-05-29T06:33:50Z</updated>

    <summary>救世主としての宿命を背負った、しかしさしたる後ろ盾を持たない若者。そんな人物に、現在の世界において何ができるのか。 「ジーザス・クライスト・スーパーヒーロー」 （10年10月刊『キリストのクローン／新...</summary>
    <author>
        <name>東京創元社</name>
        
    </author>
    
        <category term="840 海外ミステリ出張室" scheme="http://www.sixapart.com/ns/types#category" />
    
    
    <content type="html" xml:lang="ja" xml:base="http://www.webmysteries.jp/">


   
      
        <![CDATA[<font style="FONT-SIZE: 1.25em">救世主としての宿命を背負った、<br />しかしさしたる後ろ盾を持たない若者。<br />そんな人物に、現在の世界において何ができるのか。<br />
<b><font style="FONT-SIZE: 1.25em" color="brown">「ジーザス・クライスト・スーパーヒーロー」</font></b><br /><font style="FONT-SIZE: 0.75em">
（10年10月刊<a href="http://www.tsogen.co.jp/np/isbn/9784488552039" target="_blank">『キリストのクローン／新生』</a>解説［全文］）</font><br /><br /><b><font color="brown" style="FONT-SIZE: 1.25em">霜月　蒼</font></b>　aoi SHIMOTSUKI<br />
<hr color="black" size="1">

<p>　</p>
<div style="FLOAT: right; WIDTH: 155px"><a href="http://www.tsogen.co.jp/np/isbn/9784488552039"><img height="201" alt="キリストのクローン／新生" hspace="12" src="http://www.tsogen.co.jp/img/cover_image_m/55203.jpg" width="138" vspace="10" border="1" /> 
<div style="TEXT-ALIGN: center"><img height="18" alt="書籍の詳細を見る" src="http://www.webmysteries.jp/images/shosekishosai.jpg" width="100" border="0" /></div></a></font></div>


<p><font size="3">
　驀進するジェットコースター。本書はそんな小説である。じつのところ真摯な問題意識が根底には仕掛けられてはいる。けれどもとりあえずは座席に座り、ジェイムズ・ボーセニューの操縦による上下二巻・六〇〇ページ超におよぶハイスピード・ライドを無心に楽しむのが吉だ。<br />
　このアトラクションをかたちづくるのは、マイクル・クライトンを思わせる科学奇想と、トム・クランシーばりの世界規模のクライシスとパワーゲーム、そしてダン・ブラウンに通じるキリスト教トリビア。そこに思いつくかぎりのアイデアがぶちこまれている。<br />
　まさに波乱万丈、嵐のようなスペクタクル小説なのだ。そしてそのなかで、さまざまな聖書にまつわる謎が大胆不敵なＳＦ的仮説によって解明されてゆく。例えば――<br />
・聖骸布の年代が然るべき年代から千数百年もずれているのはなぜか。<br />
・映画<a href="http://www.amazon.co.jp/gp/product/B0015U3N4Y?ie=UTF8&tag=wwwtsogecojp-22&linkCode=as2&camp=247&creative=1211&creativeASIN=B0015U3N4Y" target="_blank">《レイダース　失われた聖櫃》</a><img src="http://www.assoc-amazon.jp/e/ir?t=wwwtsogecojp-22&l=as2&o=9&a=B0015U3N4Y" width="1" height="1" border="0" alt="" style="border:none !important; margin:0px !important;" />にも登場した約櫃とはどんなものであり、失われたとされるそれは、どこにあるのか。<br />
・キリストを売って処刑台に送り込んだ「裏切者」とされる十二使徒のひとりユダは、ほんとうに裏切者だったのか。<br />
　などなど――。これはそういう一大エンタテインメント大作なのだ。スピード感とド派手なイベントの連続にめまいさえ起こしそうになる二時間を保証しよう。<br />
　シートベルトをきっちり締めるのをお忘れなく。<br />
<br />
　本書はジェイムズ・ボーセニューのChrist Clone Trilogy 第一作、In His Image（1997, Selective House→2003, Warner Books）の全訳である。残る二作、Birth of an Age （1997→2003, Warner Books）、Acts of God（1998→2004, Warner Books）も、創元推理文庫から近刊の予定である。<br />
　物語は一九七〇年代末、アメリカの科学者チームが、処刑されたイエス・キリストの遺骸を包んだとされる《トリノの聖骸布》の科学的調査に向かうところからはじまる。<br />
　本三部作の主人公デッカー・ホーソーンはアメリカのローカル紙の記者だったが、かつての恩師ハロルド・グッドマン教授のアシスタントとして、この調査チームにもぐりこむことに成功、彼は唯一のジャーナリストとして聖骸布の調査を見守る……。<br />
　その結果は数年かけて報告書にまとめられた。聖骸布には磔刑のものらしき傷を負った男の姿が写しとられている。これがどうやって為されたのかは不明だったものの、そこに写る傷痕付近のしみは、人間の血液であると結論していた。<br />
　しかし、こののちの一九八八年に行われた鑑定で、聖骸布は一二六〇年から一三九〇年のあいだにつくられたものだと結論された。これではキリストの処刑の時期とあまりにも離れすぎている……<br />
　著者は、ここまでは史実に沿って物語を紡いでいる。たしかにトリノの聖骸布は科学的調査がなされ、炭素14の測定の結果、まさにそのとおりの結果を得ていた。だが――<br />
　ハロルド・グッドマンは聖骸布から、いまもなお活動しつづける細胞を得ていたのだ。彼はデッカーに、キリストは異星人ではなかったかという仮説を披露した。だからその細胞は死滅せずにいる。グッドマンは、この細胞の研究に没頭した。<br />
　その研究が発表段階にいたったとの報を受けたデッカーがグッドマンの家で会ったのはクリストファーという男の子だった。グッドマンは甥をひきとったのだと説明するが、デッカーは気づいた――クリストファー（Christopher）はキリスト（Christ）の細胞をクローニングして生まれた子ども、つまりイエス・キリストなのだと……。<br />
　ここまででわずか一〇〇ページ弱。作中時間で二〇年が経過。ここで物語は一挙に走り出す――が、この先の「あらすじ」を記すのは自粛すべきだろう。<br />
　とにかく派手なイベントのつるべ打ちに圧倒される。デッカーは早々にイスラエルでの未曾有のテロ攻撃を目の当たりにし、次いで個人的に非常な生命の危機にさらされる。そこをどうにか脱したと思いきや、今度は巨大な災厄が世界を襲うのである。<br />
　うちつづく戦火。原因不明の災厄。テロリズム。大国のパワーゲーム。それボーセニューはトム・クランシーばりの筆致とマクロな視点で描き出してゆく。一触即発のカオスと化した世界で、キリストのクローンたるクリストファーが徐々に頭角を現わしてゆくさまが、本書の軸になってゆく。<br />
　救世主としての宿命を背負った、しかしさしたる後ろ盾を持たない若者。そんな人物に、現在の世界において何ができるのか。危機の渦中にある世界で、現実に「救世主」としてふるまうにはどうすればいいのか――。つまり本書は、「イエス・キリスト」が、一介の聡明な若者から、世界を救いうるヒーローになるまでを語る小説なのだ。<br />
　じつのところ、「キリストのクローン」という着想自体には先例がある。トマス・Ｆ・モンテルオーニのブラム・ストーカー賞受賞の傑作<a href="http://www.amazon.co.jp/gp/product/4594023177?ie=UTF8&tag=wwwtsogecojp-22&linkCode=as2&camp=247&creative=1211&creativeASIN=4594023177" target="_blank">『聖なる血』</a><img src="http://www.assoc-amazon.jp/e/ir?t=wwwtsogecojp-22&l=as2&o=9&a=4594023177" width="1" height="1" border="0" alt="" style="border:none !important; margin:0px !important;" />（扶桑社ミステリー）がそれで、ここでもトリノの聖骸布から採取したキリストの血をもとにキリストがクローニングされる。「イエスの遺伝情報」ということであれば、ＳＦ系エンタテインメント作家マイケル・コーディの<a href="http://www.amazon.co.jp/gp/product/419891267X?ie=UTF8&tag=wwwtsogecojp-22&linkCode=as2&camp=247&creative=1211&creativeASIN=419891267X" target="_blank">『イエスの遺伝子』</a><img src="http://www.assoc-amazon.jp/e/ir?t=wwwtsogecojp-22&l=as2&o=9&a=419891267X" width="1" height="1" border="0" alt="" style="border:none !important; margin:0px !important;" />（徳間書店）が、題名どおり、イエス・キリストの遺伝子によって死の病に立ち向かおうとする男を描く物語だった。<br />
　神性をもつ者でありつつ一個の人間として存在した、というのがイエス・キリストの大きな特徴だ。トリノの聖骸布や、処刑の際にキリストの身体を刺し貫いたロンギヌスの槍といったモノも（伝説的なものであれ）存在する。つまり「キリストの血」の入手ルートが存在しうるわけで、そこから「キリストの遺伝情報の入手」まではほんの半歩だ。<br />
　だから問題は、「キリストのクローン」でどんな物語を紡ぐのか、ということになってゆく。ジェイムズ・ボーセニューが描くのは、いわばトム・クランシーが語り直した「ヨハネによる黙示録」である。いまの世界のリアリズムのなかで、「黙示録」で予言されていた出来事が発生したらどうなるのか。それが本書にはじまる三部作で描かれてゆく。つまり本三部作は直球勝負。キリスト教における「救世主」と「黙示録」を、国際謀略スリラーの枠組みで語りなおそうとする試みなのだ。いや、むしろこう言うべきか、「救世主」と「黙示録」を現在のリアリズムに準じて真正面から描いたなら、それはＳＦ要素をはらんだ国際謀略スリラーにならざるを得ないと。そしてそんな物語を書くのに、ジェイムズ・ボーセニューという作家は完璧な人選だった。<br />
　一九五三年に生まれたジェイムズ・ボーセニューは、アメリカ合衆国国家安全保障局の情報分析官として勤務した経験を持ち、戦略防衛関係の著作もある。本書でイスラエルを舞台としたロシア、中東、イスラエル・ゲリラの死闘がディテール豊かに描かれるのは、そんな経験ゆえのことだろう。一九八〇年には共和党の下院議員候補としてアル・ゴアと議席を争ったこともあり、こうした政界とのパイプが、国連内部のパワーゲームを描く後半のパートに活きている。<br />
　デッカー同様、テネシー州ノックスヴィルのローカル紙に（発行人でもあるが）多数の記事を寄稿、はじめての小説作品が《キリストのクローン》三部作だった。ちりばめられたキリスト教にまつわるトリビアから、一見すると<a href="http://www.amazon.co.jp/gp/product/4047914746?ie=UTF8&tag=wwwtsogecojp-22&linkCode=as2&camp=247&creative=1211&creativeASIN=4047914746" target="_blank">『ダ・ヴィンチ・コード』</a><img src="http://www.assoc-amazon.jp/e/ir?t=wwwtsogecojp-22&l=as2&o=9&a=4047914746" width="1" height="1" border="0" alt="" style="border:none !important; margin:0px !important;" />に影響を受けて書かれたもののように思われるが、発表はそれにはるかに先立つ一九九七年。小出版社Selective Houseでまず刊行されたのち、『ダ・ヴィンチ・コード』が刊行された二〇〇三年に大手のWarner Booksから再刊行された。<br />
　そんな著者ボーセニューはキリスト教についてどういうスタンスでいるのか。ネットで検索すれば、そのあたりを著者自身が語るインタビュー記事などが容易に見つかる。しかし、強烈な驚愕が仕掛けられた第二作、第三作のショックを損なう可能性があるので、本稿では記さずにおきたい。それくらい、続く二作は大胆不敵な物語になっているのだ。<br />
　本書『キリストのクローン／新生』は、キリストのクローンたるクリストファー・グッドマンがヒーローとして活躍できる地位を得るまでの物語だった。すでに十分世界は暴力的なカオスになっているが、これが第二作に入るとさらにエスカレートする。「黙示録」の世界が一挙に本格的に顕現するのだ。そこでクリストファーが明かす自身の「役割」。驚天動地とはこのことだろう。これを読めば、なぜボーセニューが本書のまえがきにあんなことを書いたのか理解できるだろう。おそろしく大胆というか挑発的なのです。<br />
　そして、それを引き継ぐ第三作。暴虐と悲惨に覆われた暗黒の世界のただ中で告げられる真相たるや！　読者はここで、第一作にはじまる物語がまったく別のものに変じるのを目にすることになるはずだ。それは第三作の原題どおり、「神の御業　Act of God」の空恐ろしさを余すことなく描くものだと言っていいだろう。<br />
　刊行を鶴首してお待ちいただきたい。
<br />
</p>
<div align="right">（2010年10月）</div>
<br />編集部追記：第二作は<a href="http://www.tsogen.co.jp/np/isbn/9784488552053" target="_blank">『キリストのクローン／真実』</a>として創元推理文庫より2011年6月刊行された。
<br />
<hr color="gray" size="1">
<font color="navy">■ <b>霜月蒼</b>（しもつき・あおい）</font><br />
慶應義塾大学推理小説同好会ＯＢ。ミステリ研究家。<br />
<br />
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    </content>
</entry>

<entry>
    <title>川出正樹／キャロル・オコンネル『愛おしい骨』解説（1/2）［2010年9月］</title>
    <link rel="alternate" type="text/html" href="http://www.webmysteries.jp/translated/kawade1009-1.html" />
    <id>tag:www.webmysteries.jp,2010://6.795</id>

    <published>2010-09-07T03:10:00Z</published>
    <updated>2010-09-07T05:46:40Z</updated>

    <summary>夏の日に天使は還る―― “あの日”何が起きたのか？　心に傷を負ったものたちが織りなす 狂おしいまでの愛の物語 （10年9月刊　キャロル・オコンネル『愛おしい骨』解説） 川出正樹　masaki KAWA...</summary>
    <author>
        <name>東京創元社</name>
        
    </author>
    
        <category term="840 海外ミステリ出張室" scheme="http://www.sixapart.com/ns/types#category" />
    
    
    <content type="html" xml:lang="ja" xml:base="http://www.webmysteries.jp/">


   
      
