海外ミステリ出張室

2016.04.04

翻訳ミステリについて思うところを語ってみた。その9・第7回翻訳ミステリー大賞授賞式レポート

みなさまこんにちは。翻訳ミステリ班の編集者Sです。今回は、4月2日に開催されたばかりの《第7回翻訳ミステリー大賞授賞式&コンベンション》についてレポートいたします。

まずは「翻訳ミステリー大賞」についてのご説明を。これは2009年に設立された、翻訳ミステリーの年間ベスト1を選ぶ賞です。この賞の特徴は、海外作品の原著者と日本の読者の架け橋となっている翻訳者さんが「翻訳者として読者のみなさんに特に読んでほしい翻訳ミステリー」を選ぶ、という点です。

奥付の記載で前年の11月1日から該当年の10月31日までに刊行された翻訳小説を、翻訳者のみなさんが5作選び順位をつけて記名投票する一次投票を経て、大賞候補作5作が決定します。その後、5作すべてを読了した方によって二次投票がおこなわれます。そして二次投票結果は公開開票になっており、授賞式およびコンベンションに来場した方々の前で「リアルタイム」でおこなわれます。

さて、ここから今年のコンベンションをレポートしていきますが、その前にひとつお断りを。実はわたくし翻訳ミステリー大賞事務局員でもありまして、当日は会場の外で作業をしていたりすることも多かったのでした。それゆえ、コンベンションのすべてを網羅したレポートにはなっておりませんが、どうかご了承いただけますと幸いです。

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去る4月2日、《第7回翻訳ミステリー大賞授賞式&コンベンション》が六本木のスウェーデン大使館で開催されました! ふだんはなかなか足を踏み入れることのできない大使館が会場ということもあり、一般来場者80名をお迎えしてのアルフレッド・ノーベル講堂はほぼ満員でした。司会は書評家の杉江松恋さん。翻訳ミステリー大賞の発起人のおひとりであり、昨年12月8日に逝去された小鷹信光先生へ1分間の黙祷が捧げられたのち、田口俊樹先生による開会の辞がありました。

そしてまずは〈「七福神」でふりかえる翻訳ミステリーこの1年〉がはじまります。翻訳ミステリー大賞シンジケートの大人気連載で、7人の書評家さんが月間ベストを選ぶ「書評七福神の今月の1冊」をもとにしたトークショーです。杉江松恋さんとともに北上次郎さん、川出正樹さん、酒井貞道さん、吉野仁さんが登壇され、この1年の翻訳ミステリについて語り尽くします。

杉江さんが司会席から長机に座ってらっしゃるみなさんにトピックを投げかける、という「笑点」のような雰囲気でトークが進んでいきます。来場者には2014年11月~2015年10月に七福神のみなさんが月間ベストに選ばれた作品リストが渡されており、そちらを参照しつつトークを聞くことができます。それぞれ「これは傑作!」という作品から、SFや一般文芸だけどミステリとしても読めるので多くの人に手にとってもらいたい作品や、いまいち注目されなかったけど熱くおすすめしたい1冊まで、それぞれ簡単なあらすじと魅力が紹介されました。

我が社の作品では、北上さんがM・ヨート&H・ローセンフェルト『模倣犯――犯罪心理捜査官セバスチャン』を「理想のダメ男小説でとてもおもしろい!」と断言してくださったり、吉野さんがF・V・シーラッハ『禁忌』について「罪とは何かという難解な主題を丁寧に描いたはずせない作品」と評してくださったほか、大賞候補作のA・インドリダソン『声』は「レベルそのものが違うとしかいいようがない傑作」(北上さん)、D・フリードマン『もう過去はいらない』は「前作より主人公の過去に焦点があてられ、シリアス度が上がって重層的になっている」(酒井さん)というように、たっぷり語っていただきました。その他、個人的に川出さんと酒井さんがお話していたM・ヘイグ『今日から地球人』(早川書房)が気になりました。SFだと思っていたので見逃していましたが、いい犬が出てくるということなので、ぜひとも読まねば! F・マクファーレンの『夜が来ると』(早川書房)もおもしろそうでしたし、どんどん読みたい作品が増えるすごいトークイベントでした。

