今月の本の話題

2018.06.04

『源氏物語』には裏があった?! 紫式部の企みをあばく 森谷明子『望月のあと』

望月のあと
 みなさん、『源氏物語』はご存じですよね? 長いだけにあれこれ謎もいっぱい、書かれてから千年以上経った今でも、解釈をめぐって論議が尽きません。いろいろなかたが現代語訳にも挑んでらっしゃいますが、この森谷明子先生が描く『源氏物語』ワールドはちょっと違うんです。
 なんと、紫式部が名探偵だったら? という大胆な発想で、いなくなった猫の行方から(『千年の黙【しじま】』)、怪盗や呪符の正体(『白の祝宴』)、権力争いの裏側などなど、名推理を披露してくれます。
 なんたって平安時代の誇る才女ですから、謎解きだってお手のもの――と言いたいところですが、ネックがひとつ。当時の女性はむやみに出歩いたり、男性と言葉を交わしたりできなかった。そこで式部の手となり足となるのが、式部の侍女である阿手木【あてき】です。平安時代のホームズ&ワトソンならぬ紫式部&阿手木のコンビが、息もぴったりな活躍を見せますよ。

 平安時代と言えば、藤原道長の世。「この世をばわが世とぞ思う~」なんて超オレサマな歌まで詠【よ】んでしまうくらい、道長は権勢を誇っていました。娘を次々に天皇やお世継ぎに嫁入りさせ、自分の血筋を引く孫たちを天皇に据えては、自分の地位と財産を確固たるものにしていたんですね。
 この道長と紫式部さんはどうやら訳ありなようで――。道長のぐいぐいぐいっと伸びすぎた鼻を、式部はへし折ってやりたい。でも、独裁者といっていいくらいの道長に表立って逆らっては、自分も家族も危ない。そこで式部が考えたのは、自分が書いている大人気作『源氏物語』を使って、道長をぎゃふんと言わせることでした。さてさて、その企みはどうなることでしょう? 現代の「#Me Too」運動にも、ちょっと通ずるところを感じたりもします(権力を持っちゃったスケベおやじの考えることは、千年前から同じみたい……まったく)。

 森谷明子先生の作品と言えば、『れんげ野原のまんなかで』〈秋葉図書館の四季〉シリーズでもそうですが、かわいい子どもが活躍します。この『望月のあと』でも健気な少年たちが大活躍しますよ。そちらもお楽しみに。

 さらに、今回は〈西の善き魔女〉シリーズや『空色勾玉』などでおなじみ、ご自身も『源氏物語』の現代語訳に挑戦してらっしゃる荻原規子先生が、渾身の解説を書いてくださいました。小倉マユコさんの華やかなカバーイラストとともに、お楽しみいただければ幸いです。

(2018年6月4日)



ミステリ・SFのウェブマガジン|Webミステリーズ! 東京創元社
バックナンバー