        <![CDATA[<b><font style="FONT-SIZE: 1.25em">夏の日に天使は還る――</font></b>
<br />“あの日”何が起きたのか？　心に傷を負ったものたちが織りなす<br />
狂おしいまでの愛の物語<br />
（10年9月刊　キャロル・オコンネル『愛おしい骨』解説）<br /><br />
<font color="brown"><b><font style="FONT-SIZE: 1.25em">川出正樹</font></b>　masaki KAWADE</font> 
<hr color="black" size="1">

<p>　</p>
<div style="FLOAT: right; WIDTH: 150px"><font size="3"><a href="http://www.tsogen.co.jp/np/isbn/9784488195120"><img height="196" alt="愛おしい骨" hspace="12" src="http://www.tsogen.co.jp/img/cover_image_m/19512.jpg" width="138" vspace="10" border="1" /> 
<div style="TEXT-ALIGN: center"><img height="18" alt="書籍の詳細を見る" src="http://www.tsogen.co.jp/img/shosekishosai.jpg" width="100" border="0" /></div></a></font></div>
<p>　「町とは家族のようなものだ」<br />
　　　　スティーヴン・ドビンズ『死せる少女たちの家』</p>
<p>　「愛と憎しみとは、あまりに近い関係にあるので、時と場合によっては区別さえつかなかったりする」<br />
　　　　　　　　　オットー・ペンズラー編『愛の殺人』<br /></p>
<p><br /></p>
<p>　　　　　１<br />
<br />
　キャロル・オコンネルが還ってきた！<br />
　誘拐された少女と心に傷を持つ刑事を主人公とした超絶技巧のサスペンスであると同時に、愛と救済と贖罪（しょくざい）の物語でもある奇蹟のような傑作<b>『クリスマスに少女は還る』</b>（1998）から早十一年。<br />
　長かった。待ち遠しかった。正直、もう二度と彼女のノン・シリーズ作品は読めないんじゃないかと諦（あきら）めかけていた。そんな折、十年ぶりのシリーズ外作品となる<b>Bone by Bone</b>（2008）を発表したというニュースに巡り会う。思わぬ吉報に心が躍った。けれども、オコンネルの代名詞とも言える《キャシー・マロリー・シリーズ》の翻訳すら、2005年の第五作<b>『魔術師の夜』</b>（1999）を最後にストップしていることを考えると、これを日本語で読むことはかなわないだろうな、と勝手に悲観してしまっていた。<br />
　だが、それは杞憂（きゆう）に過ぎなかった。最新作<b>『愛おしい骨』</b>をひっさげて、キャロル・オコンネルは日本の読者の前に還ってきた！　しかも、一段と巧（うま）くなって。<br />
　独創的なキャラクター、精緻（せいち）にして複雑なプロット、興味を掻き立ててやまない語り口、幻想感を漂わせながらうねり脈打つ文章。これらすべてに磨きをかけて、オコンネル作品全般に共通するテーマ――「人は愛する者のために、どれだけのことができるのか」――を核に生み出された本書<b>『愛おしい骨』</b>は、現時点でのオコンネルの集大成であるとともに、現代ミステリの大いなる収穫であり、さらに言えば読む者の心の琴線（きんせん）に触れる〈狂おしいまでの愛の物語〉でもある。<br />
　自信を持って断言しよう。<b>およそ〈物語〉が好きな人であるならば、この本を読まないという選択肢はない</b>。ミステリに興味がないとか、翻訳小説が苦手だとか、そんな些細（ささい）なことは関係ない。この小説の懐は、とてもとても深いのだ。</p>
<p><br /></p>
<p>　　　　　２<br /><br />
　では一体、どんな話なのかというと――<br />
<br />
　舞台はカリフォルニア州北西部に位置する、広大な森に隣接した小さな町コヴェントリー。そこは、半径三十キロ以内に携帯電話の中継塔がひとつもなく、時間と距離が、“カラスが飛ぶように”ではなく、“カタツムリに翼があったなら”という言い回しで計られ、表されるような、ゆったりとした時が流れるスモールタウンだ。これまでに多くのよそ者たちが人生をやり直すために、あるいは追跡を逃れてゆっくり休むために、この“安全な我が家（セーフ・ハウス）”のような場所に引き寄せられ、骨を埋めてきた。<br />
　物語は、主人公のオーレン・ホッブズが、深い痛みと夜の恐怖と人生最良の時を与えてくれたこの故郷の家に、二十年ぶりに帰還する場面で幕を開ける。幼い頃に死んだ母の代わりにオーレンと弟ジョシュアを育ててくれた家政婦ハンナ・ライス。彼女に乞われて還ってきたオーレンを迎えてくれたのは、当のハンナと元判事である父ヘンリー、まるで時が止まったかのように“あの日”と同じ状態に保たれた我が家、そしてジョシュアの“骨”だった。<br />
　二十年前の夏、当時十七歳だったオーレンは三つ年下の弟ジョシュアとともに森に行った。けれどもその夜帰宅したのはオーレン一人だけ。ジョシュアは“あの日”を最後に姿を消してしまったのだ。<br />
　その弟が、いまになってうちに帰りだしている。骨になって、ひとつずつ。一体誰が何の目的で何ヶ月間にもわたって、深夜、玄関ポーチにジョシュアの遺骨を置き続けるのか？<br />
　だが問題はそれだけではなかった。陸軍の優秀な犯罪捜査官として、合衆国内はもとより世界中の紛争地域で数多くの遺体を目にしてきたオーレンは、この“贈り物”の中にジョシュア以外の骨が混じっていることに気づく。<br />
　さらに遺骨に残された痕跡から長い間どこかに埋められていたと判断した彼は、保安官事務所に通報。すると、失踪当時から事件の裏に何かが隠されているに違いない、と疑い続けてきたケイブル・バビット保安官は、事件当日のオーレンのアリバイが不自然だったことをちらつかせ、凄腕（すごうで）の捜査官だった彼に非公式に捜査に協力するよう要請してきた。<br />
　けれどもオーレンの方が役者が一枚上だった。保安官の言動から、彼が公に出来ない何かを隠していることを見抜いたオーレンは、逆に主導権を握り弟の死の真相を探り始める。それは、とりもなおさず町の人々の心の内に分け入り、その秘めたる想いを明らかにしていくことに他ならなかった。二十年の歳月を経て、今、止まっていた時計は再び時を刻み始める。</p>
<ul class="pageNavi">
<li class="caption">続きを読む……</li>
<li><a class="current" href="http://www.webmysteries.jp/translated/kawade1009-1.html">1</a></li>
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    </content>
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<entry>
    <title>礒部剛喜　ジョー・ウォルトン『英雄たちの朝』が暴き出す、第二次大戦下の隠された英国史（1/2）［2010年7月］</title>
    <link rel="alternate" type="text/html" href="http://www.webmysteries.jp/translated/isobe1007-1.html" />
    <id>tag:www.webmysteries.jp,2010://6.724</id>

    <published>2010-07-05T05:42:59Z</published>
    <updated>2010-07-02T06:42:42Z</updated>

    <summary> イギリスを全体主義社会に改造しようとする〈ファージング・セット〉というパワーエリートのグループには、実在のモデルがあった。礒部剛喜　tsuyoki ISOBE　（ＵＦＯ現象学者）    　  ●茂木...</summary>
    <author>
        <name>東京創元社</name>
        
    </author>
    
        <category term="840 海外ミステリ出張室" scheme="http://www.sixapart.com/ns/types#category" />
    
    
    <content type="html" xml:lang="ja" xml:base="http://www.webmysteries.jp/">


   
      
        <![CDATA[
<font style="FONT-SIZE: 1.25em"><b>
イギリスを全体主義社会に改造しようとする〈ファージング・セット〉というパワーエリートのグループには、実在のモデルがあった。</b></font><br /><br /><font color="brown"><b><font style="FONT-SIZE: 1.25em">礒部剛喜</font></b>　tsuyoki ISOBE</font>　<font style="FONT-SIZE: 1em">（ＵＦＯ現象学者）</font><br /> 
<hr size=1 color=gray>
 
<p>　</p> 
<p>●<a href="http://www.webmysteries.jp/translated/mogi1006.html">茂木健／ジョー・ウォルトン『英雄たちの朝　ファージングI』訳者あとがき［2010年6月］を読む【ここをクリック】</a></p> 
<p>●<a href="http://www.tsogen.co.jp/np/isbn/9784488279066" target="_blank">『暗殺のハムレット　ファージングII』（2010年7月新刊）の紹介ページ【ここをクリック】</a></p>  
<p>　</p> 
<p>　</p> 
<div style="FLOAT: right; WIDTH: 150px"><font size="3"><a href="http://www.tsogen.co.jp/np/isbn/9784488279059"><img height="196" alt="e英雄たちの朝" hspace="12" src="http://www.tsogen.co.jp/img/cover_image_m/27905.jpg" width="138" vspace="10" border="1" /> 
<div style="TEXT-ALIGN: center"><img height="18" alt="書籍の詳細を見る" src="http://www.tsogen.co.jp/img/shosekishosai.jpg" width="100" border="0" /></div></a></font></div> 
<p>
　<a href="http://www.tsogen.co.jp/np/isbn/9784488279059"><strong>『英雄たちの朝　ファージングI』</strong></a>を拝読しました。一読して驚かされたのは、この作品が改変された歴史を舞台にしたミステリであることにとどまらず、ジョージ・オーウェルの<a href="http://www.amazon.co.jp/gp/product/4151200533?ie=UTF8&tag=wwwtsogecojp-22&linkCode=as2&camp=247&creative=1211&creativeASIN=4151200533"><strong>『一九八四年』</strong></a>の末裔に位置するディストピア小説であると同時に、イギリス人の歴史的タブーに切り込んだ小説であることでした。<br />
<br />
　ジョー・ウォルトンが描きだした第二次世界大戦で英独が和睦した後の世界は、レン・デイトンの<a href="http://www.amazon.co.jp/gp/product/4150404526?ie=UTF8&tag=wwwtsogecojp-22&linkCode=as2&camp=247&creative=1211&creativeASIN=4150404526"><strong>『ＳＳ‐ＧＢ』</strong></a>、Ｐ・Ｋ・ディックの<a href="http://www.amazon.co.jp/gp/product/4150105685?ie=UTF8&tag=wwwtsogecojp-22&linkCode=as2&camp=247&creative=1211&creativeASIN=4150105685"><strong>『高い城の男』</strong></a>、ロバート・ハリスの<a href="http://www.amazon.co.jp/gp/product/4167527189?ie=UTF8&tag=wwwtsogecojp-22&linkCode=as2&camp=247&creative=1211&creativeASIN=4167527189"><strong>『ファーザーランド』</strong></a>のような、ドイツが戦争に勝っていたらという仮定の歴史を構築したものではなく、イギリス人にとって恥ずべきことであったために封印されていた史実に基づいているからです。<br />
<br />
　その史実とは、イギリスを全体主義社会に改造しようとする〈ファージング・セット〉というパワーエリートのグループに実在のモデルがあったということです。本書にさりげなく記述されているキーワードを追っていくことで、〈ファージング・セット〉のモデルとなったグループに辿り着くことができます。<br />
<br />
　以下、ウォルトンが物語に組み入れた禁断の歴史に関する箇所を提示します。<br />
<br />
　<font color="brown"><b>１　ヘスの飛行</b></font><br />
<br />
　１９４１年５月１０日に、ドイツ帝国副総統ルドルフ・ヘスがスコットランドにメッサーシュミット戦闘機で強硬着陸し、独力で独英単独講和をまとめようとした事件ですが、これまで欧米の歴史家のあいだでは、これはヘスの個人的な行動であって英独両国の組織的関与はなかった、という見解が支持されてきました。<br />
<br />　このヘスの飛来事件が本書の核となっていますが、最近になってようやく、イギリス側にドイツとの和睦を求めていた有力者の一団があり、かれらの存在がヘスをして渡英に踏み切らせたのではないかという歴史的解釈がなされるようになってきました。<br />
<br />
　ヘスが接触を求めたのは、国王の側近に父を持つ空軍中佐のハミルトン公爵でした。<br />
<br />
　<b>『英雄たちの朝』</b>３３３頁で、「イーデンの後釜として首相になることが噂されていたハミルトンは、植民地相になった」と書かれています。このハミルトン植民地相とは、ヘスが頼りにしたハミルトン公のことだと思われます。<br />
<br />　ヘスは、日本語の達者な有名な地勢学者カール・ハウスホッファー教授の仲介で、かつてミュンヘンでハミルトン公と会っていると主張しました。ハミルトン公は、ヘスとは会ったことがないと否定しましたが、彼は〈リンク〉という組織と関係があったようです。<br />
<br />
　この〈リンク〉がファージング・セットのモデルだと思われます。<br />
<br />
　<font color="brown"><b>２　〈リンク〉</b></font><br />
<br />
　同書１４５頁末～１４６頁の「（ヘスの）この提案をチャーチル首相は一蹴しようとしたが、現実派の人々から説得され」というくだりの現実派の人々が〈リンク〉を指していることは、ほぼ確実です。<br />
<br />
　戦時中のチャーチル内閣は、〈英独友好協会（フェロウシップ）〉、〈ライト・クラブ〉、〈北方同盟〉といった政財界の有力者たちの派閥によって、その存続を常に脅かされていました。特に〈英独友好協会〉の内部には、ドイツとのより緊密な関係を持った〈リンク〉と呼ばれる秘密結社がありました。<br />
<br />　そのリーダーは、海軍情報部長、国王ジョージ五世の副官、王立海軍大学校長を歴任し、退役した１９３６年当時もなお海軍省で確固たる名望を得ていた、親日家のサー・バリー・ドムヴィル海軍大将でした。彼を支えていたのは、王立歴史院副会長、王立地理院評議会員を務めていた当代屈指の地勢学者であるサー・チャールズ・ベアズリーでした。<br />
<br />　この組織は、ボリシェヴィキの侵略からヨーロッパ文明を守護する戦士団を自称する反共主義者の集まりで、ナチスとの融和に積極的だったのです。<br />
<ul class="pageNavi"> 
<li class="caption">続きを読む……</li> 
<li><a class="current" href="http://www.webmysteries.jp/translated/isobe1007-1.html">1</a></li> 
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</ul> 
<br /> 
 
