みなさまこんにちは。お暑うございますね。こんなに暑いとお部屋にこもって読書にいそしむのが一番幸せなのではないでしょうか。わたしもおいしいアイスティーとお菓子を準備してエアコンのきいた部屋で優雅な読書タイムを過ごしたい~。

さて、今回のテーマはタイトルのとおりです。本が好きで翻訳ミステリの編集者をしていると言うと、「何かおすすめの本ってありますか?」と尋ねられることがあります。正直、この質問にうまく答えるのってすごーく難しいです。別に編集者でなくても、読書が趣味の方なら一度はこの手の質問に遭遇しているのではないかと。この気持ち、わかっていただけるのでは?

わたしの数多い黒歴史のひとつをお教えしましょう。大学一年生で初めてのクラスコンパのとき隣に座った、誰だか覚えてないけどサッカーが趣味っぽいわりといけてるかんじのメンズにこう聞かれたんですよね。「Sさんってさ、読書が趣味なんだ? どういうの読むの? 何かおすすめある?」

この質問に、高校時代に読書三昧の日々を過ごしていたわりといけてないかんじの女子だったわたしは真っ正直にこう答えました。「うん、一番好きな本はダフネ・デュ・モーリアの『レベッカ』かな!」

…………。いやー、今思い返すとなんだかある種のフラグを叩き折った感がありますね。言うまでもなくいけてるかんじのメンズはそれ以降本の話題を振ってこなくなりましたな。というか会話ができなくなりましたな。

デュ・モーリアが悪いわけじゃないんです!! 『レベッカ』はいまだに大好きで、文学史上に残る傑作ですし。でも、ミステリや文学が好きかもわからない男子大学生に、何のためらいもなく英国女性作家の長編上下2冊本をすすめたのはわりとどうかと思うんだ。同じ新潮文庫でも、せめて『サキ短編集』にしとけば……!(そういう問題でもない気がする)

まあ、この手の黒歴史はいっぱいあるんですが、社会人になってからはさらに困ることになりました。曲がりなりにも翻訳ミステリを専門にしている編集者。その場の社交辞令じゃなく本気で尋ねられている場合もあるかもしれない。わたしがすすめた一冊の本で人生が変わるひとがいるかもしれない。そんで合わない本を選んでしまった場合、「やっぱり翻訳ミステリは読みにくいわ」とか思われて次の一冊を読んでもらえなくなるかもしれない。……プレッシャー半端ないっす!! 
ということで常に悩んでおります。はあ。とはいえわたしもそこそこ学習するようになったので、ひとに翻訳ミステリをおすすめするとき、何に気をつけるべきかだんだんわかってきました。

①読書傾向をリサーチする

思えば冒頭のいけてるメンズだって、実は海外文学好きとかゴシック・ロマン好きだったらまったく問題なかったわけですよ。まあそんな人物にコンパで会える確立って皆無だと思いますが! でもまずはやっぱり、質問をしてきた人物の好きな作家とかジャンル、ひと月に何冊くらい読むのかとかをリサーチしてからおすすめ本を考えたほうが、そのひとに合った本を選べるのではないかな、と思います。

例えば、わたしの友人が女子会的なホームパーティを主催して、そこで初めて会った女の子がいました。自己紹介などののちに趣味の話になり、いつものように「おすすめの本は?」と質問されたのでした。わたしは今までの会話で彼女が一年間のドイツ留学から帰ってきたばかりだということを知っていました。そしてすかさず「普段はどんな本読むの? 好きな作家は?」とリサーチ! その結果、あまりミステリとかは読まず、好きな作家は安部公房だと判明。……渋いな! ということで、ここはドイツの作家で不条理さもあるシーラッハ作品だろう! と思いついて『犯罪』をおすすめしておきました。期待したとおり、ドイツ本国ではかなり有名な作家なので、読んだことはなくても名前を知ってくれていたので食いつきもよかったです。いや~、本の話題で盛り上がれるのって幸せだな~と実感しました。

②短くて読みやすくて手に入りやすい本を選ぶ

これも大事ですね。翻訳ものの小説ってどうしても「読みにくそう」「とっつきにくそう」というイメージがつきまとっているので。そこで500ページ超えの長編とか、2500円する単行本とかをおすすめしても、すぐさま手に取ってもらうのは難しそうですよね。わたしは基本的に文庫で300ページ以内の短編集やアンソロジーをおすすめすることが多いです。あとはなるべく新刊で買ってもらいたいので、品切れになっていない本を選ぶようにしています。

国内ミステリに「イヤミス」と呼ばれるジャンルがありますが、そういうのが好きという方には文春文庫のアンソロジー『厭な物語』をおすすめしています。アガサ・クリスティといった有名作家の作品も収録されていますし、夢に見そうなくらいイヤーな短編のあつまりなので、何かしら琴線に触れるものがあるのではと思います。

日本のミステリ作家さんが好きという方には、作家さんが編まれたアンソロジーなどもいいかなと。米澤穂信先生がセレクトされた『世界堂書店』は、粒そろいの短編集ですよ! 400ページくらいでちょっと長めですが、一日一作ずつ読むのも楽しいと思います。

③スマホなどで書影を見せる

やっぱりヴィジュアルのインパクトって大事だと思うんですよ。今は思いついた本があれば、あいふぉんで本を検索して、カバーを見せながら紹介するようにしています。

読書会などでお会いしたひとだと、「最近の創元の本でおすすめはありますか?」と聞かれることがあるので、その場合は弊社サイトにすぐさまアクセス、書影をお見せしつつ熱いトークを繰り広げます。「あ、この本Twitterで見たことある!」とか言われたらこっちのもんだ! ってかんじですね。取りあえず記憶の片隅に留めておいていただきたいので、視覚的効果を狙う、というのは案外重要ではないかと考えています。

④あらすじを説明しすぎない

不思議なんですが、本について口で説明するときって、詳しいあらすじよりも「すっごい泣ける!」「めちゃくちゃ笑える!」「はらはらする!」とか、感想的なものをしっかり伝えるほうが、なんとなく食いつきがいい気がします。大事なのは「わたしはこれがすっごく面白いと思うから、あなたにもぜひ読んでもらいたい!」という気持ちだと思うんですよね。なので、あらすじはひとこと「こういう本ですよ」くらいにしておいて、あとはとにかく気持ちを伝えるように気をつけています。でもあまり熱すぎると引かれてしまうかもしれないし……。加減が大事ですな。

というわけで長々と書いてきましたが、ひとに本をおすすめするのって本当に難しい! でも、なんでもいいので翻訳ミステリを好きになってもらいたいです! この連載で紹介した本で、何か一冊でも手にとって読書のきっかけにしていただけるとうれしいです。

最後に、こんなキャンペーンもありますよというお知らせです。現在、弊社マスコットキャラクター「くらり」の缶バッジが当たる〈東京創元社「夏の課題図書」感想ツイートキャンペーン〉を開催中です。対象作品を読んでいただいて、感想をTwitterでツイートしてみてください。抽選で計80名様ににくらり缶バッジをプレゼントいたします。

http://www.tsogen.co.jp/news/2016/07/16072517.html

ハッシュタグの【 #TSG夏の課題図書 】で検索すれば、すでにツイートしてくださった方々の熱いコメントが読めます。それを参考に、何か気になった本があれば手に取ってみてくださいませ。どうぞ楽しい読書タイムを!

(東京創元社S)



(2016年8月5日)




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