友を待つ猫の姫、狩りをする
 読者の皆様、〈妖怪の子預かります〉第六巻を読んでいただき、まことにありがとうございます!
 さて、今回は「猫尽くし」の巻だったので、あとがきも猫にまつわることでいきたいと思います。
 子供の頃、動物好きな子供によくあるように、私もよく捨て猫を拾っていました。そのたびに親に怒られ、「元の場所に戻してきなさい!」と言われ……。
 結局、初めて猫を飼ったのは、二十歳を過ぎてからです。
 その猫は、妹が見つけて拾ってきました(妹は、私に輪をかけた動物好きで、過去に様々な動物を拾ってきた前科あり)。生後一カ月くらいの、白い子猫。ぐんにゃりとしていて、もはや鳴くこともできない状態でした。
 その体からなにやら、ぱらぱらと落ちてくるものあり。なんだと思って目をこらしてみたところ、なんと、大量のノミではありませんか。どうやら低体温症になっていたようで、寄生虫にまで見限られるほど危険な状態だったわけです。
 とにかく体を温めよう。ついでにきれいにしてしまおう。
 というわけで、大急ぎでお風呂に入れました。熱い湯を張ったたらいにつけたところ、なぜか湯がみるみる赤茶色になっていく。どこか怪我をしているのかと、慌てて毛をかきわけてみたところ、皮膚はノミに食い破られ、活火山のようなかさぶたで覆われていました。湯が血のような色になったのは、ノミの糞が溶けたせいかと……。ああ、思いだすだけで鳥肌が立ちます。
 でも、湯につけたおかげで、子猫はなんとか一命をとりとめたようでした。とはいえ、体は衰弱しており、白いナマコのようにのびたまま、動くこともできませんでした。猫用の粉ミルク(高価。しかも資金源は私)をとにかく飲ませ、おしりをくすぐって、おしっこをさせて。
 ようやく元気になり始めた時には、拾ってきてから一週間が経っていました。これは、我が家に猫がいた最長記録でした。いつも、拾ってきた猫は一日か二日で外に出されてしまっていましたから。
 さて、元気になったのだから、そろそろ家から出さなければ。
 といっても、もうそれは難しい状態でした。すでに十一月で、日に日に寒くなっている時期です。「見た目が似ているし、この子の母親では?」と思って、子連れの猫のもとに子猫をつれていってみたのですが、その母猫には拒絶されました。子猫自身、私達のそばから離れようとしませんでした。
 これはもう野良猫には戻れない。人に飼ってもらうしかない。
 でも、それは我が家ではありえませんでした。その時、うちに犬がいたこともありますが、もともと「猫は絶対に飼わない」と親が言っていたのです。
 が、里親探しは進まず、死と渡りあった子猫に情がわいてしまったこともあり、ずるずると居候期間は引き延ばされていきました。そして拾ってから二カ月後、ついに我が家の子にすると家族会議で決定したのです。
 三途の川を半分渡って、そこから引き返してきた猫ということで、サンズと命名。
 サンズはとりわけ父に懐き、「猫なんか嫌い」と言っていた父ももうめろめろ。愛犬は「変なやつが家の中に入ってきた」と、最後まで仏頂面でしたが、それでも拒絶はせず、まあまあ受け入れていました。
 猫を飼うのは初めてだったので、サンズとの毎日はとても刺激的でした。ミステリアスかと思えば、意外にも運動神経が鈍かったり、妹のインコに喧嘩を売って大負けしたり、家族にいたずらをしかけて犬に𠮟られたり。
 おドジなところもたくさんありましたが、雪のように白い毛並みに、緑がかった金色の目はとてもきれいで、ふっと空中を見つめている姿には気品すらありました。サンズが、王蜜の君のモデルになったことは言うまでもありません。
 今、実家には二代目の猫ワサビがいます。これは私が拾ってきた猫です。サンズに比べると、恐ろしいほど元気がよく、サンズがやらなかったことを全てやるというおてんばさんです。
 私はいずれ、ワサビがだめにしたものの弁償をせねばならぬそうです。シャツ二枚、ベッドカバー、ソファーカバー、お高いぬいぐるみ、カーテン四枚。弁償リストは日々増えているのだとか。ひゃあ、怖い怖い!
 それでも猫はかわいいのです! 実家を離れ、独立した私ですが、いつの日か自分の城に猫をお招きしたいと、夢膨らませて日々を過ごしています。ああ、その夢叶うのはいつになるやら。
 そんなことを考えながら、第七巻を執筆中です。次の巻では、烏天狗の双子中心に話が進む予定です。
 では、みなさま、また七巻にてお会いいたしましょう。
 感謝をこめて。
廣嶋玲子


(2018年7月24日)



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