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<br /> 
<a href="http://www.tsogen.co.jp/">海外翻訳小説の専門出版社｜東京創元社</a> ]]>
        
      
    


    </content>
</entry>

<entry>
    <title>茂木健／ジョー・ウォルトン『英雄たちの朝　ファージングＩ』訳者あとがき［2010年6月］</title>
    <link rel="alternate" type="text/html" href="http://www.webmysteries.jp/translated/mogi1006.html" />
    <id>tag:www.webmysteries.jp,2010://6.711</id>

    <published>2010-06-07T06:03:00Z</published>
    <updated>2010-12-18T18:47:45Z</updated>

    <summary>ナチスと講和を結んだ、もうひとつのイギリス―― 傑作歴史改変エンターテインメント三部作、開幕。 （10年6月刊　ジョー・ウォルトン『英雄たちの朝　ファージングＩ』訳者あとがき） 茂木健　takeshi...</summary>
    <author>
        <name>東京創元社</name>
        
    </author>
    
        <category term="840 海外ミステリ出張室" scheme="http://www.sixapart.com/ns/types#category" />
    
    
    <content type="html" xml:lang="ja" xml:base="http://www.webmysteries.jp/">


   
      
        <![CDATA[<b><font style="FONT-SIZE: 1.25em">ナチスと講和を結んだ、もうひとつのイギリス――</font></b>
<br />傑作歴史改変エンターテインメント三部作、開幕。<br />
（10年6月刊　ジョー・ウォルトン『英雄たちの朝　ファージングＩ』訳者あとがき）<br /><br />
<font color="brown"><b><font style="FONT-SIZE: 1.25em">茂木健</font></b>　takeshi MOGI</font> 
<hr color="black" size="1"><br />
●<a href="http://www.webmysteries.jp/translated/isobe1007-1.html">【特別寄稿】礒部剛喜「ジョー・ウォルトン『英雄たちの朝』が暴き出す、第二次大戦下の隠された英国史」を読む</a>
<p>　</p>
<div style="FLOAT: right; WIDTH: 150px"><font size="3"><a href="http://www.tsogen.co.jp/np/isbn/9784488279059" target="_blank"><img height="196" alt="e英雄たちの朝" hspace="12" src="http://www.tsogen.co.jp/img/cover_image_m/27905.jpg" width="138" vspace="10" border="1" /> 
<div style="TEXT-ALIGN: center"><img height="18" alt="書籍の詳細を見る" src="http://www.tsogen.co.jp/img/shosekishosai.jpg" width="100" border="0" /></div></a></font></div>
<p>
　本書<a href="http://www.tsogen.co.jp/np/isbn/9784488279059" target="_blank"><strong>『英雄たちの朝　ファージングＩ』</strong></a>は、ウェールズ出身でカナダ在住の女性作家、ジョー・ウォルトンによる歴史改変（オルタード・ヒストリー）小説三部作のパート１であり、この三部作は、第二次世界大戦を闘っていたイギリスとナチス・ドイツが、史実とは大きく異なり1941年の６月にいきなり講和した世界を舞台としている。三部作全体では1960年までをカバーしているのだが、本書にかぎってプロットを整理すると、講和から八年が経過した1949年、イギリス南東部に立つ貴族の邸宅で殺人事件が発生し、それを捜査するスコットランドヤードの敏腕刑事のまえに権力の強大な壁が立ちはだかる、ということになろう。<br />
<br />
　第二次大戦がらみの歴史改変小説は無数に書かれてきたし、ウォルトンの三部作もまた、イギリスとナチの講和が結局は戦争を枢軸国側の勝利に導く点で、立派にこのジャンルの仲間入りができると思う。ところが著者ウォルトンは、改変された（または改変されつつある）世界の詳述をあえて避け、極めて限られた範囲のなかで苦闘する個人の行動に焦点を絞った。本書<b>『英雄たちの朝』</b>の舞台は主にハンプシャー州のお屋敷だし、第二部<a href="http://www.tsogen.co.jp/np/isbn/9784488279066" target="_blank"><strong>『暗殺のハムレット　ファージングII』</strong></a>はロンドンの演劇界を文字どおりの舞台として、ＩＲＡテロリストと手を組んだ反政府勢力の陰謀が展開されてゆく。第三部<a href="http://www.tsogen.co.jp/np/isbn/9784488279073" target="_blank"><strong>『バッキンガムの光芒　ファージングIII』</strong></a>で描かれるのは、<strong>『暗殺のハムレット』</strong>から十年が経ちファシスト国家となったイギリスに、真の民主主義を回復させようと努力する人びとの姿だ（三部作全体を通じた主人公が、ピーター・カーマイケル警部補）。<br />
　しかもウォルトンは、三部作のそれぞれをふたつの視点から語り、ナレーターのひとりに若い女性を設定することで舞台をいっそう限定した。本書<strong>『英雄たちの朝』</strong>の語り手ルーシー・カーンは、特に教養は高くないものの自らの信念に忠実で柔軟な思考力をもった貴族の娘であり、<strong>『暗殺のハムレット』</strong>では、同じく貴族の娘でいながら演劇の世界に身を投じ、舞台女優として成功しつつある女性が語り手を務める。第三部<strong>『バッキンガムの光芒』</strong>になると、ファシズムになんの疑問も抱かず育った十八歳のお嬢さんが、カーマイケルに対し権力が仕掛けた大きな罠の餌として利用されてしまう。もちろん、この三名の女性が大所高所から国家や世界を弁じることはなく、彼女たちは、自身の身辺で起きる事件を当惑しながら述べてゆくだけだ。しかし、こうすることでウォルトンは、激変するイギリスをピンポイントから描出することに成功した。世界情勢については、新聞の記事などに仮託した簡単な紹介にとどめている（たとえば、本書の239ページ、「飢えたり虐殺されたりする人間が、スターリングラードと上海に未だ残っていたという事実のほうに、カーマイケルは軽い驚きを感じた」）。このあたり、いわゆる架空戦記とは決定的に異なっているといえよう。<br />
<br />
　本書<strong>『英雄たちの朝』</strong>に戻ろう。先述したとおりのプロットが犯人は誰だ（フーダニット）を軸に展開するため、途中までは誰もが本格ミステリの歴史改変版だなと思うだろう（訳者もそうだった）。ところが読み進めるうち、ウォルトンの狙いがそれだけではないことが明瞭になってくる。要するに本書の眼目は、単なる犯人捜しにとどまらず、本書で起きた殺人事件の結果、世界に冠たる民主国家だったはずのイギリスがどう変質してゆくかを提示することにもあるのだ。<br />
　もちろん歴史改変小説だから、1941年までの歴史は現実世界のとおり進行するわけで、それ以降の展開も同年に至るまでの「史実」に基づいている。この点は、歴史改変モノの王道といえるだろう。そしてこの王道を、ウォルトンは実にていねいに踏襲した。<br />
　ダンケルク撤退、バトル・オブ・ブリテンといった有名な史実が架空世界の物語を推進させてゆくのはもちろん、実在のブランド名や人名、文学作品などが次々に動員され、登場人物たちの地位、階級、性格を強調または示唆するために活用される。しかしながら、日本の読者には馴染みの薄いものも少なくないようだし、そのままスルーしたら著者の意図した効果は得られないのではと危惧して、煩雑になるのを承知で訳注を入れさせていただいた。ついでといってはなんだが、政治史や戦史にかかわる重要事項も、念のため訳注で要点だけをまとめてある。その結果、エンターテインメント小説にあるまじき注の多さとなってしまった（本書だけでなく第二部と第三部も）。もちろん、こんな注を無視して読み進んでも、この三部作の面白さが損なわれることは全然ないと信じる。飽くまでもご参考までにということなのだが、やっぱり目障りだと感じられる方がいらっしゃったら、この場を借りてお詫びしておきたい。<br />
　そう書いておきながら、訳注で触れるには適切でなかった事項に関し、ついでにここで説明しておきたいと考えてしまうのは、調べものを日常とする翻訳屋の宿痾なのだろう。この三部作全体を貫き、後景を淡く彩っている重要なことが少なくともあと二点あるので、もうちょっとおつきあいください。<br />
<br />
　この三部作では、上流階級の邸宅に住み込んで働く使用人たちが、魅力的な脇役として活発に動きまわる。特に本書の使用人諸君は、事件の展開や主人公たちの性格形成にまで深くかかわりながら、物語にさらなる奥行きを与えてゆく。たとえば、ルーシーの住込家庭教師（ガヴァネス）だったアビー。経済的に逼迫した中流以上の家庭出身であることが多く、寄宿学校へ入学するまえの上流子弟の教育を家庭内で引き受けるガヴァネスは、しかし「実際のところ女中と同じで、金で雇われた人にすぎない……なまじ『先生』として子供たちに対してある種の威厳を示すことを要求されながら、他方では雇い主とその子に見下されても文句が言えない。その上、他の召使たちからは……反感と嫉妬の的にされる」（小池滋<b><a href="http://www.amazon.co.jp/gp/product/400430234X?ie=UTF8&tag=wwwtsogecojp-22&linkCode=as2&camp=247&creative=1211&creativeASIN=400430234X" target="blank">『英国流立身出世と教育』</a><img src="http://www.assoc-amazon.jp/e/ir?t=wwwtsogecojp-22&l=as2&o=9&a=400430234X" width="1" height="1" border="0" alt="" style="border:none !important; margin:0px !important;" /></b>岩波新書）。ルーシーの考え方に多大な影響を与えた彼女は、第三部<strong>『バッキンガムの光芒』</strong>でも大きな役回りを果たす。<br />
　ガヴァネスを白眼視した普通の使用人たちのほうも、富裕な大貴族の家では家政婦長を頂点として最大八つの職種があったというから（それも女性使用人だけで）、階級社会はこちらにもしっかりと滲透している。ちなみに十九世紀後半、ひとかどの金持ちが雇うべき使用人の数は最低三名とされていた。料理人とハウスメイド、パーラーメイドの三名であり、幼い子どもがいる場合はこれにナースメイドが加わる（Pamelar Horn, The Rise & Fall of the Victorian Servant, Suttonによる）。ファージングの屋敷で働く使用人は全部で十二人（本書54ページ）だから、この子爵家がいかに金持ちだったかうかがい知れるし、ルーシーとデイヴィッドのロンドンの新婚家庭が三人しか雇っていないのは、このふたりの現在の社会的／経済的地位を暗示しているわけだ（本書267ページ）。<br />
　なお、エヴァズリー家の料理人ミセス・スモレットは、ポーランドから逃げてきたユダヤ人難民と設定されている。実際、本書の第十九章にあるルーシー・カーンの説明に違わず、現実世界でもドイツでナチが政権を獲得した1933年以降、大陸ヨーロッパからイギリスへ逃れ使用人となる男女の数は増加の一途をたどった。具体的にいうと、使用人として働くことを雇用主に証明してもらい入国／滞在許可を得たユダヤ人や左翼活動家は、1936年の8449名から二年後には13792名にまで増大している（Horn前掲書による）。このような細部にも、著者ウォルトンは、周到な考証に基づくリアリティを物語に付加しているといえよう。<br />
　かれら使用人たちの生態にも反映され、誰もがすぐにピンとくるであろうもうひとつの重要な要素が、イギリス階級社会の特殊性だ。とりわけ注目すべきは、この三部作の主人公であるピーター・カーマイケル警部補の階級的出自だろう。<br />
　イギリスのジェントルマン（＝上流）階級は、世襲の爵位をもつ地主貴族と身分上は平民であるジェントリーから構成されており、ジェントリーのなかでも所有地の少ない地主はスクワイアと呼ばれた。産業革命によって、莫大な資産を得た産業資本家がジェントルマン階級にどっと流れこみ、時期を同じくして大量に生まれた中流階級の人びとは、精一杯背伸びをして上流階級の生活様式や考え方を真似ようとした（この態度が、ヴィクトリア朝イングランドの体裁ばかり気にする倫理観を醸成するひとつの土壌となった）。イングランドの北西部ランカシャーを地盤とするカーマイケル家は、代々わずかな土地を小作させることにより、生計を立ててきたとおぼしい最下層のスクワイアだ（本書99ページ）。それでも彼の父親は、成り上がりの中流階級に負けじと無理をしてジェントルマン階級の旧習にこだわり、ふたりの息子を二流のパブリック・スクールへ入学させた。ところがそのおかげで、カーマイケル本人は、なおのことコンプレックスを抱きながら成長してしまい、貴族でもなければ平民でもない宙ぶらりんの立場を、ことあるごとに思い知らされる。おまけに、彼は優秀な捜査官であると同時にゲイでもあり、結局はこの性的傾向が、やがて彼の運命を大きく狂わせてゆくことになる。ネタバレにならない程度に予告しておくと、第二部<strong>『暗殺のハムレット』</strong>での彼はヒトラーを憎悪しているにもかかわらずナチのため大手柄を立てて英雄となり、第三部ではイギリスに新設された秘密警察の指揮官に「出世」してゆく。<br />
<br />
　著者の紹介が最後になってしまった。先述のとおり、ジョー・ウォルトンはウェールズで1964年に生まれ現在はカナダを拠点とする作家なのだが、この三部作の発表以前はファンタジー小説の書き手として知られていた。とはいうものの、最初のファンタジー作品を上梓したのは2000年秋と比較的最近で、そのまえはロール・プレイング・ゲーム関連の雑誌に執筆していたという。<br />
　2003年に発表した第四作Tooth and Clawがみごと2004年度の世界幻想文学大賞を射止め、翌年には邦訳も出版された。<b><a href="http://www.amazon.co.jp/gp/product/4150204640?ie=UTF8&tag=wwwtsogecojp-22&linkCode=as2&camp=247&creative=1211&creativeASIN=4150204640" target="blank">『ドラゴンがいっぱい！』</a><img src="http://www.assoc-amazon.jp/e/ir?t=wwwtsogecojp-22&l=as2&o=9&a=4150204640" width="1" height="1" border="0" alt="" style="border:none !important; margin:0px !important;" /></b>と題された同作（和爾桃子訳、ハヤカワ文庫ＦＴ。旧題<b>『アゴールニンズ』</b>早川書房）は、十九世紀までのイギリスを髣髴とさせる国を舞台としているのだが、登場人物は全員が邦題に違わずドラゴンであり、有力な貴族の死を発端に遺産相続問題がこじれたあげく、高貴なドラゴンたちが騒動をくり広げてゆくという内容だ。和爾桃子氏の訳者あとがきによると、ウォルトンはヴィクトリア時代の小説が好きで、特にアンソニー・トロロップを愛読しているらしい。なるほど、十九世紀から二十世紀にかけてのイギリスの歴史、風俗、文化に造詣が深いことは、本書<b>『英雄たちの朝』</b>以下の三部作でも充分にうかがえる。<br />
　現在の時点で、ウォルトンの最新作は2009年2月に発売されたLifelodeとなる。紹介文などを読むかぎり、再び正統的なファンタジーに戻ったようだ。<br />
<br />
　　2010年4月<br /><br />
</p>
<div align="right">（2010年6月）</div>
<hr color="gray" size="1">
●<a href="http://www.webmysteries.jp/translated/isobe1007-1.html">【特別寄稿】礒部剛喜「ジョー・ウォルトン『英雄たちの朝』が暴き出す、第二次大戦下の隠された英国史」を読む</a>
<hr color="gray" size="1">
<font color="navy">■ <b>茂木健</b>（もぎ・たけし）</font><br />
1959年生まれ。翻訳家。ザッパ＋オチオグロッソ『フランク・ザッパ自伝』、アツモン『迷える者へのガイド』、ウィルスン<a href="http://www.tsogen.co.jp/np/isbn/9784488706036">『時間封鎖』</a><a href="http://www.tsogen.co.jp/np/isbn/9784488706050">『無限記憶』</a>など多数。著書に<a href="http://www.amazon.co.jp/gp/product/4393934946?ie=UTF8&tag=wwwtsogecojp-22&linkCode=as2&camp=247&creative=1211&creativeASIN=4393934946" target="blank">『バラッドの世界』</a><img src="http://www.assoc-amazon.jp/e/ir?t=wwwtsogecojp-22&l=as2&o=9&a=4393934946" width="1" height="1" border="0" alt="" style="border:none !important; margin:0px !important;" /><a href="http://www.amazon.co.jp/gp/product/4276330858?ie=UTF8&tag=wwwtsogecojp-22&linkCode=as2&camp=247&creative=1211&creativeASIN=4276330858" target="blank">『フィドルの本』</a><img src="http://www.assoc-amazon.jp/e/ir?t=wwwtsogecojp-22&l=as2&o=9&a=4276330858" width="1" height="1" border="0" alt="" style="border:none !important; margin:0px !important;" />がある。<br /><br />
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    </content>
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    <title>アメリカ・フィラデルフィアにて開催　「ポオ生誕200周年記念学会レポート」小森健太朗</title>
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    <id>tag:www.webmysteries.jp,2009://6.435</id>

