ポケットのなかの天使
 バートはこの十年、ずっとこの路線でバスを走らせてきた。同じ路線、同じバス停、小生意気な子どもたち、停車・発車の繰り返し……もううんざりだ。
 定年を目前にしたそんなある日、バートは胸に軽い衝撃を感じた。頭の中が真っ白になる。心臓の鼓動が早くなる。心臓発作だ! バートは慌てて急ブレーキを踏んだ。胸の鼓動はますます速くなり、心臓はばくばくいっている。上着がどんどんきつくなる。
 “こうやって終わるんだな、さよなら、愛しい世界よ!” バートは思った。
 だが、胸のところで何かがもぞもぞ動いている。心臓発作ではない。左の胸のポケットで何か動いている。なんと生きものだ。
 そのちっこい生きものは、バートの手のひらに立った。翼がある。白い服を着ている。まさか……
 こうして天使がバートのものにやってきた。指でつまみあげられるくらいのちっこい天使。
 かわいい天使に妻のベティも大喜び。ベティはアンジェリーノと名付けた天使を、自分が調理師をしているセント・マンゴー校に連れていくことにした。学校に天使がいる! 生徒たちは大騒ぎだ。だが、そんなアンジェリーノの様子を物陰からうかがう黒ずくめの怪しい影があった……。いったい何者?

 国際アンデルセン賞受賞の名手アーモンドが描く、『肩胛骨は翼のなごり』とはひと味ちがう可愛い天使の物語。

(2018年2月22日)



ミステリ・SFのウェブマガジン|Webミステリーズ! 東京創元社