ローズ・アンダーファイア
みなさまお待たせしました! 2017年、たくさんの読者の方々にご好評をいただいた『コードネーム・ヴェリティ』の姉妹編、『ローズ・アンダーファイア』がいよいよ刊行となりました!

『コードネーム・ヴェリティ』は翻訳者の吉澤康子先生が海外の書評誌で原書に興味を持たれ、すばらしい作品だとして東京創元社に持ちこみをしてくださったことがきっかけで刊行にいたった作品です。2017年3月、日本での刊行直後から話題となり、たくさんの方に手に取っていただきました。また作家さんや書評家さんにも高く評価していただき、『IN★POCKET』の2017年「文庫翻訳ミステリー・ベスト10」総合部門第2位に輝きました!! ありがとうございました!!

おかげさまで、姉妹編となる『ローズ・アンダーファイア』も刊行へと至ることができました。「続編」ではなく「姉妹編」というのは、実は『コードネーム・ヴェリティ』と主人公が違うからです。独立した物語ですので、ご興味を持たれた方は『ローズ・アンダーファイア』から読んでいただいても充分お楽しみいただけます。とはいえ登場人物の一部が共通しており、何より物語の根底に流れるものや「本質」が同じだと思うのです。こちらの作品を読んでこそ『コードネーム・ヴェリティ』もよりいっそう深く味わえると思いますので、ぜひあわせてお読みいただけますと幸いです。

特に、『コードネーム・ヴェリティ』をお持ちの方は、『ローズ・アンダーファイア』と並べてみてください。イラストレーターの伊藤彰剛さんによるカバーイラストの女性ふたりがたどった運命や、生き様に思いを馳せていただけると、とてもうれしいです。

そして今回、特別に吉澤康子先生による「訳者あとがき」の一部を掲載させていただくことになりました! ほんとうに、心から作品を愛して、翻訳してくださったことが伝わってくる訳者あとがきなのです。ぜひ書籍で全文を読んでいただければ幸いです。

(東京創元社S)

『ローズ・アンダーファイア』訳者あとがき(抜粋)

吉澤康子 yasuko YOSHIZAWA

 まずはカバーをもう一度ごらんになっていただきたいと思います。短く切られ、毛先がバラバラな髪。ほっそりというよりは、ごつごつした首元。どことなく体になじんでいないブラウス。暗いながらも、意志の強そうな表情。ぱっと見たところ、こちらが一瞬ひるんでしまいそうな女性ですね。これは、本書『ローズ・アンダーファイア』の主人公ローズが、強制収容所から脱出したあとの姿です。

その一年半ほど前の、1943年12月。ローズはアメリカの中流家庭で恵まれた生活を送っていましたが、軍の要職についている叔父の力添えにより、高校を早めに卒業させてもらい、翌春には、女性飛行士としてイギリスの補助航空部隊(ATA)に加わりました。第二次世界大戦の真っただなか、連合国の一員として、自由と正義を守るため、力になりたいとの熱い思いからでした。ところが、やがてローズは、飛行機を移送中に行方不明となります。実は、フランスの上空でドイツ軍機に見つかり、ちょっとした手違いから強制収容所送りになってしまったのでした。

 本書は、戦時下ながらも、ささやかなデートを楽しみ、ボーイフレンドからプロポーズをされていた18歳のローズが、抗いようもなくラーフェンスブリュック女子強制収容所に入れられてしまう過程と、その後の死と隣りあわせのつらい体験を描いた物語です。一日にわずかなパン、薄いスープ、コーヒーとは名ばかりの褐色の液体を与えられるだけで、きつい強制労働をさせられる生活のなか、ローズはどうやって生き延びたのでしょう? 半年あまりあとに脱出するのですが、さて、いったいどのような手段をとったのでしょう?

 第二次世界大戦を背景とする歴史小説でもあり、緊迫感に満ちた冒険小説でもあり、苛酷すぎる現実と闘う少女たちの青春物語でもある、『ローズ・アンダーファイア』。ごゆるりと味わっていただければ幸いです。

 この作品は、タイムズ年間ベストブックスや、アメリカの公共ラジオ放送局であるNPRのベストブックスなどに選ばれたほか、カーネギー賞の候補作になり、注目を集めました。海外ではアメリカ探偵作家クラブによるエドガー賞YA部門の最優秀賞をはじめとする多くの賞に輝き、日本でもミステリ・ランキングの上位に入った、『コードネーム・ヴェリティ』の姉妹編でもあります。『コードネーム・ヴェリティ』では、片やスパイ、片や飛行士として、親友同士がナチスドイツ占領下のドイツに潜入しました。この飛行士マディが、本書『ローズ・アンダーファイア』では脇役となり、主人公ローズの親友として大きな役割を果たします。どちらの本にも共通する人物がほかにも何人か登場しますし、もしやこの人はあの○○では……と推察するのも一興です。

(中略)

 『ローズ・アンダーファイア』は、行方不明になったローズを探す家族の手紙や、ローズの手記や詩などでストーリーが展開されていきます。構成にも工夫があり、次に何が起こるのかという期待感から、ページを繰る手が止まらないほど。心のなかで、「やった!」と叫ぶ場面がいくつもあります。

 ナチスに対抗する女性たちを描いた感動作でもあります。前作に劣らず何より胸を打つのは、友情の持つ力でしょう。自分よりも相手を大切にすることが、生きる力になるのですね。たとえ自分の命がかかっていても、相手のために行動できること。平和な時代でも、人との絆は大切なものですが、戦争という追いつめられた状況ではなおさら、他者と信頼しあい、家族のようにつながることが重要なのです。ただし、計算ずくではない、真に相手を思う気持ちでなければなりません。本書を訳しながら、いつ命を落としてもおかしくない収容所での悲惨な生活のなかにあっても、思いやりを失わずにいる登場人物への深い敬意が、心の底から湧きあがってきたものです。

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この先はぜひ書籍でお楽しみください。
絶賛発売中の『ローズ・アンダーファイア』、どうぞよろしくお願いいたします。

(2018年8月31日)



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