    <published>2009-11-05T06:41:03Z</published>
    <updated>2009-11-05T14:03:46Z</updated>

    <summary>  ■ポオ学会にはいるまで 　今年で生誕100周年をむかえる作家で、記念イベントなどが催される作家は、国内外に何人かいて、国内の有名どころでは太宰治・松本清張があげられる。しかし、エドガー・アラン・ポ...</summary>
    <author>
        <name>東京創元社</name>
        
    </author>
    
        <category term="840 海外ミステリ出張室" scheme="http://www.sixapart.com/ns/types#category" />
    
    
    <content type="html" xml:lang="ja" xml:base="http://www.webmysteries.jp/">


   
      
        <![CDATA[<div style="FLOAT: right; WIDTH: 150px"><a href="http://www.tsogen.co.jp/np/isbn/9784488522018"><font style="FONT-SIZE: 1.25em"><img height="197" alt="ポオ小説全集１" hspace="8" src="http://www.tsogen.co.jp/img/cover_image_m/52201.jpg" width="140" vspace="8" border="1" /></font> 
<div style="TEXT-ALIGN: center"><img height="18" alt="書籍の詳細を見る" src="http://www.webmysteries.jp/images/shosekishosai.jpg" width="100" border="0" /></div></a></div>
<b><font color="brown">■ポオ学会にはいるまで</font></b><br>

　今年で生誕100周年をむかえる作家で、記念イベントなどが催される作家は、国内外に何人かいて、国内の有名どころでは太宰治・松本清張があげられる。しかし、エドガー・アラン・ポオのように、生誕200周年で、大きなイベントが開かれる作家となると、そうはいないのではないか。私も、今年はポオ生誕200周年であることは知っていたから、アメリカでも日本でもなにか記念イベントか学会は開かれたり、雑誌などで特集がされたりするのだろうと漠然とは思っていた。しかしまさか自分が、ポオが文筆活動をしていた中心都市フィラデルフィアで開かれるポオ生誕200周年の記念学会で、世界のポオ学者・研究者・著名人たちを前に、自分の研究発表を英語ですることになろうとは、夢にも思っていなかった。<br>
　その話を初めて聞かされたのは、今年の春頃、<a href="http://www.tsogen.co.jp/np/author/185">笠井潔</a>からで、「自作『群衆の悪魔』について、依頼を受けてアメリカのポオ生誕200周年の記念学会で発表することになった。よかったら小森くんも一緒にアメリカに行かないか」という話だった。私は英語にはそんなに自信ないのだけれど、他ならぬポオ記念学会を実地に体験できるという魅力は大きいので、「是非行きたい」と返事をした。日本ポオ学会の会長をつとめる巽先生とお話したときに、それなら小森さんも研究発表をなさるとよろしかろうという話になった。手続きとして国際ポオ学会に入会し、『黒岩涙香とポオ』に関する研究発表として、要旨を国際ポオ学会の事務局に送付した。予定されていた笠井潔の『群衆の悪魔』に関する発表プログラムに、私がレスポンデントとして加わることになった。プログラムに名前が入ることで、大学の方でも出張の許可がもらえたのがありがたいところであった。<br>
　ポオ記念学会の開催されるのは10月9日から11日の3日間で、私たちは10月8日に成田空港からアメリカに向けて飛び立ったのだが、出発日が台風の直撃日と見事にぶつかり、そのために当日の午前中は東京23区内の交通がかなり麻痺してしまい、成田エクスプレスも止まってしまった。なんとか成田にはたどりつけたものの、最初から多難な旅が予想され、さらに入国審査のときに2時間も足止めを喰らうなどと難事は続いた。<br><br>

<div style="FLOAT: right; WIDTH: 210px"><font style="FONT-SIZE: 1.25em"><img alt="ポオ記念館" hspace="8" src="http://www.webmysteries.jp/images/poe02_s.jpg" width="200" vspace="8" border="1" /></font> 
</div>
<b><font color="brown">■アメリカへ発つ</font></b><br>

　ポオ学会というと、大学で行なわれるのかと思っていたが、発表などを行うメインの会場はハイヤット・ホテルで、そこの2フロアーを学会用に借りきったのだそうだ。私たちが宿泊したのも、そのホテルの客室。ただし、イベントや催しは、フィラデルフィアの他の場所で開催されるものもあった。<br>
　ホテルの3階で、ポオ学会に参加登録したときに、バーバラ・カンタルポ先生と初対面。このポオ学会をとりしきっているエネルギッシュな学者で、交渉やら窓口やら、巽先生によれば大車輪の活躍をしている。<br>
　プログラムやらチケットを一式もらい、部屋に戻って、このポオ学会のプログラムとパンフレットを読む。出たいパネルがあれば聞きにいけばいいのだが、どれが面白そうなのかよくわからない。発表題として目を引かれるのは、ポオとラヴクラフトとかドストエフスキーとかルイス・キャロルといった、他の文学者と比較している題目のもの。あと音楽や絵画、映画など芸術絡みの発表もいろいろあるようだが、このあたりも勝手がよくわからない。<br>
　10月9日の午後は、巽先生の案内でフィラデルフィア観光に出かけ、ポオの住居や、ゆかりの地を見学。ポオがフィラデルフィア時代に住んでいた家が残っていて、そこの家が増築されてポオ記念館になっている。ポオの肖像画が壁に大きく掲げられ、屋根のそばに大鴉が止まっていて、いかにもポオというたたずまいに感動した。入ってみると、中のパネルには大きく江戸川乱歩の写真と紹介もあった。ポオの案内をしてくれる番人と巽先生がポオ作品について何やら英語で会話していたが、聞いたところでは、ポオ作品と最新の文芸理論にずいぶん精通しているインテリな人らしい。<br>
　2階建ての建物、2階は寝室と仕事部屋、1階が生活部屋。家は残っているが、ポオの遺品はここには全然残ってないのだそうだ。地下室が、<a href="http://www.tsogen.co.jp/np/isbn/9784488522049">「黒猫」</a>の舞台そっくり。あの小説に描写されるとおりの地下室で、この壁に女の屍体を埋めたのだろうと場所まで特定できる。 <br><br>

<div style="FLOAT: right; WIDTH: 210px"><font style="FONT-SIZE: 1.25em"><img alt="ポオ記念館地下" hspace="8" src="http://www.webmysteries.jp/images/poe03_s.jpg" width="200" vspace="8" border="1" /></font> 
</div>
<b><font color="brown">■アメリカ人学者による研究発表「ポオと乱歩」</font></b><br>

　10月10日午前10時半から、巽先生が司会をする「ポオと乱歩」の会場に出席。3人のアメリカ人日本文学研究者による発表がなされた。まずヤコーヴッツさん「グロテスク、アラベスク、エロチック・グロテスク～ポオから乱歩へ」。乱歩の残酷さにファルスとか笑いの要素があるという指摘。ポオと乱歩の資質の違い。最近乱歩の英訳書を刊行した気鋭の学者である。<br> 
　ガードナー准教授の発表は、「BRUSH、レンズ、スクリーン～ポオと乱歩の視覚メディア」というもの。浅草のパノラマ好き、鏡地獄や湖畔亭事件の覗き趣味。最新映像技術に興味があるのはポオとも共通している。マーク・シルバーさんの発表は、ポオの「アルイハイムの地所」と乱歩の「パノラマ島綺譚」の比較をし、共通性と差異を考察していた。 <br>
　ロシア人の70歳代の女性学者の質問があった。この人は随分とポオに精通していることに驚かされた。ポオの表現を細かく暗記していないとできない質問が出た。 <br>
　巽先生から前日聞かされたポオの短編<a href="http://www.tsogen.co.jp/np/isbn/9784488522018">「リジイア」</a>がミステリである話。愛していたリジイアを失ったことを嘆く夫の歌から思いきや、夫がリジイアを殺したのだろうと。それを聞いて乱歩の<a href="http://www.tsogen.co.jp/np/isbn/9784488400026">「パノラマ島奇談」</a>で人見に殺される妻・千代子のことを思い出す。千代子は、人見が入れ代わりの偽者であることを早い段階で気づいた節がある。それでいて、人見を愛するようになった節もあり、最後は、殺されることを覚悟して受け入れた節がある。リジイアと共通するのではないか。夫に殺されることを知りつつ、愛するために受け入れる女性の物語として、「リジイア」「パノラマ島奇談」「犯行以前（アイルズ）」「暗闇へのワルツ（アイリッシュ）」とあることに気づかされた。<br> 
　昼食の席で、3人の乱歩発表者と歓談。年齢は私と同世代（シルバー）か若い（ヤコーヴィッツ）のに、日本語が堪能で、ずいぶん日本文化にも詳しい方たちばかり。ヤコーヴィッツさんが海野十三を訳したいというので、彼のペンネームの由来を説明した。ガードナーさんは今敏のアニメのファンで、日本のアニメに関心をもっているそうだ。<br><br>

<div style="FLOAT: right; WIDTH: 210px"><font style="FONT-SIZE: 1.25em"><img alt="ポオ学会" hspace="8" src="http://www.webmysteries.jp/images/poerampo_s.jpg" width="200" vspace="8" border="1" /></font> 
</div>

<b><font color="brown">■学会発表本番</font></b><br>

　10月11日午前9時からが発表の本番であった。場所はハイヤット・ホテル3階のリバーサイドという会場。国際ポオ学会、英語での初めての私の発表は、主題は、ポオと黒岩涙香『捨小舟』の名探偵・重鬢（じゅうびん）についてである。余談だが私は、前の慶応大学のポオ学会のときに『捨小舟』を「すてこぶね」とよんでいたのだが、伊藤詔子先生より「すてをぶね」とよむのが正しいと指摘された。調べてみたら、たしかに伊藤先生のご指摘とおりで、これはうかつな見落としである。<br>
　朝8時に下のロビーに集合し、巽先生と笠井潔と、通訳の方と4人で打ち合わせ。笠井の提出した日本語での発表内容は、もともとは国際ポオ学会の方で、日本文学専攻の大学院生に訳させる段取りだったらしいが、その担当を回された女子学生が、2頁ほど訳したところで逃げてしまったらしい。だがこれは同情できる面もある。日本文学専攻していて、日本語と日本文学に素養がかなりあったとしても、笠井が語っているのが、ベンヤミンやらフーコーやら現代思想の哲学や社会学の議論が出てきて、その方面の知識まで同時に求めるのは酷というもの。でもバトンタッチした20代半ばの金髪の好青年の通訳の方、訳文もしっかりしたものだったし、日本語も堪能。笠井の議論を正確に英語に訳していて、実力がある研究者であると思えた。ただし、発表の後の質疑応答になったときに、会場の質問をその場で笠井にわかるように日本語に訳し、笠井が答えた日本語を英語に訳すのには相当難渋していた模様。無理もないことで、この種の専門用語の知識まで求められる論題に関して、その場で即座に訳すのは、プロの同時通訳でも難しかろう（語られている内容に関するかなりの知識が要るから）。<br>
　笠井は事前に準備していた原稿を読み上げ、一段落ごとにそれの英訳を通訳が英語で読み上げる方式。内容は、笠井の20世紀探偵小説論の要約紹介も含めた、ベンヤミンのポオ論と群衆論、ポオの探偵小説の画期的な意義についてなど多岐にわたる論題をコンパクトにまとめたものだった。英訳も含めて発表時間は約1時間ほど。それに続いて私の発表。英語で20分弱喋ったか。巽先生からは「事前に朗読の練習したんですか」と後で言われた。そのとおりで、前日は英文朗読の練習していた。 <br>
　ポオの甥の血を引くハリー・ポオさんが会場に来ていて、笠井潔の著書にサインを求めていた。 <br>
　その後、マーク・シルバーさんやガードナー教授やヤコーヴィッツさんら日本文学に関心のあるアメリカの学者たちと、町に繰り出して昼食会。そこでは、私をアメリカの日本文学研究会に招待して黒岩涙香について研究発表してもらいたいという話も出た。来年はハワイで学会が開かれるらしい。でも、この話は実現するかどうかはまだ未確定である。<br>
　その後午後1時半から3時くらいまで、バーバラ先生による笠井潔インタビューに立ち会う。その英文インタビューが活字に起こされるときは、英文の監修は小森くんに全面的に任せるからと笠井潔から言われる。アメリカでのポオ学会の会報にそのインタビューは掲載される予定らしい。 <br><br>

