今月の本の話題Science Fiction

2018.02.27

ケン・リュウ、桜坂洋、アンディ・ウィアーら豪華執筆陣が競演『スタートボタンを押してください ゲームSF傑作選』3月16日刊行!

 こんにちは、編集部SF担当(兄)です。あらためて自己紹介しますと、創元SF文庫の翻訳小説や創元海外SF叢書のほか、『図書館島』『モッキンバードの娘たち』などを担当し、今年で7年目になります。よろしくお願いします。

スタートボタンを押してください

 さて、3月16日刊行のアンソロジー『スタートボタンを押してください ゲームSF傑作選』の発売がいよいよ近づいてきました。本書はアメリカで刊行されたほぼ書き下ろし新作のテーマ・アンソロジーPress Start to Playに収録された26編の中から、12編を厳選して邦訳したものです。いずれの作品も特定のゲームタイトルではなくビデオゲームそのものをテーマとしており、FPSやオンラインRPGから往年のテキストアドベンチャーゲームまで、幅広いジャンルがモチーフになっています。ちなみに解説は米光一成さん、序文はアーネスト・クライン(4月公開の映画『レディ・プレイヤー1』の原作小説『ゲームウォーズ』の著者)、そしてカバーイラストは緒賀岳志さんと、こちらも豪華な顔ぶれ。

 邦訳の収録作12編は、編集部責任で選びました。原書は小説家とゲーム開発関係者がおよそ半々で短編を寄せるというコンセプトでしたが、邦訳版では(結果として)ほぼ小説家のみの顔ぶれとなりました。のこりの作品は諸般の事情により泣く泣く収録を見送りましたが、邦訳されたものはいずれも粒より。なお、以前《SFマガジン》に訳載されたことのあるコリイ・ドクトロウ「アンダのゲーム」を除けば、全作が日本初登場。今回が本邦初紹介となる若手の有力作家も多く、要チェックです。
 また、桜坂洋「リスポーン」は、原書向けに書き下ろして英訳で収録された作品で、日本語での公開は本書が初です。まちがいなく傑作ですので、ぜひご期待ください。

* 目次 *

序文 アーネスト・クライン
桜坂 洋「リスポーン」
デヴィッド・バー・カートリー「救助よろ」
ホリー・ブラック「1アップ」
チャールズ・ユウ「NPC」
チャーリー・ジェーン・アンダース「猫の王権」
ダニエル・H・ウィルソン「神モード」
ミッキー・ニールソン「リコイル!」
ショーナン・マグワイア「サバイバルホラー」
ヒュー・ハウイー「キャラクター選択」
アンディ・ウィアー「ツウォリア」
コリイ・ドクトロウ「アンダのゲーム」
ケン・リュウ「時計仕掛けの兵隊」
解説 米光一成

* * *

 ここからは余談ですが、アメリカのSFファンタジー界ではこのような書き下ろしアンソロジーや雑誌への短編掲載が、日本と比べてずっと盛んです。「どうしてこんなに短編が多いのか」と聞かれることがあるのですが、私見では新人・若手作家のデビューシステムのちがいが大きいのではないかと思います。
 日本の場合、小説家志望者は出版社主催の長編新人賞に応募し、受賞作を書籍刊行してデビュー……というのが一般的ですが(最近はネット経由のデビューも一般的になりましたが)、アメリカの場合は日本のような小説新人賞がほぼ存在しません。小説を刊行するには、書いた原稿を出版エージェントに買ってもらい、今度はそのエージェントが出版社に作品を売り込む……という仕組みになっています。さらに書籍流通が買切り制度中心であることもあってか、無名の新人が長編でデビューするためのハードルがけっこう高いのです。

 そこで、アメリカのSFファンタジー作家志望者にとっていわば登竜門となっているのが、短編の投稿を受け付けている小説雑誌や書き下ろしアンソロジー。志望者はそれらに新作を投稿し、短編を売った実績を積み重ねたうえで(受賞などできればなおよし)、はじめて長編を売る道が開ける……といった流れになっています。
 そのため、最近のSFファンタジー作家の経歴を見てみると、短編が初めて世に出てから第一長編を出すまで数年~十年ほどかかっているケースもけっこうあります。(アメリカで大学の創作学科や有料ワークショップが日本よりはるかに多かったり、近年では電子書籍による長編個人出版が盛んになってきたのも、こうした環境の影響があると思いますが、その話はまた別の機会に。)

 ともあれ、短編はいまでも有望な若手作家が頭角を現わす主流ルートなので、翻訳編集者として(いちSF読者として)短編にはつねに注目しています。これから原書SFを読もうというかた、SF翻訳者をめざすかたも、本書のような新作アンソロジーや雑誌(特に最近活発なウェブジン群)を積極的にチェックしていると、よい若手作家と出会える可能性が高いと思います。おもしろい作品を見つけたら、わたくし宛にレジュメを送っていただければ拝読させていただきます(刊行などのお約束はできませんが)。

 ところで、近年ヒューゴー賞を複数回受賞しているアメリカの有力ウェブジン《クラークスワールド》誌の投稿受付ページを見てみると、応募規定や原稿料などの記載と並んで「こんな応募作は(まず)採用されない」というリストがあります。眺めていると「こういうのを送ってくる人が多いんだろうなあ……」という様子がうかがえて、なかなかおもしろいですよ。




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