本格ミステリ漫画ゼミ
2018年4月に刊行される『本格ミステリ漫画ゼミ』は、コミカライズからオリジナルまで、戦後のミステリ漫画史を辿った史上初のブックガイドです。著者の福井健太氏にお話を伺いました。

――執筆のきっかけを教えてください。

ミステリ漫画は昔から読んでいて、いずれ纏めたいとは思っていました。2003年刊の『越境する本格ミステリ』の漫画記事が助走だった気もします。

――ブックガイドを書くにあたって、心掛けたことはありますか?

歴史を概観することが目的なので、絶版本も多く出てくるし、一般的なブックガイドとは違うと思います。ブックガイドという意識は薄いですね。

――約800点のミステリ漫画が出てきますが、どのように資料を集めたのでしょうか。

手元にあったものが9割、新規購入と再購入が1割です。大抵のものは古本屋とネットでどうにかなります。

――第1部では国内コミカライズを扱っています。乱歩や横溝の原作もの、雑誌掲載の短篇などを紹介するうえで、印象的だったことはありますか?

現物に当たるのが大変でした。二次資料には間違いが多い。校正さんにも助けられました。

――第2部では翻訳コミカライズを取り上げています。ホームズやルパン、クリスティ、チェスタトンなど、有名作品のコミカライズの多さに驚きました。

漫画は小説よりも"翻訳物の壁"が低いので、翻訳ミステリの漫画化が増えて欲しいです。優れた原作は無数にありますから。

――第3部は1970年代~90年代のオリジナル漫画の話でした。手塚などの作品が人気を得た後、少女漫画の傑作が生まれ、やがて『金田一少年の事件簿』『名探偵コナン』『Q.E.D.』などが登場します。

豊作とは呼べない時期が続いた後、才能のある人々が登場し、ヒット作がブームを生んだ。この経緯は小説とパラレルな気もします。互いに影響を与えたはずで、それも本格ミステリ史の重要な側面でしょう。

――第4部ではゼロ年代以降のオリジナル漫画が紹介されます。SFミステリ、児童向けミステリ、ギャグミステリ、ギャンブルが題材のミステリ……と、バラエティに富んだ作品が並んでいます。

ミステリ漫画の多様化はさらに進むだろうし、そのぶん間口も広がるはずで、これは現時点での見取り図ですね。かりに犯罪やトリックがなくても、思考ゲームものは純度の高い本格ミステリ漫画だと考えています。

──最近の気になるミステリ漫画は何ですか?

根本尚の〈怪奇探偵 写楽炎〉シリーズですね。同人誌なので『本格ミステリ漫画ゼミ』では触れなかったのですが、2018年4月に電子書籍版が出ました。女子中学生探偵・写楽炎と相棒の"空手くん"こと山崎陽介が、猟奇犯罪を重ねる怪人たちに挑む……という古風な演出の話ですが、巧みな伏線とトリック、予定調和を超えて闇を描くプロットなどはまさに一級品です。電子書籍版は14篇を3冊に再編集したもので、芦辺拓、有栖川有栖、二階堂黎人の各氏が推薦文を寄せています。

――今後の展望をお聞かせください。

アンソロジーで実作の面白さを伝えたいという野望はあります。対象があまりにも多いので、趣味性を強調したセレクトのほうが面白いかなと。

――最後に、読者へのメッセージをお願いします。

本格ミステリを愛好する人の中には、漫画からミステリに入った人、ミステリ漫画が好きな人も多いと思います。重要なテーマのはずなのに、総体的に語られることが殆どなく、自分で調べるしかないなと思って書きました。「懐かしい」「これを読みたい」「あれが入っていない」など、色々な形で愉しんでもらえると嬉しいです。

福井健太(ふくい・けんた)
1972年京都府生まれ。書評家。早稲田大学第一文学部卒。在学中はワセダミステリクラブに所属。〈読楽〉〈SFマガジン〉などで小説とコミックのレビューを担当。寄稿した単行本は『日本ミステリー事典』(新潮選書)、『越境する本格ミステリ』(扶桑社)、『幻影城の時代 完全版』(講談社BOX)など多数。共著に『ニューウエイヴ・ミステリ読本』(原書房)がある。2013年、『本格ミステリ鑑賞術』で第13回本格ミステリ大賞【評論・研究部門】を受賞。

(2018年4月24日)



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