<div style="FLOAT: right; WIDTH: 150px"><a href="http://www.tsogen.co.jp/np/isbn/9784488522049"><font style="FONT-SIZE: 1.25em"><img height="197" alt="ポオ小説全集４" hspace="8" src="http://www.tsogen.co.jp/img/cover_image_m/52204.jpg" width="140" vspace="8" border="1" /></font> 
<div style="TEXT-ALIGN: center"><img height="18" alt="書籍の詳細を見る" src="http://www.webmysteries.jp/images/shosekishosai.jpg" width="100" border="0" /></div></a></div>
<b><font color="brown">■帰国</font></b><br>

　帰国時にトランジットしたサンフランシスコは台風が来たかのようなきつい雨と風だった。おかげで飛行機の成田への出発が一時間ほど遅らされた。最初と最後とも天候にはたたられた。成田で受け取ったスーツケースは、雨でびしょ濡れだった。私のスーツケースだけでなく、他の荷物も大体そう。<br>
　ここでは書き切れないことが他にも多々あったが、とにかく、自分としては、初の渡米、アメリカでの日本文学研究者との交流、そして世界のポオ研究の実情と最前線をじかに見聞し、学ぶことができたのは、貴重な経験であった。関係各位に感謝したい。<br><br>

　なお、アメリカで催されたポオ生誕200周年学会のウェブページは以下。プログラムや発表一覧が掲載されているので、興味のある方は参照されたい。<br>
<a href="http://www2.lv.psu.edu/PSA/Conference2009/index.html" table="_blank">http://www2.lv.psu.edu/PSA/Conference2009/index.html</a><br><br>

<div align="right">（2009年11月5日）</div><br />
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<p>&nbsp;</p><a href="http://www.tsogen.co.jp/wadai/index.html"><b>【2009年3月以前の「本の話題」はこちらからご覧ください】</b></a>
<br />
<br />
<a href="http://www.tsogen.co.jp/">推理小説の専門出版社｜東京創元社</a>
]]>
        
      
    


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    <title>桜庭一樹／キアラン・カーソン『シャムロック・ティー』解説［2009年2月］</title>
    <link rel="alternate" type="text/html" href="http://www.webmysteries.jp/translated/sakuraba0902.html" />
    <id>tag:www.webmysteries.jp,2009://6.57</id>

    <published>2009-02-05T05:54:31Z</published>
    <updated>2009-12-17T21:40:33Z</updated>

    <summary>かわいい見世物小屋で会いましょう 交錯し繁茂するイメージの蔓にいつしか搦め取られる、摩訶不思議な物語。（09年1月刊　キアラン・カーソン『シャムロック・ティー』解説）桜庭一樹　kazuki SAKUR...</summary>
    <author>
        <name>東京創元社</name>
        
    </author>
    
        <category term="840 海外ミステリ出張室" scheme="http://www.sixapart.com/ns/types#category" />
    
    
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        <![CDATA[<b><font style="FONT-SIZE: 1.25em">かわいい見世物小屋で会いましょう</font> </b><br />交錯し繁茂するイメージの蔓にいつしか搦め取られる、摩訶不思議な物語。<br />（09年1月刊　キアラン・カーソン『シャムロック・ティー』解説）<br /><br /><font color="brown"><b><font style="FONT-SIZE: 1.25em">桜庭一樹</font></b>　kazuki SAKURABA</font> 
<hr color="black" size="1">

<p>　</p>
<div style="FLOAT: right; WIDTH: 150px"><font size="3"><a href="http://www.tsogen.co.jp/np/detail.do?goods_id=3947"><img height="196" alt="シャムロック・ティー" hspace="12" src="http://www.tsogen.co.jp/images/cover_image_l/03947.jpg" width="140" vspace="10" border="1" /> 
<div style="TEXT-ALIGN: center"><img height="18" alt="書籍の詳細を見る" src="http://www.tsogen.co.jp/img/shosekishosai.jpg" width="100" border="0" /></div></a></font></div>
<p>　「これは、 いい本だなぁ！」<br />　と、 読みながら知らず独り言が滑りでた。本書の36ページ辺りに差しかかったところでだ。<br />　子供の頃から、祖父母がきまぐれに語る昔話にぼんやりと耳をかたむけるのが好きだった。過去とは、どんなに近しい過去の出来事でも、ある種の“家族内の神話”であって、起承転結なんてあまり関係なくって、まるで、作りかけの巨大なキルトを広げたよう。各エピソードは、語り手という糸によって縫いあわされているだけのバラバラの小鬼だった。<br />　この本を読むのは、そういう経験と似ている。外国で書かれたものなのにとても懐かしい。懐かしいけれども寂しくはなく、ほくそ笑んでるようなちょっと不遜な顔で読んでいける。<br />　この独特の感覚をとても的確に表現している文章がある。著者キアラン・カーソンの前作<a href="http://www.tsogen.co.jp/np/detail.do?goods_id=363"><b>『琥珀捕り』</b></a>（栩木伸明訳、 東京創元社、2004年刊）の訳者あとがきにある「カモノハシの文学」 がそれだ。ちょっと反則ではあるけれどそこを引用してみたい。</p><br />
<p><b>　こいつはいったい何の本だろう？<br />　ページをぱらぱらめくってみると、アルファベット順に並んではいるものの、お互いに関係なさそうな単語が各章のタイトルになっている。フェルメールの絵に関する薀蓄があり、薔薇の品種名が夜会の賓客リストのように延々と読み上げられたかと思うと、いつのまにかアイルランドの怪談がはじまっているというぐあいだから、『琥珀捕り』をはじめて手に取ったあなたが戸惑っておられるのも無理はない。愛嬌だけはありそうだが、このへんてこな本をなんと呼び、どう分類したらいいのだろうか？<br />　原書が出たとき書評家たちもどうやら困り果てたらしい。しかし、そのなかのひとりがうまいたとえを思いつき、キアラン・カーソンの『琥珀捕り』は「文学においてカモノハシに相当するもの――分類不可能にして興味をひきつけずにおかない驚異――の卵を孵化させた」、と書いている。カモノハシは、獣なのに卵を産み、鴨に似た嘴をもち、趾（あしゆび）には蹼（みずかき）がある原始的な哺乳類とされ、一属一種、独自の進化の道をたどったといわれる動物である。異質なものがさまざまはぎあわされた結果、個々の部分には見覚えがあるけれど全体としては途方もない合成物になっているという点で、この本はカモノハシそっくりである。</b></p><br />
<p>　わたしは<a href="http://www.tsogen.co.jp/np/detail.do?goods_id=363"><b>『琥珀捕り』</b></a>が刊行されたときに勇んで買い、うわぁ、自分もこんな本を書きたいなぁと長々と夢想した記憶がある。ちょうどその頃、<b>『GOSICK』</b>というミステリーのシリーズを書いていた。その短編集を作る打ち合わせの席にこの本を持っていき、「水時計」「薫製ニシン」「マルメロ」「水の精」などと魅力的なキーワードが躍る目次を見せ、これがかっこいいんだ、わたしもこういう本にしたいんだ、と訴えて、あれこれと説明をした。結局、最初に思い浮かべたイメージを非常に単純化して採用したので、いま二冊を並べて見比べても直接的な影響を拾えるかどうかはわからない。が、ともかく、「花」という共通キーワードを持たせた短編を集めて、琥珀ならぬ“過去の花を摘む”ような一冊にまとめることができた。……と、そんなことがあったのだけれど、東京創元社の誰かにそれを話したことはなかったので、今回、新作の解説にご指名をいただいてちょっとばかり飛びあがってもいる。まるで、キアラン・カーソンの洋風の曼荼羅世界、かわいい見世物小屋に一瞬こっそり顔を出して、こそこそと出てきたところで、旧知の編集者に「あら、奇遇ですね？」と声をかけられたような気持ちだ。</p>
<p>　キアラン・カーソンは1948年、北アイルランド生まれ。ウィスキーと伝統音楽を愛し、詩人、作家、音楽家として旺盛に活動している。子供の頃から、家庭ではゲール語を、外では英語を話し、いまは英語で執筆している。<br />　アイルランド文学について、詳しい方には蛇足になるけれども、わたしのように「読んではきたけれど成り立ちについてはよく知らない」という読者の方のために簡単な説明をしたい。もともとは口承文学として、ゲール語で語られてきたが、その後、約700年続いたイギリスの植民地支配、1845年からのジャガイモ飢饉での人口減などによって衰退した時期もある。一方では、世界に拡散して浸透したのだとも言える。わたしが大好きなオスカー・ワイルドは、本書にも書かれているようにアイルランド人であり、<b>『ドリアン・グレイの肖像』</b> はアイルランドの伝承〈取り替え子〉がモチーフになっているという説もある。<a href="http://www.tsogen.co.jp/np/detail.do?goods_id=1755"><b>『吸血鬼ドラキュラ』</b></a>の著者ブラム・ストーカーもアイルランド人で、じつはルーマニアには一度も行ったことがなく、あのおどろおどろしくも魅力的な舞台はアイルランドのイメージだったという話もある。シャーロック・ホームズの生みの親、コナン・ドイルもアイルランド系なので、ホームズのあの陰鬱で虚無的で“おかしな闇”とでも言える空気の出所もまた、彼の地なのかもしれない（話がすこぅしずれるが、アイルランドで妖精ありきの世界観で生まれ育ち、叔父の職業は妖精画家だったのだと聞くと、例の少女たちの妖精事件にドイルが引っかかったことにも納得できる）。<br />　生まれた土地を舞台にした、土着的な呪縛の強い作品を通して、作家は世界と接続されることがある。局地的なちいさなお話が、普遍性を得てひろがっていく。アイルランドで生まれ育ち、土地や言語に引っぱられ、古いものから普遍的な作品を生みだそうとする作家たちはいまもいる。著者カーソンもその一人で、かつ突然変異の個性を持つ作家なのだろう。そう思うとこれから彼が産みだすであろう新たな作品にも興味は尽きない。<br />　本書<a href="http://www.tsogen.co.jp/np/detail.do?goods_id=3947"><b>『シャムロック・ティー』</b></a>には起承転結という意味でおおきな道筋がひとつついている。それを追っていくと一種のファンタジーＳＦとしても楽しめる。が、魅力的で野放しの枝葉の部分もまた、いつまでもそこで遊んでいたい、と思わせるほどどれも面白い。まるで、図書館で目当ての本を探している途中で、ふと手に取った本たちに夢中になってしまい、なかなか目的の本にたどり着かないときのような気持ちだ。ことに好きなのが、主人公が図書館で、本筋のキーとなる大事な“黄色本”を手に取る直前に読み始めてしまう本『ペンシルヴァニアのメアリー・レノルズ――ひとつの肉体にふたつの魂』と『アル＝ガーザリーの鏡』のエピソードだ。ほかにも、枝葉の部分に、たまたま語られてないだけの無数の物語が眠っていて、情報量の多さと、にも拘わらず著者がすこぅし笑っているような不思議な感覚がやみつきになっていく。個人的には、内田善美の<b>『星の時計のLiddell』</b>を読んだときの衝撃と似ているかもしれない。膨大な知識とセンスと狂気によって、独自の進化をした珍種の文学。動物にたとえると、やっぱり、カモノハシ。カーソンの本は、遙かな古代と近い過去と未来がちいさく神話化されてぎゅうっと詰めこまれた、変な色をした密室のようだ。著者が好き勝手に書いてるのだから、こっちもいろんな動物になって好きに読めばよいのだ。<br />　読み終わって、あぁ、やっぱりいつかキアラン・カーソンみたいな小説の書き方をしてみたい、と憧れた。あれから、<b>『琥珀捕り』</b>を読んでから、四年半ぐらいが経っているけれど、変わらぬ、淡い吐息をついてしまった。いまは無理でも、願わくばなるべく長生きをして、土地に根ざしたほら話を変な色をしたガスみたいに体内に溜めこみ、ほら吹きの怪しいおばあさんとなって、こういう物語を書き、その頃の、若くて生真面目な本読みたちをア然とさせてみたいものだ。</p>
<div align="right">（2009年2月）</div>
<hr color="gray" size="1">

