今月の本の話題Science Fiction

2018.06.19

堺三保/シルヴァン・ヌーヴェル『巨神覚醒』解説[全文]


前作を読んで
一体この先どうなるのかと
やきもきしていた読者諸氏は
喜んでいただきたい。



堺 三保 Mitsuyasu Sakai


巨神覚醒 上巨神覚醒 下
 世界各地の地下深くから発見された巨大な人工物。それは超巨大ロボットのパーツだった。しかも埋められたのはなんと六千年前。誰が何のためにそんなものを埋めたのか。そして、それを集めて組み立てたら、動かすことはできるのか……。
 本書『巨神覚醒』は、この謎が謎を呼ぶスリリングな展開が話題となった前作『巨神計画』(原題Sleeping Giants)の後を受けた続編Waking Godsの全訳である。
 前作の衝撃的なラストから九年後、ロンドンのど真ん中に突然、第二の巨大ロボットが出現するところから、本作は始まる。テーミスと名づけられた第一の巨大ロボットと違って、このロボットはまさに突然、どこからともなく街の真ん中に突っ立って人々を驚かせる。どうやってそんなことをしてのけたのか。中には誰か操縦者が入っているのか。テーミスとはどんな関係なのか。そして何よりも、一体何が目的なのか。全世界が固唾を呑んで見守る中、英国政府は誤った選択を下し、ロンドン市街は地獄絵図と化す。現地へと急行するテーミス。ついに人類は、史上初の巨大ロボ対巨大ロボの戦いを目にすることとなる……。
 というわけで、前作を読んで一体この先どうなるのかとやきもきしていた読者諸氏は喜んでいただきたい。今回は活劇&謎解き編。徐々にサスペンスを積み上げていた前作と違って、冒頭からアクションと謎解きとが交互に展開していく強烈なストーリーが待っているのだ(ちなみに、まだ前作を未読の方は、本作と一緒にひっつかんで本屋のレジへと急行されたし)。
 とうとうテーミスが実戦に投入され激しい戦いを演じると同時に、巨大ロボットを作った存在の正体と目的、主人公がなぜ「特別」なのか、といった秘密が次々に明かされていく。一方で、人類が被る被害と危機も桁外れに大きくなっていて、まさに巻を措く能わずと言うべきおもしろさとなっている。
 特に本作が良くできているのは、前作同様、巨大ロボットという存在を大真面目に考察したあげく、いわゆる「ロボットアニメ」的なお約束からは大きく外れた光景を次々に見せてくれるところにある。本作で行われる敵ロボットの攻撃も、その敵と戦うテーミスの行動も、絵として考えるとすごく地味なのだが、その破壊力を合わせて考えたとき、だからこそ怖さが際立ってくる。読者の意表をつく、このアンバランスさが本作の特色なのだ。

