今月の本の話題

2018.07.27

フランスが崩壊する?! 『ゲリラ――国家崩壊への三日間』

友を待つ
 フランスが崩壊する日? 

先日、フランスの優勝で幕を閉じたロシア・ワールドカップを思い出してみると、そのフランスでもっとも活躍した、エムバペ選手は父親はカメルーン出身、母親はアルジェリア人、とはいえ彼はフランス生まれのフランス人。かつてフランス代表といえば、この人だった、ジネディーヌ・ジダンは、両親がアルジェリア出身で〈移民の星〉としての人気を博していました。エムバペはスポーツ・エリートとして育ったようですが、例えば、ドイツ代表を引退すると表明したエジル選手はトルコ系移民三世。大会前のトルコ大統領との会見が問題になり、ドイツが意外な早期敗退を喫したために、敗戦の責任まで負わされるような流れになり、勝てばドイツ人、負ければ「移民」かと怒りを露わにしたことが大いに世間を騒がせています。移民の問題は現代社会の最大の課題といえるのでしょう。

 本作ローラン・オベルトーヌの『ゲリラ――国家崩壊への三日間』は、移民と貧困層が多く暮らすパリ郊外の団地を巡回中の警官が、ジャンキーの若者たちに取り囲まれてパニックに陥り、発砲してしまうところから始まります。お互いに不信感を抱いていたために起きた過剰反応といえるのではないでしょうか。
 その銃撃により青年が死亡、マスメディアの「警官による移民の虐殺」というスタンスでの報道により、移民たちに共感を寄せる市民たちの抗議デモが巻き起こり、被差別意識を抱いていた者たちによる復讐心が煽られ、それに乗じてテロリストたちも活動を始め……という具合にすべては悪い方向に進んでいきます。
 激化した暴動やテロはフランス全土に広がり、警察機構も公共サービスも機能不全に陥り……、まさに「巻を措くあたわず」です。

 ミシェル・ウエルベックが「明日の論客」と読んで評価している著者は、マス・メディアを攻撃しつづけてきたため、彼の書くものはメディアには無視されるのだとか。
 
 どういう立ち位置にいるにしろ、フランスの抱える、いや世界が抱える問題をある視点から描いている作品であるのは確かで、ウンベルト・エーコの『プラハの墓地』を読んでも、本作を読んでも(まったく異なるトーンの作品ではありますが)、人間の抱く差別、偏見が何をもたらすかをあらためて考えさせられます。

 フランスが崩壊するだけではなく、世界が崩壊する可能性だってあるわけで、自分の目でものを見、自分の頭でものを考えることが必要なのだと改めて思うばかりです。と妙に真面目にまとめたくなる一冊です。(マジメか?! ハセベか?!)でも、読ませますよ! すさまじい話です。まさに問題作。


(2018年7月27日)



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