<div style="FLOAT: right; WIDTH: 150px"><a href="http://www.tsogen.co.jp/np/detail.do?goods_id=3894"><img height="196" alt="書店はタイムマシーン" hspace="12" src="http://www.tsogen.co.jp/images/cover_image_l/03894.jpg" width="140" vspace="10" border="1" /> 
<div style="TEXT-ALIGN: center"><img height="18" alt="書籍の詳細を見る" src="http://www.tsogen.co.jp/img/shosekishosai.jpg" width="100" border="0" /></div></a></div><font color="navy">■ <b>桜庭一樹</b>（さくらば・かずき）</font><br />1999年「夜空に、満天の星」（『AD2015隔離都市　ロンリネス・ガーディアン』と改題して刊行）で第1回ファミ通えんため大賞に佳作入選。以降、ゲームなどのノベライズと並行してオリジナル小説を発表。2003年開始の〈GOSICK〉シリーズで多くの読者を獲得し、さらに04年に発表した『推定少女』『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない』が高く評価される。05年に刊行した<a href="http://www.tsogen.co.jp/np/detail.do?goods_id=3794">『少女には向かない職業』</a>は、初の一般向け作品として注目を集めた。“初期の代表作”とされる<a href="http://www.tsogen.co.jp/np/detail.do?goods_id=3648">『赤朽葉家の伝説』</a>で、07年、第60回日本推理作家協会賞を受賞。08年、『私の男』で第138回直木賞を受賞。著作は他に『青年のための読書クラブ』『荒野』、エッセイ集<a href="http://www.tsogen.co.jp/np/detail.do?goods_id=3725">『桜庭一樹読書日記』</a><a href="http://www.tsogen.co.jp/np/detail.do?goods_id=3894">『書店はタイムマシーン　桜庭一樹読書日記』</a>など多数。最新刊は『ファミリーポートレイト』。<br /><br /><!-- グーグルアドセンス・本の話題用フッタ -->
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    </content>
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    <title>山口雅也／エラリー・クイーン『エジプト十字架の謎』［新版］解説［2009年1月］</title>
    <link rel="alternate" type="text/html" href="http://www.webmysteries.jp/translated/yamaguchi0901.html" />
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    <published>2009-01-06T05:40:47Z</published>
    <updated>2009-12-26T13:15:13Z</updated>

    <summary>１９３２年の奇跡《国名シリーズ》の最高峰《読者への挑戦》を含む本格ミステリ（09年1月刊　エラリー・クイーン『エジプト十字架の謎』［新版］解説） 山口雅也　masaya YAMAGUCHI  　   ...</summary>
    <author>
        <name>東京創元社</name>
        
    </author>
    
        <category term="840 海外ミステリ出張室" scheme="http://www.sixapart.com/ns/types#category" />
    
    
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        <![CDATA[<font style="FONT-SIZE: 1.25em"><b>１９３２年の奇跡</b><br /></font>《国名シリーズ》の最高峰<br />《読者への挑戦》を含む本格ミステリ<br />（09年1月刊　エラリー・クイーン『エジプト十字架の謎』［新版］解説） <br /><br /><font color="navy"><b><font style="FONT-SIZE: 1.25em">山口雅也</font></b>　masaya YAMAGUCHI</font> 
<hr color="gray" size="1">

<p>　</p>
<div style="FLOAT: right; WIDTH: 150px"><font size="3"><a href="http://www.tsogen.co.jp/np/detail.do?goods_id=3936"><img height="196" alt="エジプト十字架の謎" hspace="12" src="http://www.tsogen.co.jp/images/cover_image_l/03936.jpg" width="140" vspace="10" border="1" /> 
<div style="TEXT-ALIGN: center"><img height="18" alt="書籍の詳細を見る" src="http://www.tsogen.co.jp/img/shosekishosai.jpg" width="100" border="0" /></div></a></font></div>
<p>　1932年には、320馬力のスーパーチャージ・モデルＪが登場する。（中略）ユタ州のボンネビル・ソルトフラッツにおいて平均時速245キロメートルを達成した。<br />（英語版『ウィキペディア』の「デューセンバーグ」の記事より）</p>
<p>　――と、のっけから、ミステリの解説と関係なさそうなアメリカの自動車に関する文章の引用から書き始めたのには、もちろん理由がある。<br />　理由の一つは、上の引用の冒頭にある1932年という年が意味するもの。<br />　この年には、1929年に始まった大恐慌がピークに達していて、アメリカの世相には、まだまだ暗いものがあったろうし、いっぽう、国外でも、ナチがドイツ国会選挙で第一党となり、満州国が建国を宣言するなど、来るべき第二次世界大戦の予兆となるような不穏な影が世界を覆い始めていた。<br />　ところが、そんな年に、アメリカのミステリ作家エラリー・クイーン（フレデリック・ダネイとマンフレッド・リーの従兄弟同士の合作）は、そのキャリアの頂点を迎えることになる。<br />　1932年にクイーンは、四冊の長編を発表している。1929年に処女作<a href="http://www.tsogen.co.jp/np/detail.do?goods_id=660"><b>『ローマ帽子の謎』</b></a>で始めた所謂《国名シリーズ》（探偵役は作者と同名のエラリー・クイーン）の第四作<a href="http://www.tsogen.co.jp/np/detail.do?goods_id=663"><b>『ギリシア棺の謎』</b></a>と第五作の<a href="http://www.tsogen.co.jp/np/detail.do?goods_id=3936"><b>『エジプト十字架の謎』</b></a>（本書）、そして、バーナビー・ロス名義で発表した、シェイクスピア俳優のドルリー・レーンを探偵役に配した四部作の内の最初の二作、<a href="http://www.tsogen.co.jp/np/detail.do?goods_id=656"><b>『Ｘの悲劇』</b></a>と<a href="http://www.tsogen.co.jp/np/detail.do?goods_id=657"><b>『Ｙの悲劇』</b></a>――の計四作品である。それら四作品の内容がまた凄かった。例えば、<b>『ギリシア』</b>と<b>『エジプト』</b>は《国名シリーズ》、あるいはクイーンの代表作として常に名前があがってくる秀作だし、<b>『Ｘ』『Ｙ』</b>の両悲劇に至っては、独りクイーンの代表作と言うにとどまらず、ミステリ全史のオールタイム・ベストで、常に一、二位の座が指定席になっているほどの名作なのである。ミステリの長い歴史において、一年の間に、これほどの質と量の作品を発表した作家を他には知らない。この奇跡の1932年をクイーン――いやミステリ全史の《当たり年》と言わずして何と言ったらいいのだろう。<br />　――で、この奇跡の1932年に、アメリカ車デューセンバーグも、冒頭の引用にあるような頂点を極めることになる。デューセンバーグは、当時のアメリカで「最も大きく、高速で、高価で、品質のよい」自動車であり、所謂《狂乱の20年代》を象徴する文物の一つとして知られていた。世界中の自動車スピード・レースで数々の輝かしい戦歴を残し、クラーク・ゲーブルなど有名人たちの愛車となり、当時の標準的な大衆車の実に40倍もの値段で売買されていた当時の最高級車デューセンバーグ。<br />　――そのデューセンバーグが名声の頂点を極めた1932年に、作家エラリー・クイーンもその創作活動の頂点を極め、軌を一にするかのように、同年発表の本書<b>『エジプト十字架の謎』</b>の中に、探偵エラリーの愛車として、この車を初登場させているのだ。<br />　このミステリ史に残る最高の名探偵と当時の最高級車の組み合わせというのが、本書<b>『エジプト十字架の謎』</b>の特徴を、象徴的に、そして如実に、物語っているように思えてならない。<br />　その特徴とは、ずばり、当時のミステリ小説が盛り込みうる最高の《エンターテインメント》性――ということ。<br />　それが、端的に表れているのが、物語終盤のスリリングな犯人の追跡シーンだ。ここで探偵エラリーは「最速」の愛車デューセンバーグと近代高速交通機関を駆使して、四州にまたがり550マイルにわたる真相究明のための大追跡を敢行する。当時の読者が、この場面に、全盛を極めていたハリウッド映画顔負けの《エンターテインメント》性を感じたであろうことは、想像に難くない。<br />　<b>『エジプト十字架の謎』</b>のエンターテインメント性重視の姿勢は、この終盤部だけにとどまるものではない。冒頭から、Ｔ字形の道標に磔にされた奇妙な首なし死体が発見されるというインパクトの強い事件が起こり、以後、Ｔ十字架に絡む不気味な首なし死体は四連続で現われて、探偵と読者は大いに幻惑・翻弄されることになる。クイーンという作家は、同時代のディクスン・カーのように怪談じみた謎やオカルト趣味などのケレン味でリーダビリティーを確保するという手は使わなかったし、小説の冒頭から展開部にかけては、事情聴取や現場の精査などに終始する、どちらかと言うとスタティックな（私は楽しめるのだが、人によっては退屈に感じる）印象が強かったが、本作では、異例とも言えるほどの派手な掴みと展開で、まさに｢巻おく能（あた）わざる｣一編となっている。<br />　こうした豊かな「動」の《エンターテインメント》性が、名品揃いの奇跡の1932年発表作の中でも、<b>『エジプト十字架の謎』</b>をひと際輝かせ、忘れがたいものにさせているのだと思うが、一方の「静」の《エンターテインメント》性――本格謎解きミステリとしての読みどころである《推理》の部分については、どうだろうか。<br />　クイーンの作品では、犯人側が仕掛ける奇抜なトリックよりも、現場に残された些細な手掛かりから、探偵役が演繹的かつ精緻な推理を重ねる過程――つまり論理的推理の面白さが重視される。本書中でも、探偵エラリーが警察科学学校の標語を引用して、『目は求めるもののみしか見ず、すでに心中にあるものしか求めない』――と語っているが、実際、現場の捜査陣（読者）が見逃してしまいがちな些細なものを、エラリーは絶対に見逃さず、その些細なものどもを重要な手掛かりに変貌させ、そこから独創的な推理を展開して、まったく意想外な真相へと到達する。</p>
<p>　（以後、本書の中でエラリーが得る手掛りについて触れています。未読の方はご注意下さい。また他の作品の手掛かりも未読の方の興を殺がないよう、伏せ字にしています）</font></p>
<p>　だから、エラリー・クイーン作品の最大の魅力は、記憶に残る《名推理》の面白さ――と言ってもいいのかもしれない。<br />　それらの《名推理》の例を思い出してみても、<a href="http://www.tsogen.co.jp/np/detail.do?goods_id=662"><b>『オランダ靴の謎』</b></a>の○○の推理、<b>『ギリシア棺の謎』</b>の××の推理、<a href="http://www.tsogen.co.jp/np/detail.do?goods_id=666"><b>『シャム双子の謎』</b></a>の△△の推理……などなど、枚挙にいとまがない。本書もその例に漏れることはなく、前半の<font color="#ffffff">パイプとチェッカー駒</font>の推理もいいが、何と言っても終盤で語られる、<font color="#ffffff">ヨードチンキ瓶</font>に関するシンプルで鮮やかな推理から連続殺人事件の意外な全体像が浮かび上がる過程は圧巻。マニアの間で｢<font color="#ffffff">ヨードチンキ</font>の推理｣と言えば、それだけで通じるほどの、あまりにも有名なクイーン流《名推理》の好例として知られている。</p>
<p>　豊かなエンターテインメント性とクイーン本来の名推理の妙味が共存した本作は、最初に読むのならこれ――というエラリー・クイーン入門の書として、万人にお勧めできる絶好の一冊だと思う。</p>
<div align="right">（2009年1月）</div>
<hr color="gray" size="1">
<font color="navy">■ 山口雅也（やまぐち・まさや）</font><br />横須賀市生まれ。早稲田大学法学部卒業。1989年<a href="http://www.tsogen.co.jp/np/detail.do?goods_id=1674">『生ける屍の死』</a>でデビュー。<a href="http://www.tsogen.co.jp/np/detail.do?goods_id=3701">『日本殺人事件』</a>で第48回日本推理作家協会賞受賞。主な著書に『13人目の探偵士』<a href="http://www.tsogen.co.jp/np/detail.do?goods_id=1675">『キッド・ピストルズの冒涜』</a><a href="http://www.tsogen.co.jp/np/detail.do?goods_id=3745">『續・日本殺人事件』</a>『ミステリーズ』『奇偶』『ステーションの奥の奥』『モンスターズ』『キッド・ピストルズの最低の帰還』等がある。<br /><br /><!-- グーグルアドセンス・本の話題用フッタ -->
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    <title>村上貴史／トロイ・クック『最高の銀行強盗のための47ヶ条』解説［2008年9月］</title>
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    <id>tag:www.webmysteries.jp,2008://6.50</id>

    <published>2008-09-05T05:35:19Z</published>
    <updated>2009-08-22T05:25:21Z</updated>

    <summary>謹聴！　謹聴！　すげぇヤツが現れたぜ！驚異の新人作家が贈る、ノンストップ青春＋強盗小説。（08年9月刊　トロイ・クック『最高の銀行強盗のための47ヶ条』解説［全文］）村上貴史　takashi URAK...</summary>
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        <name>東京創元社</name>
        
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    <content type="html" xml:lang="ja" xml:base="http://www.webmysteries.jp/">


   
      
        <![CDATA[<font style="FONT-SIZE: 1.25em"><b>謹聴！　謹聴！　すげぇヤツが現れたぜ！</b><br /></font>驚異の新人作家が贈る、ノンストップ青春＋強盗小説。<br />（08年9月刊　トロイ・クック『最高の銀行強盗のための47ヶ条』解説［全文］）<br /><br /><font color="brown"><b><font style="FONT-SIZE: 1.25em">村上貴史</font></b>　takashi URAKAMI</font> 
<hr color="black" size="1">

