贋作
 40年ほど前のニューヨーク、オーストラリア出身の画学生エリーはコロンビア大学大学院で美術史を学んでいたが、画学生時代に培った絵画修復技術を見込まれて、英国人画廊主の依頼で絵画修復のアルバイトをしていた。
 その画廊主からマンハッタンに住むある富豪の弁護士が所有する17世紀オランダの女流画家、サラ・デ・フォスの風景画の模写を依頼された。本物は秘蔵し複製画を飾っておきたいからという理由からだった。
 修復と模写は別物と頑なに断わり続けた彼女だったが、実物はなく、数枚の写真をもとに模写をしてほしい、その写真を見せられると息を吞んだ。『森のはずれにて』というその作品は、その時代の女流画家のどんな絵とも異なっていた。画家のギルドに属していた彼女の作品はこれ一点しか残っていないのだという。
 その写真に魅了されてしまったエリーは仕事を受けてしまう。
 自分の持つ技術のすべてを注ぎ込んで複製画を完成させた彼女だったが、贋作製作という犯罪、それどころか絵画泥棒という犯罪に加担してしまったことに、内心気づいていた。そして、自宅の『森のはずれにて』が知らぬ間に贋作にすり替えられていることに気がついた、所有者である弁護士は探偵を雇って彼女の存在を探り出す。

 40年以上経って過去を封印し、罪の意識におののきながらも、彼女はキャリアを積み、現在は女性美術史家として名をなし、シドニーの美術館で開催されるオランダ絵画展のキュレーターとしての仕事にあたっていたが、彼女の前にサラ・デ・フォスのあの『森のはずれにて』が2点、つまり真作と贋作がそろって現われたのだ!
 そして、もう一点、サラの別の作品も……。

 17世紀オランダと、1950年代のニューヨーク、そして2000年代のシドニーとを行き来しつつ、謎に包まれた画家サラと、美術史家エリー、それぞれの愛と苦悩に満ちた人生が浮かび上がらせるドミニク・スミスの筆致には感嘆させられました。
 絵画修復の技術、贋造のテクニックについての記述も興味深く、それだけでも一読の価値があります!


◆愛と、喪失と、芸術への美しい思い、まるでフェルメールの光の中の世界のようだ。
――「ピープル」

◆はじまりは、ある犯罪をめぐるミステリだが、最終的に読者が行き着くのはその見かけを超えたもの――人間の心というミステリだ。
――「NYタイムズ・ブックレビュー」


 *素敵な装画を描いてくださったのは牧野千穂さん、そして雰囲気のあるカバーに仕上げてくださったのは柳川貴代さんです。

(2018年5月17日)



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