今月の本の話題

2018.03.09

小酒井不木『疑問の黒枠』、浜尾四郎『鉄鎖殺人事件』、『岩田賛探偵小説選』、山口雅也編『奇想天外アンソロジー復刻版』…「ミステリーズ!86号」(2017年12月号)書評 大川正人[新訳・復刊]その2

 河出文庫の復刊シリーズ「KAWADEノスタルジック〈探偵・怪奇・幻想シリーズ〉」がますます堅調で、嬉しい復刊が続いています。小酒井不木(こさかいふぼく)『疑問の黒枠』・浜尾四郎『鉄鎖殺人事件』(河出文庫 各800円+税)はともに戦前に夭折(ようせつ)した大家の、近年では読みづらい時期が続いていた代表長篇です。

 名士に偽の死亡広告――新聞に黒枠の訃報告知が掲載される奇妙な事件が相次いでいました。その被害にあった村井氏は、これを逆手にとった縁起直しをしようと、偽の死亡広告どおりの自分の葬式を出して、通夜の席で棺(ひつぎ)から蘇(よみがえ)る余興を思い立ちますが……『疑問の黒枠』

《別冊幻影城》版を探すしかない状態が続いていた、小酒井不木の唯一の長篇です。国産長篇の作例としてはかなり早く、いわゆる本格ものでは最初の長篇創作と目されています。先の展開が読めない意外性は充分で、この叢書から復刊されるのにはうってつけでしょう。多くの読者に再発見していただきたい作品です。

 元検事の私立探偵・藤枝真太郎の事務所に、藤枝の助手・小川のいとこの女性がひどく慌てたようすで訪ねてきます。死体を見たという訴えはあまり要領を得ず、藤枝と小川が現場の質屋へ向かうと、主人は手を鉄の鎖で縛られた状態で殺されていました。さらには死体の周囲に多数の西郷隆盛の肖像画が引き裂かれて散らばっていて……『鉄鎖殺人事件』

 浜尾が二作残した長篇のうち第二長篇の『鉄鎖殺人事件』は沖積舎(ちゅうせきしゃ)版の全集でしか読めない状態が長らく続いていました。第一長篇『殺人鬼』と比べてしまうと、作風の転換を企図したためでもあるでしょうがぐっと通俗寄りになっていて、藤枝が犯人の罠にはまって容疑者扱いされたり、藤枝らのすぐそばで関係者が殺されたりと、いささかやり過ぎの感があります。ただそれでもフーダニットとして成立させているのは高く評価すべきところでしょう。注意点としては『殺人鬼』と話題が続いている箇所があるので、未読の方は『殺人鬼』から順番に読むようにしてください。

《論創ミステリ叢書》からは『岩田賛探偵小説選』(論創社 3800円+税)が刊行されています。戦後デビューの本格ミステリを主に書いた作家ということで鮎川哲也編のアンソロジーには作品がたびたび採られ、「砥石(といし)」「絢子(あやこ)の幻覚」といった代表作をそれらのアンソロジーで読んだ記憶のある方は多いのではないでしょうか。ただ寡作の兼業作家だったために、大人向けの小説はこの一冊でほぼ網羅(もうら)できることになります。トリックをぎゅっと詰めた初期の短篇から、ストーリー重視の作風に転換した後期の長篇まで俯瞰(ふかん)できるのは面白いですね。

 山口雅也編『奇想天外アンソロジー復刻版』(南雲堂 1800円+税)はジャンルを問わず〈奇妙な味〉の小説の紹介を続けた雑誌《奇想天外》の収録作を選(え)りすぐった「雑誌の復刊」です。編者の雑誌愛あふれる企画で、この「復刻版」はどちらかというとSF寄りの作品がまとめられています。ミステリ読みには同時刊行の「もし現代に《奇想天外》の新刊が出るとしたら」のコンセプトで新作・初訳がまとめられた『奇想天外アンソロジー21世紀版』が向いているように思います。

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■■大川正人(おおかわ・まさひと)
ミステリ研究家。1975年静岡県生まれ。東京工業大学大学院修了。共著書に『本格ミステリ・フラッシュバック』がある。

(2018年3月9日)



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