今月の本の話題

2018.08.23

勝負を決めるたった一手を選ぶには? 金萬樹/洪敏和訳『ひらめきの囲碁学』

活きてる形・死んでる形
双六の上手といひし人に、その行(てだて)を問ひ侍りしかば、「勝たんと打つべからず。負けじと打つべきなり。いづれの手かとく負けぬべきと案じて、その手を使はずして、一目(ひとめ)なりともおそく負くべき手につくべし」といふ。道を知れる教、身を治め、国を保たん道も、又しかなり。(徒然草百十段)

双六の名人に、どんな風にすれば名人と言われるようになるのかを聞いたときの答えである。

凡そ勝負事というものは、勝つために行っているのに、負けないようにというのは変なことに思われる。勝つために勉強し、練習し、そして勝負の感覚を磨いて試合(勝負)に臨む。勝てれば嬉しいが、全部勝てるわけではない。

囲碁でもそうだが、勝負には勝ち負けを分ける一手がある。ここでこう打てば勝てたが、そう打たなかった為に負けたというポイントがある。そこで一気に勝負をかけるのもありだが、かなり危険である。相手もその局面で、別の勝負手を考えている場合もある。

マチュアの場合は、特に勝負を急ぎすぎる傾向がある。アマチュアは石を殺しに行くが、プロは相手の石を攻めながら、活きを促すように打っている。形を崩しながら、徐々に自分の地を稼いでいく打ち方をする。将に、兼好法師の言う「負けないように打つ」なのだろう。

本書は、定石や布石を知っていて、死活にも詳しく、そして中盤にもそれなりに詳しいのに、勝率が思わしくないという人たちの為に、どこが間違っているのかを解説した貴重な一冊である。アマチュアはどこか、プロが絶対に打たないような手を打ってしまっているもので、それが矯正されれば、勝率は相当アップする。

囲碁は思考のゲームではあるが、本書で述べるような手が、考えるのではなく、対局中に「ひらめく」ようになれば、多分2目は強くなるはずである。
(2018年8月21日)



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