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休憩を挟みまして、メインイベントの〈翻訳ミステリー大賞リアルタイム開票&贈呈式+各賞発表・贈賞式〉にうつります。冒頭で申し上げた「第7回翻訳ミステリー大賞」と、そこからスピンオフした「第4回翻訳ミステリー読者賞」、フランスミステリ翻訳の高野優先生がプロデュースする「第2回フランスミステリ未訳短編翻訳コンテスト」と合わせて発表・表彰されます。

はじめのほうの「第2回フランスミステリ未訳短編翻訳コンテスト」「第4回翻訳ミステリー読者賞」は、会場外にいたので申し訳ございませんが詳細なレポートがお伝えできません。見たかった……! しかも「第4回翻訳ミステリー読者賞」は、なんと1位がA・インドリダソンの『声』に決定!! 「読者賞」は各地で開催されている翻訳ミステリ読書会の参加者のうち、有志のみなさんが運営しているもので、プロアマ問わずすべての読者が投票できる賞です。2015年1月1日~12月31日に刊行された翻訳ミステリーを対象に、一人一作品のみ、メールにより投票できます。第1位に輝いた『声』を翻訳された柳沢由実子先生には、運営の方から手筒花火型トロフィーと図書カードが贈られました。

つづきまして「翻訳ミステリー大賞リアルタイム開票&贈呈式」がはじまります。わたしも会場内に戻ってきました。リアルタイム開票というのはそのままずばりで、3月31日までにメールで投票された結果をその場で開票し、来場者だけでなく候補作を翻訳された方や各社編集者が見守るなかでカウントしていきます。事務局員でも結果を知っている人はごくわずかで、わたしもどの作品が選ばれるのかまったく知らないまま臨みました。

最終候補作5作は以下のとおりです(作品名50音順)。

『偽りの楽園』トム・ロブ・スミス/田口俊樹訳(新潮社)
『悲しみのイレーヌ』ピエール・ルメートル/橘明美訳(文藝春秋)
『ゲルマニア』ハラルト・ギルバース/酒寄進一訳(集英社)
『声』アーナルデュル・インドリダソン/柳沢由実子訳(東京創元社)
『もう過去はいらない』ダニエル・フリードマン/野口百合子訳(東京創元社)

会場の大スクリーンにこの5作の書影が映し出され、その下に吊された模造紙に、1票ごとに「エドガー・アラン・ポオの顔」のシールを貼っていきます。開票は記名式で、投票された翻訳者さんのお名前とともに作品名が読み上げられます。投票理由のコメントがある場合は、そちらも紹介され、緊迫した雰囲気でありながらも賑やかに開票が進んでいきました。

投票者は全62名で、今年はかなりの接戦でした。

写真1_re.jpg もうほんと、このリアルタイム開票めっちゃドキドキするんですよ! まあそれが見所でもあるのですが。そして今年の栄えある授賞作は……

A・インドリダソンの『声』!! なんと読者賞とダブル受賞です!

事務局代表の田口俊樹先生より、柳沢由実子先生に賞状と、正賞としてトロフィーが贈呈されました。こちらのトロフィーには、後日それぞれに柳沢先生とインドリダソン氏のお名前が刻印されます(当日まで結果がわからないので、あとから刻印するのです)。そして第6回翻訳ミステリー大賞に輝いたK・モートン『秘密』を翻訳された青木純子先生から、副賞として5万円分の図書カードが贈られました。柳沢先生がとってもとっても喜んでいらっしゃいました。