<p>　</p>
<div style="FLOAT: right; WIDTH: 150px"><font size="3"><a href="http://www.tsogen.co.jp/np/detail.do?goods_id=3898"><img height="196" alt="最高の銀行強盗のための47ヶ条" hspace="12" src="http://www.tsogen.co.jp/images/cover_image_l/03898.jpg" width="140" vspace="10" border="1" /> 
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<p>■ <strong>クライム・コメディはお好き？<br /><br /></strong>　エルモア・レナードの手になる犯罪小説が好きな人。<br />　ジョー・Ｒ・ランズデールが描くテキサスのならず者たちの活劇が大好きな人。<br />　カール・ハイアセンが社会性というスパイスを効かせて料理したフロリダの変人たちの物語が好きで好きでたまらないという人。<br />　伊坂幸太郎が個性派揃いの強盗団を大暴れさせた<b>『陽気なギャングが地球を回す』</b>（祥伝社文庫）およびその続篇<b>『陽気なギャングの日常と襲撃』</b>（祥伝社ノン・ノベル）に惚れ込んだ人。<br />　ドナルド・Ｅ・ウェストレイクが生んだ強盗プランナー、ドートマンダー・シリーズを愛し、彼が別名義のリチャード・スタークで生んだ犯罪プロフェッショナル、悪党パーカー・シリーズも愛する人。<br />　そしてそれらの全部に夢中になった人。<br />　そんな人には、トロイ・クックのデビュー作である本書<a href="http://www.tsogen.co.jp/np/detail.do?goods_id=3898"><b>『最高の銀行強盗のための47ヶ条』</b></a>は大のお薦めである。<br />　骨があって乾いていてちょいとヤバくて――なんともキュートで刺激的な一冊なのだ。</p>
<p>■ <strong>クーデターに巻き込まれた？<br /><br /></strong>　そんな作品を世に送り出したクックは、そもそもは映画畑の出身である。<br />　本人のホームページ（<a href="http://www.troycook.net/" target="blank">http://www.troycook.net/</a>。カラフルな蛙の写真がトップに飾ってあるという、これまたキュートなページだ）のバイオグラフィーのofficial short versionによれば――正確には本書をイカした文章で訳された高澤真弓さんの翻訳の力をお借りしているのだが――クックが行ったエキゾチックなロケ地での映画撮影は、ロシア人マフィア、マネーロンダラー、殺人者たちとの間で悶着を引き起こしたとのこと。そして、クーデター未遂、暴動、激しいデモを切り抜けた彼は、小説を書いている方が安全だという結論を下すに至ったのだそうだ。ホントかしら？　バイオグラフィーのlong versionには赤の広場での撮影にまつわるエピソードも紹介されているので、気になる方は前述のサイトを確認してみてもらいたい。<br />　そのlong versionによれば、アシスタントカメラマンから映画人としてのキャリアを重ね始めた彼が、初めて脚本および監督を担当したのは1993年のことだった。この映画で資金を調達した彼は、1994年に、ロサンゼルスを舞台に二組の犯罪組織が抗争を繰り広げる<b>"The Takeover"</b>(邦題<b>『テイクダウン』</b>)の監督を務める。95年には、ＳＦ陰謀アクション映画<b>"Phoenix"</b>(邦題<b>『スター・コンバット』</b>)の制作・監督・脚本を担当。自身のウェブサイトでのバイオグラフィーによればこれが最後の映画作品だとのことだが、98年に<b>"Centurion Force"</b>(邦題<b>『センチュリオン・フォース』</b>)なるＳＦ作品も監督している模様である。<br />　その後彼は子供が生まれたのを契機に、映画とロサンゼルスという二つの"craziness"におさらばすることを決め、コロラドに転居する。そして彼は小説を書き始めた。大好きなクライム・コメディを……。</p>
<p>■ <strong>９歳で銀行強盗を？<br /><br /></strong>　クックが６ヶ月で最初の草稿を完成させ、さらに６ヶ月を費やして磨き上げたという<b>『最高の銀行強盗のための47ヶ条』</b>は、22歳のタラ・エバンズを主人公とした物語だ。<br />　男たちを虜にするルックスとバディを備えたタラは、父親のワイアットとのコンビで銀行強盗という仕事に励む。彼らが25万ドルの大仕事を手掛けようとしていたちょうどその頃。個々に動いていた様々な歯車が、妙なタイミングでかみあい始めた。加虐嗜好のＦＢＩ特別捜査官とその部下がワイアットとタラの犯罪に関心を持ったり、21歳の元不良少年マックスがタラに恋心を抱いたり、ワイアットのかつての仲間が、彼の金の横取りを企んだり。<br />　かくして、物語はおそるべき勢いで走り出す。その疾走感は最高。退屈などとは全く無縁だ。書き過ぎや描写不足といったぎこちない凸凹はまるでなく、実によどみなく物語は流れていく。それも、ヘアピンカーブを駆け抜けていくように、幾度も高速で曲がりながらだ。<br />　おそらく、映画という多人数で作り上げる芸術において多くの経験を積むことで、全体を客観視する才能を彼は身につけたのだろう。その上で、文体が（訳文の効果もあるだろうが）心地よい。減らず口小説としてとにかく愉しいのだ。これは脚本で鍛えられたという見方も出来るが、地の文とセリフの役割分担や、それぞれの表現などを見るに、やはりクックの小説家としての才能であろう。例えば、“ワイアットは、越えてはならない一線などない人間だ”などとさらりと書いて彼の危なさを表現している点などに、それを感じるのである。<br />　そして何よりキャラクターが強い。タラとワイアット、さらにマックスという三人の中心人物に揺るぎが全くない。しかも、それぞれに（善悪はともかくとして）チャーミングである。そんな三人が繰り広げる騒動に、これまた強烈に個性的な脇役たちが絡んでくるのだ。いずれの面々の造形も、写実的にリアルであるとは言いがたいが、小説の登場人物としての存在感は間違いなく一級品。そんな連中が先を読ませぬプロットと歯切れのよいリズミカルな文章のなかに置かれているのだから、これはもうページをめくる手が止まるはずがないのである。<br />　ちなみに本書は、アンソニー賞やマカヴィティ賞など、８つの賞において最終候補となったそうである(そのなかで、"Allbooks Reviewer's Choice Award for Best Mystery"と"Silver Evvy Award for Best Novel by Colorado Independent Publishers Association"の２つを獲得)。まずは大歓迎された一冊といってよかろう。</p>
<p>■ <strong>第二作の邦訳はまだなの？<br /><br /></strong>　クックは既に第２作<b>"The One Minute Assassin"</b>を仕上げているという。カリフォルニア州知事選を舞台に、私立探偵と有力候補たち、殺し屋が右往左往するというこれまた魅力的な物語だ。いずれ東京創元社から紹介されるらしいので愉しみに待つとしたい。それを待つ間に、クックが敬愛する諸先輩らの作品に手を出してみるのもよかろう。<br />　まずは、フロリダを舞台にクライム・コメディの素敵な作品を放ち続けているカール・ハイアセン。個性的な面々を操る才能に長けており、そうした連中による群像劇を得意とする。本書が“誰かがカール・ハイアセンを乾いた南西部に移したような”という惹句で紹介されたことからも明らかなように、かなり共通したテイストを備えている。本書を愉しんだ方なら<b>『殺意のシーズン』</b>（扶桑社ミステリー）以降のハイアセン作品、例えば<b>『珍獣遊園地』</b>（角川文庫）や<b>『虚しき楽園』</b>（扶桑社ミステリー）なども愉しめるだろう。なお、本書でクックは保険会社を揶揄しているが、それがハイアセンと同じく社会批判を意図したものかどうかは本書だけでは不明。２作目以降を読んでからの判断としたい。<br />　クックは、“ユーモアと良質なクライム・ストーリーを両立させることは信じられないくらい困難だが、それがうまくいったときには、ユーモアでくるんだことで物語はさらに愉しいものになる”と述べており、ハイアセンとエルモア・レナード、ドナルド・Ｅ・ウェストレイクの作品が完璧なバランスを備えていると語っている。<b>『スティック』</b>（文春文庫）、<b>『ラブラバ』</b>（ハヤカワ・ミステリ文庫）などで一時代を築いたレナードをクックがそう評価するのはもちろんのことだが、とりわけ注目したいのはウェストレイクである。ユーモアとクライム・ストーリーの完璧なバランスという点だけでなく、強盗チームという点でも本書との共通性が顕著なのだ。ドートマンダーと仲間たちの世界は、信用できる奴を通じてプロ（例えば運転手役。本書であればピート・コレリ）だけを仲間にすべきというワイアットの“規則”と共通しているし、それは、リチャード・スターク名義で発表されている悪党パーカー・シリーズとも共通だ。本書の強盗シーンをよりコミカルな方向に演出した小説が読みたければ<b>『ホット・ロック』</b>（角川文庫）に始まるドートマンダー・シリーズを、非情な方向なら<b>『悪党パーカー／人狩り』</b>（ハヤカワ・ミステリ文庫）に始まる同シリーズを読んでみるとよかろう。<br />　クックが日本語を読めれば、ユーモアとクライム・ストーリーを完璧にバランスさせる作家の一人として伊坂幸太郎の名前も挙げるだろう。銀行強盗が“仕事”の最中に銀行員や客に向かってやたらと喋りまくるシーンは、まさに<b>『陽気なギャングが地球を回す』</b>だ。<br />　また、<b>『罪深き誘惑のマンボ』</b>（角川文庫）等、ジョー・Ｒ・ランズデールがハップとレナードのコンビを操る犯罪小説も素敵だ。キャラクターの強さとセリフの強烈さは本書と双璧。<br />　その他、コメディに振り切って犯罪を描くトニー・ケンリックの諸作（誘拐コメディ<b>『リリアンと悪党ども』</b>（角川文庫）など）や、強盗小説にしてロード・ノヴェル、しかも青春小説であるジェイムズ・カルロス・ブレイク<b>『無頼の掟』</b>（文春文庫）、先の全く読めない犯罪小説であるジェームズ・リーズナー<b>『聞いてないとは言わせない』</b>（ハヤカワ・ミステリ文庫）などもお勧めだ。また、ワイアットが銀行強盗として生き延びるために定めた47の規則を愉しんだ方は、マイク・リプリー<b>『名ばかりの天使』</b>（ハヤカワ・ミステリ文庫）や、ロス・Ｈ・スペンサー<b>『されば愛しきコールガールよ』</b>（ハヤカワ・ミステリ文庫）もお試しあれ。前者ではロンドン・タクシーを自家用車として乗り回す私立探偵エンジェルの“人生の教訓”が、後者では酒場でくだを巻くアンダーウッドじいさんの警句が愉しませてくれることだろう。<br />　親子とロード・ノヴェルというキーワードでコーマック・マッカーシー<b>『ザ・ロード』</b>（早川書房）を引っ張ってくるのは、いかにその作品が素晴らしくてもいささか強引すぎるか。ともあれ、ここに紹介した作家や作品を読んでいるうちに時間が経過し、ちょうど第２作 <b>The One Minute Assassin</b> の邦訳が出るタイミングとなることを期待したい。都合よすぎるかしら。</p>
<p>　最後に本書の冒頭でクックが弟に捧げた献辞について。<br />　本書の執筆を始めた直後、彼の弟が31歳の若さで亡くなったそうである。予想もしなかったその出来事に打ちのめされた彼は、とても本など書ける気分ではなかった。悲しみに浸っている最中にユーモラスなシーンなど書けたものではない。だが、彼は弟が優れて痛烈な機知の持ち主だったことを思い返し、作品にユーモアを注ぎ込むことにしたのだという。弟を笑わせられるであろうユーモアを。それが、この作品を完成させる後押しになったそうだ。<br />　それを知るとちょっとしんみりしてしまうのだが、本書には、献辞を除いて、みじんもそんな要素は顔を出していない。さすがに映画人としてエンターテインメントのプロであり続けた男である。読者に提供する作品とおのれの感情の間には、きっちりと一線を引いているのだ。<br />　とはいえ――この<b>『最高の銀行強盗のための47ヶ条』</b>にはトロイ・クックのそんな気持ちがこめられていることを想うと、本国のファンが本書を歓迎したように、日本のミステリファンにも是非とも歓迎して欲しいと、なお一層強く願ってしまうのである。 </p>
<div align="right">（2008年9月）</div>
<hr color="gray" size="1">
<font color="navy">■ <b>村上貴史</b>（むらかみ・たかし）</font><br />1964年、東京都生まれ。慶應義塾大学卒。〈ミステリマガジン〉に日本人作家インタヴュー『迷宮解体新書』を今年から連載開始。著作は『ミステリアス・ジャムセッション』（インタヴュー集）、『名探偵ベスト101』（編著）。共著は『ミステリ・ベスト201』『日本ミステリー事典』他。各種紙誌において書評やインタヴューなどを実施中。 </font><br /><br />
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    <title>川出正樹／ドナルド・Ａ・スタンウッド『エヴァ・ライカーの記憶』解説（1/2）　［2008年8月］</title>
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    <id>tag:www.webmysteries.jp,2008://6.38</id>

    <published>2008-08-05T04:40:06Z</published>
    <updated>2009-08-22T05:17:45Z</updated>

    <summary>　   　「あとに残した解決されぬ疑問の数において、「タイタニック号」に匹敵するものはほかにあるまい」――ウォルター・ロード『タイタニック号の最期』佐藤亮一訳 「表面的には忘れたように見えるかもしれな...</summary>
    <author>
        <name>東京創元社</name>
        
    </author>
    
        <category term="840 海外ミステリ出張室" scheme="http://www.sixapart.com/ns/types#category" />
    
