今月の本の話題

2018.03.30

日影丈吉『内部の真実』、楠田匡介『いつ殺される』、『小酒井不木探偵小説選Ⅱ』、『横溝正史ミステリ短篇コレクション 1 恐ろしき四月馬鹿』…「ミステリーズ!87号」(2018年2月号)書評 大川正人[新訳・復刊]その2

 日影丈吉『内部の真実』(創元推理文庫 900円+税)は日影の長篇代表作。国書刊行会から全集が刊行されてからは、長篇が復刊されるのははじめてです。

 戦中の台北で、憲兵隊の曹長が何者かに銃殺されました。男女関係のもつれによる簡単な事件かと思われましたが、拳銃の数、銃弾の数、銃声の数、そして現場の密室的状況が複雑なパズルとなって……。

 端正な本格でもあり、語り手たる小高軍曹の恋の話でもあり、それでいてすべてが南国の地のお伽話(とぎばなし)のようでもあり。普通のミステリならば幕が引かれそうなところでそうならず、こんなところでばっさり断ち切られてしまうのかという結尾をむかえる、一読忘れがたい印象を残す傑作だと思います。本書の帯に「名作再刊」の惹句(じゃっく)とともにナンバリングがされているのは見逃せず、今後どのような作品が復刊されるのかとても楽しみです。

「KAWADEノスタルジック〈探偵・怪奇・幻想シリーズ〉」から、楠田匡介(くすだきょうすけ)『いつ殺される』(河出文庫 830円+税)は光文社文庫で長篇第1作が復刊されたのも記憶に新しい、楠田の長篇代表作の復刊です。

 作家の津野田は、糖尿病で入院した病室が、官僚が横領ののちに恋人と心中した近頃話題の事件と関係していると聞き驚きます。官僚は同じ病室で息を引き取り、その頃から幽霊騒ぎがはじまってもいるというのです。津野田は、横領されたまま見つかっていない公金の行方を何者かが探っているのでないかと、見舞いにきた幼馴染(おさななじみ)の石毛刑事に相談を持ちかけて……。

 表題は、津野田と石毛も何者かに狙われるようになり「いつか殺されるかもしれない」との思いを抱くところからきています。会話主体のテンポのよい展開で次々に新たな事件が起きる通俗的な筋は、森下雨村や大下宇陀児(うだる)の同様の作品を復刊しているこの叢書にぴったりではないでしょうか。ただこのように楠田の長篇はおおむねサスペンス調なので、あとがきでも紹介される「トリック発明家」ぶりを期待すると肩透かしでしょうから、奇想の詰まった短篇集の復刊を今後期待しています。

《論創ミステリ叢書》からは阿部崇編『小酒井不木探偵小説選Ⅱ』(論創社 3800円+税)が刊行されています。不木研究の第一人者である編者が、少年探偵以外に目立ったシリーズ探偵役を作らなかった不木の「名探偵が登場する作」を選んだ興味深いもので、代表作から単行本初収録作まで、バラエティに富んだ内容が楽しめます。舞台脚本や戯曲といった、不木の多才を知ることができる作品が収録されているのも嬉しいですね。

 そして注目の企画が新たにはじまっています。日下三蔵編『横溝正史ミステリ短篇コレクション 1 恐ろしき四月馬鹿(エイプリル・フール)』(柏書房 2600円+税)は横溝のノンシリーズ短篇を初刊に準じた校訂でまとめ直そうという全6巻予定のシリーズです。かねてから角川文庫や春陽文庫ほか、横溝作品をまとめて読める叢書については語句の言い換えなど独自の改変がなされていることが指摘されていました。

 その是非はいったんおいておくとして、横溝作品の愛好家からは原典に則したテキストを求める声があがっていました。主要長篇については出版芸術社の《横溝正史自選集》シリーズがその役割を担っていますが、短篇についてはまずこの企画が期待に応えることになるでしょう。ファンは黙っていても買うのでしょうが、編者の企画では恒例の「付録」も充実していて、これから横溝作品に手を伸ばそうという若い方にもおすすめです。

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■■大川正人(おおかわ・まさひと)
ミステリ研究家。1975年静岡県生まれ。東京工業大学大学院修了。共著書に『本格ミステリ・フラッシュバック』がある。

(2018年3月30日)



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