サスペンスと謎解きの合わせ技
名手マクロイ円熟のミステリ
名探偵ウィリング博士最後の未訳長編
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ヘレン・マクロイ『悪意の夜』The Long Bodyは、1955年に書かれた作品。精神科医ベイジル・ウィリング博士が探偵役を務める長編としては全13作中10作目に当たり、日本で翻訳されたものとしては最後の作品となります。これでシリーズ13作品すべてが、日本語で読めるようになりました。
本書は夫を亡くしたばかりの女性、アリス・ハザードを語り手として始まります。夫のジョンが近くの崖から転落死して数日が経ち、アリスは悲しみをこらえて遺品の整理に取りかかります。そこで見つけたのは夫の字で「ミス・ラッシュ関連文書」と書かれた封筒でした。
ミス・ラッシュという名の女性は夫妻の知り合いにはいません。夫には自分に隠していた秘密があったのか? 悩んだ末にアリスは封筒をあらためますが、中身は空っぽでした。不安が残ったままのところに、大学生の息子マルコムが帰宅します。ひとりではなく、見知らぬ美女を連れて。マルコムはアリスにその美女を紹介します。「彼女はクリスティーナ。クリスティーナ・ラッシュだ」と。
……なんとも意味深長な登場をした美女ミス・ラッシュはいったい何者なのか? ジョンと接点があったらしい彼女が、いまマルコムに接近する目的は? アリスの疑惑と緊張がふくれあがるのと同時に、サスペンスも高まっていき、ついに殺人が起きるに至ります。誰がどのように殺され、ウィリング博士はどのように事件に関わってくるのか? 最後まで目が離せない、サスペンスと謎解きミステリのハイブリッド作品を、ぜひお楽しみください。
ヘレン・マクロイ『悪意の夜』は8月22日刊行です。
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夫を転落事故で喪ったアリスは、遺品の整理でミス・ラッシュなる女性の名が書かれた空の封筒を見つける。そこへ息子のマルコムが、美女を伴い帰宅した。女の名前はラッシュ……彼女は何者なのか? 息子に近づく目的、夫の死との関連は? 緊張と疑惑が深まるなか、ついに殺人が起きる……。迫真のサスペンスにして名探偵による謎解きでもある、ウィリング博士もの最後の未訳長編。
(2018年8月21日)
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