写真2_re.jpg * * *

ふたたび休憩を挟んだのち、スウェーデンから来日された〈ヨハン・テオリン氏 記念講演〉がおこなわれました。テオリン氏の著作は早川書房から『黄昏に眠る秋』『冬の灯台が語るとき』『赤く微笑む春』が翻訳刊行されており、3月上旬にこの〈エーランド島4部作〉の完結篇『夏に凍える舟』が刊行されました。スウェーデン南端に位置するエーランド島の秋冬春夏を背景に、老船長イェルロフがかかわる事件を描いた4作は、ミステリとしての魅力とともに、うつくしいスウェーデンの自然描写が胸をうつシリーズです。わたしも『冬の灯台が語るとき』が特に好きで、テオリン氏の来日が決まったときは驚きました。

テオリンさんは眼鏡とおひげと笑顔がとっても素敵な方でした。日本に関するトピックも多く、小泉八雲に影響を受けたことや、40年前に江戸川乱歩の『芋虫』を読んだときはものすごくぞくぞくして、いまだに忘れることができないとか。また、子供時代に見た映画「モスラ」が日本との出会いだったそうで、縦にすごーく長いエーランド島の地図を見せてくださり、「モスラ」との共通点を語ってくださったのがおもしろかったです。

そのほか、スウェーデンにおけるミステリの系譜や、M・シューヴァル&P・ヴァールーの「刑事マルティン・ベック」シリーズが北欧ミステリの流れを大きく変えたこと、テオリン氏にとって民間伝承がいかに重要だったかなど、興味深いお話ばかりでした。エーランド島の訛りを実演してくださったのも、たいへん貴重な機会だったと思います。

講演終了後はサイン会が開催され、50人以上の方が列に並ばれていました。並んでいる間も、来場者のみなさんが「4作のうちどれが一番好き?」などと話されているのを耳にすることができまして、いち裏方としてもうれしかったです。

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さて、大盛況のうちに本会が終了しましたのちは、別会場へとうつりまして懇親会がはじまります。オープニングイベントとして、毎年恒例の〈出版社対抗ビブリオバトル〉が開幕しました!

東京創元社、早川書房、藤原編集室、扶桑社、文藝春秋(50音順)の編集者が、それぞれ自信をもって会場のみなさんにおすすめする隠し玉をひっさげてバトルに挑みます。今回は変則的に本の紹介スピーチ3分、質疑応答1分で海千山千の編集者による熱いスピーチ合戦が繰り広げられました。作品は以下のとおりです(発表順)。

・文藝春秋→『背信の都』ジェイムズ・エルロイ/佐々田雅子訳
・早川書房→『象牙色の嘲笑(新訳版)』ロス・マクドナルド/小鷹信光
・藤原編集室→『エラリー・クイーン 推理の芸術』フランシス・M・ネヴィンズ/飯城勇三訳/国書刊行会より刊行
・東京創元社→『埋葬された夏』キャシー・アンズワース/三角和代訳
・扶桑社→『我が名は切り裂きジャック』スティーヴン・ハンター/公手成幸訳

我が社は代表として編集者M(スイーツ男子)が参戦! 去年のビブリオバトルでつたないスピーチを披露したわたしをいたたまれない気持ちにさせるほど滑らかなしゃべりで会場を沸かせ、なんと優勝してしまいました。本人によると、制限時間が短かったため、用意していたギャグが言えなかったのが心残りだとか。ビブリオバトルのレジュメおよび各出版社が用意したチラシは翻訳ミステリー大賞シンジケートにデータが掲載されるそうですので、『埋葬された夏』をどうぞよろしくお願いいたします!

写真3_re.jpg 懇親会会場ではたくさんの読者の方、翻訳者の方とお話することができました。配付資料をご覧になったたくさんの方から、前回のビブリオバトルでご紹介したサラ・グラン『探偵は壊れた街で』(髙山祥子訳)の続編が出るんですね、楽しみにしてますと言っていただけたのがとってもうれしかったです! 読書会でたびたびお会いする方ともご挨拶できて、美味しい中華料理を味わえ、たいへんすばらしい雰囲気で締めくくられました。

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というわけで、長くなりましたが以上です。イベントの楽しさが少しでも伝わったようでしたら幸いです。そして、気になった方はぜひ来年の授賞式およびコンベンションにご来場くださいませ!

(東京創元社S)


(2016年4月5日)




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