 さて、ロボットアニメと言えば、前作の巻末解説でも少し触れられていたが、日本のアニメにおける十八番中の十八番とも言えるサブジャンルである。『鉄人28号』に始まり、『マジンガーZ』『機動戦士ガンダム』『新世紀エヴァンゲリオン』等々、数多の作品が生み出され、アニメ史を塗り替えてきた。
 特に『ガンダム』の登場以降、いわゆるリアルロボットものと呼ばれる、ロボットの設定において、よりリアリティを重視した作品群が多数作られ、人気を博してきた。
 だが、この「リアルロボット」というもの、つまり工業製品であり軍事兵器であるものとして巨大ロボットの運用を考えたとき、そこにはどうしようもない矛盾が生じる。
 一つには,何と言ってもそのサイズが問題だ。ガンダムの全高(実は鉄人もマジンガーも同じ高さなのだが)は十八メートルと設定されている。本作に登場する巨大ロボットたちよりはずいぶんと小ぶりだし、東京やニューヨークといった大都市では簡単にビルの影に隠れる大きさだが、それでも標的としては大きすぎる。たとえば『ガンダム』では、あらゆる誘導兵器を無効化するミノフスキー粒子という架空の粒子を設定に加えることで、広大な「宇宙空間における有視界戦闘」が行われていることを説明してみせたのだが、地上戦となると話は別で、戦車同様、というより戦車以上に、至近距離から目視で攻撃されれば蜂の巣になる可能性はかなり高いはずだ。
 マジンガーZのような、いわゆる「スーパーロボット」はその素材に超硬質のものを使っているため、通常兵器の攻撃くらいではビクともしないという、怪獣に近い設定になっているのだが、あくまでも(作品世界内におけるとはいえ)ある種の工業製品という位置づけにあるリアルロボットがそんな魔法のような装甲を備えているとは考えにくい。
 もう一つ、問題となるのがパイロットの存在だ。
 元々ロボットと言えば、その言葉をカレル・チャペックが戯曲『R.U.R.』の中で生み出した時から、その基本は自律型、つまり自分で判断して自分で動く存在だ。操縦者を必要とするというのは、(フィクションであれ現実であれ)ロボットの世界ではどちらかといえば傍流なのだ。
 だいたい、今や現実の世界においては、どんどん自律型のロボットの研究が進んでいる。四輪自動車の自動運転システムの開発はもちろん、歩行型ロボットも四足歩行から二足歩行へと、実用化に向けての開発は急ピッチで進んでいる。中でもボストンダイナミクスが開発を進めている四足歩行型ロボットは、とうとう来年には販売が始まると言われている。また、自律型ではないものの、近年戦場で活躍しているドローン航空機の操縦者は、機体から遠く離れた安全な場所にいる。
 なにしろ、戦争において最も貴重な資源は、兵士たちそのものだ。彼らの養成にはお金も時間もかかるし、日々の暮らしを支えるのもお金がかかる。なにより、戦死してしまうと悲しむ人々がいる。そこを全自動の機械で代替できるのであれば、何を好き好んで人を乗せて使おうと思うだろうか。
 そしてさらにもう一つ、初期の「巨大ロボット」ものに見られる典型的な問題は「宇宙からの侵略者」の存在だ。なぜ、数多ある星々の中から、太陽系第三惑星「地球」をわざわざ選んで侵略する必要があるのか? 他の星、いや、他の星系ではダメなのか。
 こういうふうに考えていくと、「操縦者が乗り込んだ巨大な人型機械」が、近未来における戦争の主要兵器になったり、地球を守って侵略者に立ち向かったりするという、巨大ロボットものによくある典型的なプロットには、その設定にいくつも大きな穴があることがわかる。もちろん、ロボットアニメの多くはその穴を塞ぐべく、知恵を絞ってさまざまな設定をつけ加えていたりもするわけだが。

 すでに述べたように、本作がSF的な思考実験として一番おもしろいのは、そういう巨大ロボットものにありがちな枠組みを採用しておきながら、それをことごとく裏切る方向にストーリーを展開しているところだ。特に後半、ついに敵の目的が判明、絶望的な戦いを主人公たちが強いられるあたりは、SF小説ならではの、文章だからこそのおもしろさに満ちている。古代遺跡のようなロボットや強大な未知の敵の出現など、設定だけを取ってみると、ロボットアニメの名作『伝説巨神イデオン』を思わせるのだが、そこから「なんとしても読者の意表を突く」気満々の展開に、作者の稚気を感じて微笑ましい。
 読者諸氏も、(話そのものはかなりシビアではあるが)「おお、やってるやってる」とにやにやしながら楽しんでいただければ幸いである。

 ちなみに、今回の第二部で、またもや驚天動地のエンディングを見せてくれたこの三部作、どうやってきれいなフィニッシュを決めてくれるつもりなのかと思っていたら、この五月にアメリカで出版された完結編Only Humanで、またまた派手にやってくれた。冒頭から読者の予想や期待の斜め上をすっ飛ばす展開が待っていて、作者の素直でない性格というか、ストーリーテリングの巧みさを思いしらされたのだ。そっちにいくか、普通? ともあれ、この完結編は来春邦訳刊行予定(仮題『巨神降臨』)とのことなので、是非とも御期待いただきたい。



■ 堺 三保(さかい・みつやす)
1963年大阪生まれ、関西大学卒。在学中はSF研究会に在籍。作家、翻訳家、評論家。SF、ミステリ、アメコミ、アメリカ映画、アメリカTVドラマの専門家。



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