    
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        <![CDATA[<p>　</p>
<div style="FLOAT: right; WIDTH: 150px"><font size="3"><a href="http://www.tsogen.co.jp/np/detail.do?goods_id=3885"><img height="196" alt="エヴァ・ライカーの記憶" hspace="12" src="http://www.tsogen.co.jp/images/cover_image_l/03885.jpg" width="140" vspace="10" border="1" /> 
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<p>　「あとに残した解決されぬ疑問の数において、「タイタニック号」に匹敵するものはほかにあるまい」――ウォルター・ロード『タイタニック号の最期』佐藤亮一訳</p>
<p>「表面的には忘れたように見えるかもしれない。でもその記憶はずっと深いところに残っているのよ」――アガサ・クリスティー『スリーピング・マーダー』綾川梓訳<br /></p>
<p><br /></p>
<p>　　　　　一<br /><br />　面白いミステリを読みたくないですか？　寝るのも食べるのももどかしく、ページを繰る手を止められない、そんな経験をしてみたくはないですか？<br />　YESならば、この本を持って真っ直ぐレジに向かうこと。えっ、まだ内容もよく解らないし、好みの分野かどうかも不明なままで判断できるわけないだろう、って。<br />　大・丈・夫。なぜなら、本格マニアもハードボイルド・ファンも、冒険小説愛好家もサスペンス小説好きも、そしてもちろん、「ジャンルなんてどうでもいい、とにかく面白きゃいいんだ！」という、ある意味ワガママな読者も、ぜんぶまとめて受け止めて、理屈抜きで愉しませてくれる娯楽小説の切り札、それがこの本<a href="http://www.tsogen.co.jp/np/detail.do?goods_id=3885"><b>『エヴァ・ライカーの記憶』</b></a>なのだから。<br />　どうです？　興味がわきましたか？　そんなこと言われてもいくら何でも情報が少なすぎ、という声に答える為に、客観的データを提示するとともに、強力な二人の助っ人に登場して貰おう。<br />　まずはデータから。実は、この作品が紹介されるのは今回が初めてではない。今から約30年前の1979年に文藝春秋から刊行され、その年の「週刊文春傑作ミステリー・ベスト10」で見事第４位に輝いたのだ！<br />　なんだ４位か、なんて言わないで欲しい。当時は国内と海外の作品を一緒に集計していたのだ。部門が分かれるのは、1983年以降のこと。というわけで、１位の高柳芳夫<b>『プラハからの道化たち』</b>――第25回江戸川乱歩賞受賞作――を除くと、ブライアン・フリーマントル<b>『消されかけた男』</b>（新潮文庫）、メアリ・Ｈ・クラーク<b>『誰かが見ている』</b>（新潮文庫）に次ぐ、海外部門第３位。スパイ小説と心理サスペンスの大家の出世作と肩を並べ、グレアム・グリーン<b>『ヒューマン・ファクター』</b>（ハヤカワ文庫ＮＶ）（６位）、ジョン・ル・カレ<b>『スクールボーイ閣下』</b>（ハヤカワ文庫ＮＶ）（９位）という強力なライバルを抑えて、ベスト３の一角を担ったことからも、当時、いかに評価が高かったかがうかがい知れるだろう。ちなみに、本国アメリカでは、MWA（アメリカ探偵作家クラブ）最優秀処女長篇賞にノミネートされている（受賞作は、ウィリアム・Ｌ・デアンドリア<b>『視聴率の殺人』</b>（ハヤカワ・ミステリ文庫）。率直に言って、<b>『エヴァ・ライカーの記憶』</b>よりも、この作品が評価された理由が思い浮かばない）。<br />　続いては、優れた物語作家であると同時に、本の目利きでもある二人による賛辞を。<br />　一人は、有栖川有栖。<b>「有栖が語るミステリ100」</b>（<b>『有栖の乱読』</b>（メディアファクトリー）所収）の中で彼は、「本格の手法が突如浮上するタイタニックミステリ」と題して、「インタビューを重ねながら探っていく前半はハードボイルドのごとく、回想シーンはパニック小説のごとく、真相の解明が始まると本格ミステリのごとく」と、本書の特長を簡潔に並べ、「謎解きが始まったときの興奮は格別」、と誉めあげている。<br />　もう一人は、恩田陸。彼女は、「あくまで巻措く能わず、のページターナー」を中心に「とにかく「面白い」全集」を編んでみようというコンセプトに基づいた<b>「架空長編アンソロジー」</b>（<b>『小説以外』</b>（新潮社）所収）の収録作候補として本書を挙げ、「タイタニックものでは一番面白い」、と太鼓判を押しているのだ。</p>
<p><br /></p>
<p>　　　　　二<br /><br />　本書<b>『エヴァ・ライカーの記憶』</b>とは、かくも熱く語りたくなる作品なのである。なぜか？　結論から言ってしまうと、魅力的な題材をもとに、強力な〈謎〉を核として大胆かつ緻密にプロットを練り上げ、波瀾万丈な物語を、スピーディーな文体で紡ぎ上げているためだ。<br />　魅力的なモチーフとは、ずばり〈タイタニック〉沈没事件だ。1912年４月14日に起きた、史上最も有名な海難事故。発生後一世紀近くを経た今なお、この〈悲劇〉は世界中の人々を魅了し、数多くの創作物が生み出されている。<br />　言わずと知れた、ジェームズ・キャメロン監督、レオナルド・ディカプリオ主演のスペクタクル巨編<b>『タイタニック』</b>（1997）や、ウォルター・ロードの不朽の名作<b>『タイタニック号の最期』</b>（ちくま文庫）をベースにした名画<b>『SOSタイタニック　忘れえぬ夜』</b>（1958）など、映像分野での人気もさることながら、活字メディアのクリエイター、とりわけミステリ作家の創作意欲を刺戟し続けてきた。<br />　代表的なところを挙げると、クライブ・カッスラーが生んだ海洋冒険小説の金字塔<b>『タイタニックを引き揚げろ』</b>（新潮文庫）、ＳＦ界の巨匠アーサー・Ｃ・クラークによる近未来テクノロジー小説<b>『グランド・バンクスの幻影』</b>（ハヤカワ文庫ＳＦ）、ロバート・Ｊ・サーリングの異色海洋サスペンス<b>『タイタニックに何かが』</b>（早川書房）、〈思考機械〉の生みの親ジャック・フットレルが探偵役を務める、マックス・アラン・コリンズの<b>『タイタニック号の殺人』</b>（扶桑社ミステリー）といったところか。これら〈タイタニック〉とがっぷり四つに組んだ作品――本書もこのタイプ――以外にも、ジョン・ディクスン・カーの<b>『曲った蝶番』</b>（創元推理文庫）や、クレイグ・ライスの<b>『第四の郵便配達夫』</b>（創元推理文庫）、若竹七海<b>『海神（ネプチューン）の晩餐』</b>（講談社文庫）のように、この〈大惨事〉を巧みに取り込んだ作品は少なくない。</p>
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    <title>坂木司／キャロリン・キーン『バンガローの事件』解説［2008年4月］</title>
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    <published>2008-04-07T03:58:43Z</published>
    <updated>2009-08-22T21:24:17Z</updated>

    <summary>　 （物語の内容に触れています。ご注意下さい） 　   　『バンガローの事件』を読み終わって、ナンシー・ドルーに惚れ直した。だってこんな女の子、ちょっといない。　コンバーチブルを乗り回し、一人でどこへ...</summary>
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        <name>東京創元社</name>
        
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<div align="center"><b>（物語の内容に触れています。ご注意下さい）</b></div>
<p>　</p>
<div style="FLOAT: right; WIDTH: 150px"><a href="http://www.tsogen.co.jp/np/detail.do?goods_id=3835"><img height="196" alt="バンガローの事件" hspace="12" src="http://www.tsogen.co.jp/images/cover_image_l/03835.jpg" width="140" vspace="10" border="1" /> 
<div style="TEXT-ALIGN: center"><img height="18" alt="書籍の詳細を見る" src="http://www.tsogen.co.jp/img/shosekishosai.jpg" width="100" border="0" /></div></a></div>
<p>　<a href="http://www.tsogen.co.jp/np/detail.do?goods_id=3835"><b>『バンガローの事件』</b></a>を読み終わって、ナンシー・ドルーに惚れ直した。だってこんな女の子、ちょっといない。<br />　コンバーチブルを乗り回し、一人でどこへだって行く18歳の少女。まあ、そこまでは日本にだっているかもしれない。けれどタイヤ交換が一人でできて、ついでにモーターボートの操縦もできて、その上溺れかけた友人を救助してしまい、スポーツ万能で料理だってできる。もちろん見た目も可愛くって、礼儀だって完璧。ここまで来ると、もう嫌みなくらいだ。<br />　思い起こせば、彼女との出会いは小学校の図書室。当時やはり乱歩の<b>〈少年探偵団シリーズ〉</b>を読んでいた私は、「少女探偵なんていうのもあるのか」と何気ない気持ちでこのシリーズを手に取った。しかし手に取ったはいいが、子供の私は数冊読んでそれっきりナンシーについて興味を失ってしまった。理由は、「なんかいい子ちゃんっぽいから」。<br />　今にして思えばひどい理由だと思う。しかし夜の闇を駆ける少年探偵団のシリーズを読み慣れていた私にとって、ナンシーはあまりにも明るくて品行方正過ぎるように感じたのだ。優しくて裕福な父親の庇護のもと、困った人に手を差し伸べる面白みのないお嬢様。私の中の彼女は、長らくそんなイメージのままだった。<br />　実際、今回のシリーズに関しても正直２作目の<a href="http://www.tsogen.co.jp/np/detail.do?goods_id=3795"><b>『幽霊屋敷の謎』</b></a>までは、その疑念を完璧にぬぐい去ることはできなかった。確かに彼女は記憶の中よりもずっとアクティブで、一人でどこへだって行ける18歳の女の子だった。でも、それだけ？　読み進みながら、私は首をかしげた。それだけの魅力でナンシーは、こんなに多くの人に長く愛されているのだろうか。しかし本作を読んで、その疑問はあっけなく氷解した。ナンシーは、ただのお嬢様なんかじゃない。<br />　シリーズ３作目であるこの<b>『バンガローの事件』</b>には、前二作とは大きく違う点がいくつかある。まず一つ目は、ナンシー自身が悪者に背後から殴られ、失神するという実質的な被害に遭っていること。そしてもう一つは、派手なアクションシーンの数々。前二作のいかにも「子供向け」といった冒険から一転、こちらは本当の意味で危険な状況が頻発するのだ。あまりのことに『もう、頭にきすぎて、おかしくなりそう！』と叫ぶナンシー。そんな彼女はお嬢様っぽくなく、とても身近な存在として描かれている。<br />　さらに印象的なのは、ナンシーがホテルに泊まる場面だ。アメリカと言えどまだ若い女性が一人でディナーの席に着くのは珍しかった時代。なのに彼女は堂々と食事を平らげる。立派なホテルのダイニングで一人ディナーだなんて、現代の18歳にだって相当ハードルが高い行動に違いない。そう、ナンシーの「できること」の本質はこんな部分に現れているのだ。車の運転や料理は、学ぼうとすれば誰にでもできる。けれどきちんとした立ち居振る舞いというものは、一朝一夕で身につくものではない。これは１作目から貫かれているシリーズの特徴だが、本作ではそれが究極の場面で現れる。<br />　犯人一味の車が崖から落ち、今にも炎上しようかという状況で、さすがに立ちすくむナンシー。この犯人には、彼女も彼女の父カーソンも殴られて気を失ったり監禁されたりしている。しかしカーソンはためらわずこう叫ぶ。『彼らが無事なら、助けなければ！』。<br />　本当に育ちが良いということは、礼儀うんぬんではない。いざというときにきちんと行動できる力が身についていることではないかと、この物語を読んでいると思う。そしてその力こそ、ナンシー・ドルーという探偵が父から受け継いだたぐいまれなる資質なのではないだろうか。<br />　１作目<a href="http://www.tsogen.co.jp/np/detail.do?goods_id=3783"><b>『古時計の秘密』</b></a>の中でナンシーは、怪我の手当てをした老婦人にお礼を言われて、相手がそのことを気に病まないようこう答える。『あら、わたしでなくても、だれかが気づいて、きっとお助けしていましたよ』。あるいは２作目<b>『幽霊屋敷の謎』</b>の中で、彼女は悪に手を貸した男をあっさりと自白させる。『人はだれでも、ときどき間違いを犯すものよ。うまい言葉にだまされて、やってはいけないとわかっているのに、それをやらされてしまうことがあるわ』。相手のことを考えて気を使うこと、そして憎しみに心を曇らせずまっすぐに物事を見ること。それこそがナンシーの最大の武器だと私は思う。<br />　そしてさらにこの時代ならではだと感じるのは、随所に現れる「備えあれば憂いなし」という場面だ。携帯電話どころかコンビニも自動販売機もない時代、ものを言うのは用意周到な準備だ。前述のホテルのシーンで彼女が車のトランクにいつでも一泊分の荷物を用意しているのはもちろん、冒険に出るときにはポケットにマッチを忍ばせるなどの行為。それが後々、いかに役に立つことか。現代に生まれた私たちのように「出先で買えばいいじゃないか」などと言っていたら、あっという間に窮地に陥ってしまいそうな世界にナンシーは生きているのである。ちなみにその「いざというときの一着」が黒いシンプルなワンピースだというのは、時代を超える普遍的なファッションセンスだと思わされた。センスまでいいなんて、もう反則だ。<br />　そんな彼女は、ご想像の通り結構モテるらしい。本作ではプロムで彼女のパートナーをつとめたボーイフレンドのドン・キャメロンが登場するが、その他にも彼女をダンスに誘おうとする男性なども姿を現す。けれど彼女は『ロマンスを楽しんでいる余裕はないわ』とその誘惑をひらりとかわす。恋に身を任せず、かといって女同士で群れるわけでもない。一人できちんと立っている彼女には、男性ならずとも魅了されるに違いない。<br />　とはいえ、実は私がナンシーに一番魅かれたのは食事をする場面だ。彼女はどんな状況に置かれても、きちんと食事をとることを忘れない。ハンナの作った料理はもちろんのこと、外食でも一人でも気負うことなく『もりもり平らげ』る。その姿は生命力に溢れ、とても健康的な魅力に満ちている。<br />　こうして並べてみると、ナンシーは本当に無敵の女の子だ。涙が込み上げても、手の甲でさっと拭う潔さ。その弱さも強さも、すべてが一つの美しい形に集約されているような気がする。永遠の少女探偵ナンシー・ドルー。私は時を超えて今、彼女の魅力に気づくことができて本当に良かったと思っている。<br />　そして最後に、素晴らしい翻訳でナンシーを甦らせて下さった渡辺庸子さんに心からの感謝を。子供向けの訳では気づくことができなかったナンシーに出会えて、本当に嬉しかったです。これからもナンシーの活躍を、一読者として楽しみにしています。 </p>
<div align="right">（2008年4月）</div>

<hr color="gray" size="1">
<font color="navy">■ <b>坂木司</b>（さかき・つかさ）</font><br />1969年、東京生まれ。覆面作家。2002年に、ひきこもり探偵・鳥井真一とその友人・坂木司を主人公にした連作短編集<a href="http://www.tsogen.co.jp/np/detail.do?goods_id=3469">『青空の卵』</a>でデビュー。ついで中編集<a href="http://www.tsogen.co.jp/np/detail.do?goods_id=3566">『仔羊の巣』</a>、長編<a href="http://www.tsogen.co.jp/np/detail.do?goods_id=3626">『動物園の鳥』</a>の3部作を上梓。新シリーズ<a href="http://www.tsogen.co.jp/np/detail.do?goods_id=3363">『切れない糸』</a>も好評。最新刊は『先生と僕』。 <br />
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